54.二人で力を合わせれば
「ユニコちゃん、話があるんだ」
ハルは意を決してユニコーンに話を切り出した。
昨晩、夕食後に「相談がある」とハルは戦士達に呼び止められた。
そこで聞いた話は、ハルにとってはとても耳の痛い話だったが、心当たりがあるので反論する事は出来なかった。
戦士達の話はユニコーンについての事だ。
毎日のように現れて、来るたびにハルを連れて神の道に入ってしまうせいで、討伐の進行状況が極めて遅れているらしいのだ。ほぼ進まなくなったと言ってもいい、とフレイムは深刻な顔をしていた。
ハルとしては、「タブレットは固定して出かけているから撮影は出来ているはずだし、ユニコーンとのお出かけに危険はないから、安心して討伐に専念してほしい」と言いたいところだが、仲間が目の前で消えるのを目撃する側としては、そうは思えないようだ。
「討伐期間中は、ユニコーンの来訪を遠慮してほしい」とお願いされてしまった。
思わず俯くと、「討伐が休みの日に、自分達も一緒に過ごせるなら」と条件付きで認めてくれた。
自分達は神託の討伐をするために集められたチームだ。仲間として討伐の進行を邪魔をするわけにはいかない。
「分かった。明日ユニコちゃんにはちゃんと話すよ」と返事をして、今を迎えている。
「ユニコちゃん、あのね。ユニコちゃんと私が遊びに行っちゃうと、神託の討伐が進まないみたいなんだ。
あ!ユニコちゃんが悪いんじゃないんだよ。私が美味しい話をたくさんしちゃうからだよ。ごめんね、ユニコちゃんも食べたくなっちゃうのは当然だよね。
だからあのね、討伐期間中は―」
「ヒンヒンヒヒヒンヒヒヒン」
ハルがユニコーンを気遣いながら話出すと、話途中でユニコーンは何か訴えるように鳴き出した。
「――え?本当?」
何かを話すように鳴くユニコーンに、ハルが驚いた顔をしている。
「なんて言ってんだ?」
『やっぱりこの馬が素直に聞くわけねえか』と内心ウンザリしながら、フレイムがハルに尋ねる。
「ユニコちゃんがね、討伐を手伝ってくれるって。私と一緒なら、二人で力を合わせてあの怖い魔獣だって倒せる気がするって言ってくれてるんだ。ね、ユニコちゃん」
コクリとユニコーンが頷く。
「……ハルと一緒に討伐ってなんだ。危険な事は禁止だぞ」
またユニコーンがヒンヒンと鳴く。
「今からやって見せようって。私の魔法のステッキ剣があれば、ユニコちゃんが攻撃魔法を使えるかもしれないんだって!」
ハルがパァッと顔を輝かせて、魔法のカバンから早速魔法のステッキ剣を取り出した。
ユニコーンがヒンヒンと鳴く。
「分かった!呪文を唱えながら、あそこにいる魔獣にステッキ剣を向けるんだね!」とハルが興奮したように頷き、ステッキ剣を構えてピカピカ光らせて「よし、いくよ!」とユニコーンに合図をかける。
「ユニコビーム!!!」
ハルが呪文を唱えながらステッキ剣を魔獣に向けると、ステッキ剣を向けられた遠くにいた魔獣が、強い光に包まれてスッと消滅した。
「「!!!!!」」
戦士達は声も出せずに呆然と魔獣が消えた跡を見る。
「ユニコちゃん!すごい!!」とハルが感嘆の声をあげると、ヒンヒンとユニコーンが鳴いた。
「……え?あれ私とユニコちゃん、二人の力なの?ユニコちゃんだけの力じゃないんだ。……え!あれで?……うん、分かった。やってみる」
「待て。ユニコーンはなんて言ってんだ?」
驚いた顔をしながらも「やってみる」とユニコーンに頷くハルに、フレイムが慌てて尋ねた。
やばい事なら止めなくてはいけない。
「今のは呪文は、ユニコちゃんの名前しか入ってなかったから弱かった、だって。二人の力なんだから、ちゃんと私の名前も合わせるべきだって教えてくれたんだ。やってみるね」
「………オウ」
そう答えるしかないだろう。
またハルはピカピカとステッキ剣を光らせて、十匹ほど集まっている魔獣集団にステッキ剣を向ける。
「ハニコビーム!!」
ハルが呪文を唱えたその瞬間、ステッキ剣を向けた魔獣集団に、空から雷のような大きくて強い光が落ち、シュッと音もなく魔獣が消え去った。
「待て」と言いたかった。
ハルが遠くにいた魔獣に向けたステッキ剣の先は、どこか方向がズレていた。
それにステッキ剣からではなく、関係のない空から攻撃魔法が降ってきていた。
――明らかにハルのピカピカと光っているだけのステッキ剣は関係ないだろう。
それに「ちゃんとハルの名前を合わせるべきだ」と言いながら、「ハ」しか変わっていない呪文のどこが「ちゃんと」したのかが分からない。
ツッコミどころが多すぎて、戦士達は言葉も出なかった。
「よし!なんかコツを掴んできたよ!いい?ユニコちゃん。次はすごいの行くよ」
自信を持ったハルが嬉しそうにユニコーンに声をかける。
「ハニコストロングビーム!!!」
「ユニハルコスペシャルキューティービーム!!」
「ユニハルコレインボーパステルビューティストロングサンダー!!」
長い。
攻撃名がどんどん長くなっている。
その度にドーン!ドーン!!と雷は強さを増し、ハルの自信も増しているようだ。
これ以上にないくらいの笑顔を見せている。
もう魔獣の気配はどこにも見られない。
静かになった討伐地の森には、満面の笑顔で堂々と立つハルとユニコーンの姿があるだけだ。
小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。
「やっぱり、ユニコちゃんはこのチームに必要な子だと思うんだ」と嬉しそうに戦士達に告げたハルは、今度はユニコーンとケルベロスに真面目な顔で注意をする。
「ユニコちゃん。ユニコちゃんは最強だけど、チームの中では新人さんなんだからね。ケルベロちゃんが先輩で、ユニコちゃんが後輩だよ。
はい、ユニコちゃん。ケルベロ先輩にちゃんと挨拶してね。
――そうそう。よしよしよしユニコちゃんは良い子だね。
はい。ケルベロちゃんも後輩のユニコちゃんに挨拶できるかな?
――そうそう。よしよしケルベロちゃんも良い子だね」
ペコリとユニコーンが小さく頭を下げると、ペコリとケルベロスも小さく頭を下げた。
どちらも内心ではどう思っているかは分からないが、ハルの前ではとりあえず大人しく従う事を決めたようだ。
振り払おうとしても、どこまでも食いついてくるユニコーンが、戦士達にとって今一番の悩みの種となっている。