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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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38.セージ × ハル × ユニコーンの静かなる攻防


ルビーから話を聞いたミルキーが、自分の見解を静かに述べた。


「もしかするとそこは――神の領域なのかもしれません」


『人は死後、それまでの人生の善悪の重さで、その先に進む道を振り分けられる』という、宗教観点から思い至った考えだった。


カーマインやセルリアンは、本来ならば鼻で笑って終わるようなミルキーの仮説を、この時ばかりは笑う事などできなかった。

青ざめて震えながら自分に起こった事を話すルビーは正気のようだったし、実際に黒戦士は突然に消えて、ルビーは突然に現れている。

神がかったものが関係しているとしか考えられなかった。




ミルキーの言葉が静かに続く。


「死後の世界は悪行が大きかった者には闇が、善行の大きかった者には光があると言われます。ルビーさんは神獣に剣を向けたことが、神の怒りに触れたのかもしれません。よくご無事で戻られました」


「私は生きたまま死後の世界に連れて行かれたというの……?」


今更ながらにルビーはゾッとした。

死後にも行きたい場所ではないが、決して生きているうちに行きたい場所ではない。

ルビーは身体の震えが止まらず、自分を抱きしめるように両腕を組んだ。


「死後の世界」という言葉に、双子が不安げにミルキーに問いかけた。


「もしハル様が神の元に行ったのならば、帰ってきてくださるでしょうか?」

「そのまま元の世界に戻られるなんて事は……」


双子が涙をこらえてうっと言葉を詰まらせると、皆は何も言葉を返せなくて、場はシンと静まり返った。


それは神とハルにしか分からない答えだった。

そして十分に起こりうる可能性でもある。


皆が沈黙する中、とても重い空気だけが流れていた。






突然。

サッと皆の頭上に影が差した。


ハッとして皆が空を見上げると、大きな翼を広げた馬が浮かんでいた。

――まるで見えない道を通ってきたかのように、馬は突然に姿を表した。



皆が驚いて見つめる馬の背から、ハルがひょいと顔を覗かせる。


「ハル様!」

「ハル!」

「黒戦士!」

皆がそれぞれの呼び方でハルを呼ぶと、ハルがいつもと変わらない調子で返事を返した。


「みんな、お待たせ。ごめんね、もう夕方だね。今日はこのままみんなでキャンプしようよ。

ユニコちゃん、下ろしてくれる?みんなに紹介するよ!」






ユニコーンはスウッと地面に降り立ち、ハルが背中から降りやすいように背を低くしてくれた。

地面に足を着いたハルは、ユニコーンにお礼を伝える。


「ユニコちゃんありがとう。快適な空の旅だったよ。帰ったら神様にお礼を伝えてね。……たくさん空を飛んで疲れたよね。もうすぐ夜だし、モスグレイ山は強い魔獣も崖も多くて危険があるから、このまま帰るのは危ないよね。……ちょっと待っててね」


ユニコーンを優しく撫でて、ハルは「ちょっと待っててね」と最後の言葉をヒソヒソとユニコーンに内緒話をするようにささやいた。

そしてコホンと小さく咳払いする。


「みんな、この綺麗な子はユニコーンのユニコちゃんです。快適な空の旅を贈ってくれた、大人しくて可愛い良い子なんだよ」


みんなにユニコーンを紹介しながらも、ハルはじっとセージを見つめる。





「………」

セージはハルの視線が語るものに気づいたが、視線をそらして黙り込む事しか出来なかった。


ハルの視線が『こんなに良い子なんだから連れて帰ってもいいでしょう?』と問いかけてくる。

この山に向かう馬車の中で、「たとえ使役できそうな魔獣がいても、連れて帰ってはダメだからな」とセージが注意した事を覚えていたのだろう。


神獣ユニコーンもセージの答えを待つように、セージをじっと見つめている。

――神獣の圧が辛い。


そんな神獣の視線にも気づかなかった事にして、セージはハルに笑顔で話しかけた。


「ハル、無事帰ってこれて安心したよ。オルトロスも良い子でハルを待ってたぞ。

『久しぶりの帰省だからって、はしゃいで勝手にどっかに行ったり』もしなかったし、この山で他の『魔獣友達と会っても連れて帰ったり』する事もなかったな。

『僕との約束』を守っていたんだろうな。『もし約束を破った時は、当分おやつは抜きになるから気をつけて』いたんだろう」



ハルが自らオルトロスに語った事を、『思い出せ。思い出してくれ』と切実に願いながら、セージはハルに伝えた。


神獣が神の使いだったとしても、自分達人間と共に過ごす事は危険だ。どんな拍子に神獣の逆鱗に触れて、いつ生きたまま死後の世界に連れて行かれるか分かったもんではない。


じっと自分を見つめる神獣の目に恐怖しか感じないが、セージはハルに心から祈った。

『ハル、帰ったらおやつは食べ放題にしてやるから』と祈るしかない。





「おやつ……」とハルは小さく呟く。


ユニコーンは可愛い。出来る事ならこのまま自分の側にいてほしい。

だけどせっかくの休暇中におやつ抜きは酷すぎる。

双子との買い食いも出来なくなるし、オルトロスにもユニコーンにもおやつを分けてあげる事が出来なくなる。


しばらく黙って考え込んでいたハルは、「そうだね」と頷いた。


「オルトロちゃんは、私との約束を守ってくれたもんね。ユニコちゃんはすごく良い子だけど……。

そうだね。神様の所に帰らないとダメだよね。

ユニコちゃん、暗くなるし帰ろっか。あの道を行けば、すぐそこだからね」






ひとりごとの途中からユニコーンに言葉をかけ出したハルが、「あの道」、と誰も見えない道を指差していた。

それは、ハルが指差す方向を見ながら頷くユニコーンにも、見える道のようだ。


「モスグレイ山は強い魔獣も崖も多くて危険があるから、このまま帰るのは危ないよね」とハルは、ユニコーンに話しかけるように見せかけてセージに話しかけていたが、きっとハルには選ばれし者だけが通れる道が見えているのだろう。しかもすぐに帰り着く道らしい。


そもそもこの山に、このどう見てもオルトロスより強い神獣に敵う魔獣などいないだろう。神獣に出くわす魔獣の方に危険しかない。


危ないところだった。


『今日はもう遅いから、明日の朝までは一緒に過ごしてもいいと思うが』と、口に出してしまうところだった。

セージは危うく自ら危険の中へ入り込んでしまうところだったと、背中に冷や汗を流していた。




「じゃあね、ユニコちゃん。また会おうね」とハルがユニコーンに挨拶すると、ユニコーンはスッと消えた。

ハルは見えない何かを見送るように、ユニコーンが消えた跡を眺めている。






※2章の33話。

ハルがオルトロスへかけた言葉はここに。


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