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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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43.『世紀の救世主!黒戦士』、その言葉は危険の始まり


「ハル、セレスト国に来たときは案内するから連絡をくれないか?」

「うん。連絡するよ、また会おうね。リアンさん、崖を運んでくれてありがとう。良い髪だから大事にしなね」



「セレスト国は私が案内しますから大丈夫ですよ。貴方に連絡は決してしませんから、待たないように」


セージの屋敷に戻って、ハルとセルリアンが別れの挨拶をしていると、シアンが口を挟んできた。



「お前が一緒じゃ、街の女達がうるさいだろう?一緒に回る者は迷惑なんだよ」

「貴方も街の女がうるさくなるでしょう?」


久しぶりに会ったというのに、もうお別れとなって寂しいのだろう。二人がじゃれあい出した。

本当に仲のいい幼馴染だ。






「俺らも行くわ。ハル、また会おうぜ」

「ハル、また会いましょうね」

「うん。カーマインさんとルビーちゃん、また会おうね。またユニコちゃんと空を飛ぶ事があったら呼びに来て」


「お前ら、絶対そんな事で連絡してくんなよ。討伐で危険な目に遭ってんじゃねーよ。もっと体鍛えろよ」


次の仕事に向かうというカーマインとルビーに挨拶をしていると、フレイムが口を挟んできた。


「そんな事って何よ。薄情すぎるんじゃない?」

「あれは体を鍛えて何とかなるもんじゃねぇだろう?」

「あぁん?」


フレイムがチンピラのような言葉を使い出した。

気が置けない幼馴染同士で本当に仲がいい。





幼馴染が去ってしまったフレイムとシアンは、静かになって少し寂しそうにも見えた。


「フレイムさん、シアンさん。セージさんが、街で好きなだけおやつ買っていいって言ってくれたんだ。

明日買い物に行こうってパールちゃんとピュアちゃんと話してるんだけど、一緒に行かない?」


国宝級美貌の戦士達とのお出かけは危険しかないが、ハルだって双子とお別れする時はとても寂しい気持ちになる。フレイムとシアンの寂しさが分かるので、慰めの言葉をかけた。


「いいですね。行きましょう」

「いいんじゃねえか。昼は外で食べようぜ」


機嫌良く答える二人にハルは頷く。

二人は慰められたようだ。


「そういえばターキーさんは、山を下りてすぐに仕事に向かったんだね。私が山を下りた時にはいなかったし、挨拶も出来ないまま別れちゃったよ」


「そういえばそんな奴がいたな」


サラリとフレイムに流されて、ターキーの話は終わってしまった。







翌朝。

朝食の席でセージから渡された新聞には、ハルが載っていた。


「何これ。私じゃん……」

新聞を見たハルは、思わず呟いてしまう。


新聞の一面にデカデカと、ユニコーンに乗って空を舞うハルが、神絵師によるイラストで描かれていた。

『世紀の救世主!黒戦士』と極太見出しがつけられている。


『世紀の救世主』という言葉は間違っているが、神絵師によるイラストは完璧だった。

ユニコーンの立て髪と尻尾の色合いが絶妙すぎる。この新聞を見た者全てを虜にしてしまうだろう。


「これ、ユニコちゃんが可愛く描かれてるね。そっくりだよ。この立て髪と尻尾の色づかいが完璧だね」


「ハル様もとても神々しく描かれていますよ」

「無敵感があって素敵ですね」


双子がハルのイラストを見て褒めてくれた。


「強そうかな?」

ハルはヘヘヘと笑う。



「ハル、お前こんな凶悪そうな馬と一緒にいたのかよ……」

「え。可愛いじゃん。すごく良い子なんだよ」

「……」


ユニコーンのイラストを見ながら話すフレイムの言葉を、ハルはしっかり訂正しておく。

ユニコーンは可愛いし、極上の羽布団のような翼でハルを包んでくれる、とても優しい子なのだ。凶暴であるはずがない。



「この記事書いたの、ターキーじゃねえか。記事の最後に名前が載ってんぞ」


ハルの『可愛い』の基準がよく分からなくて、フレイムは話題を変える。


「本当だ。ターキーさん、新聞記者もやってたんだ。『黒戦士の偉業は皆の心に永遠に刻まれる事だろう』って書いてくれてるね。でもこういうニュースは、明日には忘れちゃうものだけどね」


「いや、普通そう簡単に忘れねえだろ」

「普通忘れちゃうものだよ」


ハルはフレイムの言う『普通』に対抗してみせる。

『ニュースを忘れるのは普通』――この意見は譲れない。


元の世界でハルは新聞を取っていなかった。

携帯でニュースはいつでも見れたし、ニュースは見るたびに見出しが更新されていた。

よほど大きな関心を引くものでない限り、一つのニュースは多くのニュースに埋もれていくものだ。

ハルがあの世とこの世の境目に行ったニュースなんて、明日新しく届く新聞のニュースで忘れ去られるだろう。

大した話ではない。


新聞に載った当日では、さすがに街のみんなに騒がれるかもしれないので、お出かけは明日に変更した。

「明日新しい新聞が届いたら、もう過去の話になるから大丈夫だよ」と皆に教えてあげた。






今日のお出かけ服は、双子とお揃いのグリーンのストライプ柄のワンピースを選んだ。三姉妹感があって、馬車に乗る前からはしゃいでしまう。

今日はオルトロスも一緒なので特に嬉しい。

馬車が止まると、浮かれたハルはフレイムとシアンに「案内するよ!」と元気に声をかけて外に出た。


馬車からハルが足を踏み出した途端。


「あ!黒戦士だ!」

「黒戦士ちゃんよ!」

「黒戦士が街に来てるぞ!!」


セージの家の馬車が街を走り、『今話題の黒戦士が乗ってるかも』と注目していた街の者が騒ぎ出した。

多くの人がハルを見ようと駆け寄ってくる。




自分に勢いよく駆け寄ってくる街の人を見て、ハルは恐怖で足がすくんだ。


多くの視線が自分に向けられている。

遠くからも「黒戦士があそこにいるぞ!」と大声で叫ぶ声が聞こえる。


この世界の人は元の世界の人よりも大きい。

もう随分長い間この世界で過ごして、たくさんの背の高い人に囲まれているけど、それでも大きい人達が自分に向かって勢いよく走って来られるのは怖すぎる。



「オルトロちゃん、助けて!分身の術をお願い!」


ハルは咄嗟にオルトロの名前を呼び分身してもらい、二頭の隙間に滑り込んだ。


「オルトロちゃん!閉じて!合体だよ!」


きゅっとオルトロスにくっついてもらって、ハルは間に挟まれて隠れる事にした。





そこにいるのは、いつもより少し横幅の広いオルトロスだった。


双子が心配になってオルトロスの間にいるハルに声をかける。

「ハル様、ちゃんと息はできますか?」


『大丈夫だよ、パールちゃん』

――オルトロスにピッタリと挟まれたハルの声がこもっている。




「ハル、大丈夫だから出てきてくれないか?オルトロス、分身してハルを放してやれ」


挟まれたまま動こうとしないハルに不安になって、セージがオルトロスに指令を出す。


『開けちゃダメだよ。このままでいてね』


オルトロスはハルを優先する事を選んだようだ。

小さく、こもった声がオルトロスの間から聞こえるだけで、オルトロスは少し横幅を広くしたまま動こうとしない。






オルトロスの間に挟まれたハルは、ホッと落ち着くと、今度は温かくてウトウトしてしまう。

夜、怖い夢を見た時に、布団を頭の上まで被った時の安心感と同じものを感じていた。


外から『オラ!見せ物じゃねぇぞ!散れや!』とチンピラのような赤い男の声がこもって聞こえる。

遠くでドサッと人が投げられる音もする。


『こんな所で眠ってはいけない』と思うが、瞼が重くなってきた。

立ったまま眠ったら、あの常識を愛する野郎どもがまた自分を怒ってくるだろう。


『絶対に寝たりしない』と思うが頭がぼんやりしてきてしまう。





『ハル様?……ハル様?眠っちゃダメですよ』と双子の優しい声がこもって聞こえてくる。

『寝てないよ』と答えたいけど、ハルは今声が出せなかった。




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