第25話 スキルツリーが偏ってます
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!
第25話 スキルツリーが偏ってます
「スキルツリーを解放します」
王都冒険者組合の訓練場で、講師がそう言った。
俺は黙った。
リナも黙った。
勇者アレンは少しだけ胸を張った。
ミリアは興味ありげに水晶板を見た。
セイルは静かに祈った。
ガルドは訓練場の壁にかけられた木剣を見ていた。
いつも通りだった。
冒険者組合の訓練場。
木の床。
魔法防護の壁。
中央に大きな水晶板。
その背後には、枝分かれした図が浮かんでいる。
いかにも成長システム。
いかにもポイントを割り振ると強くなるやつ。
いかにも、最終的に最強技へ到達しそうなやつである。
リナが小声で言った。
「見たことあります」
「言うな」
「スキルツリーです」
「言うな」
「剣術とか魔法とか、枝分かれして成長するやつです」
「言うな」
「でもユートさんの場合、物流方向に伸びそうですね」
「そこだ」
講師は、筋肉質な中年の冒険者だった。
右腕に古傷。
腰に短剣。
声が大きい。
いかにも実戦経験者である。
「スキルツリーとは、自分の資質を可視化し、鍛える方向を選ぶための補助術式だ。剣士なら剣技、魔法使いなら属性制御、斥候なら隠密や探索へ枝が伸びる」
アレンが満足げに頷いた。
「ついに来たか。勇者の成長の時だな」
「前から成長はしているだろ」
俺は言った。
「マント一枚を維持できている」
「それを成長と言われるのは複雑だ」
ミリアが笑った。
「でも事実よ」
講師は水晶板を指さした。
「今回は、組合の協力者として登録された君たちにも試してもらう。スキルポイントは、実戦経験、訓練、依頼実績から算出される」
「ポイント制ですか」
俺は聞いた。
「そうだ。ただし、これは目安だ。数字に振り回されるな」
「まともですね」
「最近、組合の注意書きは増えたからな」
講師は俺を見た。
「誰かさんたちのせいで」
「良いことです」
「まあな」
最初はアレンだった。
水晶板に手を置く。
青い光。
大きな樹形図が浮かぶ。
勇者系統
中央:勇者基礎
枝一:剣技強化
枝二:統率
枝三:聖剣適応
枝四:防御
枝五:見栄え
部屋が静まった。
俺は見た。
ミリアも見た。
リナも見た。
セイルも見た。
ガルドも見た。
アレンは見なかったふりをした。
「見栄えとは何だ」
講師が困った顔をする。
「本人の資質に応じて出る枝だ」
「勇者に必要か?」
俺は聞いた。
アレンが反論する。
「士気に関わる」
「マントが増えるやつだろ」
「まだ何も言っていない」
水晶板の見栄え枝には、細かいスキルが並んでいた。
堂々たる立ち姿
風を読むマント捌き
光源を背負う位置取り
式典用礼法
無駄に長い登場間
ミリアが限界だった。
「無駄に長い登場間」
アレンが顔を赤くする。
「無駄ではない」
「スキル名に無駄って出てるわよ」
講師が咳払いする。
「ええと、剣技強化と統率を優先するのが実戦的だな」
俺は言った。
「聖剣適応も必要では」
背中の聖剣が光った。
『ようやく我に関わる枝が出たか』
アレンは水晶板を見た。
聖剣適応:現在未取得
条件。
聖剣を定期的に手入れする。
聖剣の鞘を適正管理する。
狭い通路で抜かない。
持ち主と運搬者の役割を明確にする。
聖剣が黙った。
アレンも黙った。
俺は言った。
「実質、荷物管理だな」
『不本意だ』
聖剣が低く光る。
だが条件は正しい。
アレンは悩んだ末、統率と剣技にポイントを振った。
見栄えには振らなかった。
かなり偉い。
ただし、最後まで見栄え枝を見ていた。
次はミリア。
赤い光。
火魔法系統
中央:魔力制御
枝一:火力上昇
枝二:燃費改善
枝三:範囲制御
枝四:魔導書整理
枝五:可燃物確認
ミリアが眉をひそめた。
「魔導書整理?」
俺は言った。
「必要だろ」
「必要だけど、スキルツリーに出る?」
講師が真面目に言う。
「魔法使いの事故原因として、魔導書の未整理、詠唱札の紛失、可燃物周辺確認不足は多い」
ミリアは黙った。
過去に心当たりがある顔だった。
可燃物確認の枝には、こうあった。
詠唱前周囲確認
油布との距離確保
天井高さ確認
味方の髪を燃やさない
鍋の下だけを温める
「最後、何?」
ミリアが言った。
「重要だ」
俺は言った。
「旅で火力調整できると助かる」
セイルも頷く。
「湯を沸かす火と、魔物を焼く火は違います」
ミリアは少し悩み、範囲制御と燃費改善、可燃物確認にポイントを振った。
火力上昇は後回し。
成長している。
次はセイル。
白い光。
治癒・防護系統
中央:治癒術基礎
枝一:治癒量強化
枝二:防護結界
枝三:祈祷安定
枝四:自己休憩
枝五:薬品管理
セイルは静かに枝を見る。
自己休憩。
かなり大事だ。
説明にはこうある。
他者治療後、自身の魔力と疲労を確認する。
無理に立ち続けない。
睡眠不足で祈祷しない。
水を飲む。
リナが言った。
「これ、セイルさんに必要ですね」
セイルは素直に頷いた。
「そうですね」
薬品管理には、
瓶の分散
期限確認
割れ物保護
ラベル照合
誤飲防止
俺は強く頷いた。
「良い枝です」
講師が言った。
「治癒職は戦場で頼られる分、自分の管理が後回しになりやすい。ここを伸ばせる者は長く持つ」
セイルは、治癒量強化より先に自己休憩と薬品管理へ振った。
かなり正しい。
次はガルド。
黄色い光。
剣士系統
中央:剣技
枝一:斬撃強化
枝二:防御姿勢
枝三:突入判断
枝四:撤退確認
枝五:装備点検
ガルドはしばらく黙った。
「突入判断がある」
「前から課題だったからな」
俺は言った。
突入判断の枝には、
敵数確認
足場確認
味方位置確認
撤退路確認
突入しない勇気
ガルドは最後を見て、少し笑った。
「突入しない勇気」
アレンが言った。
「勇者にも必要かもしれない」
「かなり必要だ」
俺は言った。
ガルドは迷わず突入判断と撤退確認に振った。
斬撃強化は後回し。
本当に成長している。
次はリナ。
緑の光。
斥候・観察系統
中央:観察
枝一:隠密
枝二:罠発見
枝三:危機察知
枝四:かわいい生物耐性
枝五:荷物気配確認
リナが顔を赤くした。
「かわいい生物耐性、まだ出るんですか」
「ナベの件だ」
俺は言った。
「分かってます」
かわいい生物耐性の枝には、
距離を保つ
触る前に確認
餌を勝手に与えない
大型化後を想像する
飼えない命は連れていかない
リナは少し黙った。
「最後、重いですね」
「ああ」
「でも必要ですね」
「必要だ」
リナは罠発見、危機察知、そして少しだけかわいい生物耐性に振った。
偉い。
そして最後に俺。
水晶板に手を置く。
光は、やはり麻袋色だった。
地味。
非常に地味。
だが、今回はかなり強く光った。
水晶板に、巨大な樹形図が浮かぶ。
講師が目を丸くした。
「これは……」
中央にはこう書かれていた。
荷物持ち系統
その周囲に、枝が大量に伸びている。
枝一:背負う
枝二:結ぶ
枝三:畳む
枝四:乾かす
枝五:分類する
枝六:記録する
枝七:導線を見る
枝八:補給を通す
枝九:危険物管理
枝十:契約確認
枝十一:文体監査
枝十二:鍋運用
部屋が静まり返った。
ミリアがぽつりと言った。
「多い」
リナが目を輝かせた。
「すごいです、ユートさん」
アレンが言った。
「勇者ツリーより枝が多いのではないか」
講師は水晶板を見ながら、明らかに困惑していた。
「荷物持ち系統で、ここまで枝があるのは初めて見た」
俺も初めて見た。
いや、誰でも初めてだろう。
まず「背負う」。
荷重分散
腰保護
肩紐調整
長距離歩行
背負わない判断
「背負わない判断」が最終スキルに近い位置にある。
かなり良い。
次に「結ぶ」。
基本結び
荷崩れ防止
濡れ縄対応
緊急固定
人を縛る時は法的根拠を確認
ミリアが吹き出した。
「最後、急に法的ね」
「前回までの影響だろ」
「黒幕を縛ってたものね」
「必要だ」
次に「畳む」。
衣類圧縮
油布収納
雨具即出し
マントは一枚
アレンが叫んだ。
「なぜ俺の話が入る!」
水晶板は無情だった。
「マントは一枚」は、かなり強く光っている。
神の加護を感じる。
次に「乾かす」。
濡れ布管理
靴乾燥
魔導書湿気対策
鍋乾燥
ノート乾燥確認
死のノートの名残がある。
「ノート乾燥確認」は危険筆記物処理の枝らしい。
次に「分類する」。
食料と薬を分ける
危険物と日用品を分ける
羊導線
使い魔は荷物か参加者か確認
王族名は別管理
リナが言った。
「これまでの事件が全部スキルになってますね」
「経験から生えたのか」
講師がうなずく。
「スキルツリーは経験に反応する。強く印象に残った行動が枝になることはある」
「羊導線も?」
「ある……のだろうな」
講師も自信がなさそうだった。
次に「記録する」。
荷札
台帳
拾得物記録
未来視メモ
未回収伏線一覧
危険物番号管理
文体復旧ログ
ミリアが言った。
「未回収伏線一覧まである」
「第一部完了届のせいだな」
「スキルなの、それ」
「たぶん」
次に「導線を見る」。
門前整理
避難民誘導
羊別導線
宝箱周辺確認
王宮召喚者受入動線
文書庫侵入経路確認
かなり実務的だ。
次に「補給を通す」。
水量確認
食料日数計算
小分け搬送
砦補給
鍋優先度判断
折り畳み台車活用
台車が光っている。
俺は少し嬉しい。
次に「危険物管理」。
筆記具回収
名前情報分離
撥水・撥墨処理
封印箱管理
特級危険筆記物対応
特級文体汚染筆記物対応
前回と前々回の成果が濃い。
次に「契約確認」。
約款読む
権限確認
責任範囲確認
肖像利用確認
帰還手順確認
呼ばれた側の同意確認
勇者召喚の項目まで入っている。
次に「文体監査」。
語尾異常検知
媒体差理解
公文書標準体
なのです→です応急置換
文体復旧宣言
世界中の作家が泣く
俺は頭を抱えた。
「最後がスキルに入っている」
ミリアが笑った。
「世界中の作家が泣く、スキルなの?」
「分からん」
講師は真面目に言った。
「共感系の補助スキルかもしれない」
「嫌な補助ですね」
最後に「鍋運用」。
湯を沸かす
粥を作る
消毒
音を出す
兜代用
鍋を通す
鍋は都市の再起に必要
セイルが微笑む。
「神聖な枝ですね」
アレンも頷く。
「鍋は大事だ」
ガルドも頷く。
「大事だ」
リナも頷く。
「大事です」
ミリアも少し悔しそうに言った。
「大事ね」
パーティ全員が鍋を認めている。
ここまで来たか。
水晶板の下に、俺の所持スキルポイントが表示された。
未使用ポイント:十八
多い。
講師が言った。
「これだけ実務経験があると、ポイントも多いな」
「どれに振るべきですか」
俺は聞いた。
講師は困った顔をした。
「普通なら主戦闘スキルを勧めるが」
「戦闘系統は?」
水晶板を探す。
隅のほうに小さくあった。
戦闘補助
枝。
聖剣を掲げる
邪魔にならない位置へ下がる
投げるな危険
以上。
ミリアが笑い崩れた。
「投げるな危険!」
「何を?」
「たぶん聖剣」
聖剣が強く光った。
『投げるな』
「投げない」
アレンが言う。
「戦闘力Fだからな」
「言うな」
「でも、それ以外が強すぎる」
「そうかもしれない」
俺は考えた。
十八ポイント。
戦闘に振っても、大きく伸びる気はしない。
なら、役割を伸ばすべきだ。
まず「背負わない判断」まで進める。
必要なものを持つより、不要なものを持たないほうが重要な時がある。
次に「小分け搬送」。
神製バッグの例外を減らすには、通常搬送能力が必要だ。
次に「危険物番号管理」。
死のノートとですノートの経験から、今後も必要になる。
次に「文体復旧ログ」。
まさか必要になるとは思わなかったが、もう必要になってしまった。
最後に「折り畳み台車活用」。
これは外せない。
ポイントを振る。
水晶板が光った。
背負わない判断:取得
胸の奥が軽くなる。
いや、本当に軽くなった気がする。
持たないことへの罪悪感が少し減る。
次。
小分け搬送:取得
荷物を分ける判断が、前より明確になった。
次。
危険物番号管理:取得
名前を出していい場面と駄目な場面が、少し鋭く分かる。
次。
文体復旧ログ:取得
これは、何が変わったのかよく分からない。
ただ、誰かの口調が少しでも変なら気づけそうな気がする。
次。
折り畳み台車活用:取得
台車の車輪の音が、やけに頼もしく聞こえた。
リナが言った。
「強くなりました?」
「戦闘ではないが、かなり強くなった気がする」
ミリアが水晶板を見る。
「物流方向にしか伸びてないわね」
「タイトル通りだ」
「何の?」
「いや、気のせいだ」
アレンが言った。
「それでいいのか? 戦闘系統を伸ばさなくて」
「俺が無理に戦うより、お前たちが戦える状態を作ったほうがいい」
アレンは少し考え、頷いた。
「そうだな。俺は剣を振る。お前は荷を通す」
「そうだ」
セイルが言う。
「役割が明確ですね」
ガルドが言う。
「分かりやすい」
講師も腕を組んで頷いた。
「スキルツリーは、自分が何者かを映す。戦闘系が少ないから弱いとは限らん」
「でも戦闘力Fです」
「そこは弱い」
「正直ですね」
「嘘は言わん」
講師は水晶板を見た。
「だが、このツリーは珍しい。前線で戦わず、前線を維持するツリーだ」
「前線を維持する」
「そうだ。戦える者が戦えるようにする。帰れる者が帰れるようにする。届くべき荷が届くようにする」
悪くない。
かなり悪くない。
その時、訓練場の扉が開いた。
受付嬢が顔を出した。
「すみません。ちょうどよかったです。小さな問題が」
「小さな問題?」
俺は警戒した。
この王都で小さな問題が小さかった試しは少ない。
受付嬢は紙を持っている。
「明日、新人冒険者向けにスキルツリー講習を行うのですが、さっそく問題が起きまして」
「何ですか」
「戦闘スキルだけに全振りする新人が続出しています」
やはり。
俺は額を押さえた。
「水や撤退や装備点検系統は?」
「ほとんど無視されています」
「でしょうね」
講師がため息をついた。
「強くなれると聞けば、攻撃に振りたくなる」
ミリアが言った。
「火力上昇、魅力的だもんね」
「あなたは振らなかった」
「学んだからよ」
アレンが言った。
「俺も見栄えには振らなかった」
「かなり偉い」
「もっと褒めていい」
「後で」
受付嬢は言った。
「それで、講習で少し話していただけないかと」
「またですか」
「はい」
「俺たちは冒険者ですか、それとも組合職員ですか」
「協力者です」
便利な言葉だ。
結局、短い講習をすることになった。
新人冒険者が二十人ほど集まる。
みんなスキルツリーを開いたばかりで、目を輝かせている。
剣士は斬撃強化。
魔法使いは火力上昇。
斥候は隠密。
治癒職は治癒量。
それぞれ分かりやすい枝を見ている。
俺は前に立った。
「スキルポイントを振る前に、一つ確認します」
新人たちがこちらを見る。
「最強技を取っても、帰り道の水がなければ死にます」
空気が止まった。
ミリアが後ろで小さく笑う。
俺は続ける。
「火力を上げても、味方を巻き込めば事故ります。剣技を上げても、突っ込みすぎれば孤立します。隠密を上げても、帰路を記録しなければ迷います。治癒量を上げても、自分が倒れれば終わりです」
新人たちの顔が少し引き締まる。
「攻撃スキルは大事です。でも、撤退、装備点検、水量確認、疲労管理、荷物固定、記録、導線確認を軽んじるな」
一人の新人剣士が手を上げた。
「でも、攻撃力が高ければ敵を早く倒せます」
「敵が一体ならな」
「複数なら?」
「足場が悪ければ?」
「雨なら?」
「怪我人を抱えていたら?」
「帰り道で別の魔物が出たら?」
新人は黙った。
ガルドが前に出た。
「突入しない勇気もスキルだ」
重い。
実戦経験者が言うと効く。
ミリアが続ける。
「火力上昇は魅力だけど、燃費改善と範囲制御がないと、味方の髪を燃やすわ」
新人魔法使いが自分の髪を押さえた。
セイルが言う。
「治癒職は、自分の休憩も取ってください。倒れた治癒職は、誰かを助けられません」
リナが言う。
「かわいい生き物には、すぐ触らないでください。大きくなることがあります」
新人たちは少し首をかしげた。
だが、リナは真剣だった。
アレンが前に出る。
「そして、見栄えに振りすぎるな」
新人たちはさらに首をかしげた。
「勇者様?」
「マントは一枚でいい」
講師が咳払いした。
「これは特定の勇者向けの話だ」
だが、一部の新人は真剣にメモしていた。
やめろ。
講習後、新人たちは少しだけ補助枝にもポイントを振るようになった。
斬撃強化だけでなく、撤退確認。
火力上昇だけでなく、範囲制御。
隠密だけでなく、帰路記録。
治癒量だけでなく、自己休憩。
よし。
かなり良い。
受付嬢はほっとしていた。
「助かりました」
「今後の台本に入れてください」
「はい。チュートリアル妖精にも追加します」
「妖精、元気ですか」
「最近、『分からないことは分からないと言う!』が口癖です」
「良いことです」
「ただ、何でも仕様書を求めるようになりました」
「成長です」
「そうでしょうか」
そうだ。
たぶん。
夕方、宿へ戻る。
折り畳み台車を引きながら歩く。
スキル取得のせいか、前より少し扱いやすい。
段差で傾く前に分かる。
車輪の音で、荷重の偏りが少し分かる。
これは便利だ。
かなり便利だ。
リナが隣で言う。
「スキルって、急に強くなるものじゃないんですね」
「そうだな」
「できていたことが、少し確かになる感じです」
「それはいい表現だ」
ミリアが言う。
「私も火力より制御に振って正解だったわ。ちょっと悔しいけど」
セイルが言う。
「私は休憩を取る理由ができました」
ガルドが言う。
「突入しない勇気は、意外と重い」
アレンが言う。
「俺は見栄え枝を我慢した」
「本当に偉い」
「今日一番の成長では?」
「そこまでは言わない」
聖剣が背中で光る。
『我に関する枝を伸ばさぬのか』
「聖剣適応はアレン側だ」
『だが、運搬者も関係ある』
「お前の鞘を適正管理する枝なら伸びるかもしれない」
『我は武器だ』
「長い荷物でもある」
『ぐぬ』
俺は木札に触れた。
「神よ。今回はどうでしたか」
『よい枝だった』
「物流方向にしか伸びませんでした」
『根がそうだからだ』
「根」
『スキルとは、己の積み重ねが枝になるもの』
「はい」
『ならば、お前の枝が荷に伸びるのは当然だ』
「戦闘方向には?」
『無理に伸ばすな。折れる』
「厳しい」
『持てる枝だけ伸ばせ』
「持てぬ枝は?」
『置いていけ』
やっぱりそうなる。
神はぶれない。
宿に戻ると、広報部の女性が待っていた。
またいる。
最近、宿の備品みたいになっている。
「聞きました! スキルツリー講習で新人たちを救ったそうですね!」
「救ったというほどでは」
「題名は決まっています!」
「でしょうね」
彼女は紙を出した。
スキルツリーが物流方向にしか伸びません
俺は黙った。
リナが笑った。
「そのままですね」
「そのままだな」
ミリアが言う。
「でも合ってるわ」
アレンが言う。
「俺の見栄え枝も入るか?」
「入れなくていい」
広報部の女性は目を輝かせた。
「見栄え枝、読者受けしそうです」
「載せるな」
「欄外に」
「載せるな」
アレンは少し残念そうだった。
本当に残念そうだった。
夜。
俺は荷物台帳に、新しいスキル取得を記録した。
取得スキル
背負わない判断。
小分け搬送。
危険物番号管理。
文体復旧ログ。
折り畳み台車活用。
見事に戦闘向きではない。
だが、悪くない。
俺は戦うために旅をしているわけではない。
いや、勇者パーティにいる以上、戦う場面はある。
だが、俺がするべきことは、仲間が戦えて、戻れて、食べられて、眠れて、荷物が届く状態を作ることだ。
スキルツリーは、それを見せた。
地味だ。
しかし、地味な枝がないと、派手な花は咲かない。
リナが台帳を見て言った。
「ユートさんらしいですね」
「そうだな」
「戦闘スキル、欲しくなかったですか?」
「少しは」
「少し」
「でも、俺が中途半端に戦闘へ振るより、台車をうまく使えるほうがたぶん強い」
リナは笑った。
「そう思います」
背中の聖剣が小さく光った。
『我も、台車に負けたのか』
「今日はな」
『今日もではないか?』
「言うな」
聖剣は黙った。
こうして俺たちは知った。
スキルツリーは、夢の枝を見せてくれる。
火力。
剣技。
奥義。
必殺。
見栄え。
どれも魅力的だ。
だが、伸ばした枝は背負わなければならない。
火力を上げれば制御がいる。
剣技を上げれば判断がいる。
治癒力を上げれば休憩がいる。
隠密を上げれば帰路記録がいる。
見栄えを上げればマントが増える。
そして、荷物持ちの枝は、やはり荷物へ伸びた。
背負う。
結ぶ。
畳む。
乾かす。
分類する。
記録する。
導線を見る。
補給を通す。
それは派手な枝ではない。
だが、旅を続けるための枝だった。
アレンは見栄え枝を我慢した。
ミリアは火力より制御を取った。
セイルは自己休憩を覚えた。
ガルドは突入しない勇気を得た。
リナはかわいい生物耐性を少し上げた。
俺は折り畳み台車活用を取得した。
物語は、きれいに一区切りを迎えた。
そう。
ここで終わっても、何の問題もない。
俺たちの枝分かれは、これからだ。
「折るなよ」
第二部・完




