第一章幕間
某都某所
タワーマンションの高層階の一室。
モデルルームの様に整然とした、飾り気の無い玄関、リビング、キッチン。
どこも明かりがついておらず、家主は留守かと思われたが、奥の部屋から薄らと明かりが漏れていた。
明かりがついていたのは、四畳半程の洋室。
部屋の中は所々散らかっており、ここだけ妙に生活感がある。
部屋の奥のベッドで、一人の少年が寛いでいた。
「……返信が来ない」
少年は、ぽつりと呟いた。
寝返りを打ちながら眺めているのは、スマートフォン。あるアプリが開かれており、左上には『志朗』の文字。
画面には、大量のスタンプと『明日志朗ん家で宿題やらね?』というメッセージがあった。
しかし、そのどれも既読がついていなかった。
「夏休み初日だってのに早寝とか真面目だな〜明日には返信来るか」
そう呟いた少年――優介は、スマホを枕元に投げ捨て仰向けに寝転がる。
すぐに、整った寝息が聞こえてきた。
優介の部屋の壁掛け時計が、その存在を誇示するように鳴り響く。
針の指す時間は、午後10時30分。
王国某所
月明かりが照らすのみの薄暗い廊下に、人影が一つ。
随分と長く放置されてきた場所の様で、照明の類は一つも無く、武骨な石の床と壁が何処までも続いていた。
湿った石の臭いが鼻をつく。
それは、思案していた。昼間に現れた珍客。東の魔法使いダミアの弟子『シロウ』
そして、それは困惑していた。ダミアに弟子がいる等、今まで噂すら無かった筈だと。
「……事の子細は知っているのだろう?」
低い、男の声。廊下に立つ人影の声だった。
それ――男が誰かに話し掛ける様に言う。
「……あぁ」
男に答えるように、どこからともなく声が聞こえる。男のものとは違って機械じみた、男とも女とも取れる声だった。
「ダミアの弟子……その様な情報は、私の耳にも入ってきていない」
男は鼻で笑った。
「素晴らしい魔法使い様でも、知らない事があるのだな」
嘲笑う様な男の言葉に、声の主は穏やかに笑う。
「必要が無かっただけさ。今更何が出てこようとも無意味。
あの方の計画が覆ることは無い」
声の主の自身ありげな声に、男は苛立たしげに眉根を寄せる。
「慢心は些か早いぞ。どれだけ小さかろうとも、不安分子は全て潰さねばならん」
そして、それは危惧していた。
計画が根本から覆されてしまう事を……。
「流石は先の戦争の生き証人殿。年の功は伊達ではないな」
「ほざけ。
貴様も対して変わらんだろう。化け物め」
男の声に、声の主はカラカラと笑う。
「これは失礼。ならば、貴方の忠実な部下を動かすのだろう?
私は、アレらがどこに向かおうとしているかを知っている。
伝言くらいなら、頼まれてやっても良い」
男は、鼻で笑った。
「なれば、お願いしようか。
『歳のせいで呆けた魔法使い様の代わりに、優秀なお前に任せたい事がある。
ダミアの弟子、シロウ。
やつを始末しろ』と」
「手厳しいな……。確かに伝えておこう」
その言葉を最後に、廊下に謎の声が響く事は無かった。
静寂に包まれた廊下で、男は一人呟いた。
「計画の邪魔をさせはしない。
再び、平和な世界を取り戻すのだ」
男は、踵を返し歩き出す。
薄暗がりの中で、オリーブの様な植物が描かれた階級章が、僅かな光を反射した。
いつもお読み頂きありがとうございます。
今話で第一章が終わり、次話より第二章に突入致します。
今後とも宜しくお願い致します。




