語らい
アルメルシアは、志朗の言葉に一瞬動きを止めた。しかし、すぐにゆっくりと話し出す。
「……おおむね良好……とは、とても言い難い状態です。
皆、程度の差こそあれ、視力、聴力、触覚などの五感の低下といった症状が出ています。
痛みはなくとも、昨日まで見えていた、聞こえていたものが、次の日には見聞きできなくなっている事もあります」
そっと伏せられた顔には、憂いの表情が浮かんでいる。
「兄様達も、今はもう物を見る事も、聞く事もままなりません」
呟く様に告げられた言葉は、酷くか細い。
アルメルシアは、顔を上げる。
「でも、呪いが解ければ皆、五感を取り戻せる。また、以前と同じ様暮らせるのです。
私は皆の為に……私自身の為にも、一刻も早く呪いを解く方法を見つけ、持ち帰らねばなりません」
そこにはすでに憂いの表情は無く、強い決意を秘めた瞳が志朗を見つめている。
2人の間を静寂が包む。
志朗が口を開こうとしたその時、アルメルシアは志朗から顔を逸らし、中庭の方を向いた。
「先程、シロウはここを美しい場所だと褒めてくれましたね?
実は以前、お兄様2人も花壇の手入れを手伝ってくれた事があるのです」
そして、アルメルシアは兄2人と花壇の手入れをした時の話をした。
兄達は花の知識が乏しく不器用で、思いがけない失敗をした話や、アルメルシア達の母の好きな花の話。花壇の手入れをしながらした母や祖父母、兄達との日常の話。
アルメルシアは時折懐かしそうに笑いながら、とても楽しそうに話していた。
隣で話を聞く志朗にも、アルメルシアが家族をとても大事に思っている事が伝わってきた。
志朗は時折相槌をうちながら、アルメルシアの話に熱心に耳を傾ける。
そして、アルメルシアは、自身が幼い時の事も少し話してくれた。
国では年に一度の大きな祭りがあり、今の半分くらいの背丈のアルメルシアは、両親と一緒にお忍びで城下を見て歩いたらしい。
沢山の露店が道いっぱいに並び、沢山の人と魔法使いで賑わっていた。
人も魔法使いも皆楽しそうに笑っていた様子を見て、何故だかとても嬉しかったのだと、彼女は言う。
そうして、ひとしきり話をしたアルメルシアが、
「誰かとこんなに話をしたのは久しぶりで……つい、話しすぎてしまいました」
と少し恥ずかしげに言った。
恐らく、ずっと緊張し続けていたのだろう。誰かと談笑する余裕も無かったのかもしれない。
「……俺で良ければ、何時でも話して下さい」
口をついて出た言葉。
アルメルシアが、志朗を見る。
驚いた様な表情の彼女を前に、志朗は思わず先程言った自身の言葉に驚いた。
「あ、えっと……聞くことしか……出来ないかも知れませんが……」
しどろもどろになる志朗に、アルメルシアはふっと目を細める。そして、
「……ありがとう」
と言った。
その声は、とても柔らかく暖かかった。
「…………。」
「…………。」
志朗を見つめ微笑むアルメルシアと、これ以上どう言葉を掛けたら良いのか分からず戸惑う志朗。
2人の間には静かな沈黙があった。
そこに近づく、黒い影……。
黒い影は、志朗の真後ろに立つと、
「ここに居られましたかシロウ様……!!」
黒い三角耳をピンと立てながら言った。




