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魔力で変わるもの

 夜の森――。静寂だけがある。そこに、二つの影が森の中を突き進んでいく。


「サラム。俺とお前で初めての任務と行くぞ」


俺はサラムに顔を向ける。


「初めての任務…?」


サラムは目線を鋭くする。


「まずは、勇者軍と魔王軍をぶつけさせる」


「何年もぶつかってなかった種族なのに…可能なのですか?余程の理由が無ければ、両者動きませんよ」


「魔族と人間では、魔力の質が違うから、使える魔法と使えない魔法が両者にあるのは分かるな?」


「えぇ、もちろんです。人間…つまり勇者達は、神族からの魔力を借りて使っている状態。何かを創り出したり、聖の力を使う事に長けている。一方で魔族は神族に対抗するために、上級魔族達が破滅させるための力の魔力を魔族達に借りさせ、使わせる事に長けていて、聖なる力と拮抗する力を持つ」


「その通りだ。だから、ここ数日でじっくり時間をかけて、魔族の魔力波長を人間界にばら撒かせる。目立たないようにな」


俺は森の中の湖に指を入れる。

その瞬間――。湖の水は黒く濁り、中で魚が死んでいく。魔族の魔力により水を破壊していく。


「魔族の魔力をもう使いこなしているのですか、ミロク様…」


サラムは驚いた様子で湖を眺める。


「あぁ、レヴィアから貰った魔族の魔力…これを俺の魔法で何千倍にも増やして使っている。使うのが難しい上級魔法ももう使用出来る」


恐らく、この世界で神族と魔族の魔力を両方持つ奴は存在しないだろう。

十四歳の時に習ったが、一般的な魔力量。その数十〜数百の魔力を持っていたとしても、違う魔力同士を体内で使い分けることは不可能らしい。神族と魔族の力の波長が合わずに逆に魔力を消しちゃうんだとか…。

まぁ、俺は常人の数万倍の魔力を持っているから、違う魔力波長が混ざり合うことはない。魔力で魔力を隔てることが出来るのだ。


「流石、ミロク様ですね。私はそういう細かい魔力を扱うのが苦手なんですが。どうすれば?」


「そうか…苦手なのか。ならば、もっとシンプルな作戦で行こう。その方が速い」


俺は手に魔力を極限まで圧縮させる。

溜める圧が高すぎて周りの葉っぱも、俺の手の周りに溜まっていく。


「ま…まさか。今、ここで魔族のせいにして大戦争を起こすつもりですか!? ですが…ミロク様の魔法だと上級魔族を越える力を出してしまう…そんなことが出来るのはレヴィアだけ…あの人はそんなことわざわざしないから、犯人が特定出来ず、未解決事件になってしまいます…」


俺は魔力を手から消す。


「それも…そうか。では、どうするか?」


サラムは考える仕草をする。


「あっ!なら、もうミロク軍として、勇者軍と魔王軍に宣戦布告の手紙を一定の日を空けて送るというのはどうでしょう?」


「つまり、勇者軍と魔王軍と戦うということか…?少なくともどっちかの軍の数が大幅に減らないと流石に俺でも分が悪いぞ。お前が居ても二人だ…」


「いや、どのみちいつかは勇者軍と魔王軍の戦争を起こさせましょう。その時、どちらの戦争も止めるようにミロク様が割り込んで、勇者軍と魔王軍はミロク軍を知り、いつか服従させられる日を怯えて待たせる!そして、ミロク様の掲げた正義と悪に屈して魔族と勇者をミロク軍の仲間とし、戦力を拡大して勇者軍と魔王軍を断つ!どうでしょう?」


「なら、お前は一旦魔王城に戻っていろ。魔族がなにかをしだしたという噂が人間界で回り始めたころに、またここで集まるぞ。戦争が始まった時が、ミロク軍の初陣だ」


「はい!」


サラムは敬礼をし、魔王城へと帰っていった。


「ふぅ…疲れた」


俺は木に寄りかかって寝ることにした。


意識が途切れた頃、俺の前には黒い空間が浮かんできた。黒いだけだが、ぼやけて見える。


「――よくも、やってくれたわね」


橙色の髪をした女神が俺の前に現れた。


「今更、なんだと言うんだ。今、お前は俺に従わらされているんだぞ。こんな夢に出たところで何をするって言うんだ」


「私の力を支配に使うなんてことは許されない。今ならまだ間に合う。あなたの意思は強すぎてる。いつか、私の力無しでも、意思を魔力にするだけで、今の何万倍以上の魔力を手に入れることになる」


「なにが間に合うんだ。俺がこの戦争で死ぬのを止めるかのような言い草だな…」


女神はキッと俺を睨む。


「私は未来を見れる。ハッキリ言わせてもらうと、あなたは死ぬわ。魔力そのもの…つまり、この世界の秩序となり、あなたという存在が消えることになる」


「へぇ…世界の秩序…悪くないじゃないか。俺が世界の裏に立つ、魔力という存在そのもの…秩序を示す者の最期としてはむしろ相応しい結末だとは思わないか?」


俺は女神を見て煽るように嘲笑う。


「それに、そんな結末は存在しないように塗り替えさせてもらう。いつか…な」


「結末の塗り替え…まさか神族でさえ辿り着かないとされてる因果律の完全掌握の魔法を習得するの? 無理な話だとは思うけど…勇者でさえ、因果律の完全掌握は出来てないわよ」


俺は女神の後ろに立って喋りかける。


「これさえも、俺の書き換える前の結末に過ぎない…」


俺はそう言い、女神の前から姿を消す。


――チュンチュン。


鳥の鳴き声。そして朝の光が木の陰から差し込んで来ていた。

姿を消した時には俺は夢から目を覚ましていた。いや、厳密にはあれは夢だったのか――。まぁ、そんなことはどうでもいい。

朝日を見ながら、俺は勇者学園に登校する準備を始めた――。

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