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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第7章 世界崩壊編
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第95話 愛する者

 西の森の中にある木こり小屋。

 急造で修理を行ったこの小屋にショウマは住んでいた。

 エイミアがいつ現れても対応出来るようにする為である。

 ここならば激しい戦闘を行ってもシンロードの街に被害が及ぶ事も無い。

 イーグレット学園長に頼んで、近々、魔動機兵による校外演習を行い、危険である為近付かないようにという触れを街中に出して貰っているので、激しい戦闘音が聞こえたとしても住人は気にしないだろう。

 あの日から既に1ヶ月が経とうとしている。

 正確な日時は分からないが、もういつ来てもおかしくは無いだろう。

 一応、出来る事は全てやったつもりだ。

 シルフィリットやレグラスは共に戦うと申し出てくれたが、それは断った。

 シルフィリットは騎士の中の騎士ナイト・オブ・ナイツとしての誇りの為に、レグラスは自分の父親を惑わした元凶に一矢を報いる為に。

 ただルシフィロードが相手では、2人が力を合わせても敵わないだろう。

 それでもと食い下がる2人を説得したのは、ソディアスだった。

 彼はサイヴァラスの聖都において、この世界の理から外れた力の片鱗を目の当たりにしている。

 だから自分達が足手纏いになると理解していたのだ。

 それにルシフィロードは空を自由自在に飛行する事が出来る。

 それは同じ力で造られたエクスブレイドも同じ。

 つまり空中が主戦場になれば、どちらにしろ空を飛べない2人の魔動機兵は戦いの役には立たないのだ。

 納得はしていないようだったが、それで引き下がってはくれた。


「ショウマ。食事の準備が出来たわよ」


 この小屋にショウマと共にいる唯一の人物であるシアニーが土鍋を手にやってくる。

 彼女がいなければ、いざという時に魔動輝石の力を発動出来ない為、こうして毎日のように通って来ている。

 流石に深夜には向こうも襲って来ないだろうという事で夜になれば帰宅させている。


「なんかいつも悪いな」

「ううん、気にしないで。不謹慎かもしれないけど、こういうのもちょっと楽しいかなって思ってるから」


 普通に考えれば王家のお嬢様であるシアニーが食事を作るなどありえない。

 だが騎士は野営する事も多いので、訓練の中には料理の講義もあり、作れない訳ではない。

 それに愛する者に手料理を食べて貰う事を考えると、調理するだけでも楽しくなる。


「けど意外だったよな。シアってこんなに料理が上手かったんだな」

「あら、心外ね。王家の人間は何でも卒無くこなせるのよ?」


 などと胸を張っているが、実の所、彼女が自分の想いに気が付いてから、ずっとアメイト家に仕えるコックから教えを受けていたのだ。

 大雑把な性格が災いしてか、料理の腕前はそこまで上達はせず、正直に言えば、ショウマの方が腕前は上だろう。

 だが愛情というスパイスが含まれているので、ショウマにとっては絶品の味なのだ。

 鍋のフタを開けると湯気とともに出汁の良い香りが部屋に充満する。

 鍋全体に敷き詰められた白菜の上に、大きく切った長ネギが乗り、周りにはホタテが散らばっている。

 中央には白身魚の切り身が乗せられ、ホクホクとした身を晒していた。


「うん。美味い!」


 一口啜ると魚介から滲み出したエキスがあっさりとした塩出汁に濃厚に絡む。

 野菜にもしっかり出汁の味が滲み込んでいて、程良く口の中で溶ける。


「よかった。塩漬けにしたお魚をそのまま使ったから、ちょっとしょっぱいかなって思ったんだけど」

「ああ、確かに。魚介のエキスと野菜の水分のおかげで大分まろやかにはなっているけど、もう少し薄口の方が良いかも。これだとご飯が欲しくなるな」

「え?ご飯?」

「うん。俺の世界ではさ、鍋の最後に残って少し煮詰まった出汁の中にご飯や麺を入れて食べるんだよ。煮詰まった出汁ってしょっぱくなるけど、鍋に入っていた具材の旨みが全て凝縮されてるだろ?それらが全てご飯や麺に吸収され、かつ塩味も緩和されるんだ」

「へぇ~、聞いてるだけで美味しそうね」


 シアニーが初耳なのも無理は無い。

 最後の最後まで余す事無く食べ尽くそうという考えが無ければ思い付かない調理法であり、王族にとっては未知のものと言えるだろう。

 食堂等でも賄いとしてだったらあるかもしれないが、客に出す料理としては存在していない。

 貴族以上には知られていないが、市井の人間ならば思い付き、知っているというのが、この世界の常識とも言えるだろう。


「それじゃあ、明日はお米を持って来るわね!」


 一瞬、明日も鍋料理にするのか?とも思ったが、今から楽しみといった風の彼女の顔を見ていると言い出せない。

 それに寒い時期だし、鍋料理は身体が温まるので問題は無かった。

 というよりシアニーの料理のレパートリーの8割が鍋料理なのだから、鍋料理が続くのは仕方がない。

 凝った料理と異なり、具材を切って入れて味を調整するだけだから、作りやすいのだろう。

 愛する者と共に美味しい食事を摂り、何気ない会話を行う。

 たったそれだけの事だが、それが最も幸せを感じる時間。


「なんか、こうしてると新婚みたいだな」


 夕食を終え、お茶を飲んでまったりとしている中、ショウマはふと頭に思い浮かんだ事を呟く。


「ふぇっ?!ししししし新…婚……で、でもそうかも…………」


 シアニーは一瞬、過剰な反応を示すが、普段と異なり、すぐに素直にその言葉を受け入れた。

 エイミアが現れたあの日から、シアニーの心の中には不安が広がっていた。

 いや、ずっと以前からその不安はあった。

 異世界人であるショウマは、何の前触れも無くこの世界から消えてしまうのではないかと。

 そしてエイミアの話でそれは確信に変わった。


「え?お、おい?シア?」


 いきなりシアニーが抱き付いて来る。

 普段の彼女からは考えられない行動に、ショウマは少し戸惑う。

 けれど彼女に何かを感じたのか、理由は聞かずにショウマはその背中に手を回し、抱き返す。


(こんなに優しいのに……こんなに温かいのに………人間じゃないなんて信じられないよ………消えちゃうなんて…嫌だよ………)


 この世界の脅威となる悪夢獣が存在するから、ショウマはこの世界に呼ばれた。

 そしてショウマの望みはこの世界から悪夢獣を滅ぼす事。

 エイミアという悪夢獣や邪法を生み出していた元凶さえ倒してしまえば、もう新たな悪夢獣は生まれない。

 今の彼の力ならば完全に殲滅させるのにそれ程の時間を要さないだろう。

 そうなれば彼は元の世界に戻ってしまうかもしれない。

 アイリッシュ理事長を含む80年前の少女達は愛する者が突然居なくなった時、どんな思いだったのだろうか。

 そしてショウマ自身、どんな思いだったのだろうか。

 彼女達とショウマは知り合いなだけなんて言っていったが、それだけの関係では無かった事など、いくらシアニーがそういうのに疎くても分かる。

 魔動輝石の力を使うにはキスする必要がある。

 彼の性格上、何の特別な感情も抱いていない相手とそんな事は出来ない筈だ。

 きっと自分と同じくらいに彼女達の事を愛していたのだろう。

 優しい彼の事だから、気を遣ってその辺はぼかして話してくれたのだと思う。

 だからこそ思う。

 愛する者との永遠ともいえる別れは、どれ程に辛いのだろうかと。


(私なんて…それを考えただけで胸が張り裂けそうなのに…………)


 ショウマを抱く腕に力が篭る。

 その温もりを失わないように。

 その優しさを忘れないように。

 その愛しさを離さないように。


(お婆様はずっと独り身を貫いた。それはきっと他に愛する人が出来なかったからじゃない。きっとずっと愛する人を忘れる事が出来なかったから)


 シアニーの幼い頃から、アイリッシュはとても優しくて、とても温かな人物だった。

 けれど時々、寂しそうな表情をする事があったのを覚えている。

 それは愛する者を失った喪失感から出ていたのかもしれない。

 しかし葬儀の際に見た彼女の最後の顔は、それまでシアニーが見た事も無い幸せそうで朗らかな笑顔だった。

 愛する人と再会出来て、最後は幸せだったのが伺える。

 だがそれで彼女の人生が全て幸せだったのだろうか。

 80年間、寂寥感を感じ続けてきたアイリッシュ。

 最後の瞬間に幸せになれたとして、それで幸せと言えるのだろうか。

 もっと年を重ねれば、考え方が違ってくるのかもしれない。

 しかし今のシアニーにはそれが幸せだったとは思えない。

 愛する人と共に生き、愛する人と共に年を重ね、嬉しい事も、辛い事も、楽しい事も、苦しい事も、一緒に味わっていきたい。


「……ショウマ……いなくなっちゃヤだよ……」


 抱きしめた腕からシアニーの身体が震えているのが伝わってくる。


「ああ。俺は精一杯、シアと生きていくつもりだ。そう簡単に元の世界に戻るつもりは無い」


 ショウマはもうこの世界には居ない彼女達と約束したのだ。

 幸せになると。そして幸せにすると。

 シンでは無く、ショウマとしてシアニーと共に生きると。

 向こうの世界に居る妻もこの場にいたら、きっとこの想いを汲んでくれるだろう。


「…ショウマ……」


 潤んだ瞳でシアニーが見詰める。


「シア……」


 安心させるようにショウマがその瞳を見詰め返す。

 暫く見詰め合った後、どちらからともなく目を閉じ、互いの顔が近付いていく。

 そしてゆっくりと唇を重ね合わせる。

 愛する者を離さないように。離れないように。

 互いを求めるように。求められるように。

 それが真実の愛であると確かめるように。確かなものにするように。




 ドサリという屋根の上から雪が滑り落ちる音でショウマは目を覚ました。

 まだ薄暗いが光源が無くても部屋の中が見通せるという事は太陽が昇っている証拠だ。


「朝か……」


 普段なら暖炉の火が落ちて、寒さで目が覚めるのだが、今朝は胸の中で抱き付くように眠る彼女の温もりのおかげで、若干緩和されていた。


(これって浮気には……ならないよな?)


 昨晩は気分が盛り上がってそんな事すら頭に無かったが、冷静になるとそんな事が頭に過ぎってしまう。

 シンとしての記憶は引き継がれているものの、ショウマとしてはシアニーが初めての相手だ。

 だから問題は無い筈だ。

 それに元々、自分が愛多き人間だと自覚しているし、元の世界の妻も理解はしている。

 今更、1人増えた所で問題は無い筈だ。

 そう自分に言い聞かせ、納得する。


(さて、流石にそろそろ起きないとな)


 抱き合って、互いの体温を感じているおかげで寒さは感じない。

 しかし、それはこのベッドの中のみの話。

 流石に小屋の中は冷え切っていた。

 しかも何も身に着けていないのだから、ベッドから出る事を想像するだけで凍えてくる。

 とはいえ、このまま暖炉に火を入れない訳にはいかない。

 ショウマは胸の中で未だぐっすりと眠るシアニーの寝顔をずっと堪能していたいという衝動を堪え、額に軽く口付けをした後、起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出す。

 脇に掛けてあったガウンを羽織り、身体を擦りながら、暖炉に火をくべる。

 室内が暖まるまで、流石に2度寝する訳にはいかないので、立て掛けておいたブレイドソーを掴む。

 元々が木こり小屋であった為、そもそもの間取りが広い。

 その上、クアクーヤが悪夢獣化した際に部屋の壁と2階の天井まで突き破った。

 小屋を住めるようにした際には外側と天井だけを直した為、小屋の中はかなり広く、大剣を素振り出来る程のスペースは難無くあるのだ。

 故に暖炉で部屋が暖まるまでの間、毎朝、剣の稽古で身体を暖めているのだ。

 暖炉の熱はついでにお湯も沸かしてくれるので、風呂も焚き上がって一石二鳥。

 汗を流すのに丁度良い時間なのだった。

 剣を振る事、10分程。

 もぞもそと蠢く音が聞こえてくる。

 音の方へ視線を向けると、布団の端から顔の上半分だけを出したシアニーと目が合う。


「おはよう」

「…おおおおは、おはよ………」


 挙動不審で顔が真っ赤になっているは、昨晩の出来事を思い出したからだろう。


「風呂沸いてるから入ってくるといい。すっきりするぞ」

「う、うん……でも……その………」


 歯切れ悪く、ベッドの上でモジモジしているばかりで起き上がろうとしてこない。


「なんだ?一緒に入って欲しいのか?」

「バババババカ!!!そんなんじゃないわよ!!裸なんだもん……そ、そんなに見られてると…恥ずかしくて出れないのよ!!」

「なんだよ。昨日の夜、隅々まで見合った仲じゃねぇか。今更恥ずかしがる――おぶっ」


 飛んできた枕が顔面を直撃。


「もうっ!相変わらずデリカシーが無いんだから!!!」

「はいはい。俺は朝飯を作って来るから、その間にさっさと言って来いよ」


 ショウマは枕を投げ返し、肌蹴たガウンを羽織り直すと部屋を出ていく。

 ショウマの出ていったドアに向けて、もう一度ボフッと枕を投げつけた後、シアニーの拗ねて怒っていた筈の表情が崩れ、ついつい笑みが零れる。


「えへへへっ、やっぱり夢じゃ無かったんだよね。私、ショウマと…………」


 幸せを噛み締めながら、シアニーは風呂へと向かうのだった。

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