家作り八日目 「アンタの名は」
「どうじゃどうじゃ!似合っておるか?」
「はいはい、似合ってる似合ってる」
購入した服を早速着たドラ子は相当お気に召したようで、くるくると720度回って見せては皆に感想を求めてくる。
確かに似合ってはいるが、繰り返し感想を求められた俺は返しの言葉がぞんざいになっていた。
しかし、それでもドラ子は嬉しいようである。
リーナちゃんが注意をしてきた。
「ダメですよ、ガイウスさん。女の子がおめかししてるんですから。ちゃんと褒めてあげなくちゃ」
「いや、それは分かってはいるけれどもね。どうにも慣れてなくて。・・・って何してんだドラ子?」
ドラ子は服の袖に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅いでいた。
変な匂いでもしてんのか、その服。
「この服の匂いを嗅いでおると何故か落ち着くのじゃ。すうぅぅぅぅぅぅ、のじゃぁぁ」
犬かお前は。
ドラ子は服に顔をうずめて深呼吸をする。
この服の前所有者は龍人と聞いたが、ドラゴン特有の匂いでもあるのか?
などと、どうでもよい事を考えていると、怪しい商人が俺にと話しかけてきた。
「いやぁ、ありがとうございました」
感謝の言葉を述べる、ほくほく顔の商人。
因みに俺だけでなく、リーナちゃんにジョージもこの商人からいくつか品物を購入した。
リーナちゃんは櫛など、ジョージは・・・よく分からない鏡合わせの魚型の金型を購入していた。
広げていた商品をまとめ帰り支度をする商品
ふと、商人は思い出したように、キーコに近づくと優しく撫でる。
キーコはくすぐったそうに身体を揺らす。
今更だが、植物が動いているというのに、商人に驚いた様子はない。
「お前、幸福の種が普通の植物じゃないって知ってたな」
俺は半目になりながら、商人を問い詰める。
「それはもちろん。お客さんに危険な物など売れるわけないじゃないですか」
それに対し、商人は悪びれもなく、さも平然と返答する。
「まあ、ここまで速く成長してるのは予想外でしたが」
そう言って商人はキーコを撫でるのを止め、懐から1枚の蝋で封がされた羊皮紙を取り出した。
「良かったらこれをどうぞ」
そう言うと怪しい商人はその羊皮紙を渡してきた。
取り敢えず受け取り、羊皮紙を広げる。
「えーと、なになに。奴隷市開催のお知らせ?」
書かれた内容は五日後、王都に近い街で大きな奴隷市が開かれるとのこと。
俺の呟きにジョージが食いついた。
「奴隷だって!俺にも見せて!」
コイツ、奴隷に興味あるのか?
目が血走ってるぞ、おい。
狂気すら感じるジョージは置いとくとして、なんで商人はこんなのを俺に渡してきたのか。
商人は俺の向けられた視線の意図を汲み取ったのか、説明をする。
「その奴隷市、結構大きくてですね。もしかしたら、建設関係に詳しい奴隷がいるかもしれませんよ」
「ああ、なるほどね」
確かに、自力での家作りに少しではあるが限界は感じている。
俺の家作りのキッカケとなった本でも、読んでいく内に前の所有者が誰かに助言を求めていた節が見えた。
ここで奴隷を購入するというのも、一つの解決策だな。
しかし、俺はこんなにのんびりしてるが、一応追われる身だ。
王都の近くだとバレる可能性があるし、奴隷一人買うにも大金がかかる。何より、ここから王都まで遠い。片道だけで1週間以上かかってしまう。
「では、再び会える日を楽しみにしています」
「気づかいありがとよ。・・・そう言えば、アンタの名前聞いて、ってもういねえ」
商人の名前を聞こうとするが、気がつけば怪しい商人の姿は既に消えていた。
「まあ、いいか。今度聞けば」
未だ服を見せてくるドラ子をあしらい、家作りを再開にはかる。
その時、俺はジョージが黙って羊皮紙を穴が開くほど読み、何かを決意していることに気づかなかった。