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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


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第56話 豊穣神の教会を借りましたが、話す相手は荷物の神です

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!

第56話 豊穣神の教会を借りましたが、話す相手は荷物の神です


邪神教団の摘発から、一夜が明けた。


俺は黙った。


リナも黙った。


アレンも黙った。


ミリアは、昨日の押収品目録を見ている。


セイルは、俺の顔を見ていた。


ガルドも、俺を見ていた。


「ユートさん」


リナが言った。


「何だ」


「顔色、悪くないですか?」


「そうか?」


「悪いです」


アレンも頷いた。


「悪いな」


ミリアも言った。


「昨日、かなり動いてたものね」


「分類作業だ」


「壊れたアイテムボックスから噴き出した荷物を、半日分類してたら普通は疲れるわよ」


セイルが静かに言った。


「休んだ方がいいと思います」


「大丈夫です」


そう言った瞬間、胸元の木札が熱を持った。


『神殿へ行け』


俺は黙った。


リナが首をかしげる。


「ユートさん?」


「神様が、神殿へ行けと」


アレンが即座に立ち上がった。


「行くぞ」


「早い」


「神が言ったなら行け」


「そういう信心深さありましたっけ?」


「顔色が悪い」


それはありがたい。


ありがたいが、逃げられなくなった。


ミリアが押収品目録を閉じる。


「邪神教団の件も聞くんでしょ?」


「ああ」


「なら、ちょうどいいじゃない」


セイルも頷いた。


「神殿で静かに祈るのがよいでしょう」


「荷物の神の教会なんてありませんよ」


「分かっています」


セイルは穏やかに言った。


「だからこそ、借りるなら礼を尽くすべきです」


正論だった。


王都の豊穣神教会に着いた。


白い石造りの大きな教会。


麦の紋章。


広い扉。


朝の祈りを終えた信者たちが、静かに出入りしている。


豊穣神。


麦と実りの神。


信徒が多い。


教会が大きい。


祈りの場として整っている。


つまり、回線が太い。


「また回線って思ってますね」


リナが言った。


「思ってない」


「顔に出てます」


「祈りの場として整っている、と思っている」


「言い直しましたね」


荷物の神の教会なんてない。


だから、俺はいつも他の神の教会や礼拝堂の外から、こっそり祈る。


少しだけ場を借りる。


少しだけ祈りを通す。


それで済ませるつもりだった。


門の脇で木札を出そうとした時、教会の年配の信者が声をかけてきた。


「旅の方。お祈りでしたら、中へどうぞ」


「いえ、少し外で」


「顔色がよくありませんよ。中の方が落ち着きます」


俺は黙った。


リナが言った。


「中で祈りましょう」


アレンも言った。


「中だな」


ミリアも頷いた。


「外で済ませようとしない」


ガルドも短く言った。


「中だ」


セイルが前に出て、年配の信者に頭を下げた。


「ありがとうございます。司祭様に事情を説明してもよろしいでしょうか」


「ええ、もちろんです」


セイルが司祭に事情を説明した。


荷運びと徒歩旅の古い神へ祈りたいこと。


昨日、その神の名を邪神として無断に使った教団が摘発されたこと。


神名の確認と、祈りのため、静かな場所を借りたいこと。


司祭は少し驚いた顔をした。


だが、すぐに頷いた。


「豊穣の女神は、旅人の胃袋も守ります。荷を運ぶ方の祈りなら、拒む理由はありません」


ありがたい。


豊穣神教会、懐が広い。


そうして、俺たちは小祈祷室を借りることになった。


小祈祷室には、小さな豊穣の女神像が置かれていた。


麦束を抱いた、穏やかな像だった。


窓から入る光が、床に細く落ちている。


セイルが静かに膝をついた。


「まず、この場を守る豊穣の女神へ感謝を」


俺も木札を胸に当て、頭を下げた。


「豊穣の女神よ。この場をお借りします」


リナも、アレンも、ミリアも、ガルドも、それぞれ頭を下げた。


祈りが終わると、セイルが俺を見た。


「では」


「ああ」


俺は木札を両手で持った。


背負い袋にタライが降臨している紋章。


豊穣の女神の小祈祷室では、相変わらず浮いている。


だが、今日はここを借りる。


「今日は、聞こえるかもしれません」


俺は言った。


リナが目を丸くする。


「神様の声がですか?」


「ああ。木札だけなら基本的に俺にしか聞こえない。でも、ここは祈りの場として整っている」


ミリアが言った。


「回線が太いのね」


「そうとも言う」


セイルは静かに息を呑んだ。


「私は、荷物の神の声を直接聞いたことがありません」


「そうですね」


「今までは、ユートさんを通して聞いていました」


「ああ」


「今日は、聞こえるかもしれないのですね」


「たぶん」


セイルは姿勢を正した。


アレンも真剣な顔になった。


ガルドは扉の横に立ったままだが、表情は静かだった。


リナは少し緊張している。


ミリアも、茶化さなかった。


俺は目を閉じた。


「偉大なる荷物の神よ」


皆も静かに祈りを捧げた。


沈黙。


次の瞬間、声が響いた。


『聞こえている』


俺だけではなかった。


リナが息を呑んだ。


アレンが目を見開いた。


ミリアが壁から背を離した。


ガルドが扉を確認した。


そしてセイルが、静かに膝をついた。


「……本当に、聞こえました」


僧侶であるセイルの声が、少し震えていた。


神の声は、いつもの木札越しよりはっきりしている。


遠くからではない。


同じ部屋にいるような近さだった。


『セイルよ』


セイルが深く頭を下げた。


「はい」


『礼拝室を借りた。豊穣の女神へ礼を』


「必ず」


『よい僧侶だ』


セイルはもう一度、深く頭を下げた。


ミリアが小声で言う。


「神様に褒められてる」


「茶化さないでください」


セイルは珍しく、少しだけ強く言った。


ミリアは素直に黙った。


俺は木札を握り直した。


「神よ」


『うむ』


「ここ、豊穣神の教会です」


『知っている』


「借りています」


『だから礼を言えと言った』


「はい」


『豊穣の女神は太い』


「やっぱり回線なんですね」


『食料と荷は近いからな』


「妙に納得できます」


リナが小声で言った。


「神様も回線って言うんですね」


「言う」


『言う』


声が重なった。


かなり嫌な一致だった。


俺は本題に入ることにした。


「昨日の邪神教団の件です」


『うむ』


「邪神として使われていた名前は、あなたの名前ですか」


『我の古い名だ』


「やはり」


『かなり歪んでいたがな』


「カタリス=モテール、と言っていました」


『違う』


「本当は?」


少し沈黙があった。


『今のお前には、荷物の神でよい』


「教えてくれないんですか」


『長い』


「正式名も長いですよね」


『古い名はもっと長い』


「やめましょう」


『うむ』


長い名前は危険だ。


記録が大変になる。


「では、邪神ではないんですね」


『違う』


「邪神教団は、あなたの名前を勝手に使っていた」


『そうだ』


「邪神は実在しますか」


『少なくとも、あの名では存在せぬ』


「呼び出せますか」


『無理だ』


「昨日の召喚陣は」


『倉庫の湿気避けと荷崩れ防止印が混ざったものだ』


「見てたんですね」


『見ていた』


「では、邪神召喚は不可能」


『不可能だ』


「でも、人と金と荷物は動いていました」


『そこだ』


神の声が少し低くなった。


『いない邪神でも、人は動く。存在しない命令でも、荷は運ばれる』


「はい」


『我の名で、金品を集め、危険物を混ぜ、壊れた箱に詰めた』


「はい」


『迷惑だ』


「そこは本当に迷惑そうですね」


『迷惑だ』


かなり迷惑らしい。


俺は少し息を整えた。


ここからが、昨日から引っかかっていたところだ。


「神よ」


『うむ』


「邪神扱いされた理由を聞いても?」


小祈祷室が静かになった。


『アイテムボックスだ』


「やはり」


『かつて、我には信徒がいた』


神は言った。


『荷運び、旅人、行商人、巡礼者、倉庫番、兵站係。道を歩き、荷を運び、荷札をつけ、雨を恐れ、車輪を気にし、宿の空きを願う者たちだ』


「御利益は運、ですね」


『そうだ』


「雨に降られない。道に迷わない。橋が落ちない。車輪が壊れない。野盗に遭わない。宿が空いている」


『それで十分だった』


「荷運びにとっては」


『うむ。旅とは、地味な幸運の積み重ねだ』


その言葉は、よく分かった。


派手な奇跡はいらない。


夜に雨が降らない。


水場にたどり着く。


荷紐が切れない。


それだけで、旅は続く。


『だが、箱が出た』


「アイテムボックス」


『そうだ』


神の声が硬くなった。


『箱は荷を隠す』


「隠す」


『重さを消す。数を忘れさせる。返す先を曖昧にする。危険物を混ぜる。預かり物と私物の境を壊す。持てる限界を見失わせる』


「便利だからですね」


『便利だからだ』


神は言い切った。


『箱は堕落させる』


俺は黙った。


リナも黙っている。


アレンも。


ミリアも。


セイルも。


ガルドも。


『最初に箱を持ったのは、我の信徒たちだった』


「荷運びの人たちが」


『新しい道具として喜んだ。最初はよいと思った。遠くまで運べる。雨に濡れぬ。荷車が減る。腰も守れる』


「悪くない話に見えます」


『だが、すぐに怠けた』


神の声は、怒りというより、古い痛みに近かった。


『中身を見なくなった。重さを数えなくなった。腐るものを入れたまま忘れた。薬と危険物を同じ闇に入れた。預かり荷を失くした。返す先を忘れた。遺品を出し忘れた。依頼品を期限までに出さなかった』


「ひどいですね」


『ひどかった』


「それで、タライを?」


『最初は一つだった』


「五歩目に」


『警告だ。痛いが死なぬ。止まれ、荷を見ろ、という警告だった』


「それでも?」


『止まらなかった』


「それで」


『タライの雨を降らせた』


俺は黙った。


神も少し黙った。


ミリアが小声で言った。


「やらかしてるわね」


『やらかした』


神が認めた。


かなり素直だった。


「認めるんですね」


『認める。タライの雨は、やりすぎた』


「では、アイテムボックスへの怒りも反省していますか」


『していない』


即答だった。


「していないんですね」


『していない』


「そこははっきりしていますね」


『箱は堕落させる。我の信徒が箱に逃げた時、我は一度死にかけた』


俺は木札を見た。


『信徒たちは去った。あの神は便利な箱を罰する古い神だ、箱を憎む神だ、タライを降らせる邪神だ、と言った』


「それで信徒がいなくなった」


『うむ』


「教会も」


『元々、大きな教会などなかった。祠と道端の小さな礼拝所だ。それも消えた』


「今は」


『お前一人だ』


小祈祷室が静かになった。


その言葉は、何度も聞いている。


だが、仲間がいる場所で聞くと、重さが違った。


「俺一人ですか」


『お前一人だ』


「しかも俺、かなり文句を言いますよ」


『言う』


「タライの悪口も言います」


『言う』


「神様の教義も雑に使います」


『使う』


「それでいいんですか」


『よい』


神の声が、少しだけ柔らかくなった。


『お前は、荷を見ている』


俺は黙った。


『重さを見ている。中身を見ている。返す先を見ている。危険物を分けている。持てぬものには荷札をつけている』


「仕事ですから」


『信仰だ』


「仕事です」


『信仰だ』


「両方でいいですか」


『よい』


少し笑いそうになった。


神は続けた。


『かつての我なら、街道一本の雨を逸らせた』


「今は?」


『お前の頭上の雨を少し逸らせる』


「助かっています」


『かつての我なら、隊商十組の車輪を守れた』


「今は?」


『お前の台車の車輪を少し長持ちさせられる』


「かなり助かっています」


『かつての我なら、荷運び百人に道を示した』


「今は?」


『お前一人なら、宿の空き部屋くらいは寄せられる』


「いつも助かっています」


『神力は、かつての一パーセントにも満たぬ』


「はい」


『だが、信徒が一人なら、一人をえこひいきできる』


「神様がえこひいきって言っていいんですか」


『信徒が一人しかおらぬ。ひいきしなくてどうする』


「開き直りましたね」


『うむ』


かなり人間臭い。


だが、その人間臭さが、俺には馴染む。


リナは黙って聞いている。


アレンも真剣だった。


セイルは膝をついたまま、静かに目を伏せている。


ミリアも茶化さない。


ガルドも動かない。


俺は、次に聞くべきことを思い出した。


「神製バッグのことも聞いていいですか」


神の声が、露骨に嫌そうになった。


『嫌だ』


「でも聞きます」


『聞くな』


「砦への補給で、神様が出した袋です」


『あれは二度とやるな』


「やっぱり大変だったんですね」


『木札では、一割しか届かぬ』


「一割」


『声を届け、運を寄せ、荷崩れを知らせる程度なら足りる』


「神製バッグは?」


『足りぬどころではない』


神の声が疲れた。


『あれは、箱だ』


「アイテムボックス型でした」


『我が大嫌いな箱だ』


「はい」


『だが、命に変わる荷だった』


「はい」


『だから、我が見た』


「見た?」


『中の荷を、我が見ていた。重さを、数を、危険を、行き先を、我が見ていた』


俺は黙った。


『箱に入れたことで責任を消したのではない。我が、お前の代わりに少し背負った』


「神様が」


『そうだ』


「だから、あれほど疲れていたんですね」


『神も腰に来る』


「神様にも腰があるんですか」


『比喩だ』


「比喩ですか」


『たぶん』


「たぶんなんですか」


神の声が少しだけ弱くなった。


本当に疲れたらしい。


「二度とやるな、ですね」


『うむ』


「命に変わる荷なら?」


『その時に考える』


「やる可能性はあるんですね」


『言わせるな』


「はい」


そこで少し沈黙があった。


話すべきことは、かなり話した。


邪神ではない。


古い名だった。


アイテムボックスで信徒が怠けた。


タライの雨をやらかした。


信徒はいなくなった。


今は俺一人。


神製バッグは、神が少し背負った。


これだけでも、かなり重い。


だが、神の声はまだ終わらなかった。


『ユートよ』


「はい」


『顔色が悪い』


「昨日、少し動きました」


『腰も怪しいな』


俺は黙った。


リナがこちらを見る。


アレンも見る。


ミリアも見る。


セイルも顔を上げる。


ガルドも見た。


「怪しいんですか?」


リナが言った。


「少しです」


『少しではない』


神に言われると逃げられない。


アレンが低く言った。


「後で話を聞く」


「はい」


神の声が、さらに静かになった。


『ユートよ』


「はい」


『辛いか?』


俺は、すぐには答えられなかった。


辛い。


そう言えば、楽になる気もした。


だが、辛くないと言えば、嘘になる。


アイテムボックスを使えない。


荷を見なければならない。


重さを知り、数を数え、返す先を確認し、危険物を分ける。


周りの冒険者は、腕輪一つで歩いている。


旅人は、革袋一つに何でも詰める。


商人は、在庫を箱に入れて運ぶ。


王家にも公務用の箱がある。


補給局ですら、箱を当然の道具として扱う。


俺だけが、背負う。


俺だけが、持つ。


俺だけが、減らせと言う。


「辛くないと言えば、嘘になります」


俺は言った。


『そうか』


神の声は静かだった。


「箱を使えば、楽なんでしょうね」


『楽だ』


「ものすごく楽です」


『そうだ』


「でも」


俺は自分の手を見た。


荷袋の紐の跡が、指に残っている。


「楽になった分、見なくなる気がします」


神は黙っていた。


「箱も怖いです。でも、それ以上に」


俺は少しだけ息を吐いた。


「自分が、荷を見なくなることが怖い」


小祈祷室は静かだった。


豊穣の女神像は、麦束を抱えて微笑んでいる。


ここは荷物の神の教会ではない。


それでも、声は確かに届いていた。


『ユートよ』


「はい」


『ならば、お前は我の信徒だ』


「一人しかいないやつですね」


『一人しかいない』


「そこは否定してください」


『否定せぬ。だからこそ、嬉しい』


その瞬間、木札が熱を持った。


胸元から背中へ。


背中から腰へ。


腰の奥に残っていた鈍い重さが、ゆっくりほどけた。


肩の張りが抜ける。


足の裏の熱が引く。


指のこわばりも消える。


昨日の分類作業で溜まっていた疲れが、荷袋から荷を下ろすように抜けていく。


俺は思わず腰に手を当てた。


「……治った」


完全に治っていた。


怪しいどころではない。


軽い。


かなり軽い。


『祝福だ』


「腰痛治療ではなく?」


『祝福だ』


「実質、腰痛治療ですよね」


『祝福だ』


「分かりました。祝福です」


リナが目を丸くした。


「ユートさん、顔色がよくなりました」


「腰が治った」


アレンが真顔で頷いた。


「それはよかった」


ミリアが言った。


「神の祝福で腰が治るの、すごく荷物持ちらしいわね」


セイルは静かに頭を下げた。


「信仰の形として、とても正しいと思います」


ガルドが短く言った。


「腰は大事だ」


「大事だ」


俺は頷いた。


神の声が続く。


『ただし』


嫌な予感がした。


「ただし?」


『荷を背負えば、また痛む』


「でしょうね」


『完全に治した。だが、お前はまた背負う』


「仕事ですから」


『信徒だからな』


「そこに戻るんですね」


『だから、また来い』


俺は小祈祷室を見回した。


「ここ、豊穣神の教会ですが」


『礼を尽くせ』


「はい」


『そしてまた借りろ』


「定期的に来る必要がありますか」


『ある』


「腰のために?」


『祝福のためだ』


「腰のためですよね」


『祝福だ』


「はい」


少しだけ、空気が緩んだ。


だが、俺にはまだ聞きたいことがあった。


聞くべきか迷った。


たぶん、重い。


かなり重い。


けれど、神の方が先に言った。


『六つだった』


俺は黙った。


「六歳です」


『小さかった』


「その話、長くなりますよね」


『長くなる』


「じゃあ、また今度で」


『逃げるのか』


「荷が多すぎます」


『持てぬものは置いていけ』


「神様の教義です」


『便利に使うな』


「今日は邪神教団と腰とアイテムボックスで十分です」


神は少し黙った。


『……そうだな』


声が柔らかくなった。


『また今度でよい』


「はい」


『だが、忘れるな』


「何をですか」


『お前は、落ちた荷ではない』


俺は息を止めた。


神は続けた。


『拾った荷でもない』


「神様」


『我の信徒だ』


俺はしばらく黙った。


そして、木札を握った。


「はい」


それだけ答えた。


今は、それで十分だった。


祈りを終えると、小祈祷室の空気は少しだけ軽くなった。


腰は治った。


かなり治った。


いや、完全に治った。


アレンが俺を見た。


「本当に大丈夫か」


「ああ」


「無理はするな」


「分かっている」


「分かっていない時がある」


「最近、お前がかなりまともなことを言う」


「勇者だからな」


「便利な言葉になってきたな」


アレンは少し笑った。


リナが小さく聞いた。


「ユートさん」


「何だ」


「六歳って」


「また今度だ」


「はい」


「子育ての話は長くなる」


「子育て?」


「また今度だ」


リナは少しだけ目を見開いた。


だが、それ以上は聞かなかった。


ありがたい。


ミリアも聞かなかった。


セイルも。


ガルドも。


アレンも。


全員、今は荷が多いことを分かっていた。


豊穣神教会を出る前に、俺は受付の司祭へ礼を言った。


「小祈祷室をありがとうございました」


司祭は穏やかに微笑んだ。


「祈りは届きましたか」


「かなり」


「それは何よりです」


「あと、豊穣の女神様にもよろしくお伝えください」


司祭は少し不思議そうな顔をした。


「分かりました」


伝わるかは分からない。


だが、場を借りた礼は必要である。


外へ出ると、王都の空は晴れていた。


昨日より背中が軽い。


腰が軽い。


ただし、荷物は軽くなっていない。


それでも、持てる。


俺は荷袋を背負い直した。


重さが、きちんと分かる。


中身も分かる。


返す先も分かる。


それでいい。


こうして俺たちは知った。


荷物の神は、邪神ではなかった。


ただし、アイテムボックスは大嫌いだった。


かつて信徒たちは、箱を持って荷を見なくなった。


神は怒り、タライの雨を降らせた。


やらかした。


そして信徒を失った。


今は、信徒が一人しかいない。


教会もない。


司祭もいない。


祠もほとんど残っていない。


木札の回線は細い。


だから、豊穣神の教会を借りた。


場を借りるなら、まずその場を守る神へ礼をする。


その上で、荷物の神へ祈る。


皆も祈った。


そして、初めて全員が荷物の神の声を聞いた。


神は、そこで俺に聞いた。


辛いか、と。


俺は、辛くないとは言えなかった。


箱を使えば楽だ。


それは分かっている。


でも、箱に入れた荷は見えない。


見えない荷は、忘れられる。


忘れた荷は、誰かを潰す。


だから俺は、まだ持つ。


持てる分だけ持つ。


持てぬものは置いていく。


置いたものには荷札をつける。


神はそれを信仰だと言い、俺は仕事だと言った。


たぶん、両方なのだろう。


腰は祝福で治った。


だが、荷物持ちを続ければ、また痛む。


だから、また教会に来ることになる。


荷物の神の教会ではない。


豊穣神か、旅神か、商人組合の祈願所か。


祈りの場として整っていればいい。


邪神教団の事件は終わっていない。


押収品の返却。


神名無断使用の訂正。


壊れたアイテムボックスの処理。


信者と被害者の切り分け。


まだ荷札は残っている。


六歳の話も、残っている。


だが、それはまた今度でいい。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの祝福は、これからだ。


「腰を治しても、荷物は減らないんだよ」


第二部・完

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