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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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50.優雅なユニコちゃん


エクリュ国でアッシュが、いつものように自分の執務室で書類に目を通していた時の事だった。


窓の外にフッと影が差したと思ったら、羽の生えた馬に乗ったハルが嬉しそうに窓の外で手を振っていた。


突然の事に一瞬状況が分からず固まりかけたアッシュだったが、ハルを乗せている馬が、つい最近ハルから話を聞いていたユニコーンだという事にすぐに気づいた。


ユニコーンからはとても神聖な魔力を感じる。

神の使いだという事が、本能で感じられた。



アッシュは立ち上がって窓辺に近づき、窓を開けてハルとユニコーンに声をかけた。


「ハル様、そして――ユニコーン様ですね。お初にお目にかかります。白戦士のアッシュと申します。どうぞお入りください」


ユニコーンが軽く頷き、スウッと優雅に部屋の中に舞い降りた。

膝を軽く曲げて、ハルが降りやすいように気遣い、そして静かに羽をたたむ様子は、神の使いらしく、とても神々しい振る舞いだった。



「アッシュさん、久しぶり!この子が前に話してたユニコちゃんだよ。すっごく綺麗な子でしょう?大人しくて可愛い良い子なんだよ」


「ハル様、顔を合わせるのは王城で会った以来ですね。お久しぶりです。

ユニコーン様はとても神々しく美しいですね。お会いできて光栄です」


眩しそうに目を細めて話しかけるアッシュに、ユニコーンは軽く頷いた。

頷いた拍子にサラリと虹色の立て髪が揺れ、長く伸びた高貴に輝くツノがキラリと光る。



「アッシュさん、今さっきエクリュ国の回転焼きの話をユニコちゃんにしてあげたら、ユニコちゃんも回転焼きを焼いてるところが見たくなったみたい。

討伐中だったけど、ここまで飛んできちゃったよ」


「では今から回転焼きの屋台まで行きませんか?ユニコーン様、回転焼きの他にもたくさんの店がありますから、どうぞゆっくりご覧になってくださいね。

商店街の者もユニコーン様のご来店を喜ばれると思いますよ」


アッシュはハルからユニコーンの話は何度も聞いていたので、急に姿を現した事を問うような野暮な真似はせず、ユニコーンとハルの望むままに案内する事にした。


「アッシュさん、お仕事途中じゃなかった?」

「いくらでも後に回せる仕事ですから。それよりハル様とユニコーン様を案内する方が、私にとっては大事な事ですからね」


ハルの気遣いの言葉にアッシュが微笑むと、ハルも嬉しそうに笑った。







「ハル様が来られたなら、双子も呼びましょう。とても喜びますよ。ハル様の護衛から帰ってくる時は、いつも元気をなくしているのですよ」


「呼ぼう、呼ぼう!やったぁ!!」


「パールちゃんとピュアちゃんも誘っていい?」とハルが仕事中の双子を気遣いながらも聞こうとする前に、アッシュが先に提案してくれた。


アッシュに会うのは久しぶりだったが、相変わらずアッシュはとても穏やかでとても優しい人だ。

なかなかエクリュ国に来る事ができなかったが、いつでもアッシュはハルの話を受け入れてくれるので、ちょこちょこ連絡を取っている。だからあまり久しぶり感は感じられなかった。



討伐の撮影中にウトウトしてる時に回転焼きの夢を見て、遊びに来たユニコーンに回転焼きの話をしたら、興味を持ったユニコーンがハルを誘ってくれた。

ハルを背中に乗せて、空にある神の道を使って一瞬でここまで連れてきてくれたのだ。


目の前に見えた道が、どこからが神の道かハルには区別がつかなかったが、空に浮かんだ時に、「ユニコちゃんが回転焼きを見たいんだって!ちょっと行ってくるね!」とメイズとベルに伝えたから大丈夫だろう。


「みんなにはちゃんと話してきてるよ」と、商店街に向かうまでの道のりで、アッシュとミルキーと双子には事情を話しておいた。





回転焼きが出来上がるまでの工程は、素晴らしいエンターテイメントだ。


回転焼きの型に、カッカッカッカッとリズムよく専用器具で生地を流し込み、スッスッと手際よく片面の生地に餡を乗せていく。

程よい頃に、餡を乗せた生地をもう片面の生地の上にキュッキュッと乗せ焼き上がりを待つ。


熟練の技を見せる流れるような動きに無駄はない。

それはどれだけ見てても飽きる事はないものだ。


ハルとユニコーンは回転焼き屋の前に立って、繰り返される流れをじっと眺めていた。




どれくらい見守っていただろうか。


「そろそろ食べてみませんか?」と、アッシュがたくさんの回転焼きを買ってくれた。

焼きたて熱々の回転焼きだ。


「ユニコちゃん、火傷に気をつけな。あ、ミルキーさん、急がないでゆっくり食べな」


熱すぎてハフハフと苦しそうに口で息をするミルキーの背中を撫でる。


ユニコーンはアッシュの差し出す回転焼きを優雅に一つずつ食べている。

とても気に入ったのか、あっという間に全てを食べてしまった。



「あの……もしよろしければ、お好きなだけ召し上がってください。ハル様とユニコーン様が、こうして来てくださるなんて本当に光栄です」


回転焼きのおじさんが声をかけると、周りの商店街のおじさんやおばさんもお店の物を持ってきてくれた。


「わしの店の物もどうぞ召し上がってください」

「なんと神々しいお姿じゃあ……」

「見て!あの綺麗な立て髪と尻尾!」

「あの純白の翼、とても美しいわ」

「天に向かって伸びるツノの厳かなこと……!」


皆が口々にユニコーンを褒め称え、ユニコーンも澄ました顔で優雅に羽を伸ばしてみせる。







「どうぞミルキー様、ユニコーン様にお渡しくださいませ」


「え………」

奉納品を手渡されながら、ミルキーは戸惑った。


ユニコーンは神々しい聖力を放つ畏れ多い存在であるが―――顔が怖い。

モスグレイ山でもユニコーンの姿は見たが、あれは日が落ちかけていたし、ハルの方に気を奪われていた。

こうして明るい場所で間近で向き合うと、震えが出てしまうほどに恐ろしい形相をしている。


兄のアッシュのように、手渡しで食べ物を渡すのは勇気がいる―――と、一瞬でも躊躇してしまったからだろうか。


ユニコーンの目が暗く光り、ハルの耳元で何かを囁くように鳴き出した。



「あの……ユニコーン様はなんと……?」


恐る恐るミルキーが尋ねると、ハルはユニコーンに『分かったよ』というように頷いてから、ユニコーンの言葉を伝えてくれた。


「ユニコちゃんはアッシュさんに食べさせてほしいんだって。ミルキーさんに食べさせてもらうのは、恥ずかしいから嫌だって言ってるよ。ユニコちゃんは繊細だからね。

アッシュさん、お願いしてもいい?」


「もちろんですよ」



兄のアッシュがにこやかに応えている。

兄はあの怖い顔が怖くないのだろうか――。


そこまで考えた瞬間、ユニコーンが暗い目を光らせて自分を見た。

「ヒッ…………!!」


神獣ユニコーンはミルキーの恐怖を不快に思ったようだ。

『チキン野郎』とその瞳が自分を罵っている。


神聖な魔獣は憤怒の相をしていると聞いた事がある。

神の一番近くに仕える神獣だから尚更に怖い顔をしているのだろうか。


ミルキーはドキドキドキドキと痛いほどに動悸がして、キリキリキリキリと胃が痛み出し、口を固く結んだ。




ハルは双子と楽しそうにおしゃべりをしている。

思いがけない出会いで、双子もとても嬉しそうだ。


「美味しいですか?こちらはいかがですか?」

ユニコーンにお菓子を差し出す兄のアッシュは、とても穏やかな顔をしている。


なごやかな空気が流れる中、ミルキーは一人ドキドキしながら、街の者に渡された奉納品を持つ手が震えていた。






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