第58話 ダンジョンで転移魔法陣に飛ばされましたが、聖剣が全力で補正してくれます
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!
第58話 ダンジョンで転移魔法陣に飛ばされましたが、聖剣が全力で補正してくれます
ンジョン調査に来ていた。
俺は黙った。
リナも黙った。
アレンも黙った。
ミリアは壁の古い文字を見ていた。
セイルは周囲の気配を探っている。
ガルドは、もう剣に手をかけていた。
場所は、王都北西の古い地下遺跡。
王国召喚管理局の古い資料に、名前だけ残っていた場所である。
資料上の分類は、こうだった。
旧式転移魔法陣実験施設跡。
嫌な名前である。
旧式。
転移。
魔法陣。
実験施設。
跡。
どこを取っても嫌な予感しかしない。
「ここ、今も使われているんですか?」
リナが聞いた。
案内役の召喚管理局職員が、首を横に振った。
「いえ。百年以上前に閉鎖されています。現在は封印管理対象です」
「では、なぜ調査を?」
アレンが聞いた。
職員は資料を抱え直した。
「勇者召喚第十三号の側帯反応と、ここの旧式転移魔法陣の記録波形に似た部分があるためです」
「似ていると何が問題なんだ」
「分かりません」
正直だった。
「分からないので、調査します」
「正しい」
俺は言った。
分からないまま使うより、分からないと認めて調査する方がいい。
ただし、転移魔法陣である。
俺は壁と床を見た。
湿気。
古い苔。
割れた石畳。
削れた魔法陣の線。
ところどころに残る青い鉱石。
中央には、円形の広間。
その床に、複雑な魔法陣が刻まれていた。
線が多い。
円が多い。
古代文字も多い。
見ただけで面倒だ。
「ミリア」
「何?」
「これ、動くのか?」
ミリアは眉をひそめた。
「普通なら動かないわね。魔力供給も切れてるし、線も欠けてるし、制御石も半分死んでる」
「普通なら」
「でも、ダンジョンの魔法陣って、普通じゃない残り方するのよね」
「嫌なことを言う」
「事実よ」
セイルが静かに言った。
「踏まない方がよいでしょう」
「もちろんです」
俺は頷いた。
「全員、魔法陣の外周から離れてください。荷物も置かない。線の上に足を置かない。欠けた制御石にも触らない」
アレンが少し笑った。
「言われなくても分かっている」
「分かっている人間ほど踏む」
「俺を何だと思っている」
「勇者」
「勇者は踏まない」
「勇者ほど踏む」
ミリアが小さく笑った。
リナは真面目に線の外側へ下がった。
ガルドも下がる。
セイルも。
俺も下がろうとした。
その時、背中の聖剣が小さく光った。
『待て』
俺は止まった。
「何だ」
『この陣は、まだ寝ていない』
「最悪だな」
アレンが俺を見る。
「聖剣が何か言ったのか」
「ああ。まだ寝ていないらしい」
ミリアの顔色が変わった。
「全員、下がって!」
遅かった。
床の線が、淡く光った。
古い青。
割れた石畳の隙間から、光が走る。
円がつながる。
欠けた線が、空中の光で補われる。
俺は一歩下がろうとした。
だが、足元に細い光が絡んだ。
「ユート!」
リナが叫んだ。
アレンが手を伸ばした。
ガルドが走る。
セイルが結界を張る。
ミリアが制御石へ杖を向ける。
俺は荷袋を押さえた。
背中の聖剣も押さえた。
次の瞬間、視界が白くなった。
落ちた。
いや、飛ばされた。
胃がひっくり返るような感覚。
足元が消え、背中が重くなり、頭の奥で何かが鳴った。
転移。
たぶん。
かなり雑な転移。
気づいた時、俺は石の床に倒れていた。
「……痛い」
まず言うことは、それだった。
腰は無事だ。
昨日の祝福が効いている。
ありがたい。
だが、肘を打った。
普通に痛い。
俺は起き上がり、周囲を見た。
薄暗い通路。
天井は低い。
壁には古い魔法灯。
壊れているものが多い。
床には骨。
小動物の骨か、魔物の骨か、人の骨かは分からない。
分かりたくもない。
「アレン!」
返事はない。
「リナ!」
返事はない。
「ミリア!」
返事はない。
「セイル!」
返事はない。
「ガルド!」
返事はない。
俺は黙った。
完全に孤立した。
かなり嫌である。
俺は荷物を確認した。
荷袋。
水袋。
保存食。
ロープ。
小型ランタン。
予備布。
簡易薬。
木札。
聖剣。
全部ある。
転移の時に荷物が分離しなかったのは、かなり幸運だった。
たぶん神の加護である。
ただし、神の声は聞こえない。
ここは地下ダンジョン。
回線は細い。
木札は少しだけ温かい。
それだけで十分だ。
「聖剣」
『聞いている』
「状況は?」
『孤立した』
「見れば分かる」
『なら聞くな』
「そういうところ、神様に似てきたな」
『あの神と一緒にするな』
聖剣は背中で少し光った。
俺は聖剣を抜いた。
鞘から出す。
長い。
相変わらず長い。
俺には軽い。
だが、武器として扱えるかは別である。
俺の戦闘能力は低い。
ステータスで言えば、戦闘力F。
荷物持ちとしての筋力はある。
握力もある。
体幹もある。
だが、剣術はない。
刃筋も知らない。
間合いも怪しい。
正直、魔物が出たら逃げたい。
通路の奥から、何かが鳴いた。
低い唸り声。
「出たな」
『出た』
「逃げ道は?」
『後ろにも気配がある』
「最悪だ」
俺はランタンを腰に下げ、聖剣を両手で持った。
通路の奥から、黒い犬のような魔物が現れた。
犬にしては大きい。
牙が長い。
目が赤い。
背中に棘がある。
普通の犬ではない。
たぶん、ダンジョン犬。
名前は知らない。
知る必要もない。
噛まれたら困る。
「聖剣」
『振れ』
「俺は剣が下手だぞ」
『知っている』
「知っているなら逃げるべきでは?」
『間に合わぬ』
「どう振る」
『正面。上から下へ振れ』
「上から下?」
『それでよい。力はある』
「技はないぞ」
『知っている。だから我がいる』
犬型の魔物が飛びかかってきた。
俺は言われた通り、上から下へ振った。
たぶん、かなりひどい振りだった。
力任せ。
肩に力が入りすぎ。
足も動いていない。
刃筋も曲がっている。
だが、聖剣が動いた。
手首がわずかに引かれる。
肘が押される。
刃が、俺の知らない角度へ立つ。
次の瞬間、光が走った。
魔物が斜めに裂け、床へ落ちた。
俺はしばらく固まった。
「今の、俺が斬ったのか?」
『違う。我が斬った』
「では俺は?」
『振った』
「役割が軽い」
『だが、振る力はあった』
「荷物持ちだからな」
『そこは評価する』
褒められた。
聖剣に。
少し複雑だった。
だが、喜んでいる場合ではなかった。
奥から、また唸り声。
横の細い通路からも、足音。
「何匹いる」
『三』
「帰りたい」
『帰るために振れ』
「名言っぽいな」
『生存指示だ』
二匹目が横から来た。
『右』
「右?」
『振れ』
「雑だな!」
『説明している暇はない』
俺は右へ振った。
横振り。
たぶん、ひどい。
聖剣が勝手に刃を立てた。
手首がまた引かれる。
腰も回される。
「うおっ」
俺の体が半分、聖剣に振られた。
光が走る。
二匹目が倒れた。
「今、俺が振ったというより、振られたぞ」
『お前の足が遅い』
「剣に足の遅さを指摘された」
『足を置け。置くだけではなく、踏め』
「剣術の授業を始めるな」
『始めなければ死ぬ』
正論だった。
三匹目は正面から来た。
俺は少しだけ足を広げた。
さっきよりは踏んだ。
たぶん。
『下から上』
「急に難しくなったな」
『上からでは間に合わぬ』
「分かった」
三匹目が低く飛び込んでくる。
俺は下から上へ振った。
力はある。
だが、角度は駄目だったと思う。
聖剣が補正する。
刃が魔物の顎から喉へ抜けた。
光が散った。
三匹目が倒れた。
俺は肩で息をした。
「戦闘って、疲れるな」
『お前が無駄に力むからだ』
「素人だからな」
『知っている』
「何度も言うな」
『事実だ』
俺は通路の壁にもたれた。
とりあえず、死んでいない。
それは大きい。
俺は荷袋から水袋を出し、少し飲んだ。
喉が乾いていた。
「アレンたちは?」
『探しているだろう』
「分かるのか」
『光の流れが乱れている。勇者の剣も、魔法使いの杖も、僧侶の祈りも、剣士の刃も、斥候の足も近づこうとしている』
「遠隔フォローは?」
『今は届きにくい』
「俺が孤立しているからか」
『お前が深い場所に落ちた』
「最悪だ」
『だが、近づいている』
「なら、そこまで生き残る」
『そうだ』
通路の奥へ進むしかなかった。
戻る道は崩れていた。
転移で飛ばされた先は、古い補助通路のようだった。
壁には番号がある。
古代文字の横に、後から足された王国文字。
読める。
転移実験補助区画 三号通路
嫌な区画だ。
俺は慎重に歩いた。
聖剣は抜いたまま。
危ない。
だが、鞘に戻している余裕もない。
通路には古い魔法陣の欠片がいくつもあった。
踏まないように避ける。
ただし、聖剣が時々言う。
『左を踏むな』
「左?」
『そこだ』
「線が見えない」
『見えぬ線だ』
「それを踏むなと言われても困る」
『困る前に避けろ』
「はい」
聖剣は、かなり有能だった。
だが、言い方は厳しい。
神様と似ている。
言うと怒るので言わない。
少し進むと、広い部屋に出た。
中央に古い転移魔法陣。
壊れている。
壁際に石像。
その奥に、階段。
たぶん上へ続く。
「階段だ」
『走るな』
「なぜ」
『床が寝ていない』
「またか」
床の一部が淡く光った。
俺は慌てて止まる。
その瞬間、石像が動いた。
石の腕が持ち上がる。
目に青い光。
ゴーレム。
小型だが、重そうだ。
「聖剣」
『硬い』
「逃げるか」
『階段を塞がれる』
「倒すのか」
『正面からは無理だ』
「じゃあどうする」
『足を斬れ』
「足?」
『膝だ。右膝。上からではない。斜め下』
「注文が多い!」
『硬い相手は注文が多い』
ゴーレムが近づく。
石の拳が振り下ろされた。
俺は横へ転がった。
荷袋が床に当たる。
痛い。
だが潰されるよりはいい。
『今』
「早い!」
俺は聖剣を振った。
斜め下。
たぶん、合っていない。
聖剣が無理に合わせた。
手首がひねられる。
肩に負担が来る。
光が石の膝を削った。
ゴーレムが傾く。
『もう一度』
「待て」
『待たぬ』
「俺が待ちたい」
『魔物は待たぬ』
ゴーレムの拳がまた来る。
俺は距離を取る。
足元の見えない線を踏まないように、必死で避ける。
荷物持ちの足腰は、ここで役に立った。
重い荷を背負って歩くための体幹。
滑る道でも倒れないための足運び。
それは剣術ではない。
だが、生き残るには少し役に立つ。
『左膝』
「左!」
『今』
俺は振った。
聖剣が補正した。
石の膝が割れた。
ゴーレムが崩れる。
完全には倒れていない。
腕だけで這ってくる。
「しつこい」
『核は胸だ』
「最初から言え」
『膝を崩さねば届かぬ』
「そういうことか」
俺は息を整えた。
ゴーレムが這ってくる。
胸の中央に青い石。
核。
俺は聖剣を両手で構えた。
「正面?」
『正面。突け』
「突きはやったことない」
『上から下もやったことなかった』
「それはそう」
『力を逃がすな』
「分からん」
『我が合わせる』
俺は突いた。
たぶん、かなり腰が引けていた。
だが、聖剣が腕を前へ押した。
刃がまっすぐ走る。
青い核に刺さる。
光。
石の体が崩れた。
部屋が静かになった。
俺は、その場に座り込んだ。
「今のは、かなり聖剣が頑張ったな」
『頑張った』
「珍しく認めるんだな」
『腰に来る』
「聖剣に腰があるのか」
『比喩だ』
「神様も同じことを言っていた」
『あの神と一緒にするな』
「でも腰に来るんだろ」
『来る』
俺は笑いそうになった。
笑っている場合ではない。
聖剣が少し光を弱めていた。
「大丈夫か」
『まだ振れる』
「大丈夫とは言っていない」
『まだ振れる』
「そういう言い方、やめろ」
『なら急げ』
俺は立ち上がった。
階段へ向かう。
上へ。
一段ずつ。
足が重い。
聖剣は軽いはずなのに、今日は少し重く感じる。
いや、聖剣ではなく、俺が疲れている。
たぶん。
階段の上から、声が聞こえた。
遠い。
だが、聞こえる。
「ユート!」
アレンの声だった。
俺は顔を上げた。
「アレン!」
「無事か!」
「今のところ!」
「今のところとは何だ!」
「説明は後!」
返事をした瞬間、背後で音がした。
石が転がる音。
いや、違う。
何かが跳ねる音。
階段の途中、背後の壁の穴から、小型の魔物が飛び出してきた。
俺は振り返ろうとした。
遅い。
『後ろ』
「え? 後ろ?」
『振れ』
考える余裕はなかった。
俺は、ほとんど振り返らないまま、言われた通りに聖剣を振った。
腰をひねる。
腕を回す。
刃筋は、たぶん最悪だった。
だが、聖剣が勝手に刃を立てた。
手首が引かれ、肘が押され、刃が俺の知らない角度で走る。
背後から飛びかかっていた魔物の爪が、俺の肩に届く寸前で止まった。
光が走った。
魔物が崩れた。
その向こうで、アレンたちが立っていた。
アレンは剣を構えたまま固まっていた。
リナも目を丸くしている。
ミリアは杖を構えたまま、口を半開きにしていた。
セイルは結界を張りかけた姿勢で止まっている。
ガルドだけが、少し目を細めた。
「ユート」
アレンが言った。
「お前……戦えるのか」
「戦えない」
「今、斬っただろう」
「聖剣が頑張った」
鞘に戻す前の聖剣が、弱々しく光った。
『……下手すぎた』
「起きてるじゃないか」
『しばらく寝る』
「寝るのか」
『補正しすぎた』
リナが目を丸くした。
「聖剣って、寝るんですか?」
「寝るらしい」
ミリアが呆れたように言った。
「どれだけ補正したのよ」
「俺の剣筋全部」
「全部?」
「たぶん全部」
聖剣が、さらに弱々しく光った。
『全部だ』
ガルドが真面目な顔で言った。
「力はある。だが、剣ではない」
「そういう評価になるよな」
「足腰も悪くない」
「荷物持ちだからな」
「だが、剣ではない」
「二回言うな」
アレンは少しだけ安心したように息を吐いた。
そして言った。
「お前が無事でよかった」
「俺もそう思う」
「だが、戦えるなら」
「無理」
俺は即答した。
「聖剣の腰に来る」
アレンが額を押さえた。
「聖剣の腰とは何だ」
「比喩だそうだ」
鞘の中に聖剣を戻す。
聖剣は、ほんの少しだけ光った。
『……来るものは来る』
「寝るんじゃなかったのか」
『寝言だ』
「便利な言葉だな」
『しばらく起こすな』
それきり、聖剣は静かになった。
本当に寝たらしい。
アレンたちは、別ルートから俺を探してくれていた。
ミリアが転移魔法陣の残響を追い、セイルが祈りの気配を探り、リナが足跡と荷袋の擦れ跡を見つけ、ガルドが魔物の死骸を確認し、アレンが声を張って進んできたらしい。
かなり助かった。
俺一人では、階段の上まで行けたか分からない。
「すまない」
アレンが言った。
「俺たちがもっと早く来られれば」
「来てくれただろ」
「だが、最後はお前が斬った」
「聖剣が斬った」
「お前も振った」
「振っただけだ」
「それでも、振った」
アレンは真面目だった。
困る。
リナが近づいて、俺の肩を見た。
「怪我は?」
「たぶんない」
「肩、少し切れてます」
「爪がかすったか」
セイルがすぐに治療してくれた。
「深くありません」
「助かります」
「聖剣がなければ危なかったですね」
「かなり」
ミリアが床の魔法陣を見た。
「このダンジョン、やっぱり危ないわ。転移陣が寝てない」
「聖剣も寝た」
「比べないで」
ガルドが通路の奥を見た。
「戻るぞ。ここは一度、封印すべきだ」
「賛成」
俺は即答した。
「調査継続は?」
召喚管理局の職員が、後ろで青い顔をしていた。
たぶん、合流途中でアレンたちに保護されたのだろう。
「本日は撤退します」
「正しい判断です」
「調査報告には、転移魔法陣の残存起動、単独転移事故、魔物出現、聖剣による生存補助を記載します」
「聖剣による生存補助」
リナが言った。
「戦闘補助じゃないんですね」
「戦闘補助と書くと、今後やらされる」
俺は言った。
「生存補助です」
アレンが頷いた。
「そうだな。ユートは戦闘要員ではない」
「分かってくれて助かる」
「ただし、最低限の護身訓練は必要だ」
「来た」
「来たではない。必要だ」
ガルドも頷いた。
「後ろに振る前に、振り返る訓練はした方がいい」
「それはそう」
ミリアが笑った。
「聖剣の腰のためにもね」
「聖剣の腰のためと言われると断りにくい」
セイルが静かに言った。
「無事に帰るための訓練です」
「それなら、まあ」
リナが嬉しそうに言った。
「ユートさんの護身訓練ですね」
「戦闘訓練ではない」
「護身訓練です」
「そこは大事だ」
聖剣は何も言わなかった。
寝ている。
たぶん。
ダンジョンを出る頃には、空は夕方になっていた。
外の空気がうまい。
地下の湿った空気の後だと、ただの風でもありがたい。
俺は地面に座りたかったが、座ると立ち上がりたくなくなる気がしたので我慢した。
アレンが水袋を渡してくれた。
「飲め」
「ありがとう」
「荷物持ちに荷物を渡すのも変だが」
「水は助かる」
俺は水を飲んだ。
聖剣は背中で静かだった。
いつもなら何か言う。
勇者よ、とか、荷物持ちよ、とか、我を落とすな、とか。
今日は言わない。
しばらく寝ると言っていたから、本当に寝ているのだろう。
少しだけ申し訳なかった。
「聖剣」
返事はない。
「今日は助かった」
返事はない。
だが、鞘の中で、ほんの少しだけ光が揺れた気がした。
それで十分だった。
その夜。
王都へ戻る前の野営地で、俺は記録帳を開いた。
旧式転移魔法陣調査・事故記録
一、旧式転移魔法陣は完全停止していなかった。
二、床の線は欠けていても、魔力で補われる場合がある。
三、踏んではいけない線が見えないこともある。
四、ユート単独転移。
五、荷袋、木札、聖剣は一緒に転移。
六、聖剣による生存補助あり。
七、ユートの戦闘能力は上がっていない。
八、聖剣が刃筋、角度、重心を補正。
九、補正負荷により聖剣休眠。
十、今後、護身訓練を検討。
十一、聖剣の腰に配慮。
アレンが十一番を見た。
「また腰か」
「大事だ」
「神の腰、ユートの腰、聖剣の腰」
「腰が多いな」
ミリアが言った。
「次は誰の腰かしら」
「やめろ」
リナが笑った。
「でも、聖剣が寝るなんて初めて知りました」
「俺もだ」
セイルが静かに言った。
「道具にも負荷がある、ということでしょう」
ガルドが頷いた。
「剣を雑に使えば、剣が傷む。聖剣でも同じだ」
「聖剣は傷んでないと思うけどな」
「寝た」
「寝たな」
アレンが俺を見る。
「ユート」
「何だ」
「無理はするな」
「今回は、するしかなかった」
「分かっている」
「ならいい」
「だが、次に同じことがあった時、聖剣だけに頼らなくて済むようにする」
「護身訓練か」
「そうだ」
「戦闘要員にはならないぞ」
「ならなくていい」
アレンは真面目に言った。
「生き残れ」
俺は少し黙った。
そして頷いた。
「それなら、やる」
「よし」
高性能な道具は、使い手の下手さを消すわけではない。
ただ、黙って受け止める。
角度を直し、刃筋を合わせ、力の逃げ道を作り、届く場所へ導く。
それで助かることはある。
今日、俺は助かった。
だが、補正する側にも負担はある。
聖剣は強い。
俺は強くない。
今日は、聖剣が無理をしただけだ。
だから、これを戦えるとは言わない。
道具の性能を、自分の実力と勘違いしてはいけない。
聖剣は寝た。
俺は生き残った。
アレンたちは助けに来た。
ダンジョンは封印対象になった。
護身訓練という新しい荷札が増えた。
物語は、きれいに一区切りを迎えた。
そう。
ここで終わっても、何の問題もない。
俺たちの聖剣介護は、これからだ。
「高性能な道具ほど、雑に使うと寝込むんだよ」
第二部・完




