迷子冒険者の帰宅経路を売ります
翌夜、深夜ダンジョン駅の改札前に行列ができていた。
剣士、魔法使い、荷物持ち、薬草採取の老人。
全員、気まずそうに視線をそらしている。
ナナセが小声で言った。
「迷子です」
「見れば分かります」
白瀬透は折りたたみ机を出し、手書きの札を置いた。
『帰宅経路再発行窓口』
『初回 銅貨二枚』
『壁を壊した方は別途修繕費』
先頭の剣士が不満そうに腕を組む。
「帰るだけで金を取るのか」
「駅を使うなら運賃が必要です」
「俺たちは冒険者だぞ」
「では、冒険者割引を作ります。ギルド登録証の提示で一割引。ただし、迷宮壁破壊歴がある場合は対象外です」
剣士の目が泳いだ。
ナナセが透の耳元で囁く。
「この人、昨日二枚壊しました」
「修繕費を追加します」
行列の後ろから笑いが起きた。
透は迷宮路線図を広げる。
地下三十七階から地上改札まで、危険区域を避けると遠回りになる。だが怪我人を減らせば、救援費も減る。
「最短ではなく、最安で安全な経路を案内します」
魔法使いが首をかしげた。
「宝箱の場所は?」
「帰宅経路には含みません」
「けち」
「寄り道で迷子になる方が多いので」
透が印をつけるたび、忘れ物きっぷが次々に吐き出された。
『忘れ物: 仲間への見栄』
『忘れ物: 帰りの方角』
『忘れ物: 昨日買った回復薬』
最後の一枚を見て、透は顔を上げる。
「回復薬を落とした方」
列の中央で、荷物持ちの少女が手を上げた。
「私です。でも、誰も相手にしてくれなくて」
透は保管棚から小瓶を取り出す。
「危険物扱いで隔離されていました。返却には本人確認が必要です」
「名前はリコ。昨日、仲間の剣士が勝手に持っていって」
例の剣士が顔を背ける。
ナナセの改札ランプが赤くなった。
「盗難に近いです」
「では遺失物ではなく、取得物の不正持ち出しとして記録します」
透は台帳に線を引いた。
帰宅経路を売るだけではない。
誰が何を置き去りにしたのか、駅はすべて覚えている。
リコが回復薬を抱えて頭を下げた。
「帰れます」
「次からは、荷物札をつけてください。再発行手数料が安くなります」
「商売上手ですね」
「赤字駅なので」
夜明け前、行列は消えた。
改札の収支表示は、赤字三千二百万円から、三千百九十九万八千六百円になっていた。
ナナセは感動した顔で言う。
「黒字化の第一歩です」
「まだ赤いです」
「でも、正しい赤字です」
透は少しだけ笑った。
忘れ物を返すたび、駅の数字が動く。
なら、この迷宮都市にも帰り道はある。
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