進軍
今まで散々に劣勢に回されていた反動だろうか。
基本的に脳筋な獣人種が延々と防衛に回っていた訳だし、そうなってしまう事もわからないでもない。分からないでもないが、それを許すつもりは無い。
勝手に小競り合いをしている分には関係ない。
まぁ、介入したり横槍を入れるかどうかは別だけどな。
ただ、今回の件にすると俺がブラント神教国に対して行った事の尻馬に乗ってきた形だ。
俺やダンジョンに対する罰としては、二つの都市を壊滅させたことで十分だと考えているが、それに便乗してきた他の国に美味い汁を吸わせるなんて事は決して許さない。
極論すれば、人類全体の為になるならば何かをやっても構わないが、どこか一国だけが得をする様な事を起こすつもりは無いんだ。
つまり、今のセエレ共和国が起こした戦争は俺にとって、二重の意味で看過出来る物じゃないって事だ。
「さて、二人共。今回はどっちが行く?」
「今回は私に行かせてください!必ずやあるじの御期待に応えて見せましょう。」
「ブレオベリスはどう思う?」
「はい。何も問題無いかと存じます。」
「ふむ。それではガウェインに任せよう。しっかりやれ。」
「はっ!ありがとうございます。」
◇
バラバラの武具を装備した兵士達が隊列を組んで歩んでいる。
とは言っても、規律正しい行軍には程遠い物だ。
これは彼らの性質上仕方の無い物なのかもしれない。
彼らはセエレ共和国軍所属の兵士達。所謂獣人種と呼ばれる者達だ。
ファンタジーにありがちな人間に獣耳や尻尾を付けた者から、動物をそのまま直立歩行させた様な者まで多種多様な者が存在している。
更に言えば、ネコやトラ、ライオンなどネコ科の種族だけでもかなりの数が居る。ましてや、それにイヌや狼などメジャーな所だけでもこれだけ居る。
正確な数は分からないが、それこそ数百種の種族が居る様だ。
ただ、多種多様な種族が居る一方で、それぞれの部族の人口はそこまで多くも無く、人口=発言力と言う様な単純な構造になっている。
その為、軍事行動ともなれば寄せ集めの様な形になるのは仕方がないと言える。
それでも劣勢だったとは言え、今まで一方的に滅ぼされる事が無かったのは、ひとえに個々人の能力の高さだ。
「この辺りで野営を行うぞ!準備にかかれ!」
指揮官となるトラが直立歩行した者の言葉に反論や反抗はしないが、不承不承と言った形でその他の種族の者が従っていく。
普通であれば指揮官のテントを中心に放射状に陣を組んだり、混乱を避ける為に等間隔に並べたりするのだろうが、セエレではそんな事は行われない。
それぞれの部族で纏まり、野営を行っている。
夜間の歩哨に立つ兵士の声が聞こえる。
周囲には自分達の身内しかいないので、気も抜けているのだろう。
「しかし、本当なのか?ブラントの連中がダンジョンに手を出して首都を落とされたってのは。」
「あぁ、しかも皆殺しらしいぜ。」
「マジかよ。俺達が今向かってるのって首都だろ?大丈夫なのか?」
「もうすでにダンジョンの連中は居ないらしい。お前も見ただろう?ストローツのあった場所を……。」
「しかしよぉ、そんな場所に向かってダンジョンの連中がこっちに向かってきたりしねぇのか?」
「大丈夫なんじゃねぇの?俺たち自身は向こうに何もしてねぇ訳だしよ」
「ならいいけどよぉ……。そんなおっかねぇ連中が来たら俺は真っ先に逃げるぜ。そんなの相手にしてらんねぇよ。」
「そうか。それは残念だったな。もうすでに遅いんだ。」
そんな声と共に赤い眼を怪しく輝かせながら、影の中から何者かが浮き上がってくる。
「なっ!?」
◇
「良い夜だな。そうは思わないか?」
そんな場違いな声が聞こえる。黒い闇色の髪に赤く輝く瞳に、病的なまでに白い肌。どこかの大貴族も斯くやと言う程の気品に溢れ、口を開く度に異常な程に長く伸びた犬歯。
ヴァンパイアロードから進化を遂げ、トゥルーヴァンパイアとして生まれ変わったガウェインだ。
「あぁ、良い晩だな。急に声を掛けるから驚いちまったよ。」
話し掛けられた兵士二人は、警戒の声を上げる事も無くむしろ親し気にガウェインに答えを返す。
これがガウェインのスキルである魅了だ。
こうなると精神魔法系に余程の耐性が無ければ抵抗する事は出来ない。
絶対服従と言う様な使い勝手の良い物ではないが、親・兄弟・子供・恋人・配偶者などに対するよりも深い愛情・親愛を感じてしまう。そんなスキルだ。
「それじゃ、少し待っててくれ。皆にも挨拶してくるよ。」
「あぁ、あまり遅くならないようにな。」
手を振って別れる。
出会う者全てに魅了を掛けながら、ゆっくりと我が物顔で野営地を進んで行く。
目的地は指揮官の陣幕だ。
魅了に掛かった者へ命令を出しながら、トラの獣人の前に立つ。
「やぁ、御機嫌よう。私のあるじからの言葉を伝えに来たよ。」
「な……に…を……。」
「へぇ、麻痺眼に掛かった状態でそれだけ喋れるなんて優秀なんだねぇ。」
そんな、聞きようによればのんきにも取れる会話をしている後ろでは、同軍同士の殺し合いが発生していた。
言った事は唯一つ。隣人と闘い勝者には褒美を与える、と言う事だけだ。
彼らは愛する者に頼まれたとして命を懸けて戦い続ける事だろう。
満足げで酷薄な笑顔を浮かべながらガウェインはトラの獣人に話しかける。
「死ぬには良い夜だな。」
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