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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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39.ハルと焚き火を囲む者


今夜はモスグレイ山で野宿だ。

いつもは快適なログハウス生活だし、ハルにとっては初めての野宿体験になる。


話は夕食後にという事になり、男性陣達がテントを張ったり、焚き火を用意したりするのを見て、これから始まるイベント感にハルは浮き浮きしていた。


「手伝うよ!」と働く男達に一人ずつ声をかけては、「危ないから」とことごとく皆に断られていく。

最後にセージに「すぐに終わらせるから、ハルは動かないでくれ」と言われてしまい、ハルは双子と手を繋いで出来上がっていくテントを見守るだけの係になる。

双子に両手を繋がれているのは、「ハル様がどこかへ消えてしまいそうで」と心配されたからだ。


色々な事があったルビーは、近くの木にもたれて目を閉じて一人で休んでいる。



三人で横一列で立っていると、近くに栗が落ちているのを見つけた。イガの中にはぷっくりとした大きな栗が見えている。


「栗だ!」と駆け寄り、三人で栗を囲む。

オルトロスも双子の間に顔を覗かせる。


近くで見ると、この世界の栗は片手で持てないくらいに大きい事が分かる。

食べ応えがありそうな栗だった。


両手は双子に繋がれているので、ハルは目の前の栗を拾う事ができない。

片手が塞がっているので、双子も大きな栗を拾う事ができない。

繋いだ手を放せば拾う事ができるけど、決して双子はハルの手を離そうとしなかった。


手を繋いだままでいる双子は、自分が消える事を不安に感じているからだと分かるので、ハルは手を振りほどく事はせず、オルトロスとみんなで栗を囲って眺め続ける。


輪になったまま動かないハル達に気づいたカーマインが、「栗ぐらい拾わせてやれよ……」と双子に声をかけながら栗を拾って切り目を入れ、焚き火の中に入れてくれた。


また新しい栗を見つけて囲むと、今度はセルリアンが黙って栗を拾って焚き火に入れてくれる。


英雄達の幼馴染は。意外と気が利く者達だった。


『幼馴染の子達は戦士さん達それぞれに似てると思ったけど、こういう細やかさがあるから、あの戦士さん達と長い間チームを組んでいられたんだろうな』とハルは感じていた。






夕食後に焚き火を囲みながら、ハルはお昼に見た世界の事を話した。


うっかり神様の道に入ってしまった事や、ユニコーンの羽は極上の羽布団のようで、ブラッシング後に包まれたらつい眠ってしまった事、神様が仕事を斡旋してくれた事を思い出しながら話す。


シンと皆が黙り込む中、ハルの言葉と焚き火がはぜる音だけが響き、そのうちに焚き火の中に入れた栗が焼ける匂いが辺りを漂い出した。




「栗焼けたかな?いい匂いがするね」


ハルは長い木の枝で焚き火の中の栗をつついてみる。

火の中に見える栗は、切れ目がぱっくりと綺麗に割れていて、食べごろのようだ。


ハルは栗を枝で焚き火から出す事に集中しつつも、思い出した事をミルキーに伝えた。


「あ。そうだミルキーさん。神様が話してたんだけどね、私の帰りが遅かったら、ミルキーさんに危険があったみたい。私があそこに残るなら、ミルキーさんもあそこにお迎えしてもいいって話してたよ」

「え……?」


ミルキーが目を見開く。物騒な話を聞いた気がした。


「あの……ハル様。神が私を迎えるという事は、まさか私があの世へ送られるという事なのでしょうか……?」


「あの場所はまだあの世じゃないんだって。境目の手前だからかな?私がここに戻ったら、ミルキーさんの危険は去るって話してたし、もうお迎えはないはずだよ」



不穏な話にミルキーは眉をひそめた。

身体は虚弱だが、ミルキー騎士団総長でもある自分は、そう簡単にやられるような者ではないとミルキーは自負している。


「どのような危険が……?」

「何かな?……うーん。どんな危険かは分からないけど、あの場所はなんだか心地良い場所だったし、安心していいよ」

「………」


神に近いとされるミルキーでも、そこに安心は感じられず言葉を返す事はしなかった。





「あ!夜食が!」

つつく手に力を入れすぎた。栗を枝で弾き飛ばしてしまう。


「今は熱いから私が拾うわ」と、転がった栗を拾い上げてくれたのはルビーだった。


近くの木から大きな葉っぱを取って、ハルが持った時に熱くないように包んで手渡してくれた。


「ありがとう。ルビーちゃん」

「お礼を言うのは私の方よ。……黒戦士、本当にありがとう。黒戦士が来てくれたから私は助かったのね。この先、黒戦士に何か困った事があった時は、必ず力になるって約束するわ」



お礼を言ったルビーはにっこりと微笑んでくれて、ハルも笑顔で言葉を返す。


「ありがとう。だけどルビーちゃんが無事で本当に良かったよ。ルビーちゃんに何かあったら、フレイムさんも悲しむからね」

「討伐中の事故なんてよくある話だから、フレイムは大丈夫よ」


肩をすくめたルビーに、ハルは眉を吊り上げる。


「え、何?あの子、彼女のルビーちゃんにそんな薄情なわけ?何か仕返しを―」

「私はフレイムの彼女じゃ―」

「それより黒戦士、ネックレスはどうしたんだ?」


ハルの言葉にルビーが言葉を被せ、その上にセルリアンが言葉を被せてきた。


「え?ネックレス?――あれ?」


セルリアンの言葉に、「ここにあるけど」とネックレスを持ち上げようとしてハルが首元を触ると、ネックレスが消えていた。


「あれ……?」と首元を触るハルに、ミルキーがネックレスが消えた理由を教える。


「ネックレスは英雄様の魔力の塊でしたから、神の聖力に消されてしまったのでしょう。神の前ではどんな力も無力なものなのです」


「え、そうなの?魔除けのお守りだったのに。……そっか。じゃあしょうがないよね」







ネックレスが消えた事に一瞬残念そうな顔をしたが、黒戦士はまた焚き火の中の残った栗を気にし始めた。

栗を焚き火の中から出そうと、木の枝で栗を突いては焚き火の奥に押しやっている。


栗をつつく黒戦士を見ながらセルリアンは考える。



黒戦士の恐ろしいほどの自由人ぶりに、幼馴染のシアンの事がよく分からなくなるほどだったが、こうして数々の奇跡を見せられると、シアンの想いは分かるような気がした。


神に愛される黒戦士ほど、戦いの運を持った者はいないだろう。


おそらく世間で噂されている、『黒戦士が神託の討伐仲間なのをいい事に、英雄達に取り入ろうとしている』というのは間違いで、『英雄達の方が黒戦士に取り入ろうとしている』のだろう。


『あの英雄達でさえ相手にされないなら、自分が相手にされるわけはないが』とセルリアンは思う。

それでもシアンの鬱陶しいほどの魔力がこもったネックレスが消された上に、消えたネックレスよりも栗の方を気にしている黒戦士に、いつも苛々させられてきたシアンを思い出してフッと笑う。


「黒戦士、僕も「ハル」と名前で呼んでいいか?」

「うん、いいよ。リアンさん」


「俺もいいか?」

「私もいいかしら?」

「うん。いいよ。カーマインさん、ルビーちゃん」


枝で栗を突きながらハルは応える。




『戦いの腕を持つ者達なら皆、ハルに惹かれるのだろうな』と、セージはハルを眩しそうに見る者達を眺めていた。



それは戦いの腕を持たない、魔獣研究家のターキーには当てはまらない。

ターキーは、木の枝で突かれてどんどん焚き火の中に入っていく栗を眺めていた。



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