お人好し
「アンタに心配されなくても、この程度で弱音を吐く程ダミアはヤワな魔法使いじゃないよ。勿論、アタシもね」
そう言ったダリアは、続けて「アンタはまず自分の心配をしな」と言って、また肩を震わせて笑いだしてしまった。
そんなに面白い事を言った覚えは無い志朗は、ダリアの笑い様にしばらく呆気にとられていた。
「あー笑った笑った…………悪かったね。昔、似た様な事を言われたのを思い出して、つい可笑しくてね」
「……似た様な事?」
首を傾げる志朗に、笑いを堪えながらダリアは言う。
「昔、ある魔法使いが今のアンタと同じ様な事を言ったのさ。
アタシ達は、人や物を運ぶ魔法が得意で、昔からよく他の魔法使いに手伝いを頼まれていたんだ。
でも、ある時1人の魔法使いがアタシ達に、
――『そんなに魔法を使っていたら身体に障る。少し休んだ方が良い』
って、初めて会ったばかりの他人に言われたもんだから、癪に障るのを通り越して面白くてね。話してみたら、とても面白い魔法使いだった……。
アンタは、彼女に良く似てるよ」
「……その魔法使いは、どんな魔法使いだったんですか?」
志朗の言葉に、ダリアは懐かしげに目を細める。
「人にも魔法使いにも分け隔てなく接する、穏やかな魔法使いだった。
身寄りの無い小さな魔法使いの子供を、自分の弟子にするくらい、お人好しな魔法使いだった」
「…………。」
今、その魔法使いはどうしているのか。と、志朗は聞く事が出来なかった。
ダリアの声の調子からして恐らく、その人物はもう……。
「その方とは……友達だったんですか?」
「…………さてね。向こうがどう思ってたかなんて、もうわかりゃしないさ。
それより、今は……」
ダリアは、いつの間にか手に持っていた地図を机の上に広げた。
「この厄介事を片付ける。
目的地と大まかな中継地点の確認をしよう。
まずは――」
志朗は、ダリアと目的地、中継地点の確認をし、ダミアから貰った荷物の中身も一通り確認していった。志朗の疑問にも、全てではないがダリアは答えてくれた。
一通り終わる頃、時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。
『他に分からない点はあるかい?』と問い掛けたダリアに、志朗は大丈夫だと言った。
「遅くなって悪かったね……もう休んだ方が良い。移動中に何かあれば、さっき言った手順通りに」
ダリアの言葉に、志朗は頷いた。
「ありがとうございます。おやすみなさい」
志朗の言葉に頷き、部屋の扉に手を掛けようとしたダリア。しかし、ドアノブに手を置いたまま、ダリアは少しの間動かなかった。
ダリアの様子を訝しんだ志朗は、ダリアに声を掛けようと口を開く。
「ダリアさん。どうかしましたか?」
「…………いや、なんでもない。シロウ、頼んだよ」
一言だけ告げたダリアは、部屋を出た。
「…………。」
煮え切らない様子だったダリアに、志朗は眉根を寄せる。
ダリアの後を追おうかと思ったが、ダリアの気配は一瞬で城の外まで移動してしまった。
追いかけるのは諦めた方が良さそうだ。
志朗は寝る前に荷物の最終確認をする事にした。
ダミアの荷物である杖、大杖、木箱……中には、小さなベルと手のひらサイズの紙が一束入っている。
ダミアの荷物を持っていきやすいように纏め、自身の荷物はダリアに預けていく。
スクールバッグの中身は言わずもがな。財布、スマートフォン、家の鍵。持っていないと落ち着かない物ばかりだが、使う事も無いので置いていく。
そして、志朗は生徒手帳を手に取った。
中には学生証と、1枚の写真が挟まっていた。
志朗を含め、3人の人物が写ったもの――高校入学の折に、家族で家の玄関前で撮ったものだ。
真新しい制服に身を包んだ志朗と、志朗の肩を抱く茶髪に農茶の瞳をした志朗の母親。
そして、黒髪に黒目の穏やかそうな顔をした志朗の父親の姿が写っていた。
しかし、両親の顔立ちは志朗とは全く似ていない。
志朗は、写真を見ながら懐かしそうに微笑んだ。
そして、写真を大事に手帳に入れ直し、制服の内ポケットに丁寧にしまう。
そして、用意された寝巻きに着替え、眠りについた。




