みんなに裏切られた俺は転生して魔王と勇者の敵になった。
俺はマルメードとクフゾの協力により、再び試練へと挑戦することになる。
「覚悟は出来てるのかい?」
クフゾが横から声をかけてくる。もはやコイツの声に安心感すら覚える。
「あぁ、もう後悔はない」
「それじゃあ…始めよう…」
クフゾは俺の背中に手を付ける。
「はっ!」
俺の背中に強い衝撃が走ると共に、意識は薄れていく。
「――ろく…」
誰かの声がうっすらと聞こえる。
「弥勒!」
「あ…」
俺が目を開けると母さんが俺の顔を覗き込むようにして見てくる。
「朝ご飯、出来たわよ」
「あぁ…すぐ行くよ」
――何気ない会話、少なくとも一般的な視点から見ればだが…
「さぁ…こっからどうするか…」
まだ"アイツ"は来ない。
しかし、きっと見てはいるだろう…アイツの思う姫野弥勒を、俺の思う姫野弥勒を…それを合わせるだけの話だ。
「ん〜…」
身体は寝起きなのか重く感じる。そんな重い身体をベッドから起こして部屋の扉を開けリビングへ向かおうとする。
――ガチャ。
「みろーく!!!」
「うわうぁああ!?」
――ガシャン!!
目の前から父さんが急にタックルしてきて俺は自分の部屋の教科書が積まれている山へと突っ込む。
「な、なにすんだよ!?」
「いや…お前昨日文化祭やるって言ってただろ…?父さんちゃんと行くからな!」
「そうやっていつも二度寝して遅れてきてたよね」
昔、小学校でも行事系には毎回遅れてたからこの世界でもきっとそうなんだろう。
「いやいや!今回は…本当にちゃんと行くって!母さんも今日は来るんだからな!安心しろって」
そういえばこの世界では母さんが居るから多少は遅刻も少ないのかな…?
そう思いながら俺はもう一度身体を起こし、一階のリビングへと向かう。
「上から凄い音したけど大丈夫…?」
母さんは心配そうな顔で俺と父さんを見る。
父さんはいやいやと言うが、相当大丈夫じゃない。
「なーに、ちょっとした事故さ。心臓と頭あれば死にはせんって…俺が言ってた」
相変わらずぶっ飛んでることしか言わない…
「なんで偉人の名言風の迷言言ってんだよ…冗談はその調子だけにしてくれよ」
「ひどいな全く…まっ頑張れよ!弥勒は料理作るんだったよな?」
「あ〜…あぁ、そうだよ」
いや…知らねぇ…文化祭やる前に死んだからなぁ…担当とか考えたことなかった。まぁそこんとこはこの世界線の俺が上手く繋いでくれているだろう…
と、俺は朝ご飯を食べ終わったため、カバンを持ち玄関へ向かう。
「そんじゃ、行ってきます…!」
――その瞬間。
「えっ…?えぇ…」
いつの間にか学校の中で、しかも屋台のある場所の中でコテを両手に焼きそばを作っている最中まで飛ばされていた。
重要イベント以外は飛ばされるんかい…
「おいおい、サボるなよ弥勒。お客さんマジ多いんだからな!!」
背中をパシッと叩かれ、誰かと振り向けば和真が俺をニヤニヤと見つめていた。
「あ…あぁ…任せておけ…!!」
や、焼きそばの作り方知らねぇー…!!適当にコテでさっさしとけばいいのか…?
あっ…でもそういえばここはあくまで異世界の精神世界だから魔法は使えるんだったか…てことで…
『"達人の両手"…!』
達人の両手…ありとあらゆる分野を極めることの出来る魔法…!
――ジュウウウ。
焼きそばの焼ける匂いが広がる。客達の美味しそうに見る顔、そして充満するソースの匂いが鼻の奥を刺激する。
「み、弥勒焼きそば作んの上手いな…」
「まぁ練習したからな…!」
すげー嘘である。
「さっ…!こっからどんどん焼いていく――」
瞬きをすると次の瞬間、空は綺麗な橙色に染まっていた。
「ぜ……って!?」
また飛ばされた。全く夢の中くらいゆっくりさせてくれ…
「弥勒。明日の後半の文化祭も頑張ろうな!」
屋台を閉めている和真が俺に話しかける。
「あ…あぁ…」
次は…あるんだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎるが、関係はない。
「な…なぁ和真」
「どした?」
「お前は…もし、俺がすげー困っててさ…他の友達とか…お前に迷惑をかけるくらい困ってたとしたらさ…助けてくれるか…?」
「お前…変なこと聞くな…助けるに決まってるだろうが」
「えっ…?」
「俺とお前は親友だ。そんな奴を見捨てることなんか、出来ねぇし、やったとしたらそれはきっと俺がカスになった時くらいだな…」
そうか…和真…お前は…あの時に変わったんだな…
「人間…変わる時は突然だし、一瞬だもんな…」
「あっでも金の使いすぎで金貸してくれとかはナシだかんな!!」
そう和真は必死に声を上げる。
なんだか、懐かしい。
「言わねぇよそんなこと!」
俺は笑って和真に言ってみる。
いつからだろう。こんなことしなくなったの…こんなことしようと思えなくなったの…
「じゃあ…な…和真。またいつか――会おう」
「…?じゃあな」
それだけ和真に言い、俺は帰るために校門へ歩みを進める。
「弥勒!!」
「あっ…」
そう俺の名前を呼んだ声の先を見ると母さんと父さんが手を振っていた。
「お前焼きそば作るの上手かったんだなぁ!くそ美味かったぞ!」
「また食べたいわぁ、あっ今日の晩御飯にでもする?」
「昼も焼きそば食ったのに夜もは重いだろ…」
苦笑いしつつ俺は一歩、また父さん達へ近付く。
「……」
これじゃダメだろう。姫野弥勒は、俺の思う姫野弥勒も、"アイツ"の思う姫野弥勒も、これを望んじゃいないんだろう。
「なぁ…母さん…」
母さんは不思議な顔を浮かべて俺を見る。
「俺、母さんの料理…初めて食ったけど美味かったよ…起こしてくれて嬉しかったよ…俺のことを気にかけてくれて嬉しかったよ…全部は知れなくても…俺は母さんのことが大好きだ…」
「ちょ、ちょとどうしたのよ弥勒…」
俺は涙を堪えながらも、父さんの方を見る。
「父さんも…家族を支えてくれてありがとう…俺と母さんを大事にしてくれてありがとう…俺を元気付けてくれてありがとう…」
「弥勒…」
そうして、堪えていたものがつい溢れてしまう。
俺の頬を冷たいものが伝う。
「そして…今は居ないけど…姉ちゃんも…俺を大事にしてくれて…ありがと…」
俺は膝から崩れ落ち、情けなく泣き声を上げてしまう。校門の前だってのに、なにやってんだろう…
すると、俺の顔に温かいものが触れる。優しく包みこまれるようにして俺の身体を覆う。
「俺は…お前が生まれてきたことをいつまでも…ずっと嬉しく思ってるよ…」
「私達はあなたを見捨てたりしないんだから…だって私達家族だもの…」
無意識に、周りなんて気にせず俺は二人にしがみついて泣く。泣きまくった。数十分は経っただろうか…俺は顔を上げ、二人の顔を見つめる。二人も涙を少し流していたようで、目の周りが赤い。
「俺は…先に帰っておくよ」
「あぁ…泣いたあとだと恥ずかしいもんな」
父さんはへへっと笑いながら言う。
「おぉ…せっかくの感動を台無しにすんなよ!」
でも、俺は誰一人として憎んじゃいなかった。最初から、どうでもよかったのかもしれないな…
「じゃあ…先…行っとくから…!!」
俺は唇を噛み締めて目を瞑ってがむしゃらに走る。
いつしかとは違う血の味が口の中に広がりながら、ただ暗い景色を走っていく。
「――よっ俺…」
「…!!」
俺は立ち止まり、目を開ける。
すると目の前には…"姫野弥勒"が立っていた。
「お前は姫野弥勒になれて来れたのか?」
「あぁ…姫野弥勒として寝て…飯食って…笑って………泣いたよ…」
「はっはっはっ!そりゃ面白い…それで…?姫野弥勒としての答えは見つかったのかよ?」
弥勒は探るように俺を見る。
「あぁ…見つかったよ…」
「聞かせてくれよ」
「そうだな…じゃあハッキリ言うと――」
俺は息を吸い込んで溜めて言い放つ。
「俺は…姫野弥勒じゃねぇ…そして…お前も姫野弥勒じゃねぇっ!!」
その言葉に弥勒は「は…?」と言葉を漏らし、何を言われたのかよく分からない表情を浮かべる。
「お前は姫野弥勒なのに…なんで別の姫野弥勒の答えを求める…?それは姫野弥勒じゃない…ミロク・プリンスとして…自分を見直したかっただけの…もう一人の俺…お前が繋いで、俺がある…だから俺とお前は姫野弥勒であり、ミロク・プリンス…そうなんだよな…」
「はっ…やっぱお前…"本物"なんだな…恐れ入ったってもんよ…ただ俺はこの世界でいくらでもやり直せるが、お前はやり直しなんて出来ねぇぞ…それでいいんだな…?」
その言葉は俺を心配してるのやら、分からんがどこか寂しそうにも感じた。
「安心しろ。俺は…理想を掲げない存在…目標を実現する…!そのために俺は世界の頂点の魔王も…世界の英雄の勇者も敵に回す!もう俺はとっくになってたんだよ…そんな存在に…ほんとに…色んな意味で裏切られたな…とにもかくにも、俺はお前を後悔させないために捨てないよ」
「へへっ…そうかよ…頑張れよ…姫野弥勒…そしてミロク・プリンス…」
世界が崩壊していく。終わるんだという感覚が今一度俺を襲う。次に瞬きすると黒い空間に女神がポツンと待っていたようにニコニコと見つめてくる。
「終わったみたいね…」
「お前を抑えるためにわざわざな…まぁ…でも…俺自身のためにもなったか…」
「ありがとうね…頑張って」
「…!あぁ、お前に免じて頑張ってやるぜ」
――これは、一人の少年が、自分に裏切られ、仲間の目線に裏切られた…そう、みんなに裏切られた俺が魔王と勇者の敵になった物語だ。




