第19話 ステータスオープン!
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!
第19話 ステータスオープン!
「ステータスを開けるようになりたくはありませんか?」
王都冒険者組合の受付嬢は、そう言った。
俺は黙った。
リナも黙った。
勇者アレンは少しだけ胸を張った。
ミリアは興味ありげに眉を上げた。
セイルは静かに頷いた。
ガルドは受付カウンターの横にある掲示板を見ていた。
いつも通りだった。
王都冒険者組合。
依頼掲示板。
受付窓口。
待合席。
壁には討伐依頼、採取依頼、護衛依頼、運搬依頼が貼られている。
床は泥で少し汚れており、空気には革と鉄と保存食の匂いが混じっていた。
いかにも冒険者の拠点。
いかにも便利な機能が解禁されそうな場所である。
リナが小声で言った。
「見たことあります」
「言うな」
「ステータスオープンです」
「言うな」
「自分の能力が見えるやつです」
「言うな」
「でもユートさんの場合、戦闘力より荷物の重さが出そうですね」
「そこだ」
受付嬢はにこりと笑った。
「最近、王都冒険者組合では、冒険者支援の一環として、簡易ステータス表示術式を導入しました」
「簡易ステータス」
「はい。能力値、適性、体調、装備状態などを可視化できます。若手冒険者の事故防止にも役立ちます」
「事故防止」
俺は少し興味を持った。
アレンは腕を組む。
「俺は王国公認勇者だ。ステータスなど見ずとも、自分の力は分かっている」
ミリアが横から言う。
「昨日の夕食も覚えてなかった人が?」
「それは別だ」
「別かしら」
セイルは受付嬢に尋ねた。
「体調も見えるのですか?」
「はい。疲労、魔力残量、怪我、脱水傾向なども表示できます」
ガルドが反応した。
「脱水も分かるのか」
「はい。遠征中の事故の多くは、戦闘より先に疲労や水不足で起きますので」
俺は頷いた。
「まともですね」
受付嬢は少し嬉しそうにした。
「ありがとうございます。実は、王立実技学院の遠征実習報告と、ダンジョン配信の反応を受けて、組合でも導入を急いだのです」
ミリアが俺を見た。
「また影響出てるわよ」
「検討が実装されたなら、珍しく良いことだ」
受付嬢は水晶板を出した。
「初回登録は無料です」
「二回目からは?」
「更新料がかかります」
「そういうところはしっかりしている」
「組合運営も大変ですので」
俺たちは、ステータス表示術式を試すことになった。
場所は組合の奥にある測定室。
中央には大きな水晶板。
壁には説明書。
ステータス表示は本人確認、魔力反応、装備認識に基づく簡易情報です。
過信せず、実際の体調・装備確認と併用してください。
俺はその文を見て頷いた。
「良い注意書きだ」
受付嬢が言う。
「過去に『ステータスが大丈夫と言ったから』と無理をした冒険者がいまして」
「表示は補助であって判断者ではない」
「その通りです」
まずはアレン。
水晶板に手を置く。
青い光が走る。
空中に文字が浮かんだ。
名前:アレン
職分:王国公認勇者
戦闘適性:A+
剣技:B+
統率:B
疲労:軽度
装備重量:やや過多
マント:一枚
注意:見栄え装備の追加傾向あり
部屋が静まり返った。
ミリアが吹き出した。
リナは口元を押さえた。
ガルドは顔をそらした。
セイルは微笑んだ。
アレンは水晶板を見つめて震えている。
「なぜマントが表示される」
受付嬢も困惑していた。
「装備状態の一部として認識されたようです」
「注意まで出ているぞ!」
「過去の装備傾向を反映する場合があります」
俺は頷いた。
「正しい」
「正しくない!」
「一枚を維持しろ」
「ステータスにまでマントを管理されるとは……」
次はミリア。
赤い光。
名前:ミリア
職分:魔法使い
魔力:A
火属性適性:A
制御:B
疲労:軽度
魔導書:一冊
注意:予備魔導書を増やしたい衝動あり
水分:やや不足
ミリアは目を細めた。
「衝動まで出るの?」
受付嬢が言う。
「装備登録履歴と本人の魔力反応から推定されます」
「嫌な推定ね」
俺は水袋を差し出した。
「飲め」
「今?」
「水分不足と出ている」
ミリアは少し不満そうにしながらも水を飲んだ。
「ステータスに言われると腹立つわね」
「事実なら従え」
次はセイル。
白い光。
名前:セイル
職分:僧侶
治癒適性:A
防護:B+
信仰安定度:A
疲労:中度
魔力残量:七十二%
注意:他者を優先し、自分の休憩を後回しにする傾向あり
セイルは静かに目を伏せた。
「見抜かれますね」
リナが心配そうに言う。
「セイルさん、疲れてたんですか?」
「少し」
「少しじゃないですね。中度です」
俺は言った。
「今日は休憩を早めに取る」
セイルは微笑んだ。
「分かりました」
次はガルド。
黄色い光。
名前:ガルド
職分:剣士
剣技:A
筋力:A−
持久:B
判断:C+
疲労:軽度
装備重量:適正
注意:突入傾向あり。撤退合図を事前確認すること
ガルドは短く言った。
「判断C+が残っている」
「むしろ改善点が明確だ」
俺は言った。
「撤退合図を確認してから突入しろ」
「分かった」
次はリナ。
緑の光。
名前:リナ
職分:斥候補助
敏捷:B+
観察:A
危機察知:A−
疲労:軽度
水分:適正
装備重量:適正
注意:かわいい生物への警戒低下あり
リナは顔を赤くした。
「それ、表示する必要あります?」
「ナベの件だな」
俺は言った。
「白雷獅子はかわいかったので」
「危険な生き物でもかわいいと近づく傾向がある、という意味ですね」
受付嬢が説明する。
リナは小さく頷いた。
「気をつけます」
最後に俺。
水晶板に手を置く。
光は、地味だった。
麻袋色。
いや、くすんだ茶色。
前にも見た色だ。
空中に文字が浮かぶ。
名前:ユート
職分:荷物持ち
能力:荷重管理
戦闘力:F
遠征補助適性:A
危険物管理適性:A−
契約確認適性:A
疲労:中度
腰:注意
水分:やや不足
残水量:全体四十二%
食料残量:二日分
鍋:一
ロープ:三
予備靴紐:不足
聖剣:長い
注意:強運加護に依存傾向あり
部屋が静かになった。
アレンがぽつりと言った。
「聖剣、長い」
聖剣が背中で光った。
『我を一語で済ませるな』
「事実だ」
ミリアが笑う。
「戦闘力Fなのに、項目が多いわね」
リナが心配そうに言った。
「ユートさん、疲労中度ですよ」
「腰も注意ですね」
セイルが言った。
ガルドがロープを見る。
「予備靴紐が不足しているらしい」
俺はすぐに荷袋を開けた。
確認する。
確かに、予備靴紐が少ない。
前回の山道で使った分を補充していなかった。
「これは便利だ」
俺は言った。
受付嬢が嬉しそうにする。
「お役に立てそうですか」
「かなり」
アレンが不満そうに言う。
「俺のステータスは、マントをいじっただけではないか」
「見栄え装備の追加傾向が事故要因として認識された」
「事故要因」
「正しい」
「くっ」
俺は自分の表示を見直した。
戦闘力F。
これはもういい。
問題はその下だ。
疲労中度。
腰注意。
水分やや不足。
残水量四十二%。
食料二日分。
予備靴紐不足。
強運加護依存傾向。
かなり刺さる。
ステータスとは、派手な能力値を見るものではない。
少なくとも俺にとっては、今足りていないものを見るものだ。
「この表示、遠征中でも使えますか」
「簡易版の携帯札があります」
受付嬢は小さな水晶札を出した。
「ただし、詳細表示には魔力を使います。頻繁に使うと札の充填が切れます」
「充填残量も見える?」
「見えます」
「よし」
「ただし有料です」
「いくら?」
金額を聞いて、少し高いと思った。
だが、事故防止になるなら悪くない。
俺たちは一つ購入した。
アレンが言った。
「勇者パーティなら、人数分持つべきでは?」
「予算は?」
アレンは黙った。
「まず一つで運用試験だ」
「手堅いな」
「手堅くない道具は荷物になる」
組合を出ようとした時、依頼掲示板の前で騒ぎが起きた。
若い冒険者たちが集まっている。
「新しい迷宮が見つかったらしいぞ!」
「初踏破報酬あり!」
「ステータス表示も導入されたし、いけるだろ!」
「俺の戦闘力Cだった!」
「俺はB!」
「やるぞ!」
受付嬢が顔をしかめた。
「またですか」
「また?」
「ステータスが見えるようになると、自分が強くなったと勘違いする人が出るのです」
俺はその若者たちを見た。
装備は新しい。
剣は光っている。
靴も新しい。
だが、水袋が小さい。
雨具がない。
食料も少ない。
鍋もない。
「止めたほうがいいですね」
俺は言った。
受付嬢が困った顔をする。
「組合として警告は出していますが、強制はできません」
アレンが前に出た。
「なら、勇者として声をかけよう」
若者たちの前に立つ。
「君たち、その迷宮に行くのか」
若者の一人が目を輝かせた。
「勇者アレン!」
「そうだ。迷宮へ行くなら、準備を確認しろ」
「大丈夫です! 俺、戦闘力Cでした!」
アレンは俺を見た。
俺は頷いた。
アレンは言った。
「戦闘力だけでは迷宮から帰れない」
若者たちは少し戸惑った。
「でも、魔物を倒せれば」
「水は?」
「え?」
「残水量は?」
「いや、まだ出発前なので」
「食料は?」
「半日分くらい」
「照明は?」
「一本」
「予備は?」
「ありません」
「撤退条件は?」
「敵が強かったら」
「遅い」
若者たちは黙った。
アレンは、少しだけ勇者らしい顔をしていた。
「ステータスは、自分の強さを見るためだけのものではない。足りないものを見るためのものだ」
俺は少し驚いた。
かなり良いことを言った。
アレンも成長している。
ただし、その直後にマントが風でなびいた。
一枚だ。
よし。
若者の一人が言った。
「でも、戦闘力が上がれば何とか」
俺は携帯水晶札を出した。
「試してみるか」
若者は水晶札に手を置いた。
表示が出る。
名前:登録なし
職分:新人冒険者
戦闘力:C
疲労:軽度
水分:適正
残水量:八%
食料:半日未満
照明:一
雨具:なし
予備靴紐:なし
鍋:なし
撤退判断:未設定
注意:初踏破報酬への過剰反応
若者は青ざめた。
「そんなところまで出るんですか」
「出るらしい」
ミリアが笑う。
「初踏破報酬への過剰反応、いいわね」
受付嬢は真面目にメモしている。
「この表示、注意喚起に使えますね」
若者たちは、しぶしぶ準備を見直すことになった。
水袋。
保存食。
予備照明。
雨具。
ロープ。
薬草。
そして班に一つ鍋。
鍋を持った若者が言った。
「本当に鍋いります?」
俺は黙って見た。
若者はすぐに言い直した。
「いります」
よし。
準備を整えた彼らは、出発前にもう一度ステータスを確認した。
残水量。
食料。
照明。
装備重量。
全部、改善している。
ただし、装備重量がやや過多になった。
「増やせばいいわけではない」
俺は言った。
「必要なものを持つ。不要なものを置く」
若者は剣を二本持っていた。
一本置いた。
よし。
組合の外で、受付嬢が俺たちに頭を下げた。
「助かりました。ステータス表示の説明に、あなた方の例を使わせていただいても?」
「名前は出さないでください」
「では、匿名教材で」
「鍋の人も禁止です」
受付嬢は少し目をそらした。
「努力します」
「努力ではなく禁止で」
「……はい」
俺たちは宿へ戻る前に、市場へ寄った。
予備靴紐を買う。
水も補充する。
携帯水晶札の充填石も一つ。
ミリアは追加の水袋を買った。
セイルは休憩用の薄い敷布を買った。
ガルドは撤退合図用の小笛を買った。
アレンはマント売り場を見た。
俺は見た。
アレンはそっと離れた。
よし。
宿に戻り、荷物を再確認する。
水晶札で表示する。
残水量:八十七%
食料:三日分
予備靴紐:適正
疲労:軽度から中度
腰:注意継続
鍋:一
注意:今日は早めに休め
「今日は休む」
俺は言った。
リナが頷いた。
「ステータスに従いましょう」
ミリアも伸びをする。
「水飲んだら少し楽になったわ」
セイルが微笑む。
「見えると、無視しづらいですね」
ガルドが言う。
「撤退合図も見直せた」
アレンは少し不満そうだったが、最後には頷いた。
「ステータスとは、自慢するものではないのだな」
「自慢してもいいが、まず足りないものを見ろ」
「分かった」
「マントも」
「分かった」
背中の聖剣が光った。
『我の表示が長いだけだったのは不満だ』
「長いからな」
『他に何かあるだろう』
「聖剣。長い。鞘あり。手入れ必要。通路注意」
『少し増えた』
「よかったな」
『よくはない』
俺は木札に触れた。
「神よ。今回はどうでしたか」
『よい可視化だった』
「ステータス表示、認めますか」
『見えることはよい。ただし、見えたものを背負えるかは別だ』
「はい」
『数値は荷を軽くしない』
「はい」
『だが、足りない荷を教えることはある』
「残水量ですね」
『そうだ』
「戦闘力Fは?」
『気にするな』
「少しは気にします」
『持てる分だけ持て。戦闘力も同じだ』
「持てない戦闘力は置いていけ?」
『そうだ』
「それでいいんですか」
『お前には別の荷がある』
ありがたいのか、戦闘力を諦められているのか、微妙だった。
夜。
宿の食堂で、俺たちは温かいスープを食べた。
鍋で作られた、普通のスープ。
ステータスには出ないが、こういうものも大事だ。
リナが言った。
「ステータス、便利でしたね」
「ああ」
「でも、見えすぎると怖いですね」
「だから、判断まで任せないほうがいい」
ミリアが言う。
「水分不足って出ると、妙に水飲まなきゃってなるわ」
セイルが頷く。
「自分の疲労を認めやすくなります」
ガルドが言う。
「判断C+は、少し腹が立つ」
「改善できる」
俺は言った。
アレンはマントを畳みながら言った。
「見栄え装備の追加傾向は、改善できるのか」
「できる」
「どうやって」
「買わない」
「厳しい」
「簡単だ」
アレンは何も言い返せなかった。
こうして俺たちは知った。
ステータスは、自分を強く見せるためのものではなかった。
戦闘力。
魔力。
剣技。
適性。
それらも大事だ。
だが、旅で最初に人を倒すのは、魔王ではない。
水不足。
疲労。
重すぎる荷物。
足りない照明。
切れた靴紐。
忘れた雨具。
そして、持ちすぎたマント。
見えるようになったからといって、荷物は軽くならない。
けれど、足りないものを知ることはできる。
ならば、数字は自慢ではなく点検に使うべきだった。
ステータス表示は導入された。
アレンのマントは一枚のままだった。
ミリアは水を飲んだ。
セイルは休むことを覚えた。
ガルドは撤退合図を確認した。
俺の戦闘力はFのままだった。
物語は、きれいに一区切りを迎えた。
そう。
ここで終わっても、何の問題もない。
俺たちの残水量は、これからだ。
「補給しろよ」
第二部・完




