お姉様の帰還(改)
加筆修正しました。
楽しんでいただけると幸いです。
初めまして。私の名前はキャロライン・アビゲイル・ノエルと申します。ノエル侯爵家の次女で齢は16歳。
お父様の名前はアーノルド・チェスター・ノエル侯爵、お母様はセシリア・ベアトリス・ノエル侯爵夫人、お兄様はドゥエック・ジェレミー・ノエルで齢は19歳になります。
お父様もお母様も私とお兄様をとても愛していて、この民主国家であり軍事力も強いのユスティノス王国では20歳から軍に入るのが男としての役目としてお兄様はとても期待されています。
ーーああ、そうそう。もう1人いました。私のお姉様のアリー・ノエルお姉様。彼女は14歳の時にお父様の命令で少年兵に入るように出て行かされました。
まあ当然ですね。お姉様は厄介者でしたので。家族はもちろん、使用人も庭師もシェフも皆が彼女を嫌っていました。
当時のお姉様は何年も着古したみすぼらしい深緑の糸のほつれた丈の合っていないドレスとこれまた袖は破け、ほつれ、穴の開いたみすぼらしい青いドレスしか持っていませんでした。
髪は泥水のような黒髪で、ボサボサで、前髪が目にかかって、たしかお姉様の目の色は青だったような気がするのですが、良く見えませんでした。
いつも猫背でトボトボ歩いて、ボソボソと喋り、皆に嘲笑されていました。
そしてお姉様はいつもメイドがやるような掃除や、食器洗い、芋の皮むきや庭掃除をしていました。
時にはおばあさまの機嫌を損ねて水の入ったバケツを持って何時間も部屋の隅に立たされていました。あるいは廊下だとか。
あとは冬の寒い夜に下着姿で外に放り出されたりもしてました。まあ、ヒキガエルですから冬眠は外でするものです。私たちは窓から震えながら「開けて」と叫び、ドアを叩くお姉様を見て笑ってました。
食事ももちろんヒキガエルに人間の食べ物は与えることはありません。鍋に残った残飯を適当な皿に入れて、料理長が投げてよこしてました。お姉様は床に散らばった残飯をひざまずいて手で食べていました。
お姉様が字が読めたのかどうかは知りません。少なくともお父様やお母様、そしておばあ様はお姉様に家庭教師をつける様子はありませんでした。
面白かった出来事といえばお姉様が厨房に忍び込み食べ物を盗んだということでおばあさまがお怒りになり、お姉様を生ごみを入れる用の麻袋に入れてそのまま生ごみを捨てる場所に捨てたことでした。お姉様は一晩中そのままでいろと言われてました。蠅がたかっていたからおばあさまは言いました。
「ヒキガエル、食事の蠅がいっぱいいるじゃないか。お腹いっぱい食べるがいいよ」
お姉様はこけた頬の貧相な顔を下に向けて唇を噛んでいました。使用人も気にせずお姉様のそばにゴミを置きました。私たちは笑っていました。
お姉様の扱いはそのようなものでした。汚くて、貧相で、臭くて、卑しいヒキガエル。それがお姉様でした。
ですのでお父様が厄介払いの為にお姉様を軍に入れたのも無理はありません。高潔なノエル家にあのような醜いヒキガエルはいらないのです。
お姉様は自分の誕生日の日にお父様にバッグ1つを投げ渡されて「軍に入ってこい」と大雨の中外に放り出されました。
お姉様は自分の誕生日を祝ってもらえるとでも思ったのでしょうか。ひどくショックを受けたような顔でしばし呆然とし、口を開きかけ、しかしあきらめて去って行きました。
その様子を10歳の私と12歳のお兄様は笑って見ていました。当たり前です。ヒキガエルが希望を持って生きているなんて、と当時は屋敷中の皆で笑って話し合ったものでした。
それから時は経ち、7年後の現在。
書斎からお父様が慌てて出てくるのを偶然廊下を歩いていた私は見つけました。私はいつものようにお父様にご挨拶しました。
「おはようございます、お父様」
「ああおはよう」
お父様はそれだけを言って急いでどこかへ向かっていきました。いつもならば私の服を褒め、顔を褒め、金髪も緑色の瞳も褒めてくれるお父様が使用人たちの食堂へ向かっていきました。
私は不思議で首を傾げました。
そしてもっとおかしいと思ったのは使用人たちの態度でした。お父様が食堂へ行った後に、メイドはこの屋敷で最も広くて最も日当たりの良い部屋(かつておばあ様の私室でした)の大掃除にかかりました。
窓を拭き、床を掃いて塵1つない状態に戻し、そして困ったように囁き合っていました。
「誰かあの方の好きな色をご存知?」と。
私は誰か特別なお客様が来るのだろうと思っていました。だってそうでなければおばあ様の私室を誰かに使わせることはお父様は絶対にしないのです。
私は気になって屋敷を歩いていました。今日のドレスは白のレースとピンクのリボンや生地がふわりと翻る可愛らしいドレスです。
これを褒めないなんて、と私は少しお父様に対して怒っていました。
庭の方に出ると庭師たちが大急ぎであのおばあ様の部屋のバルコニーから見える景色が最も美しいように工夫して剪定と新しい花を植えていました。
彼らも「あの方の好きな花は分かるか?」と困ったように言っていました。
キッチンを覗くとシェフが困ったようにレシピを見ながら「あの方の好きな食べ物は?」と頭を掻いていました。
私は皆の言う「あの方」がとても気になりました。きっと特別なお客様に違いありません。もしかすると王室か、公爵家の人間か、私はここで仲良くなればきっと有利だと考えてその日一日ワクワクしていました。
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翌日の朝、ドド、という轟音がして私は目を覚ましました。バルコニーから外を見ると二輪車(軍専用の物です)に乘った、軍服の人が1人門の前で止まりました。
出てきた使用人の1人は驚いて門を開け、「おかえりなさいませ」と深々と礼をしました。
私は疑問に思いました。この家に誰か長期不在をしていた人がいたかしら、と。そしてその人は二輪車から降り、ヘルメットを取りました。
私は思わずへたり込んでしまいました。震えが止まらなくなりました。
そして昨日皆があれほどまで困っていた理由が分かりました。
そう、髪を切り、ショートカットにしたアリーお姉様が7年ぶりに帰って来たのです。




