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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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51.ミルキーに課せられた試練


全ての奉納品を無事兄のアッシュに手渡したミルキーは、内心ホッと息をつく。

ユニコーンは神々しい存在ではあるが、英雄達と過ごす時間と同じくらい気を使うものだった。

ひと仕事終えた気分だった。


後は「気をつけてお帰りくださいね。ユニコーン様、ハル様をよろしくお願いします」と声をかけるだけだ。

最後の一口にもぐもぐと口を動かすユニコーンを、ミルキーは見守っている。

『あの口の動きが止まったら、声をかけさせていただこう』、そう思っていた。



ユニコーンは皆からの奉納品を全て食べ終えたようだ。

口の動きが止まり、顔をあげた。


話しかけるタイミングを図っていたミルキーは、『今だ』と口を開きかけた時――ユニコーンは、ハルの耳元で囁くような鳴き声をあげ始めた。



『あ……』と開きかけた口を閉じたミルキーに気がつく事もなく、ふんふんと頷きながらハルはユニコーンの話を聞いている。

ユニコーンが鳴き声を止めると、ハルはよしよしとユニコーンを撫でてから、周りの皆に聞いた言葉を伝えた。


「ありがとう、みんなのおやつはどれも最高だった、ってユニコちゃんが言ってるよ。ここに住んじゃいたいくらい気に入った、って」


おおっと街の者からどよめきがあがり、「そうしてください!」「歓迎しますよ!」という皆の返しに頷いたユニコーンは、またハルに何かを話している。

――長い話だった。




「あの……ハル様、ユニコーン様はなんと……?」


ミルキーは思わず気になって聞いてしまう。

考える仕草をするハルに、嫌な予感がしたからだ。




「ユニコちゃんがね、「一緒にここに住もう」って誘ってくれたんだ。優しいみんなの事が大好きになったみたいだね。「英雄には私から伝えておく」って話してくれてるんだけど……討伐撮影はいいのかな?」


ハルの言葉に、ユニコーンは『大丈夫!』と言うかのように大きく頷く。


「ユニコちゃんがそう言うなら良いのかな……?神様もいいって言ってるって事だよね」


『そうだ!』とまたユニコーンが力強く頷いた。





『それは絶対にない』とミルキーは思う。

ミルキーの知る神がそんな事を言うはずがない。


だいたいあの英雄達がそれを許すはずがない。そんな事になれば、英雄達の怒りは自分に向いてしまう。

「お前が付いていながら、何やってんだ!」とヤラレてしまうに違いない。

それこそ神に招かれてしまうだろう。



「ユ……ユニコーン様……。神託の討伐撮影はとても大事なものですし、英雄様達もきっと心配する事でしょう……。あの……本当に神はそのような事を……」


声が震えてそれ以上言葉が続けられなかった。

ユニコーンが冷たく暗い目を光らせてミルキーをじっと見つめていたからだ。

『余計な事を聞くな。チキン野郎のくせに』と目が語っている。



ユニコーンと見つめ合いながら震えるミルキーに、双子が感嘆の声をあげた。


「ミルキー様、さすがです!今先ほどハル様に聞いたのですが、ユニコーン様はハル様以外の言葉は聞こえないらしいですよ。だけどミルキー様の声はユニコーン様に届いているようですね」



「さすがです!」と尊敬の目をミルキーに向ける双子に、ユニコーンはふるふると首を振った。

――ミルキーの声は聞こえないらしい。


「……あ。失礼しました。ユニコーン様はハル様の以外の声は聞こえないですよね」


急いで謝った双子に、ユニコーンはコクリと頷く。


――全ての者の言葉が聞こえているようだ。

聞きたくない者の言葉は聞こえない設定らしい。


もうどうしたらいいのか分からずミルキーが立ち尽くしていると、兄のアッシュが代わってユニコーンに声をかけてくれた。


「ユニコーン様。ハル様は神様からのお仕事がありますから。とても残念ですが、今日はお帰りにならないといけないでしょう。

ユニコーン様、今日は来ていただいてありがとうございます。またいつでも遊びにいらしてくださいね。またここまで案内させていただきますよ」


穏やかな声で話しかける兄のアッシュに、ユニコーンは『分かった』と言うように素直に頷いた。


『理不尽だ…………』とミルキーは思うが、これもまた自分に課せられた神からの試練だろうと、キリキリキリキリと痛む胃をそっと押さえた。







「アッシュさん、ステッキ剣とこの腕輪に魔力を補充してもらっていい?もうステッキ剣が光らなくなっちゃったんだ」


帰り際にハルがお願いすると、「もちろんですよ」とアッシュはいつものように快く笑ってくれ、ステッキ剣と腕輪に魔力を補充してくれた。


ハルは試しにステッキ剣を光らせてみる。

ピカピカと光るステッキ剣を見て、ユニコーンがヒヒンと鳴いて褒めてくれた。


「ユニコちゃんは本当に可愛い良い子だね。よしよし、今度光るステッキ剣の踊りを見せてあげるね」


よしよしとユニコーンを撫でてから背中によじ登ると、フワリとユニコーンが空に浮かんだ。



「ハル様、またいつでもユニコーン様といらしてくださいね」

「ありがとうアッシュさん。パールちゃん、ピュアちゃん、ミルキーさん、また会おうね!」


「ううっ……ハル様、ユニコーン様、また来てくださいね」

「お会いできて嬉しかったです。ユニコーン様、ありがとうございます。またぜひいらしてください」

「あの……来るのはほどほどに……ヒッ!」


泣いている双子と怯えているミルキーに、ハルはバイバイと手を振って、街のおじさん達にも声をかける。


「みんなもユニコちゃんに良くしてくれてありがとう!また連れて来てもらうね!」


「いつでも来てくださーい!」「待ってますよー!」と言う声に見送られて、ユニコーンはまた神の道に入っていく。





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