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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第73話 連載に別の作品の原稿がそのまま載るのは怖いです

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第73話 連載に別の作品の原稿がそのまま載るのは怖いです


読み終わったあと、誰もすぐには話さなかった。


焚き火は、もう低くなっていた。


ぱちり。


小さく薪が鳴る。


それだけだった。


俺は紙を持っていた。


題名は、


「嫌ってはいけない人間」


さっき読んだ。


読んでしまった。


読まされた、と言ってもいい。


怖い話を始めたはずだった。


ミリアの魔法実験室の鏡。


リナの森の足跡。


アレンの勇者訓練場。


セイルの祈祷室の鈴。


ガルドの山道の声。


キュルルの契約書を読まない人。


アンの三日で消えた国。


聖剣の抜かれない百年。


そこまでは、まだ怖い話だった。


怖い話の範囲だった。


そのあと、作者の番が来た。


誰も呼んでいない。


誰も頼んでいない。


だが、来た。


そして原稿が一枚、焚き火の横に落ちていた。


俺は紙を畳んだ。


アレンが言った。


「敵は誰なんだ」


「いません」


俺は答えた。


「なら、誰を倒せばいい」


「倒せる相手がいない話です」


アレンは黙った。


かなり困った顔だった。


勇者は、敵がいる話に強い。


魔物。


魔王。


呪い。


ダンジョン。


巨人。


邪神教団。


そういうものなら、剣を抜ける。


だが、今の原稿には、剣を向ける相手がいない。


「新人が悪いのか」


アレンが言った。


「分かりません」


「係長が悪いのか」


「分かりません」


「投稿した者が悪いのか」


「分かりません」


「周りが悪いのか」


「分かりません」


アレンは眉を寄せた。


「分からないことばかりだな」


「そこが怖いんです」


ミリアが腕を組んだ。


「幽霊より嫌ね」


「はい」


「誰も化けて出てないのに」


「だから怖いんです」


「怖い話って、普通は何かいるじゃない」


「いました」


「何が?」


「嫌ってはいけない人間、という概念が」


ミリアは嫌そうな顔をした。


「概念が出る怖い話、嫌だわ」


「同感です」


キュルルは俺の背中に隠れていた。


ずっと隠れていた。


アンの時とは違う隠れ方だった。


相手が古竜だから怖い、ではない。


何が怖いのか分からないから怖い。


そういう隠れ方だった。


「ユート」


「何だ」


「僕、嫌われてない?」


「今それを確認するな」


「だって怖い話でしょ」


「怖い話だが、そこではない」


「でも、嫌ってはいけない人間って言われると、嫌われてるかどうか気になるよ」


「気持ちは分かる」


「僕、契約を迫ってた時期があるし」


「更生しただろ」


「説明マスコットになった」


「そうだ」


「じゃあ大丈夫?」


「大丈夫だ」


キュルルは少しだけ顔を出した。


「本当に?」


「少なくとも、この場では嫌われてはいない」


キュルルは少し考えた。


「この場では、って付けるのが怖い」


「正確に言っただけだ」


「正確さが怖い時もあるよ」


それはそうだ。


セイルが静かに口を開いた。


「人を傷つけてはいけない、という祈りは分かります」


「はい」


「傷ついた人を軽く扱ってはいけないことも、分かります」


「はい」


「ですが、誰が傷ついたかだけで裁くなら、祈りではなく罠になります」


「そこです」


セイルは焚き火を見た。


「祈りは、人を近づけるためにあるはずです」


「はい」


「けれど、この街では、祈りの形をしたものが、人を遠ざけています」


誰もすぐには返事をしなかった。


ぱちり。


火が鳴った。


アンが首をかしげた。


「嫌ってはいけない人間とは、王か」


「違います」


「神官か」


「違います」


「勇者か」


「違います」


アレンが少しだけ反応した。


アンは続けた。


「では、誰だ」


「分からないんです」


アンは少し黙った。


「分からぬのに、嫌ってはいけないのか」


「はい」


「どうやって避ける」


「避けようとして、全員を避けるようになります」


アンは金色の目を細めた。


「それは怖いな」


「はい」


「見える竜より怖い」


キュルルが背中から言った。


「アンがそれ言うと説得力あるね」


「我は見える」


「でかすぎるくらい見える」


「今は小さい」


「性能が大きい」


俺は言った。


アンは少し不満そうにした。


「む」


リナが小さく手を上げた。


「見たことあります」


「言うな」


俺はすぐに言った。


「連載に別の作品の原稿がそのまま載る回です」


「言うな」


「普通に怖いです」


「言うな」


「しかも、作者が気づいていないように見えるやつです」


「言うな」


「次の話で感想回をして、気づいていたことにするやつです」


「言うな」


ミリアが笑いかけて、途中で止まった。


「それ、笑っていいの?」


「笑っていいと思います」


俺は言った。


「怖いですが」


「怖いけど、ギャグでもあるわね」


「はい」


「怖い話回に、作者が介入して別作品を読ませる」


「最悪です」


「しかも、読まされた話が普通に怖い」


「最悪です」


「二重に怖いわ」


「はい」


アレンがまだ納得していない顔をしていた。


「つまり、これは何なんだ」


「作者の怖い話です」


「作者が話したのか」


「紙が落ちていました」


「作者はどこにいる」


「分かりません」


「倒せないのか」


「倒す対象にしないでください」


「だが、勝手に原稿を混ぜたんだろう」


「たぶん」


「なら、責任者では?」


「それはそうです」


俺は紙を見た。


責任者。


誰が置いたのか。


どうして混ざったのか。


なぜこの話だったのか。


そもそも、この原稿はこの世界のものなのか。


分からない。


だが、読んでしまった。


読んだ以上、荷になった。


キュルルが紙を見た。


「これ、書類?」


「原稿だ」


「原稿って、書類と違うの?」


「違う」


「どう違うの?」


「読んだ人間の中に荷を残す」


キュルルは少し震えた。


「書類より怖いじゃん」


「そういう原稿もある」


聖剣が背中で震えた。


『剣で斬れぬものは多い』


「起きていたんですか」


『この話で寝られるか』


「寝てください」


『無理だ』


聖剣は少しだけ光った。


『嫌ってはいけない人間、か』


「聖剣にも分かりますか」


『選ばれなかった者は、剣を嫌うこともある』


アレンが聖剣を見た。


『だが、剣は嫌うなとは言えぬ』


「言ったら怖いですね」


『そうだ。抜けなかった者に、嫌うなと命じる剣は、もはや聖剣ではない』


珍しく、まともだった。


本当に珍しく。


ミリアが焚き火を見た。


「でもさ、嫌ってはいけない人間がいる、って、言い方だけなら正しそうじゃない?」


「正しそうです」


「人を嫌うな、とか、人を傷つけるな、とか」


「はい」


「でも、その結果、全員が全員を地雷みたいに見る」


「はい」


「怖いわね」


「正しそうな言葉が、運用で怖くなる話です」


「ユートの嫌いなやつね」


「かなり」


俺は原稿を開いた。


もう一度、最後の方を見る。


誰もが優しくなった。


誰もが慎重になった。


誰もが言葉を選んだ。


そして誰もが、少しずつ人を避けるようになった。


嫌ってはいけない人間がいる。


それは、とても正しいことのように言われていた。


だが、その正しさの中で、誰もが互いを地雷のように見るようになった。


見えない。


わからない。


踏めば終わる。


だから近づかない。


それが、この街の優しさだった。


俺は紙を閉じた。


「これは、嫌ってはいけない人間がいる話ではありません」


全員が俺を見た。


「誰が嫌ってはいけない人間なのか分からないまま、全員が互いを地雷として扱い始める話です」


リナが頷いた。


「地雷原ですね」


「はい」


「でも、地雷の場所が分からない」


「はい」


「しかも、踏んだかどうかも後から決まる」


「はい」


「普通に怖いです」


「そうです」


ガルドが短く言った。


「道にならない」


「え?」


ミリアが聞いた。


ガルドは焚き火を見たまま言った。


「どこを歩いていいか分からないなら、道にならない」


「なるほど」


俺は頷いた。


「街の中なのに、道が消える話ですね」


アンが言った。


「道が消えれば、人は離れる」


「はい」


「ならば、街は残っていても、集落ではない」


セイルが静かに頷いた。


「人が近づけない場所は、街の形をしていても、祈りの場にはなりません」


キュルルが小さく言った。


「みんな難しいこと言ってる」


「怖かったか?」


俺が聞くと、キュルルは頷いた。


「怖い」


「どこが?」


「誰も悪者って決められないところ」


「そこか」


「悪者なら、距離を取れる。でも、みんな正しいこと言ってる感じがする」


「そうだな」


「だから怖い」


キュルルは俺の背中に顔を押しつけた。


「あと、作者の番が来たのも怖い」


「それも怖い」


リナがまた小さく手を上げた。


「見たことあります」


「言うな」


「メタ怪談です」


「言うな」


「怖い話回の最中に、本編が一話乗っ取られるやつです」


「言うな」


「読者も実際に読まされています」


「言うな」


「逃げ場がありません」


「言うな」


ミリアが少し笑った。


「それ、本当に怖いわね」


「はい」


「しかも、次話でこうやって感想会をしている」


「はい」


「作者、気づいていたのか気づいていなかったのか、どっちなの?」


俺は紙を見た。


「気づいていたことにしましょう」


アレンが言った。


「それでいいのか」


「気づいていなかった方が怖いので」


「怖い方を避けるのか」


「怖い話回ですが、限度があります」


アンが首をかしげた。


「作者とは、神か」


「違います」


俺は即答した。


木札が温かくなった。


しまった。


頭の中に声が響く。


『違う』


「神様」


『作者と一緒にするな』


「すみません」


『我は荷を見る。作者は荷を増やす』


「かなり厳しいですね」


『事実だ』


俺は皆を見た。


「神様いわく、作者と神様は違うそうです」


ミリアが笑った。


「そこは否定するのね」


「強く否定されました」


キュルルが言った。


「神様、作者の原稿については?」


俺は木札に触れた。


「神よ、この原稿はどう扱えばよいですか」


頭の中に声が響く。


『原稿も荷である』


「はい」


『混ざれば、読まされる』


「怖いですね」


『怖いな』


「今回の教義ですか」


少し間があった。


『採用するな』


「しないんですか」


『これは怖い話だ』


俺は黙った。


神様も怖がっているのかもしれない。


いや、違うかもしれない。


ただ、教義にはしなかった。


珍しい。


俺は紙を畳んだ。


「これは、未回収荷札とは少し違います」


「違うの?」


キュルルが聞く。


「未回収ではありません。混入です」


「混入」


「別の荷が、別の荷箱に入っていました」


キュルルは震えた。


「在庫事故だ」


「そうだ」


「怖い」


「怖い」


「原稿の在庫事故」


「かなり怖い」


ミリアが言った。


「連載に別の作品の原稿がそのまま載るのは怖いです、ってことね」


「そのままです」


「タイトルみたいね」


「言うな」


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「今回のタイトルです」


「言うな」


アレンが空を見た。


「この話、どう終わればいいんだ」


「感想回なので、感想を終えれば終わります」


「それでいいのか」


「たぶん」


「たぶんか」


「別作品の原稿が混ざった時点で、完璧な終わり方は難しいです」


「それはそうだな」


アレンは妙に納得した。


セイルが言った。


「紙はどうしますか」


「保管します」


「燃やさないのですか」


「燃やすと、なかったことにした感じになります」


「では、保管ですね」


「はい」


キュルルが口を開いた。


一枚。


「混入原稿保管票」


「出すのか」


「これは必要だよ」


「そうだな」


俺は受け取った。


項目はこうだった。


混入原稿名。


発見場所。


発見時刻。


発見者。


読了者。


本編影響。


再発防止策。


「再発防止策」


俺はそこを見た。


「どうする?」


キュルルが聞いた。


「作者の番を呼ばない」


「呼んでないよ」


「そうだった」


「怖いね」


「怖いな」


再発防止策。


作者の番を設けない。


ただし、発生した場合は原稿名を確認し、読了後に感想回を行う。


俺は書いた。


書きながら、何を書いているのか分からなくなった。


だが、書いた。


ガルドが短く言った。


「次からは、怖い話をやめるか」


ミリアが少し困った顔をした。


「それはそれで負けた感じがするわ」


「誰に」


「作者に?」


全員が黙った。


木札が少しだけ温かくなった。


俺は触れなかった。


触れない方がいい気がした。


アンが言った。


「では、次は明るい話をすればよい」


「明るい話」


「そうだ」


「古竜の明るい話、規模が大きそうですね」


「昔、太陽が二つあった」


「やめましょう」


「明るい話だ」


「物理的に明るい話はやめましょう」


キュルルが少し笑った。


ようやく少し空気が戻った。


焚き火は低い。


夜は深い。


共同封鎖管理所の明かりは、まだ遠くに見える。


俺たちは、別作品の原稿を読んだ。


怖い話だった。


幽霊は出なかった。


魔物も出なかった。


呪いも、たぶん出なかった。


だが、怖かった。


そして、それ以上に。


連載中の本編に、別の作品の原稿がそのまま載るのは怖かった。


リナが最後に、小さく言った。


「見たことあります」


「言うな」


「でも、あまり見たくはありません」


「それは言っていい」


俺は混入原稿保管票を畳んだ。


記録帳に挟む。


この荷は、軽い紙なのに重い。


俺は焚き火を見た。


「連載作品に別の作品が紛れ込む事故とか本当にあるのかな。あったら怖い。」


第二部・完

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