55.討伐ユニットの誕生と終焉
「ケロユニベルハルスーミラクルワンダーホースキューティワンチャンサンダービーム!!!」
ハルがキラキラと光るステッキ剣を、遠くにいる魔獣の大群に向けて呪文を唱えると、ハルの呪文に合わせてケルベロスが三頭ウォ―――ンと遠吠えをする。
すると空から大きな雷が魔獣方向に広くドーンと落ちて、シュッと魔獣の大群は消え失せた。
雷攻撃に関係のないと思われるステッキ剣を前方に向けたまま、ハルは足を広げて堂々と立ち、その後ろ姿には自信がみなぎっていた。
絶対に関係のないと思われる三頭のケルベロスまでもが、自信たっぷりで堂々としているように見える。
いつもは前方に出ている討伐組の戦士達は、メイズと一緒に今日はハルの後ろに下がってその様子を眺めていた。
長い呪文の一部は、ケロ、ユニコーン、ベル、ハル、スー、という順番で横一列に並んだところから付けたのだろう。
呪文の途中には、ハルがよくケルベロスに「ケルベロちゃんは可愛いワンチャンだね〜」と話しかける時の「ワンチャン」という言葉が入っていた。
ハルの中の呪文の定義がよく分からないが、今朝ハルは「カッコいい呪文がやっと完成したんだ」と話していたので、一応よく考えて作った呪文なのだろう。
風に乗ってハルの声が聞こえてくる。
「やっぱりね。そうだと思ったよ。ケルベロちゃんも仲間に入ったら、最強の攻撃が出来るんじゃないかって思ったんだ。
よしよしよし、ユニコちゃんもケルベロちゃんも良い子だね。最強の討伐チーム内ユニットが組めちゃったね。私もとうとう討伐組デビューだよ」
満面の笑みでユニコーンとケルベロスを撫で回すハルに、誰が『あの雷はユニコーンだけの力だ』と教える事が出来るだろうか。
諦めたように、はあっとフレイムが大きく息を吐き出し、気を紛らわすために『討伐後の話でもしとくか』と他の戦士達に話題を振った。
「まあこれで今回の討伐はほぼ片付いたしな。明日確認に回って、問題なければ今回の討伐は完了にしようぜ。
昨日今日でこれまでの遅れを巻き返したから、結局は早く終わったな。
長い休暇に入れそうだ。今回こそゆっくりしようぜ。
クリムゾン国の馬料理専門店で今回の討伐完了の打ち上げを開かねぇか?」
「前に言ってた料亭ウマキチの事?いいんじゃない?フレイムの顔で予約入れなくても通りそう?」
「いけんじゃねぇか。いつも予約入れた事ねぇし」
「せっかくなら馬料理屋巡りをしませんか?メイズが話していた店も気になりますし」
「ああ。カナリヤ国のバタロー亭か。あそこの主人とは旧知の仲だし、予約しなくてもいけるだろう。
どの料理法が一番好みか知っておけば、いざという時に僕も料理がしやすいからな。馬料理巡りは良いんじゃないか?」
「捌く時は私も手伝いますよ。私も料理を振る舞いましょう」
「シアンは鍋派だよな。いいんじゃねぇか」
はははと機嫌良く笑ったフレイムが、まずバシィィィィィィっとユニコーンの羽に力強く殴り飛ばされた。
『ヤバイ』と口を閉じたメイズとマゼンタとフォレストも、次々とバシィィッバシィィッと殴り飛ばされていく。
羽をむしり取られるのを恐れたのだろう。
シアンだけは力強い蹴りで蹴り飛ばされていた。
ヨロヨロと立ち上がる英雄達に、ユニコーンが暗い目を向ける。
『調子に乗るなら、お前らも消し去ってやろうか』とその目が語っていた。
遠くで英雄達を呆れた目で見ているケルベロスが少し横に太くなっていた。
ハルはきっと寒くなってケルベロスの中に入ってしまったのだろう。
殴られた鳩尾を押さえる戦士達に、冷たい木枯らしが吹きつけた。
翌日。
魔獣討伐が済んだと思ったこの地に、今までにないほどの魔獣が押し寄せた。
倒しても倒してもキリがなく、沸き出してくるかのように次々と魔獣が現れる。
そこにスッと、いつものようにユニコーンが現れた。
「ハル!ユニコーンと一緒に討伐の協力を頼む!」
「分かった!待っててね!」
フレイムがハルに応援を要請すると、ハルが張り切って答え、ユニコーンに元気に声をかけた。
「ユニコちゃん!戦士さん達がピンチなんだ!昨日のあのカッコいいビームで、一緒に魔獣をやっつけよう!」
ハルの誘いにユニコーンがヒンヒンヒンと弱々しく答える。
「……え!ユニコちゃん、大丈夫?!」
ヒン……ヒン……とハルに答えるユニコーンの声が弱々しい。
「ハル。ユニコーンはなんて言ってるんだろう?」
嫌な予感しかないメイズがハルに尋ねると、ハルが心配そうにユニコーンの羽を優しくさすりながら答えた。
「ユニコちゃん、昨日の討伐で無理しすぎちゃったんだって。羽が痛いって言ってるんだ。今攻撃魔法を使ったら、羽が取れちゃうかもしれないって。
……え!ツノも痛くなってきたの?取れちゃいそうなの?!無理しちゃダメだよ、ユニコちゃん!!
大丈夫、戦士さん達はすごく強いんだ。きっと戦士さん達で討伐できるから、ユニコちゃんは休んどきな」
よしよしよしよしとユニコーンを撫でるハルを見て、メイズは両手で大きなバツを作って、『ユニコーンはやる気がないらしい。使えない』と合図を送った。
合図を送ると同時に、メイズはユニコーンにバシィィィッと殴られる。
「あ!メイズさんに羽が当たっちゃったよ!
……え?羽が痙攣したの?!……痛いの?メイズさんが丈夫だから、当たった時にさらに羽を痛めちゃったの? ……え!もうすぐ取れそうなの?!
よしよしよしよし、もう動いちゃダメだよ」
ハルにヒン……ヒン……と訴えて、ぎゅうっと抱きしめてもらっているユニコーンは、ヒ……ン……と弱々しく鳴きながらメイズに冷たい目を向ける。
鳩尾を押さえるメイズに、『使えないのはお前だ。態度に気をつけろ』と暗い目が語っていた。
その頃討伐組の戦士達は、魔獣の様子がいつもと違う事を感じ取っていた。
対峙する魔獣が、いつもより追い詰められた様子を見せているのだ。
ユニコーンが現れてからは、益々魔獣が緊迫した様子を見せている。
それはまるで―――『ここで自分達戦士を片付けなければ、後でやられるのは自分達になる』というかのような態度だった。
追い詰められた魔獣達を見て、討伐組の戦士達は予想を立てる。
『この大量の魔獣集団は、ユニコーンがどこからか集めてきやがったのか』という可能性が頭をよぎった。
魔獣達は対峙する自分達ではなく、意識をユニコーンの方に向けている。
ユニコーンを窺うように時折りオドオドと視線を送る魔獣の様子に、戦士達の予想が確信に変わっていった。
続々と現れる魔獣達の様子が、討伐休暇はまだ先になる事を告げていた。