第40眠:寝ている間に伝説扱いされていました
18の誕生日を迎えました。
月日が経つのはあっという間。
この前17の誕生日迎えたと思ったのに。
「師匠はずっと寝てたから……」
ミガサがため息。
そうとも言う。
この塔での生活は快適だった。
本を書いては、寝る。
の繰り返し。
「お誕生日おめでとうございます、ミラーさん」
メイルがお祝いしてくれる。
メイルは随分綺麗になった。
これからもどんどん美人になっていくんだろうなぁ。
「ところで、師匠。伝えることが腐るほどあるんですが」
「腐らしておいてくださーい」
「言葉遊びしない! 師匠の書いた魔術書に問い合わせがいっぱい来てるんです!」
「理解できないのは、お前が馬鹿だからだ。と伝えておいてください」
「どんだけ喧嘩売ってるんですか!?」
「あんな魔法構成の図まで書いておいたんです。なにが分からないんですか? 見れば分かるでしょ?」
「いや、質問はいっぱいあると思いますよ……」
おのれ、世界は馬鹿ばかりか。
「一応、問い合わせはまとめておきましたから」
目を通すが
「ああ、これはいい質問」
魔法構成の発展系についての質問。
これは本に書いてないからね。
「この方に、次の本にその記述するからと伝えてください。後の質問は、本読み返せボケナスと返してください。それではおやすみなさーい」
「師匠!? 三日ぶりに起きたばかりでしょ!? また寝るの!?」
寝るんです。
おやすみ~。
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寝る時間が伸びていた。
それは自覚している。
「おそらく、なんかしらの病ではあるのでしょうね」
「そうかもしれません」
メイルと相談する。
「でも、ミラーさん。無理に治される必要はないかと」
「そうですか?」
メイルはニコリと笑い
「だって、ミラーさん、寝るの好きでしょう?」
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殆ど寝て過ごし、たまに起きて本を書く。
そんな生活を三年続けた。
その結果、私の存在は伝説となっていた。
「師匠。寝る前にこれ見ておいてくださいね」
起きるなり、ミガサに紙束を渡される。
「なんか、問い合わせ内容が、どんどん面倒になってますね」
「師匠は魔法の革命者ですから」
魔法の革命。
合成魔術の基礎構成の本は衝撃だったらしい。
あれで、合成魔術は一気に世間に浸透した。
基礎魔術が使えれば、合成魔術が使えるのだ。
合成魔術のバリエーションは無限に近い。
様々な研究がされていた。
その問い合わせに答える形で追加で本を二冊書いた。
今までに
『合成魔術の基礎構成』
『合成魔術の応用構成の一例』
『合成魔術体系一覧』
を出したのだが、特に三冊目がすごかった。
合成魔術でなにができるか。
それぞれの組み合わせと、予想される効果一覧。
そして、それの基礎について書いたら問い合わせが殺到した。
「本読めば分かるって言ってるのに~」
「いや、分からないですから」
ミガサが冷静に突っ込む。
結局、ミガサはいつまでも弟子をしていた。
知識の塔で、私の弟子として、問い合わせの応対と、その返答をしていた。
また、研究もしている。
私の言葉が足りないところを補っているのか
『合成魔術構成の為の基礎講座』
『魔法構成の理論講座』
『合成魔術構成の応用と注意点』
『魔法量と魔法効率の関係について』
『速記魔法構成講座』
など書いている。
おかしい、私より本が多い。
「師匠が予告している『合成魔術理論とその応用』はいつ出るんだと問い合わせすごいですよ。それ読めば、体系一覧に載ってる魔法使えるのか? と大騒ぎになってますから」
「別に、体系一覧読めば分かるのになぁ」
まったくもう、一から説明しないとだめなのかよ。
私は久しぶりに塔の外に出る。
会う相手は
「メイル」
「こんにちわ、ミラーさん」
メイルはもう16だ。
とても美人。
でも結婚はしない。
この識都で、ノンビリと暮らしている。
たまにふらりと旅にも出ているらしい。
「また、一段とキュートになられて」
「ありがとうございます」
ニコッと笑う。
「ミラーさんの本凄いですね。伝説として扱われていますよ」
「そうですか~」
伝説ねぇ。伝説か。
「そうですね、伝説かもしれませんよ?」
メイルが不思議そうにこちらを見る。
「こんな、寝るしか脳がない私が、魔法理論をここまで知り得たのは、メイル、あなたのおかげです。あなたに会えたのは、伝説的な奇跡だったんですよ。多分私は、あなたに会えなかったら死んでいたでしょうね」
メイルは黙って聞いている。
「この奇跡に感謝していますよ、メイル。そして、いつかあなたの呪いも解いてみせます」
ドラゴンの呪い。
メイルはそれに悩んでいる。それを、私が解いてあげたい。
執筆をしながらも、その研究もしていた。
「はい! 楽しみに待っています」
私とメイルは、笑いあっていた。
この話で完結となります。
最後までお読み頂いてありがとうございました。




