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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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46.編み出された技


朝食後、まだどこかギスギスとした空気が残っている中、ハルはソワソワしていた。


早くケルベロスと技の練習をしたかったし、編み出した技を、師匠のような顔でフォレストに伝授してみたいと思っていた。


フォレストはまだ機嫌の悪そうな顔をしているが、そろそろ話しかけても大丈夫だろう。


「ね、フォレストさん。今から新しい技を練習しようってケルベロちゃんと約束してるんだ。すごい技を編み出しちゃってね、フォレストさんにも教えてあげるよ。一緒に練習しようよ」


「すごい技?それは一緒に練習したいですね」


フォレストが機嫌良く答えると、メイズとマゼンタもハルに声をかけた。

「僕も参加していいか?」

「私もいいかしら?」


「メイズさんはちょっと背が高すぎるから、挑戦するのは難しいかも。マゼンタさんは、ギリギリ大丈夫そう。フォレストさんもギリギリだけどね」


「僕の背の高さじゃダメなのか?」

「私とフォレストがギリギリで出来る事って何かしら?楽しそうね」


「うん!すごく楽しいよ!ケルベロちゃんも待ってると思うし、呼んでくるね。庭で集合だよ!」


新技に興味を引いたのか、メイズとマゼンタが嬉しそうな顔で話に乗ってくれて、ハルも嬉しくなって笑顔を返す。

窮地に立たされて生まれた新しい技は、魔獣使い一族の長であるセージも初めて見たと言っていた。

どうしても自慢したかった。


ケルベロスの使役者のフォレストしか興味を引かないだろうと思って誘ったが、みんなも楽しみにしてくれるようだ。ここは張り切るしかない。




「パールちゃん!ピュアちゃん!行こう!」と双子に声をかけて、ピュッと駆け出したハルと、ハルを追いかける双子を見送りながら、セージが気の毒そうな目を三人の英雄達に向けた。

メイズは助かったようだが、フォレストとマゼンタは恐怖の体験に巻き込まれるようだ。


フレイムとシアンは他人事のような顔をして、見物でもするかと椅子から立ち上がる。


ミルキーは『また恐ろしいものを見てしまう』と震えながらも、護衛対象者から離れるわけにはいかないと、重い足を引きずるように集合場所に向かって歩き出した。





「じゃあいくよ!私がお手本を見せるから、みんなは後に続いてね!

オルトロちゃん。昨日のあの技をもう一回やってみよう。みんな見てるし、頑張ろうね。はい!分身の術!」


並んだケルベロスと三人の英雄達の前で、ハルはオルトロスに分身の指示を出した。

二頭に別れたオルトロスの間に入ったハルは、もう一度指示を出す。


「オルトロちゃん、合体!」


オルトロスがハルを挟んでピタリと合体した。





「 !!!!!! 」


楽しそうなハルがこれから何をするんだろうと、微笑みながらハルを見ていた三人が、あまりに衝撃的な場面を見て固まった。

ケルベロスも、少し横幅が広くなったオルトロスに目を見開いている。


「……ハル?」

「ハル?無事か?」

フォレストとメイズのかける言葉が震える。


『大丈夫だよ。頭の上まで布団を被ってるみたいで安心できるよ!』

オルトロスの中から、こもったように聞こえるハルの声は元気そうだ。


『オルトロちゃん、分身!』

再び指令を出したハルが元気に現れた。

とても嬉しそうなハルの髪が少しはねている。



「すごいでしょう?新しい技だよ。これはフォレストさんは使役者として絶対身につけるべきだね。寒い時に助けてくれるから。

ケルベロちゃんは、ケロとスーの二つの間があるから、フォレストさんとマゼンタさんと二人で一緒に練習しようか。

メイズさんはちょっと顔が出ちゃうけど、一緒にオルトロちゃんで挑戦してみる?」


「いや。残念だが顔が出るなら止めておこう」

――メイズは即行で断りを入れた。






フォレストは、ハルに『背が高くて可哀想』と言うかのような目を向けられるメイズが羨ましかった。


「はーい、ケルベロちゃんも分身!」とハルに楽しそうに指示を出されたケルベロスは、大人しく三頭に別れたが、とても嫌そうに自分とマゼンタを見ている。

自分だって、使役する魔獣といえどあんな所に入りたくはない。


ハルの背後から、静かにケルベロスに威嚇されていたマゼンタは、「ごめんなさいハル。実は今まで黙っていたけど、私犬アレルギーなの。せっかく誘ってくれたのに残念だわ。――ケホッケホッ」と、残念そうに告げて咳をし出した。


ケルベロスは犬なんかではない。


『さすがにそんな嘘に騙されるはずがないだろう』とハルを見ると、『犬アレルギーで可哀想』と言うような目でマゼンタを見ていた。

――マゼンタも上手く逃げ切ったようだ。


「代わりにパールちゃんとピュアちゃんが試してみる?」

「私達はハル様の護衛ですから」

――双子が即行で断っている。


ハルが今度はフォレストを見る。

『ささ、どうぞ』というかのように手をケルベロスに向けて動かしている。


だけどフォレストは動けなかった。



しばらくして動かない自分を待っていられなくなったのか、ハルはベルとスーの間に入り、「合体!」と指令を出して閉じこもってしまった。


残りのケロが、『使役者のお前は来るな』と魔力で語ってくる。

他の者達は他人事のように自分を見物しているし、叔父のセージは気の毒そうな目を自分に向けていた。


今までの討伐経験の中で数々の危機を乗り越えて、様々な経験を積んできたと自負していたフォレストだったが、これ以上にないくらいの危険を前にして戸惑うしかなかった。







「そうなんだ。また神様に会ったんだよ。偶然だったんだけどね。

それよりさ、ドンちゃん。私、ケルベロちゃんとオルトロちゃんと一緒に、すごい技を身に付けたんだ。今度見せてあげるね。

ね、ドンちゃんも経験してみなよ。本当にすごく楽しい技だから」


ケルベロスの訓練が終わって、今は応接室でハルがドンチャ王子と話しているところだ。

ミルキーから「一度連絡を入れてあげてください」と頼まれたためだった。


ハルの手元のタブレットからは、モスグレイ山での詳しい話を聞きながら心配したり安堵したりする、ドンチャ王子の声が聞こえている。


今日この場所に着いた自分達も、新聞では書かれていなかったような話を一緒に聞きながら、驚愕するしかなかった。

神に愛されるハルがとても眩しく見えた。



だけどハルは神に会った事より、新しい技の方を自慢したくてしょうがないようだ。

神の話は軽く流して、新技の編み出しを自慢げに語っている。




「はは。楽しくてすごい技なのか?それはぜひ経験してみたいものだな」


楽しそうに返事をするドンチャ王子が、知らず恐怖の体験コースに申し込んでしまっている事を、まだ彼は知るよしもない。




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