嘆願2
ブレオベリス達を送り出した直ぐ後に、ガウェインが戻って来たので様子を窺いに向かっていた。
結果的にはそれが功を奏したと言う事だろう。
どちらの言いたい事も理解できるのだが、諍いが起きた場合には能力的にリリアが文字通り消滅してしまう。
それが分かったので慌てて出て来たと言う訳だ。
まぁ、ガウェインが近くに控えていたからこそ、表に出て来たんだけどな。
知ってか知らずかは分からないが、さも元々の予定だったように振る舞ってくれるガウェインがありがたい。
俺の正面で膝を突くブレオベリスとリリア。
その左右には、両手・両膝を地に付けた状態で控えるゴーレム達。
現れた俺に付き従い、一歩後ろで控えるのはガウェインだ。
ガウェインに威圧されたお陰で、貴族とその取り巻きは膝を突いた状態で浅い呼吸を繰り返しているばかりだ。
なまじ、能力が高いだけに我彼の実力差が理解できてしまうのだろう。
そんな状態の彼等を敢えて無視し、ブレオベリス・リリアの両名に対して目を向ける。
意見の相違に関しては何の問題も無い。
むしろ、喜ばしい事だとも言える
イエスマンしか居ない組織に未来なんて無いからな。
それでも、軽く釘を刺しておく必要があるのは確かだった。
「二人とも、あまりダンジョンの恥を晒す様な真似をしてくれるなよ?招いた覚えはないとは言え、客人の前だろう?」
「はっ。申し訳御座いませんでした。」
「申し訳ありません。失礼致しました。」
二人からの謝罪に軽く手を上げる事で答え、彼等が定位置へ戻るのを待つ。
ブレオベリスとガウェインは、どのような状況になっても俺の身を守れる位置にて控え、リリア自身は少し離れた場所で跪いたまま待機をする構えのようだ。
「さて、部下が見苦しい所を見せた様だな。俺がこのダンジョンの管理者。ダンジョンマスターだ。仲良くするつもりは無いから覚えなくても構わないぞ。」
シャドウデーモン達を複数呼び出して警護に当たらせ、ブレオベリスやガウェインと言う過剰な位の戦力があるとは言え、今の俺は生身だ。
あっさりと、何かの攻撃を食らって壊れる可能性が無いとは限らないからな。
それに見た目だけで言えば、俺は人族の青年と変わらないだろう。
変な馴れ合いを求められるのは不愉快だろうし、多少尊大な位で良いだろうと思う。
「お、おい……。あれって人間なのか……。」
「まさかとは思ったが、人間がダンジョンマスターをやってるなんて……。」
貴族の背後、彼等の立場は分からないが、恐らくはこの老齢の貴族の部下なのだろう。
騎士とか従士とかって立ち位置だろうか?
まぁ、見た目がコレだからな。
変な侮られ方をするのは、十分予測できていた事だ。
「元人間だ。間違ってくれるなよ。あぁそうだ。ついでだし、もう一つ言っておこう。俺は異世界から呼ばれた者なので、この世界に知り合いがいる訳でもなければ、手心を加えたりするつもりも一切ないので、そのつもりで。」
「だ、だが……同じ人間のはずだ。」
出たよ……。この意味の分からない同調と言うか、期待。
地球で人間だった時から感じていたが、こう言う想像力の無さはどうにかならんもんかね?
自分達と見た目が似ているからって、考え方も似ているとは限らないだろうに……。
詳しい所まではあまり覚えていないが、愉快な記憶でもない様なので、目の前で騒ぐ人間達が面倒に感じ、殺してしまおうと手を上げかけた時にその声は響き渡った。
「その口を閉じよ!自らの立場を弁えぬか!!」
老齢の貴族らしき男性が、自らの背後に居る者達に向かって叱りつける。
元は綺麗な銀の髪だったのだろうが、時の流れにより今では白に近い色になった髪。
先程までの戦闘でも分かる通り、老齢になった今でも訓練を怠る事は無かったのだろう。
鍛え上げられた肉体だと言う事が良く分かる。
そして、良く使い込まれた武具。
華美なだけで戦闘を考えられていない様な物とは違い、至る所に細かい傷は入っていても、銀の鎧をベースに黒いトライバルの様な縁取りを施した、本物だけが持つ輝きと言う物を感じた。
決して色褪せる事の無い物がそこにはあった。
「部下達が失礼致しました。貴方が迷宮主様で宜しいでしょうか?」
「気にする必要はない。そして、そちらの予想通り俺がこのダンジョンの主だ。話を聞くつもりは無かったが、こうなってはどうしようもないな。用件は何だ?」
「はっ。私はルドラス皇国にて伯爵の禄を食んでおります。デルメトス・ノル・イシュメイアと申す者でございます。以後お見知り置き下さい。」
「伯爵と言えば上位貴族だろう?その伯爵様が何の用だ?」
「本日罷り越しましたのは、迷宮主様へ願いの儀あっての事。是非お聞き願いたく参上致しました。」
続きを促す様に頷きを以って返す。
「我が娘は来年の結婚へ向け、アルスロー王国を訪問しておりました。その為、現在においても帰国できておりませぬ。どのような事情があったのかは分かりませぬが、どんな事をしてでも娘を救いたいと思ってしまうのは、親として当然ではないでしょうか?お手を煩わせるつもりは御座いません。許可頂ければ、私自らが赴き連れ出して参ります。何卒!何卒許可願いたい!伏してお願い申し上げます!」
一部の者には俺の事も広まっていると言う事はよくわかった。
それにしても、娘の為……か。
厳密に言えばアルスローの国民でも無い……。
難しい所だな……。
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