非道
微グロかもしれません。
耐性の無い方は御注意を。
◇
荒れている。
表面上には出てこない様に注意しているようだが、常日頃から付き従い、我があるじが心穏やかに過ごせる様にと腐心してきただけに、理解できる。いや、理解してしまう。
あるじはカタリナ達の死に心を痛めておいでだ。
そして、それと同様に敵に対しての怒りと現状に対する焦りを抱えておられる。
確かにカタリナ達が死んだのは勿体無い事だ。
それなりに強力な者達であり、アルスロー王国内での拠点をも同時に失う事となった。
だが、逆に言えばただそれだけの話である。
力関係で言えば、ブレオベリスや最上位のヴァンパイアである自分さえ居れば、圧倒的優位は揺るがない。それこそ、神と呼ばれる者でも無ければ我々二人を滅する事は敵わないだろうとも思う。
デーモンロード達も名前を与えられ、役目を割り振られた者達が存在しているが、万が一彼等が束になって襲い掛かったとしてもブレオベリスか自分のどちらか一人が居れば事足りるだろう。
あるじはお気付きになっておられぬかもしれないが、それほどに力の差がある。
理由としては不確かだが、あるじに依って最初に求められたからではないかと思う。
だが、そんな事はどうでも良い。
我らはあるじの為にだけ存在している。
重要な事はその一点のみ。
あるじが求めるのであれば、この世界を塵一つ残さず滅する事も、神に弓引く事すらも迷う事など無い。
我があるじの為に。
それこそが我々の存在意義であり、存在理由である。
そして、そんな私の眼にはあるじが苛立っておられるのがよく分かる。
分かってしまう。
配下の者を殺されたのだ。
心優しき我があるじはその御心を痛めておいでだろう。
そして同時に御自分を責めておられる。
我らは我らの使命を全うしただけ。
我々はあるじの命こそが至上なのだ。
その命擲つ事も些末な事。
だがそう伝えたとしてもあるじには何の慰めにもならぬであろう事は分かっている。
なれば。
なればこそ、憎い。
我があるじにその心痛を強いる事となったアルスロー王国が、王女レオノーラとやらが憎い。
許されるのであれば、今すぐにでもアルスロー王国の名を、国民をこの世から消し去りたい。
王女レオノーラなど、死すらも生温い永劫の責め苦を与えてやりたい。
相手が強力だったとしても、ブレオベリスと私の二人に加え配下のデーモンロード達総勢で向かえば、例え神が相手であろうと殺してみせる。
だが、我があるじはそれを望んではいない。
心優しき我があるじは、我々の被害を許しては下さらぬだろう。
ゴブリンなどの下級の魔物や敵であった人間の小娘にすら情けを掛けるのだ。
あぁ……、敬愛する我があるじよ……。
その心痛如何ばかりか……。
◇
レオニードの報告から一週間、アルスロー王国は何の動きも見せなかった。
不気味な程に静かだ。
動かないのであれば、それはそれで構わない。
ダンジョン関係者だと知って手を出してきたのかは分からない。
だが、今となってはどうでも良い事だろう。
まず最初にアルスロー王国内の資源ダンジョンを閉じた。
物理的に崩落させたのだ。
その際に町にも相当な被害が出たようだが、俺の知った事ではない。
本来は使うつもりの無いものだった。保険程度のつもりだった。
アント達が無計画に広げた巣を再利用したのだ。
各国の都市部の地下に出来た縦横無尽とも呼べる巣穴を、アントの間引きと同時に補強し、万一に備え簡単に崩落を起こせるように指示していた。
人族の国同士の様に、宣戦布告なんてしない。
と、言うよりは既に戦争状態と言って良いだろう。
だからこそ、崩した。
町の三分の一程が沈み込み、多くの犠牲者が出た。
そして多くの怪我人も、だ。
それと同時に資源ダンジョンも潰し、間引きから逃れたアント達へ新たに上位種を向かわせた。
現在のクイーンを排除し、その座に新しく送り込んだクイーンを据えたのだ。
新たなクイーンに与えられた命令は単純な物だ。
アルスロー王国内の目につく物を食い尽くせ、と。
元々が雑食性の蟻だ。
目についた動く物全てに襲い掛かり、農作物を根こそぎ奪い、そして本能のままに繁殖しようとするだろう。
巨大な蟻とは言え、一体一体はさほど強い訳じゃない。
それこそ、農具を持った農民にすら運が悪ければ負ける程だろう。
冒険者や兵士など言わずもがな、と言う奴だ。
だが、その数は『脅威』の一言に尽きる。
いつ、どこから湧いて出て来るかもわからない物を阻止し続けられる訳が無い。
いずれ疲弊し、国として存続する事すら困難になる。
周囲の国からの援助も止めさせた。
簡単な事だ。
周辺国の城へ敵対するのであれば同じ事をしてやる、と書面を送り付けただけだ。
一個人が密輸などを考え、発覚した場合であろうとその国の総意と見做す、と書き加えた事によって、面白い程に効果が出た。
特に皇国の反応は早かった。
町には高札が立ち、連日のように文官が演説を行い、国境を兵達が固めた。
とは言え、実際に俺達が監視をしている訳では無い。
一国家の民を賄うには密輸程度で足りるものではないからだ。
アルスロー王国を救いたいのであれば救えばいいと思う。
そうすれば潜在的な敵が勝手に俺の前に出て来てくれると言う事なのだから。
このままいけばアルスロー王国は酷い事になるだろう。
多数の餓死者で溢れ、かろうじて生きている者も、殆ど動く事も儘ならぬまま蟻の餌になる。
その事に関して、俺は一切何も感じる事は無い。
山歩きをしていた者に蜂が襲い掛かるようなものだ。
どちらが、と言う物ではない。
敢えて言うなら、テリトリーに踏み込んだ者が悪い、だ。
この後、為政者としてレオノーラとやらがどう動くのか。
それとも超越者として何も感じず、何もしないのか。
私室に戻った俺は、目についたゲーム機やテレビを叩き壊す。
「クソが!」
自分の中で暴れ回る、怒りや自責の念をどうにかおさめる。
「はぁ……はぁ……、二度と……、失敗しない……、する……もんか……。」
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