プロローグ.知ってる依頼人
――翌朝。
カオス・エデンの上階。
俺の部屋は静まり返っていた。
窓から差し込む朝日が床を照らしている。
「ふぁ……」
俺は椅子に座ったまま軽く伸びをする。
「今日は依頼が来るといいがな…」
カオス・エデンを宣言してから一日。
そろそろ世界のどこかから依頼が来てもおかしくない。
「来ないなぁ…もう百件くらい来てもおかしくないはずなんだけどなぁ…」
俺は机の上の魔法通信機をボーッと眺める。
――その時だった。
――ピリリッ。
机の上に置いてあった魔法通信機が光る。
「おっ!」
俺は勢いよく立ち上がる。
「来たか!!」
世界初の依頼人かもしれない。
胸が少し高鳴る。
俺は通信機を手に取った。
「ううん…」
少し咳払いをして雰囲気を出す!
「カオス・エデン代表のミロク・プリンスだ…依頼なら受け付けている。要件はなんだ」
すると――。
『あ、ミロク様ですか?』
聞き慣れた声だった。
俺は眉をひそめる。
「え……ミナノ?」
『はい』
え、なんでだ?
「え、お前、同じ建物にいるだろ」
『そうですね』
「なにか話したいことがあるなら直接来い」
『一階に来てください』
「……は?」
俺は通信機を見つめる。
「えーと…なんで依頼用通信を使ってるんだ?」
『とにかく来てください』
――プツッ。
通信が切れた。
「なんなんだ…?」
首を傾げながら、俺は一階へ向かう。
カオス・エデン一階。
扉の前にはミナノが立っていた。
腕を前で組み、真面目な顔でこちらを見る。
「おはようございます、ミロク様」
「おはようじゃない」
俺は呆れて言う。
「なんで依頼通信を使った?」
ミナノは少しだけ咳払いする。
「依頼人として来たからです」
「……は?」
俺は目を細める。
「依頼人?お前が?」
ミナノは一歩前に出た。
そして静かに言う。
「依頼をお願いします」
「私の姉を――探してください」
俺はしばらくミナノを見つめた。
「いや…」
俺は腕を組む。
「お前、幹部だろ」
ミナノは首を横に振る。
「いいえ」
そして静かに言う。
「姉を見つけるまでは"仮契約"」
「そう言いましたよね?」
その言葉を聞いた瞬間。
「あ」
俺は思い出した。
確かに最初に言っていた。
姉を探すために協力する。
それが条件だった。
「……そういえば」
ミナノは小さく頭を下げる。
「正式な依頼です」
「姉を探してください」
しばらく沈黙が流れる。
俺は小さく息を吐いた。
「ふん」
腕を組む。
「いいだろう」
ミナノが顔を上げる。
「受けてやる」
「カオス・エデンの依頼としてな」
ミナノの表情がわずかに緩んだ。
「ありがとうございます!」
「ちょっとちょっと〜」
奥のソファから声がした。
「もしかして早速依頼でも来たんですか!」
サラムが寝転びながら言う。
「どこ行くんです?」
俺は軽く肩を回す。
「姉捜索だ」
「へぇ!人探しってことですか」
サラムが起き上がる。
「場所はどこなんです?」
俺はミナノを見る。
「心当たりはあるのか?」
ミナノは少し考えてから言う。
「エイメノカサスには居ないと思います」
「ほう?」
「大会にも居なかったとなるとそれしか考えられません」
「実は姉は……宝石コレクターなんです」
サラムが目を輝かせる。
「金持ちってこと!?すげーな!」
ミナノは頷く。
「なので…」
ミナノは世界地図のある箇所を指差す。
「ネオミシスカ」
その名前が部屋に響く。
サラムが口笛を吹いた。
「おぉー!」
サラムが地図に近付く。
「金持ちが遊ぶ街じゃないですか」
ミナノは頷く。
「姉が居る可能性があるなら」
「そこです」
俺はニヤリと笑う。
「なるほど…」
俺は椅子にかけている黒いコートを羽織る。
「いいだろう!姉探しのため…ミナノと姉をカオス・エデンに招き入れるため…俺は動く!」
「姉を勝手に招き入れないでください?」
「いやいや、きっと気に入る」
「そういえば姉の特徴…名前を教えてくれないか?」
「姉は私より薄いピンク髪で…瞳は紺色…名前は『ミリア・カーシャ』です」
そういえば情報屋に行った時も言ってたな。
「なるほど…ならミナノに似ている人を探せばいいわけだ」
「そういう解釈で大丈夫です」
俺は扉へ向かって歩く。
「久しぶりの遠出だな。五日間もエイメノカサスに居ると飽きるもんだ」
「なんやかんや言って楽しそうだったじゃないですか」
「ま…まぁな」
サラムは俺の後ろに立つ。
「ミロク様!俺も行きますよ」
「もちろん。着いてきてくれ。剣士軍も連れて行く予定だ」
ミナノは深々と礼をする。
「お願いします!姉を…見つけてください」
俺は振り返る。
「あぁ、行くぞ」
俺は扉を押し開ける。
光が差し込む。
「ネオミシスカへ!」
「ゴー!」
こうして――。
カオス・エデンは新たな依頼のため、エイメノカサスを後にすることとなった。
「――あっ財布忘れてた!」
サラムがポケットを触りながら言う。
「おい…サラム。緊張感が…あぁっ!俺も財布忘れてた!」
「あの…なにしてるんですか…?」
「こっ…細かいことは気にするな…!」
「いや細かくありませんよね?」
――やっぱり、エイメノカサスを出るのはもう少し時間がかかるかもしれない。




