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名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


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第16話 神製バッグを出すしかない状況になります

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第16話 神製バッグを出すしかない状況になります



「この荷物を、今日中に山向こうの砦まで運んでほしい」


王都北方補給局の役人は、そう言った。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは荷物の山を見て、少しだけ顔を引きつらせた。


ミリアは腕を組んだ。


セイルは静かに量を数えている。


ガルドは無言で荷車を探していた。


部屋の中央には、木箱が積まれていた。


十箱。


二十箱。


三十箱。


いや、もっとある。


保存食。


矢束。


治療薬。


防寒布。


予備の靴。


修理用金具。


油。


縄。


そして、なぜか鍋。


大鍋が二つ。


悪くない。


いや、そうではない。


「確認します」


俺は役人に言った。


「今日中に、山向こうの砦まで?」


「はい」


「道は?」


「先日の雨で一部崩れています」


「荷車は?」


「通れません」


「馬は?」


「途中の崖道が狭く、使えません」


「人手は?」


「砦の兵は出払っています。こちらも人員不足です」


「つまり、人力で?」


「はい」


「この量を?」


「はい」


俺は深く息を吐いた。


リナが小声で言った。


「無理では?」


「無理だな」


役人が慌てる。


「しかし、砦の物資が尽きかけています。明朝までに補給が届かなければ、北の魔物の群れに対応できません」


アレンが真剣な顔になった。


「それは見過ごせない」


ミリアもうなずく。


「砦が落ちたら、近くの村も危ないわね」


セイルが言う。


「治療薬も含まれているなら、急ぐべきです」


ガルドが木箱を一つ持ち上げようとして、すぐに下ろした。


「重い」


俺は役人を見た。


「なぜもっと早く依頼しなかったんですか」


役人は目をそらした。


「通常ルートで輸送隊を出したのですが、崖崩れで戻されまして」


「代替ルートの確認は?」


「検討中でした」


「検討している間に詰んだんですね」


「……はい」


また検討である。


検討は大事だ。


だが、検討中に腹は減る。


砦の兵は、検討では食えない。


俺は木札に触れた。


「神よ」


頭の中に声が響く。


『聞いている』


「どう見ますか」


『荷が多い』


「見れば分かります」


『道が細い』


「それも分かります」


『持てる分だけ持て』


「持てる分だけでは足りません」


沈黙。


神が黙った。


珍しい。


リナが俺を見る。


「神様、何て?」


「黙った」


「えっ」


アレンが驚いた顔をした。


「神も黙るのか」


「黙る時はある」


頭の中に、重い声が響いた。


『……今回は、例外を考える』


俺は背筋が少し冷えた。


例外。


その言葉は、この信仰では重い。


持てる分だけ持て。


持てぬものは置いていけ。


箱に逃げるな。


それが神の教えだ。


だが、それでも持たなければならない荷がある。


置いていけば、人が死ぬ荷がある。


その時だけ、神は例外を出す。


神製・緊急避難用荷袋。


見た目も機能も、ほぼアイテムバッグ。


だが、神は絶対にそう呼ばない。


「神よ」


俺は小さく言った。


「本当に?」


『本当に詰んでいる』


「強運で何とかなりませんか」


『今日は無理だ』


「荷車が偶然来るとか」


『崖道を通れぬ』


「商隊が」


『間に合わぬ』


「分身術で」


『消えたら荷が落ちる』


「聖剣で」


『斬っても荷は減らぬ』


「変身で」


『三十秒では運べぬ』


「召喚獣で」


『飼っていない』


「未来視で」


『未来を見ても、荷は軽くならぬ』


全部、駄目だった。


神の声は、いつもより低い。


『使え』


「……神製バッグを?」


『名を呼ぶな』


「すみません」


『緊急避難用荷袋だ』


「はい」


リナが不安そうに聞いた。


「ユートさん?」


俺はみんなを見た。


「神が、例外を出す」


ミリアの顔が変わった。


「例外って、まさか」


セイルが静かに言う。


「神製の荷袋ですか」


ガルドが腕を組む。


「前に話していた禁忌のやつか」


アレンは真剣な顔でうなずいた。


「ついに出るのか」


俺は頷いた。


「ただし、これは便利アイテムではない」


「分かっている」


アレンは言った。


「使うと、強運が消えるのだったな」


「そうだ」


神製・緊急避難用荷袋。


神が血反吐を吐く思いで作った例外。


収納ではない。


神いわく、信徒が背負うべき荷を、一時的に神が一緒に背負っているだけ。


だが、維持に神力を全振りする。


その間、俺の強運加護は消える。


つまり、普通になる。


宿は満室なら満室。


雨は降るなら降る。


馬車は来ないなら来ない。


落とした財布は戻らない。


くじは外れる。


タライは落ちないが、幸運もない。


俺にとっては、かなり怖い。


強運は、これまでずっと俺たちを支えてきた。


派手ではない。


だが、雨の前に宿へ着き、必要な時に荷車があり、偶然いい鍛冶屋が見つかる。


それが消える。


「やるしかないか」


俺は言った。


木札が熱くなった。


空気が重くなる。


床に、小さな光の輪が生まれた。


その中央から、古びた布袋が現れる。


見た目は普通の背負い袋。


ただし、表面に神の紋章が大きく刺繍されている。


背負い袋にタライが降臨している紋章。


かなり目立つ。


袋の口には、細い金糸で文字が縫われていた。


これは収納ではない。緊急避難である。


ミリアが小声で言った。


「言い訳が刺繍されてる」


「言うな」


リナが袋を見つめる。


「かわいい……ですかね?」


「判断に困るな」


アレンが紋章を見て言った。


「タライが堂々としている」


「降臨だからな」


セイルは手を合わせた。


「神具ですね」


ガルドは冷静に言った。


「容量は?」


俺は袋を持ち上げた。


軽い。


だが、手にした瞬間、胸の奥がすっと静かになった。


いつもの強運の温かさが消える。


道の先に何かありそうな感覚。


必要なものが偶然そろう感覚。


そういうものが、消えた。


ただの俺になった。


「……強運が消えた」


リナが心配そうにする。


「大丈夫ですか?」


「分からん」


神の声が響いた。


いつもより遠い。


『今、我は荷袋を支えている』


「はい」


『助言は少なくなる』


「分かりました」


『頼れ』


「誰に?」


『仲間に』


俺は少し黙った。


それから頷いた。


「分かりました」


役人が袋を見て目を丸くしている。


「これは、アイテムバッグですか?」


俺と神が同時に反応した。


「違います」


『違う』


役人はびくっとした。


「す、すみません」


「緊急避難用荷袋です」


「はあ」


「収納ではありません」


「はあ」


「神が一緒に背負っているだけです」


「はあ……」


役人は明らかに理解していない。


それでいい。


俺も完全には理解していない。


俺たちは荷物を詰め始めた。


保存食。


矢束。


治療薬。


防寒布。


修理用金具。


油。


縄。


鍋。


袋の口は小さいのに、木箱がすっと入る。


消えるのではない。


神域に置いている。


そういうことになっている。


ただし、入れるたびに袋が小さく震えた。


そして、頭の中から神の低いうめき声が聞こえる。


『ぐ……』


「神様?」


『問題ない』


「今、明らかに」


『問題ない』


「本当に?」


『鍋は丁寧に入れろ』


「そこは見るんですね」


鍋を丁寧に入れる。


神の機嫌が少し戻った気がした。


全ての荷物を入れ終わると、袋は見た目には少し膨らんだだけだった。


重さはある。


完全に無重量ではない。


俺が背負える範囲の重さだ。


ただし、体の奥にずしりとした圧がある。


これは、荷物の重さというより、例外を使っている重さだ。


「行こう」


俺は言った。


王都北門を出る。


空は曇っていた。


いつもの強運なら、雨は避けられることが多い。


だが今日は違う。


門を出て十分で、雨が降り始めた。


普通に降った。


ミリアが空を見上げる。


「本当に運が消えてるわね」


「言うな」


リナがすぐに雨具を出す。


「雨具、上に入れておいてよかったです」


「今日は準備だけが頼りだ」


アレンが頷く。


「なら、いつも以上に手順通りに行こう」


いいことを言う。


アレンもかなり成長した。


いや、マントはまだ一枚だが。


道は悪かった。


ぬかるみ。


倒木。


小さな崩落。


普段なら、なぜか通れる道がある。


今日はない。


全部、普通に面倒だった。


ガルドが倒木をどかす。


ミリアがぬかるみを少し固める。


セイルが滑って足を痛めた避難民を治療する。


リナが地図と道を照合する。


アレンが全体の進行をまとめる。


俺は袋を背負い、ただ歩く。


強運がないと、旅はこんなに引っかかるのか。


いや、本来はこれが普通なのだ。


俺は今まで、かなりズルをしていた。


昼過ぎ。


崖道に差しかかった。


片側は岩壁。


片側は谷。


道幅は狭い。


荷車は通れない。


馬も無理。


人が一列で進むしかない。


ここで問題が起きた。


道の途中に、大きな岩が転がっていた。


普通なら、強運で別道が見つかる。


今日はない。


岩はそこにある。


重い。


邪魔。


動かすしかない。


ガルドが押す。


アレンも押す。


動かない。


ミリアが魔法で砕こうとするが、崖道で破片が危ない。


セイルは周囲を確認する。


リナが岩の下を見る。


「少し浮いてます」


「てこの原理か」


俺は言った。


棒。


石。


ロープ。


全員で押す。


少しずつ動く。


岩は、ようやく谷側ではなく岩壁側にずれた。


通れる幅ができた。


派手な奇跡はない。


ただの作業だ。


だが、通れた。


アレンが息を吐いた。


「強運がなくても、何とかなるものだな」


「何とかしたからな」


「いつもは、何とかなっていた」


「今日は、何とかするしかない」


リナが笑った。


「これも旅ですね」


「かなり疲れる旅だ」


さらに進む。


雨は止まない。


靴は濡れる。


肩は痛い。


袋は軽いはずなのに、重い。


神力で支えているのに、それでも重い。


いや、これは俺だけの重さではない。


神も支えている。


だからこそ、雑に扱えない。


夕方前、砦が見えた。


山の斜面に建つ小さな石砦。


門の上には兵士。


煙が上がっている。


遠くの森には、魔物の影が見える。


間に合った。


いや、まだだ。


届けるまでが荷物だ。


砦の門に着くと、兵士たちが駆け寄ってきた。


「補給か!」


「王都からです」


俺は袋を下ろした。


その瞬間、膝が少し震えた。


強運なしの山道。


雨。


崖。


岩。


そして神製袋。


思った以上に疲れていた。


リナが肩を支えてくれる。


「大丈夫ですか?」


「ああ」


「顔色悪いですよ」


「普通の旅がつらい」


「普段が幸運すぎたんですね」


「そうらしい」


俺は袋の口を開いた。


保存食の木箱を出す。


矢束。


治療薬。


防寒布。


金具。


油。


縄。


鍋。


全部、無事だ。


兵士たちが歓声を上げた。


「助かった!」


「これで今夜を越せる!」


「矢だ! 矢が来たぞ!」


「鍋もある!」


鍋で歓声が上がった。


よし。


鍋は大事だ。


砦の隊長が俺たちに頭を下げた。


「本当に助かった。通常の輸送隊が戻され、もう駄目かと」


アレンが胸を張る。


「王国公認勇者として、当然のことをしたまでだ」


ミリアが小声で言う。


「今日はユートがほとんど背負ってたけどね」


「言わないでやれ」


アレンも頑張った。


岩を押したし、進行もまとめた。


勇者として、だいぶまともになっている。


砦の倉庫へ物資を運び込み、受領書に署名をもらう。


書類は大事だ。


例外を使ったからこそ、記録は必要だ。


俺は受領書を確認した。


数量。


状態。


到着時刻。


受領者。


全部問題なし。


その時、砦の外で鐘が鳴った。


魔物の群れが近づいている。


補給は間に合ったが、戦闘はこれからだ。


アレンが剣を抜く。


ミリアが杖を構える。


セイルが祈る。


ガルドが前に出る。


リナが短剣を握る。


俺は聖剣に手をかけた。


だが、神製袋を使っている間、強運はない。


聖剣はある。


仲間もいる。


それで戦うしかない。


聖剣が光った。


『今日は、荷物ではなく武器として扱え』


「分かってる」


『強運はないのだろう』


「ああ」


『なら、我を頼れ』


「頼む」


聖剣を抜く。


砦の壁上に立つ。


雨の中、魔物の群れが迫ってくる。


狼型の魔物。


数は多い。


だが砦には矢が届いた。


油もある。


縄もある。


治療薬もある。


鍋で湯も沸かせる。


補給が間に合った砦は、戦える。


アレンが号令を出す。


「弓隊、構え!」


矢が放たれる。


ミリアの火球が森の入口を照らす。


セイルの結界が門を守る。


ガルドが破られかけた柵を支える。


リナが伝令として走る。


俺は聖剣を掲げる。


光が矢に乗る。


魔物が倒れる。


派手な決戦ではない。


籠城戦。


補給戦。


砦の兵たちの戦い。


俺たちが持ってきた荷物が、そのまま力になる。


矢は敵を止める。


油は足場を守る。


縄は柵を縛る。


治療薬は負傷者を戻す。


防寒布は冷えた兵を守る。


鍋は湯を沸かす。


荷物が戦っている。


俺は初めて、神製袋を使った意味を少し理解した。


これは便利だから使うものではない。


荷物が、本当に命に変わる時だけ使うものだ。


夜半。


魔物の群れは退いた。


砦は守られた。


負傷者はいたが、死者はいなかった。


隊長は、また深く頭を下げた。


「補給がなければ、持ちませんでした」


俺は首を振った。


「間に合ってよかった」


それだけだった。


砦の倉庫の隅で、俺は神製袋を前に置いた。


「神よ」


声は遠い。


『……聞いている』


「ありがとうございました」


『荷は届いたか』


「届きました」


『ならよい』


「疲れましたか」


『かなり』


「戻します」


『そうせよ』


袋の口が淡く光る。


紋章が一度だけ揺れた。


これは収納ではない。緊急避難である。


その文字が薄くなり、袋は光の粒になって消えた。


同時に、胸の奥に、いつもの温かさが少しずつ戻ってきた。


強運の加護だ。


完全ではない。


まだ薄い。


神が疲れているのだろう。


それでも、戻ってきた。


その瞬間、外の雨が少し弱まった。


リナが窓の外を見る。


「雨、弱くなりましたね」


「神が戻った」


「分かりやすいですね」


「分かりやすすぎるな」


アレンが隣に座った。


「ユート」


「何だ」


「今日は、例外を使わなければ守れなかった」


「ああ」


「だが、例外を使うのは重いな」


「そうだ」


「便利だから使うのではない。必要だから使う」


「分かってきたな」


アレンは苦笑した。


「お前と旅をしていると、勇者より補給係になりそうだ」


「勇者にも補給は必要だ」


「それも分かってきた」


ミリアが毛布をかぶりながら言った。


「今日は強運がないの、地味に怖かったわ」


セイルがうなずく。


「普段の加護のありがたさが分かりました」


ガルドが言う。


「だが、加護なしでも歩ける準備は必要だ」


「その通りだ」


俺は言った。


リナが小さく笑う。


「神様製バッグ、次も使います?」


「できれば使わない」


「ですよね」


「本当に詰んだ時だけだ」


砦の夜は冷えた。


だが防寒布がある。


湯がある。


鍋がある。


兵たちは交代で休み、俺たちも倉庫の隅で眠った。


翌朝。


雨は止んでいた。


空は曇っているが、道は昨日よりましだった。


王都へ戻る前に、隊長が補給局宛の報告書を渡してきた。


「今回の件、通常輸送に頼りすぎていたことを反省します。代替ルートと山道用の小分け梱包を整備します」


「ぜひ」


「それと、鍋を二つ送ってくれた判断は正しかった」


「でしょう」


「砦では鍋が足りていなかった」


「重要です」


隊長は真剣にうなずいた。


また一人、鍋の重要性を理解した。


俺たちは砦を出た。


帰り道は、行きより少し楽だった。


荷物がないからではない。


いや、荷物がないのも大きい。


だがそれ以上に、例外を使わずに歩けることが少し嬉しかった。


持てる分だけ持つ。


持てぬものは置いていく。


だが、置けば誰かが死ぬ荷がある。


その時だけ、神は一緒に背負う。


それは教義の敗北ではない。


たぶん。


それは、教義を守るための例外なのだ。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回はどうでしたか」


『重かった』


「はい」


『だが、届いた』


「はい」


『例外とは、便利の別名ではない』


「今回の教義ですか」


『採用』


「重いですね」


『重かったからな』


「はい」


『持てぬ荷でも、置けば誰かが死ぬなら、持つ方法を探せ』


「それも教義ですか」


『採用』


「神様、今回はかなり踏み込みますね」


『例外を出したからな』


「はい」


『ただし、次は使うな』


「できれば」


『次は使うな』


「はい」


こうして俺たちは知った。


神製バッグは、便利な収納袋だけでできているわけではなかった。


荷物がある。


砦がある。


補給期限がある。


崩れた道がある。


通れない荷車がある。


足りない人手がある。


消える強運がある。


疲れる神がいる。


そして、例外を使うだけの理由がいる。


便利な袋は、便利だから使うものではなかった。


それは、持てぬ荷を見捨てないための最後の例外だった。


だが例外には代価がある。


神力は袋を支えるために使われ、強運は消える。


偶然は助けてくれない。


雨は降る。


道は崩れる。


岩はどかない。


その時、人は自分の準備と仲間を頼るしかない。


だから、例外は軽く使ってはいけない。


本当に詰んだ時だけ、血反吐を吐く神に頭を下げて使うのだ。


補給物資は砦に届いた。


砦は守られた。


神製袋は消えた。


神はかなり疲れた。


鍋は役に立った。


アレンは補給の重さを少し理解した。


隊長は山道用の小分け梱包を検討し始めた。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの例外運用は、これからだ。


「次は使うなよ」


第十六部・完

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