報復
本日二話目です。
魂を失った伯爵の体に、娘が涙を流しながら縋りついている。
部下達も悲痛な顔をして、一部には涙を流している者も居た。
ずいぶんと慕われていたんだろう。
一人を除いて。
流石にこの状況で、喚き散らす様な事はしていないが、見るからに異物だ。
まぁ、この世界の異物である俺達に言われたくはないだろうけどな。
「おのれ……。」
こちらに向かい鋭い目を向けてくる娘。
警戒したブレオベリスとガウェインが俺の前に出る。
「勘違いしてくれるなよ。これは伯爵と俺との契約だ。伯爵の願いは娘の助命。対価は自身の魂だ。」
俺の言葉が事実だと、伯爵の部下達が口々に証明してくれる。
彼等はブレオベリスとガウェインの、力の片鱗を味わっているからだろうか?
もしかすると伯爵本人からも言い含められているのかもしれない。
部下達の言葉を受け入れてはいるのだろう。
それでも俺を睨むのを止める事は無い。
理解は出来ていても、感情がそれを拒否しているといった所か。
「別に挑んできてくれても構わないぞ。俺と伯爵との間の契約は既に完了した。その後の行動までは契約外の事だ。ただ、伯爵が文字通り命を懸けて、わざわざ救った命を奪うと言うのは気が進まない、その程度の物だからな。」
悔しそうな顔をしながらも睨む事をやめない娘と対峙する配下の二人。
目論み通りにはいかないか、と思い始めていた時に思いがけない人物が声を上げた。
いや、むしろ思った通りの行動に出たと言うべきだろうか?
「そ、それでは我々はこれで自由なのだな?イシュメイア伯爵のお陰で助かったのだな!では、私を案内せよ!このまま皇国へ亡命する!」
「いや、それは不可能だ。」
優男の発言を一言で斬って捨てる。
「なぜだ!イシュメイア伯爵が我らの助命をして下さったのでは無いのか!約束を違える気か!」
「話を良く聞いていなかったのか?伯爵と娘の命だ。そこにお前は含まれていない。」
「そんな馬鹿な話があるか!」
「あるんだよ。俺からすればお前達の命など、王族や貴族だろうが奴隷であっても等価値だ。本来失われるはずだった命が二つ。対価の命は一つ。簡単な計算だろう?」
「そ、そんな……。」
「お前の代わりに魂を捧げる者が現れれば、あるいは助かるかもな。他国の者で、ダンジョンの奥深くまで侵入し、俺達が気付くまで待ち続けることが出来れば、だがな。」
「そんな者!居る筈がないだろうが!!」
「居たんだよ。だからその娘は助かった。それだけの話だ。」
「ぐ……。」
「さぁ、そろそろ出て行くが良い。いつまでも居座られては困る。」
「待て!待ってくれ!イザベラからも何とか言ってくれ!」
「私はあなたと父との契約に関して納得した訳ではありません。ですが……、彼は私の婚約者なのです。何とか他の方法はありませんか?例えば財貨や土地、世間向きの身分など御用意出来ます。」
「論外だな。提案された全てが俺にとって無意味な物ばかりだ。」
「何か、私達に用意できる物はありませんか?」
「無い。そしてそもそもお前達は交渉のテーブルに着く事さえ許されていない。伯爵が居たからこそ、俺と対面できている事を忘れるな。伯爵が居ない今、お前達には交渉する権利も、俺に交渉しなければならない義務も無い。」
無慈悲な俺の言葉に言葉を失う二人。
「もう諦めろ。そもそも俺はアルスロー王国を許すつもりは無い。一般の者ならまだしも、貴族階級の者など以ての外だ。」
下手な事を言って、希望を持たせてしまいグダグダが続くのは勘弁して欲しい。
そもそも助けるつもり自体が無かったのだ。
皇国の力をついでに削ぐ為、伯爵を排除したかったに過ぎないからだ。
うんざりとしながら蒼い顔をする二人を眺める。
そんな時だった。
「私の代わりに魂を捧げる者が居ればいいのだな?」
「まぁ、そう言う事だな。用意できるならな。」
遠く離れた者同士を繋げる、電話の様な物なんかが無ければ事実上不可能と言える。
アルスロー王国内から誰も出すつもりは無いからだ。
そんな事を考えていた時に、ソレは起こる。
あっと言う間の出来事だった。
「オズウェン様…。何を……。」
「私が!私が死ぬ訳にはいかんのだ!こんな…、こんな所で終わる訳にはいかんのだ!妻ならば。私の妻になるのであれば、その命は夫である私の為に使う事こそ相応しいのだ!」
呆気に取られたが、言っている意味は理解できる。
だが、それを俺が許可した覚えはない。
全く、ふざけた事をしてくれる。
これだから人間ってやつは……。
報復として、今にも優男に斬りかかりそうだった兵士達は、ガウェインの能力によって身動き出来ないようにされている。
物理的に動きを止められているのだろう。
悔し涙を流している者や、唇を噛み締めすぎたのだろうか?口から血を流している者まで居る。
まぁ、目の前で主人が死んだ挙句に、後を託された娘まで死んだのだ。
その悔しさや無念さと言う物は、俺には計り知れないだろう。
だが、あっさりと殺してもらっても困るのだ。
「おい。独りで盛り上がっている所を悪いが、俺はその交換を許可していない。よってお前の行動は無意味だ。残念だったな。」
「ふざけるな!!先程貴様は簡単な計算だと言ったではないか!!生きて出られるのが一人。そして生きているのは私一人だ!!」
「ふむ……。確かにそう言ったな。だが、こうも言ったぞ。お前達は交渉のテーブルに着いてさえ居ない、と。約束もしていない事をやってやったぞと言われても、それがどうした?って話だ。」
「なん……だ…と…。」
「話はそれで終わりか?それでは俺からの話は終わりだ。」
「待て!待ってくれ!」
「あ、そうそう。お前の後ろに話のある人が居るようだぞ。精々しっかりと言い訳しておけよ。」
特徴的な白に近くなった銀髪と、使い込まれた白銀と黒の鎧を身にまとった壮年の男。
静かながら怒りに満ちた目をギラつかせ、手に持った業物の片手剣を構えていた。
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