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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: 二歩田 回収


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第39話 転移魔法陣の運用について、相談があります

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!

第39話 転移魔法陣の運用について、相談があります



「転移魔法陣の運用について、相談があります」


王都補給局の職員は、そう言った。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは少しだけ目を輝かせた。


ミリアは興味ありげに身を乗り出した。


セイルは静かに祈った。


ガルドは部屋の出口を確認した。


いつも通りだった。


王都補給局。


俺の銅像が立っているところである。


できれば、あまり近づきたくない。


理由は単純だ。


恥ずかしいからだ。


だが、補給局の相談はだいたい放っておけない。


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「転移魔法陣です」


「言うな」


「一瞬で別の場所へ移動できるやつです」


「言うな」


「でもユートさんの場合、出口の詰まりを気にしそうですね」


「そこだ」


職員は机の上に図面を広げた。


王都補給局。


北方砦。


中継倉庫。


魔法陣。


矢印。


荷物の流れ。


かなり複雑だ。


「北方補給路の一時停止協定の間に、王都と北方砦を結ぶ小型転移魔法陣を試験導入しました」


「かなり大きな話ですね」


「はい。大型の人員転移ではなく、小荷物専用です」


「小荷物専用」


「一回あたり、木箱三つ程度」


「便利ですね」


ミリアがうなずく。


「転移陣なら、橋が落ちても関係ないわね」


職員は暗い顔をした。


「そのはずでした」


「詰まったんですね」


「はい」


やはり。


「どこで」


「出口です」


職員は図面を指さした。


北方砦の転移魔法陣。


その出口が、倉庫前の狭い通路にある。


嫌な予感が図面から出ている。


「出口が倉庫前ですね」


「はい。荷物をすぐ倉庫へ入れられるように」


「その発想は分かる」


「ありがとうございます」


「でも、荷物が出た瞬間に詰まります」


「詰まりました」


職員は別紙を出した。


転移魔法陣試験運用報告


一、一回目、保存食木箱三箱、正常転移。


二、二回目、矢束箱三箱、出口に一箱残留。


三、三回目、薬瓶箱二箱、前回残留箱と接触。


四、薬瓶箱一部破損。


五、出口周辺に作業員集中。


六、次便停止。


七、倉庫前通路閉塞。


八、砦隊長が怒る。


最後。


かなり重要だ。


アレンが言った。


「転移すれば届くのではないのか」


「届くだけでは足りない」


俺は言った。


「出口からどかせないと、次が来ない」


ガルドが頷く。


「門と同じだ。出たところで止まれば後ろが詰まる」


セイルが言う。


「薬瓶が割れたのは痛いですね」


ミリアが顔をしかめる。


「転移先の空間が空いてないと危ないわよ。最悪、箱同士が重なる」


「重なると?」


リナが聞く。


「壊れる。弾かれる。変形する。魔力が乱れる。最悪、爆ぜる」


「爆ぜる」


錬金術工房以来、爆ぜるという言葉が怖い。


俺は木札に触れた。


「神よ」


頭の中に声が響く。


『出口を空けよ』


「早いですね」


『入口より出口だ』


「はい」


『届いた荷は、どくまで届いていない』


「かなり良い」


『転移でも導線は消えぬ』


「教義がもう出ましたね」


『詰まっているからな』


俺は木札から手を離した。


「まず、転移魔法陣は移動手段です。保管手段ではありません」


職員が頷く。


「はい」


「出口に置いたままにするなら、倉庫ではなく栓になります」


「栓」


「詰まります」


「はい」


「必要なのは、出口バッファです」


「出口バッファ」


リナが言う。


「一時置き場ですか?」


「そうだ」


俺は図面に書き込む。


転移出口区画


一、着地点。


二、一時退避区画。


三、検品区画。


四、倉庫搬入導線。


五、空箱返送区画。


六、非常停止区域。


「出口に出た荷は、まず着地点から退避区画へ動かす」


「はい」


「退避区画が空くまで次便を送らない」


「はい」


「検品して破損確認。薬瓶なら特に」


「はい」


「倉庫へ入れるのはその後」


「はい」


「空箱や返送品を入口側へ戻す動線も必要」


「はい」


ミリアが言った。


「転移陣なのに、結局荷物運びなのね」


「転移先で荷物は消えない」


「それはそうね」


現場を見るため、北方砦へ向かうことになった。


今回は実験的に転移魔法陣を使う。


人間用ではないので、俺たちは通常の馬車で移動。


転移魔法陣は小荷物だけ。


安全のためだ。


アレンが少し残念そうだった。


「一瞬で行けるのでは」


「人間用に調整されていない」


「勇者なら」


「箱扱いされたいのか」


アレンは黙った。


北方砦に着くと、すぐ問題の場所が分かった。


砦の倉庫前。


狭い石畳の通路。


その脇に、光る魔法陣。


本当に倉庫の目の前だ。


便利そうではある。


だが、狭い。


荷箱三つ出たら、もう人が通れない。


さらに、倉庫扉は内開き。


最悪だ。


「扉が内開き」


俺は言った。


砦の補給係が青ざめた。


「はい」


「荷物が前にあると開かない」


「はい」


「なぜここに」


「すぐ倉庫へ」


「その気持ちは分かるが、駄目だ」


リナが周囲を見て言う。


「ここ、負傷者搬送路にも近いですね」


セイルが顔をしかめる。


「薬瓶箱が割れた時に救護導線も塞がります」


ガルドが通路幅を測る。


「盾持ち二人がすれ違えない」


ミリアが魔法陣を見て言う。


「陣の安定は悪くないけど、場所が悪いわね」


場所が悪い。


転移陣そのものは成功している。


だからこそ厄介だ。


技術が成功して、運用が失敗している。


よくある。


かなりよくある。


まず、暫定対応。


魔法陣から出た荷物を、すぐ横の空き地へ動かす。


だが空き地は少し離れている。


台車が必要。


砦には台車が一台しかない。


しかも車輪が歪んでいる。


俺は見た。


「台車の整備が必要です」


補給係が言う。


「転移陣があるので、台車は減らせると思って」


「逆です」


「逆?」


「転移陣があると、短時間に荷物が集中します。出口側の台車は増やすべきです」


補給係は固まった。


「確かに」


「転移は距離を消すが、着地点の作業は消さない」


ミリアが言う。


「良い言い方ね」


「実務だ」


まず低床台車を二台追加。


折り畳み台車も使う。


出口担当を置く。


送信側と受信側で合図を決める。


「送っていいか」を確認してから送る。


当たり前だが、今までは王都側が時間で送っていた。


十分ごとに三箱。


出口が空いているかどうかを見ずに。


駄目。


かなり駄目。


「出口空き確認が必要」


補給係が頷く。


「はい」


合図札を作る。


緑、送信可。


赤、送信停止。


黄、検品中。


黒、事故。


黒は不吉だが、事故用なら分かる。


ただし、遠隔魔法灯で色を送る。


送信側にも表示。


リナが言う。


「これ、料理祭の導線色札みたいですね」


「同じだ」


ガルドが言う。


「色だけでなく形も」


「そうだ」


緑は丸。


赤は手のひら。


黄は箱。


黒は斜線。


色が見えない場合も使える。


次に、荷物の種類。


今までは保存食、矢、薬瓶、油、工具が同じ転移予定表に並んでいた。


危険。


薬瓶と矢束がぶつかれば割れる。


油と火魔石は一緒に送りたくない。


重いものと割れ物も分ける。


「転移便も混載禁止が必要です」


補給係が書く。


「はい」


転移便分類


一、割れ物便。


二、食料便。


三、武具便。


四、薬品便。


五、危険物便。


六、空箱返送便。


「危険物便は封印局確認」


「はい」


「薬品便は薬房規格箱」


「はい」


「割れ物便は緩衝材」


「はい」


「空箱返送便を忘れない」


「空箱も?」


「戻さないと王都側で箱が足りなくなる」


「はい」


王都側に確認すると、すでに箱不足が起きかけていた。


やはり。


届いたら終わりではない。


箱は戻る。


瓶も戻る。


記録も戻る。


補給は循環だ。


午後、試験運用をする。


王都側から保存食箱三つ。


まず受信側。


出口空き確認。


緑。


送信。


魔法陣が光る。


箱三つが現れる。


すぐ台車へ。


退避区画へ移動。


検品。


破損なし。


倉庫へ。


出口空き。


緑。


次便。


矢束箱三つ。


同じ。


問題なし。


次、薬品便。


革巻き箱二つ。


薬房規格に従った箱だ。


魔法陣が光る。


箱が現れる。


受け取り。


すぐ検品区画へ。


セイルが確認。


「外装問題なし。瓶の音も正常」


薬品台帳照合。


問題なし。


よし。


以前なら薬瓶箱が残留箱とぶつかって割れた。


今回は割れない。


導線は効く。


かなり効く。


アレンが感心したように言う。


「転移魔法陣より、出口担当が大事に見えてきた」


「両方大事だ」


「だが、出口担当がいなければ使えない」


「そうだ」


「魔法を支えるのは人なのだな」


かなり良い。


ミリアが魔法陣を見ながら言う。


「術式は成功してるのよ。でも、それだけだと事故る」


「技術の成功と運用の成功は別」


「ほんと、それね」


夕方、ヴォルガが来た。


兵糧断ちの四天王。


補給路監視役になっている。


黒い鎧。


地図入れ。


相変わらず嫌な圧。


「転移陣を使い始めたか」


「試験運用です」


俺は答えた。


「補給路を増やすとは言ったが、道そのものを飛ばすとはな」


「道を消したわけではありません。出口が新しい道です」


ヴォルガは少し笑った。


「なるほど。出口を詰まらせればよいのか」


全員が構えた。


俺は言った。


「言わないでください」


「敵として当然の発想だ」


「今は監視役では?」


「監視役だから脆弱性を指摘している」


嫌な監視役だ。


だが、正しい。


転移陣は、出口を詰まらせれば止まる。


敵に狙われやすい。


「出口警備が必要ですね」


ガルドが言った。


「そうだ」


ヴォルガが頷く。


「倉庫前では狭すぎる。敵が煙幕一つ投げれば詰まる」


「移設したほうがいい?」


ミリアが聞く。


「可能なら」


補給係が言う。


「魔法陣の再設置には時間と費用が」


出た。


費用。


いつもの敵だ。


俺は考える。


「当面は、出口区画を広げる。倉庫前ではなく、隣の練兵場側へ荷を逃がす。倉庫扉は外開きか引き戸に改修」


補給係が書く。


「はい」


「長期的には転移陣を倉庫前ではなく、広い受入場へ移す」


「はい」


「出口妨害対策。煙、氷、泥、偽箱、敵侵入」


ヴォルガが楽しそうに言う。


「偽箱は有効だ」


「あなたが言うと重い」


「重くしている」


「やめてください」


だが、対策は必要。


転移陣から来た荷物が本物か確認する。


送信側の封印印。


荷札。


重量。


到着予定番号。


受信側台帳。


一致しなければ隔離。


ですノート以降の文書管理、錬金術のラベル、ポーション瓶の規格、全部が生きる。


補給の世界はつながっている。


夜までに、転移魔法陣運用規程の草案ができた。


小荷物転移魔法陣 運用規程 草案


一、転移陣は移動手段であり、保管場所ではない。


二、出口には着地点、退避区画、検品区画を設ける。


三、出口空き確認なしに送信しない。


四、荷物種別ごとに便を分ける。


五、薬品、危険物、割れ物は専用箱を使う。


六、空箱返送便を設定する。


七、出口担当を置く。


八、出口妨害を想定する。


九、倉庫扉前を着地点にしない。


十、届いた荷は、どくまで届いていない。


最後。


神託そのまま。


かなり良い。


補給係は力強く頷いた。


「十、標語にします」


「してください」


ヴォルガも見ていた。


「良い標語だ」


「敵に褒められると複雑です」


「道を扱う者としては認める」


「あなたは道を壊す側でしょう」


「壊すには、道を知らねばならん」


嫌な説得力だ。


宿舎に戻る頃には、空が暗くなっていた。


北方砦の夜は冷える。


転移陣の周囲では、補給係たちが新しい印をつけている。


緑丸。


赤手。


黄箱。


黒斜線。


台車の置き場。


退避区画。


検品台。


空箱置き場。


少しずつ、ただの魔法陣が補給設備になっていく。


それでいい。


魔法だけでは設備ではない。


周囲の運用があって初めて設備になる。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『よい出口だった』


「出口が主役ですか」


『転移は入口より出口だ』


「はい」


『入る者は期待を見る。出る者は現実を見る』


「少し詩的ですね」


『だが箱をどかせ』


「実務に戻った」


『実務だ』


「教義は?」


『届いた荷は、どくまで届いていない』


「採用ですね」


『採用』


王都へ戻ると、広報部の女性が待っていた。


今日は補給局前の銅像の横にいた。


やめてほしい。


「聞きました! 転移魔法陣の出口導線を直したそうですね!」


「銅像の横で待たないでください」


「題名はこちらで!」


紙が出た。


転移魔法陣は便利ですが、出口が倉庫前だと詰まります


俺は黙った。


リナが笑った。


「そのままですね」


「そのままだな」


ミリアが言う。


「技術としては便利なのにね」


セイルが言う。


「出た後の安全が大事です」


ガルドが言う。


「出口を塞ぐな」


アレンが言う。


「届いた荷は、どくまで届いていない」


かなり覚えている。


よい。


その夜、荷物台帳に記録した。


転移魔法陣運用記録


一、転移は移動であり保管ではない。


二、出口が詰まると転移は止まる。


三、出口バッファが必要。


四、出口空き確認なしに送らない。


五、荷物種別で便を分ける。


六、空箱返送を忘れない。


七、転移陣があっても台車は必要。


八、倉庫扉前を着地点にしない。


九、出口妨害を想定する。


十、届いた荷は、どくまで届いていない。


リナが十を見て言った。


「分かりやすいですね」


「かなり」


ミリアが言う。


「転移陣があっても、台車が増えるの面白いわね」


「距離が消えると、出口の作業が濃くなる」


セイルが言う。


「便利になる場所と忙しくなる場所が変わるのですね」


「そうです」


ガルドが言う。


「敵なら出口を狙う」


「ヴォルガもそう言っていた」


アレンが言う。


「なら、出口を守るのも勇者の仕事か」


「たぶん」


「入口で待つより地味だな」


「でも大事だ」


アレンは頷いた。


「分かる」


聖剣が光った。


『転移陣で我を送れるか』


「長すぎて箱に入らない」


『また長い』


「専用便が必要だな」


『聖剣専用転移便』


「出口で詰まる」


『ぐぬ』


こうして俺たちは知った。


転移魔法陣は便利だった。


橋を越え、山道を越え、距離を縮め、荷物を一瞬で届ける。


だが、転移先で荷物は消えない。


箱はそこにある。


誰かがどかす。


誰かが検品する。


誰かが倉庫へ運ぶ。


誰かが空箱を返す。


出口が詰まれば、どれほど高度な魔法陣でも止まる。


技術は道を短くする。


だが、導線を消してはくれない。


小荷物転移魔法陣の運用規程はできた。


北方砦の倉庫前は整理された。


薬瓶箱は割れずに済んだ。


出口担当が配置された。


転移陣があるのに台車は増えた。


ヴォルガは嫌な助言をした。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの出口管理は、これからだ。


「出たらどかせよ」


第二部・完

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