第1話 伝説の宝珠を集めるだけの簡単なお仕事です
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!
第1話 伝説の宝珠を集めるだけの簡単なお仕事です
「七つではない。八つだ」
俺は、そう言った。
誰に向けて言ったのかは、自分でもよく分からない。
ただ、この世界には時々、先に言っておかなければならない気配というものがある。
「八つ集めると、どんな願いでも一つ叶う宝珠。七つではない。八つだ。だから問題ない」
「何が問題ないんですか?」
隣に立っていた少女、リナが首をかしげた。
腰には短剣。
動きやすい旅装。
いかにも序盤で仲間になるタイプの少女である。
実際、序盤で仲間になった。
今のところ、俺たちのパーティは二人だけだ。
俺。
ユート。
職業、荷物持ち。
そしてリナ。
斥候見習い。
まだ勇者もいない。
魔法使いもいない。
僧侶もいない。
無口な剣士もいない。
つまり、黙る人数が少ない。
「いや、こっちの話だ」
「またですか」
「まただ」
俺たちの前には、古びた石造りの台座があった。
その上に、拳より少し大きい丸い珠が一つ置かれている。
赤い。
いや、正確には赤みがかった橙色で、内部に星のような模様が浮かんでいた。
いかにも神秘の秘宝という見た目である。
村の長老は言った。
この世界には、八つの宝珠がある。
八つすべてを集めれば、どんな願いでも一つ叶う。
失われた王国を復活させることも。
死者を蘇らせることも。
魔王を消すことも。
伝説の料理店の予約を取ることも。
最後だけ妙に俗っぽいが、長老は大真面目だった。
「これが一つ目の宝珠ですね」
リナが言った。
「ああ」
俺は台座の上の宝珠を見下ろした。
伝説の宝珠。
願望成就の秘宝。
世界に散らばる八つの珠。
それを集める旅が、今まさに始まろうとしている。
いかにも物語の導入らしい。
ここで空が光り、風が吹き、俺が宝珠を手にして、壮大な冒険が始まる。
そういう流れのはずだった。
俺は宝珠に手を伸ばした。
持ち上げようとした。
「ふんっ」
持ち上がらなかった。
俺は黙った。
リナも黙った。
長老は真剣な顔をしていた。
「……あれ?」
もう一度、力を込める。
「ふんぬっ」
持ち上がらない。
宝珠は台座の上で、まるで世界の根にでも接続されているみたいに動かなかった。
リナが横からのぞき込む。
「どうしたんですか?」
「重い」
「宝珠が?」
「重い」
「でも、拳くらいですよ?」
「見た目はな」
俺は両手で宝珠をつかんだ。
腰を落とす。
背中に力を入れる。
俺は荷物持ちだ。
荷物を持つことには慣れている。
酒場の椅子を片手で引ける。
宿の荷箱も持てる。
旅用の鍋も背負える。
だが、宝珠は動かない。
「ぐ、ぐぐぐ……!」
石畳がきしんだ。
俺の膝が笑った。
宝珠は笑わなかった。
「これ、本当に宝珠か? 村の漬物石じゃないか?」
「願いが叶う漬物石って嫌ですね」
「願いより先に腰が終わる」
その時、背後から長老が咳払いをした。
「その宝珠は、古来より村に伝わる秘宝じゃ」
「重すぎませんか?」
「神秘とは重いものじゃ」
「説明になっていません」
「ちなみに先代の勇者は、それを持ち上げようとしてぎっくり腰になった」
「勇者の敗因が物流」
長老は真剣な顔でうなずいた。
「だからこそ、おぬしたちに託したい。八つの宝珠を集め、世界を救うのじゃ」
「一つ目が運べません」
「そこをなんとか」
「願いを叶える前に、運搬計画を叶えてほしい」
リナが手を叩いた。
「あ、そうだ。アイテムボックスを使えばいいんじゃないですか?」
その瞬間、場の空気が凍った。
俺は反射的に一歩下がった。
長老も一歩下がった。
近くにいた村人たちも一歩下がった。
リナだけが不思議そうにしている。
「え? 何ですか?」
俺は声をひそめた。
「リナ。その言葉は、俺の前ではあまり言わないほうがいい」
「アイテムボックスですか?」
「二回言ったな」
「え、禁句なんですか?」
「信仰上の理由で」
「宗教だったんですか?」
「宗教だ」
俺は胸元から小さな木札を取り出した。
そこには、背負い袋にタライが落ちているような紋章が刻まれている。
リナが目を細めた。
「何ですか、その変なマーク」
「変ではない。神聖な紋章だ」
「背負い袋にタライが落ちていますけど」
「落ちているのではない。降臨している」
「物は言いようですね」
俺が信仰しているのは、荷運びと徒歩旅の神である。
神名は長い。
正確には、持てる分だけ持て、持てぬものは置いていけ、箱に逃げる者には五歩目でタライを与える神、という。
長いので、俺は勝手に荷物の神と呼んでいる。
超マイナー神だ。
教会はない。
聖地もない。
司祭もいない。
信徒は、たぶん俺しかいない。
そのせいで、神の加護は俺一人に全振りされている。
おかげで俺は妙に運がいい。
道に迷えば商隊に出会う。
野宿の日だけ雨が止む。
落とした財布はだいたい戻ってくる。
宿の最後の一部屋は、なぜか俺のために空いている。
ただし、その加護には一つだけ重い戒律がある。
アイテムボックスを持ってはならない。
持った瞬間、加護は反転する。
強運ではなく、悪運になる。
そして五歩目でタライが落ちてくる。
「本当に落ちるんですか?」
リナが聞いた。
「落ちる」
「外なら分かりますけど、室内でも?」
「落ちる」
「洞窟でも?」
「落ちる」
「天井が低くても?」
「神は天井を問わない」
「怖いですね」
「俺もそう思う」
以前、うっかり中古のアイテムボックスを持ったことがある。
質屋で安かった。
見た目は普通の革袋だった。
店主は言った。
中に大容量の収納空間がある便利な品だ、と。
俺は思った。
少し持つだけならいいだろう、と。
一歩。
二歩。
三歩。
四歩。
五歩目で、タライが落ちた。
しかも地下室で。
天井は低かった。
梁もあった。
だが落ちた。
あれ以来、俺は神の実装を疑っていない。
「でも、今回ばかりは使わないと無理じゃないですか?」
リナが宝珠を見る。
俺も宝珠を見る。
台座の上に鎮座する赤い球体。
願いを叶える秘宝。
だが運べない。
物語が始まる前に詰んでいる。
「いや、まだ手はある」
「何ですか?」
「祈る」
「神頼みですか」
「信徒だからな」
「でも、その神様の教会ってないんですよね?」
「ない」
「じゃあ、どこで祈るんですか?」
俺は村の外れを指さした。
そこには、小さな礼拝堂があった。
豊穣神の礼拝堂である。
「何の教会でもいい」
「いいんですか?」
「教会っぽい建物に向かって祈れば、だいたい届く」
「通信の相乗りみたいなことしてません?」
「神々の間では、空き帯域の有効活用と呼ばれている」
「たぶん呼ばれていないと思います」
俺は礼拝堂の前に立った。
豊穣神の像が、優しい顔で麦の束を抱えている。
その前で、俺は荷物の神の木札を掲げた。
「偉大なる荷物の神よ」
リナが小声で言った。
「ここ、豊穣神の礼拝堂ですよ」
「回線が太そうだから」
「回線って言いました」
俺は目を閉じ、祈った。
「我が神よ。持てる分だけ持て、持てぬものは置いていけと教えたもうた神よ。今、我らの前に願いを叶える宝珠があります。しかし、重すぎて持てません。これは置いていくべきでしょうか」
沈黙があった。
かなり短い沈黙だった。
そして、頭の中に声が響いた。
『置いていけ』
「即答しないでください」
『持てぬものは置いていけ』
「教義通りすぎる」
『教義とは、そういうものだ』
神の声は渋かった。
渋いが、どこか疲れている。
信徒が俺しかいないため、俺の祈りにはだいたい即応してくれる。
ありがたい。
ただし返答はだいたい地味だ。
「でも神よ。この宝珠を集めないと、物語が始まりません」
『ならば物語を置いていけ』
「そこを置いたら終わりです」
『終われば荷は軽くなる』
「打ち切り思想やめてください」
リナが隣で不安そうにしている。
「何か聞こえてるんですか?」
「神が物語を終わらせようとしている」
「神様なのに?」
「神様だからこそ、重い荷を嫌う」
俺は祈りを続けた。
「神よ。せめて運搬手段をください」
『近くに荷車がある』
「どこですか?」
『村長の納屋』
「まともな助言だ」
『ただし壊れている』
「まともではなかった」
俺たちは長老の納屋へ向かった。
そこには確かに荷車があった。
ただし、車輪が一つ外れていた。
リナが言った。
「壊れていますね」
「神よ?」
『直せば使える』
「奇跡がDIY」
俺たちは荷車を直すことにした。
リナが車輪を持ち上げ、俺が軸を合わせる。
長老が古い釘を持ってくる。
村人が縄を持ってくる。
なぜか通りすがりの鍛冶屋が、ちょうど予備の金具を持っていた。
これは加護だ。
強運の加護は、いつもこういう地味な形で来る。
剣が光ったり、魔王が爆発したりはしない。
ただ、必要な時に必要な道具がなんとなく近くにある。
ありがたい。
ただし、絵面は地味だ。
一時間後、荷車は直った。
「よし、これで宝珠を運べる」
「普通に労働しましたね」
「奇跡とは、労働を少しだけ成功しやすくするものだ」
「ありがたいような、ありがたくないような」
俺たちは荷車を台座の横につけた。
村人たちも手伝いに来てくれた。
男四人。
女二人。
なぜか犬一匹。
総出で宝珠を持ち上げる。
「せーの!」
宝珠は、少しだけ浮いた。
「いける!」
「荷車に!」
「腰に気をつけろ!」
「犬、そこどけ!」
なんとか宝珠を荷車に載せた瞬間、荷車が沈んだ。
ぎしり、と嫌な音がした。
俺は荷車を見た。
リナも見た。
長老も見た。
村人たちも見た。
犬は見ていなかった。
「これ、八つ載りますか?」
リナが言った。
「載らない」
「即答ですね」
「一つでこれだ」
八つ集めると願いが叶う。
響きは壮大だ。
だが、実際には八つの重量物を回収する仕事である。
しかも一つ目の時点で荷車が悲鳴を上げている。
「世界を救う旅って、大変なんですね」
リナが言った。
「これは世界を救う旅ではないかもしれない」
「じゃあ何ですか?」
「回収業だ」
「夢がないですね」
その時、長老がやって来た。
「おお、宝珠を載せられたか。さすがは冒険者じゃ」
「長老。確認したいんですが」
「何じゃ?」
「残りの宝珠は世界中に散らばっているんですよね?」
「そう伝わっておる」
「場所は分かりますか?」
「うむ」
長老は一枚の古地図を広げた。
そこには八つの印がついていた。
俺は地図を見た。
リナも見た。
そして二人で黙った。
八つの印は、全部この村の周辺にあった。
一つは村長の家。
一つは井戸の横。
一つは古い水車小屋。
一つは村の裏山。
一つは共同墓地。
一つは鍛冶屋の庭。
一つは礼拝堂の床下。
一つは、今まさに荷車に載せた台座の上。
「長老」
「何じゃ?」
「世界中に散らばっていると聞きましたが」
「昔はそうじゃった」
「今は?」
「先々代の村長が、世界中から取り寄せた」
「取り寄せた?」
「置き場所がなくてな。村のあちこちに分散保管しておる」
「世界規模の秘宝を村内在庫にするな」
リナが地図をのぞき込む。
「じゃあ、今日中に全部集められますね」
「そうだな」
「よかったじゃないですか」
「よくない」
「何でですか?」
俺は荷車を指さした。
「一つでこれだぞ」
八つの宝珠は、世界中には散らばっていなかった。
だが、村内には散らばっていた。
近い。
近いが、重い。
距離の問題ではなかった。
重量の問題だった。
その日、俺たちは村中を回った。
村長の家にあった青い宝珠は、漬物石として使われていた。
井戸の横の緑の宝珠は、子供たちの腰掛けになっていた。
水車小屋の黄色い宝珠は、水車の固定具にされていた。
裏山の黒い宝珠は、山の神の祠に勝手に供えられていた。
共同墓地の白い宝珠は、墓石と間違えられていた。
鍛冶屋の庭の紫の宝珠は、金床の代用品になっていた。
礼拝堂の床下の銀の宝珠は、豊穣神の像を安定させる重しになっていた。
全部、雑に使われていた。
「願いを叶える秘宝ですよね?」
リナが言った。
「村の人たちにとっては、ちょうどいい重しだったんだろう」
「扱いがひどい」
「伝説も日常に置かれると備品になる」
「名言っぽく言ってますけど、ひどいです」
特に大変だったのは、礼拝堂の床下の銀の宝珠だった。
豊穣神の像が少し傾いていたので、その下に入れて安定させていたらしい。
「神像の重しに、願いを叶える宝珠を使うな」
俺は言った。
長老は真剣にうなずいた。
「よく安定した」
「性能評価がそこなのか」
銀の宝珠を抜くと、豊穣神の像が少しぐらついた。
俺たちは慌てて木材を挟んだ。
豊穣神の礼拝堂を経由して荷物の神へ祈っている身としては、ここで豊穣神の像を倒すわけにはいかない。
リナが言った。
「神様同士の関係、大丈夫なんですか?」
「今、木材を挟んだから大丈夫だ」
「そういう話ですか?」
「神々も支えが必要なんだろう」
「雑ですね」
夕方。
八つの宝珠は、村の広場へ集まった。
集まった、というより、集めさせられた。
俺たちの腰は限界だった。
村人たちもへとへとだった。
犬は途中で飽きて帰った。
八つの宝珠が円形に並ぶ。
赤。
青。
緑。
黄。
黒。
白。
紫。
銀。
夕日に照らされ、宝珠たちは不思議な光を放ち始めた。
空気が震える。
風が止まる。
村人たちが息を呑む。
ついに、願いが叶う瞬間が来た。
八つの宝珠の中心に光が集まる。
そこから、巨大な影が立ち上がった。
角のある竜。
長いひげ。
威厳ある目。
伝説の存在。
願いを叶える神秘の竜。
ただし、八つなので問題ない。
たぶん。
竜は広場に響く声で言った。
『八つの宝珠を集めし者よ。願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう』
村人たちが歓声を上げた。
リナが俺を見る。
長老も俺を見る。
俺は竜を見上げた。
願い。
どんな願いでも叶う。
魔王を倒すこともできる。
大金持ちになることもできる。
失われた王国を復活させることもできる。
世界を平和にすることもできる。
伝説の料理店の予約も、おそらく取れる。
俺は少し考えた。
そして言った。
「この作品が打ち切られませんように」
竜は黙った。
村人たちも黙った。
リナが俺の袖を引いた。
「何を願ってるんですか」
「大事なことだ」
竜は重々しく首を振った。
『それは編集権限なので無理だ』
「竜でも無理か」
『他の願いにせよ』
「じゃあ、八つの宝珠を軽くしてください」
竜はまた黙った。
村人たちもまた黙った。
リナも黙った。
今度は全員が黙った。
『……それでよいのか?』
竜が言った。
「はい」
『富でも、名誉でも、力でもなく?』
「運べないので」
『世界の危機は?』
「その前に腰が危機です」
竜は長い沈黙の後、深いため息をついた。
『よかろう』
八つの宝珠が光った。
ずしりと広場を圧迫していた重さが、ふっと消える。
俺は赤い宝珠を持ち上げた。
軽い。
さっきまで腰を破壊しようとしていた宝珠が、今はリンゴくらいの重さになっている。
村人たちが歓声を上げる。
長老が涙を流す。
リナが微妙な顔をする。
「願い、それでよかったんですか?」
「よかった」
「もっと壮大な願いがあったんじゃないですか?」
「リナ。願いは叶えるだけでは駄目なんだ」
「はい?」
「叶えた後、運用できなければ意味がない」
「急に現実的」
竜は満足げにうなずいた。
『願いを叶えるとは、願いの重さを知ること。よくぞそこに至った』
「今、いい話っぽくまとめようとしていません?」
リナが鋭い。
竜は少し目をそらした。
『では、さらばだ。八つの宝珠は役目を終えた』
「え」
俺は宝珠を見た。
「役目を終える?」
『願いは叶った。宝珠は消える』
「軽くなったばかりなのに?」
『そうだ』
「運べるようにしたのに?」
『そうだ』
「運用前に消えるのか」
『願望成就の秘宝とは、そういうものだ』
「返品できない仕様やめてください」
八つの宝珠は光となって消えていった。
あとには、軽くなった荷車と、疲れ切った村人と、腰を押さえる俺だけが残った。
長老が俺の手を握った。
「ありがとう、冒険者よ。おかげで村は救われた」
「村、何か困っていましたっけ?」
「宝珠が重くて邪魔だった」
「不用品回収じゃないですか」
「願いも叶った」
「叶えた願いが不用品回収の効率化なんですが」
リナが夕焼けの空を見た。
「でも、これで一件落着ですね」
「ああ」
「旅はどうするんですか?」
俺は少し考えた。
八つの宝珠は消えた。
願いは叶った。
世界を救う旅は、始まる前に終わった。
だが俺たちは、まだ一話目にいる。
終わるには早い。
いや、毎話終わる予定ではある。
俺は荷車の取っ手を握った。
「行こう、リナ」
「どこへですか?」
「次の村だ」
「何をしに?」
「分からない」
「分からないんですか?」
「だが、たぶん何かある。契約を迫る小動物とか、食べると能力が増える木の実とか、抜いたら勇者になる剣とか」
「すごく既視感のある予定ですね」
「参考だ」
「今、何か言いかけませんでした?」
「参考だ」
俺は歩き出した。
荷車は軽い。
空は赤い。
風は旅立ちにふさわしく吹いている。
背負い袋の紐は切れず、道の先には偶然、今夜泊まれそうな宿の看板が見えていた。
神の加護は、今日も地味に効いている。
俺は胸元の木札に手を当て、小さく祈った。
「神よ。今日もありがとうございました」
頭の中に声が響く。
『持てる分だけ持て』
「はい」
『持てぬものは置いていけ』
「はい」
『箱に逃げるな』
「はい」
『願いは、叶えた後に運用できなければ意味がない』
「今日の教義ですか」
『採用』
「重いですね」
『宝珠が重かったからな』
「はい」
『あと、願いで作品継続を頼むのはやめろ。管轄外だ』
「すみません」
リナが俺の顔をのぞき込む。
「神様、何て?」
「管轄外だって」
「何が?」
「打ち切り」
「神様でも無理なんですね」
「神様にも、できることとできないことがある」
「意外と世知辛いですね」
俺たちは村を出た。
こうして俺たちは知った。
願いを叶える宝珠は、願いだけでできているわけではなかった。
台座がいる。
保管場所がいる。
地図がいる。
荷車がいる。
持ち上げる人手がいる。
腰を守る段取りがいる。
そして、叶えた後に運用できる願いがいる。
伝説は、日常に置かれると備品になる。
秘宝は、重ければ重しになる。
願いは、叶えた後に運用できなければ意味がない。
八つの宝珠は消えた。
願いは叶った。
村は救われた。
いや、村の邪魔な備品が片付いた。
物語は、きれいに一区切りを迎えた。
そう。
ここで終わっても、何の問題もない。
俺たちの荷物は、これからだ。
「だから減らせよ」
第一部・完




