第一話
シリーズ第3弾。いつもより長いです。しかも連載です。
お読みいただけたら嬉しいです。
「村長の家はその家の角を左に曲がってまっすぐ登っていった丘の上にあります。」
「・・・はあ。」
くっ、これで3度目か。会う人会う人、村長の家を教えてくれる。もしや同じ人物なのか。
先ほどまで私は夜の街にいたのだ。今日もまた就職が決まらなくてうつむきながら歩いてた。信号が変わるのを歩道で待っていた私に、曲がり切れなかったらしいトラックが目の前に、とても眩しい光で・・・そこまでしか覚えていない。リクルートスーツを着て、鞄を持ち、パンプスを履いたまま、気づいたらこの長閑な村にいた。まるでRPGの始まりの村のようだな、なんて思っていたら、いきなり村長の家を案内されたのだ。
私の身に何が起こっているのか。
あのまま現実の私は死んでしまって、ここは死後の世界?もしくは命は助かったが重体で、目覚めることなくこんな夢を見ているのか。そんなことをぐるぐる考え、実際大きくもないこの村をぐるぐると回り、
「村長の家はその家の角を左に曲がってまっすぐ登っていった丘の上にあります。」
「・・・はあ。」
4度目である。
私は昔やったRPGについて思い出していた。普段は真面目な私だが、無性に羽目が外したくなる時がある。ゲーム内でもそうだった。まず、一番最初に案内される村長の家。そこには行かず、フィールドに出てモンスターと戦い、瀕死になりながらもレベルを着実にあげ、武器も村の武器屋で売っている一番高価な武器を装備。いよいよすることがなくなって、村長の家に行くのだ。すると話が進んでレベル的には超楽な依頼をされ、報酬に武器屋で売っている下から二番目くらいの武器をもらい、何とも言えない思いをするのである。
つまり、何が言いたいかというと、村長の家に行けば何かしらの進展があるのではないかということだ。しかし、私はゲームの勇者とは違い、平々凡々な一般ピープルである。いきなりモンスターのいる草原に行って薬草とってこいとか言われても無理なのである。いや、行ってみなけりゃ何を言われるかはわかんないんだけどさ。同じ理由で、村長に会わずに村を出るのも考えられない。村の外にモンスターがいたら即お陀仏だ。
まあ、色々と考えてみたが、いくらここがRPGの始まりの村に似ているからといって、剣あり魔法ありの世界ではないかもしれない。とりあえず、
「村長の家はその家の角を左に曲がってまっすぐ登っていった丘の上にあります。」
「・・・行ってみます。」
行ってみるしかないのだ。
・・・・
5回も道案内をされたので間違えるはずもなく、村長さんの家に着きました、わーい。(棒読み)
呼び鈴とかはなさそうなので扉をたたいてみる。
「あのーすいません。村の方に村長さんの家を教わってきたんですが。」
すると、中から見目麗しい長髪のお兄さんが出てきた。髪の毛銀色、光ってるよ、サラサラだよ。うっわ、まつげ長っっ!!ついつい見つめてしまった。
「お待ちしておりました、石倉神奈さん、お入りください。」
不躾な私の視線に怒ることもなく、笑顔で迎え入れてくれる。やっぱり私って死んじゃって、目の前にいるのは天使様なんじゃなかろうか。私の名前知ってるのも、死亡リストに載ってたとか?
「この村の村長をしております、山田太郎と申します。」
「やまだたろうさん。」
「ええ、覚えやすい名前でしょう?」
違和感はバリバリですけどね。しかもあなたが村長とか、随分若くないですか?落ち着くために、山田さんが手ずから淹れてくれた紅茶をいただく。
「この度はお忙しい中、お呼び立てしてしまい、申し訳ございませんでした。」
お呼び立てとはどういうことだ。私が村にいたから呼んだのか、私をこの村へと呼んだのか。
「あの、どういった意味でしょうか?」
「そうですね、神奈さんの世界からこちらの世界に召喚させていただいたということです。」
「・・・召喚。」
うん、大丈夫。異世界トリップ物もばっちり読んでた。召喚?どんとこい。まずは帰れるのか、これ基本質問。次に何で呼ばれたのかを聞けばいいよね。
「もちろん、こちらの都合でお呼び立てしたのですから、きちんと送還もさせていただきます。その際、こちらで過ごした時間分あちらに帰るのが遅くなるということはありません。お望みでしたら、同じ場所同じ時にお帰りいただくこともできますし、もう少し時間がたった後でも構いません。ですが、お呼びした時間より前にお送りすることはできないのです。」
すごい、アフターケアもばっちりだ。とはいえ、同じところに戻されると確実に私は死ぬか、良くて重体コース。呼ばれた時間よりも後の時間に戻してもらおう。
「わかりました。それと私はなぜ呼ばれたのでしょうか?私は普通の人間なので、できることは限られているのですが、できることでしたら、精一杯取り組ませていただきます。」
何せ、命を救われたんだから、恩には報いねば。
「ありがとうございます、そう言っていただけると助かります。このようなことを貴方にお願いするのは申し訳ないのですが、真面目な貴方ならば、やり遂げていただけると信じています。」
なんか早速無理っぽい感じ?申し訳ないようなことをお願いされるとか。ああ、でも勇者召喚とかだって自分たちにできないこと(世界を救うとか)をお願いするために呼ぶんだもんね。そんな壮大なこと一般人には無理よ?
「貴方にお願いしたいのは・・」
「神奈来た!?」
山田さんの後ろのドアが勢いよく開けられ、これまた山田さんとは違った種類のワイルド系の赤髪短髪な美形が現れる。山田さんは線が細い感じだけど、こちらの人は筋肉が程よい感じについてて、ムキムキって感じじゃないんだけど、そう、騎士とか剣士とか冒険者とかそんな感じがする。剣持ってるし。
一応あいさつした方がいいのかな、と思って立ち上がる。
「呼ぶまで出てくるなと言ったろう、馬鹿が。数分前に言われたことすら覚えてられないのか、馬鹿が。私の話を遮るな、馬鹿が。」
お、同じ人ですよね、山田さん。超怖いんですけど!さっきまで陽だまりのような暖かさを感じていたのに、一気に極寒の地に来ちゃったみたいなんですけどぉ!!
「神奈!!!会いたかった!!!!」
何故に新たな美形さんに真正面から抱きしめられているのだろうか、私。そして、この人山田さんのあの冷気を全く感じてないのだろうか凄いな。とりあえずちょっと苦しいので放していただきたい。前、見えないし。あ、でも超怖い山田さんが見えなくて安心?いやいや、ちょっとどころじゃなく苦しくなってきた、ギブ!ギブ!!
「すいません!放していただけませんか!」
「何で?」
「苦しいんです!」
「じゃあ、力弱くする。」
・・・え?放すという選択肢はないの?とりあえず呼吸が楽になった。
「おい、馬鹿。人の話を聞け。」
「ああ、太郎、ありがとな。俺、このまま神奈と暮らすから。じゃ!」
ガコーンといい音がして、前が見えるようになった。良かった、山田さん最初の天使様みたいな顔してる。下を向くと、馬鹿と連呼されていた美形さんが頭を抱えている。近くに落ちているのは・・・椅子!?椅子投げたの!?山田さん!!
「申し訳ございません、神奈さん、その馬鹿はユージンと言いまして。神奈さんにはその馬鹿の面倒を見ていただきたいのです。」
・・・無理じゃね?だって、山田さんですら手を焼いてる風にお見受けしますよ?
「大丈夫、神奈、俺、神奈のこと幸せにするから。心配ない。」
心配だらけだ!ユージンさん復活早いな!
「とりあえず、馬鹿のことは今は無視してください。神奈さんにお願いしたいのは、簡単に言うと馬鹿の仕事のスケジュール管理なのです。」
山田さん、ユージンさんの事を馬鹿としか呼ばないのね。というか、面倒を見る人を無視しちゃっていいのか?でもユージンさんは話が通じなさそうだし、山田さんと会話した方が楽だ。山田さんに促されてまた長椅子に座る。あ、山田さんが投げたのは一人掛け用の椅子です。さすがに長椅子は投げられん。
「スケジュール管理ですか?」
「ええ、この馬鹿は村で一番能力が優れています。剣はもちろん、魔法も使いこなせます。村どころか、冒険者ギルド内の上位実力者に入れる力はあるのです。」
ああ、やっぱり魔法があるんだ。だよね、私召喚したもんね。それに冒険者ギルドとか、ファンタジーですな。・・・ところで、話の主役のユージンさん、黙っていた方がいいと思ったのか、私の隣に座って静かにしてる。そんなに馬鹿でもないじゃないかとか思っちゃう私もどうかと思うが、なんか、こう、肩とか腰とか頭とかベタベタとユージンさんが私を触ってくるんだけど。そのたび振り払うんだが、キリがない!話に集中できない!山田さん、やっぱり無視とか無理ですよ。
「ただ、馬鹿は仕事を失敗するので、最低ランクの冒険者どまりです。仕事の期限や依頼主を覚えないため、依頼自体は簡単にできるんですが、期限に間に合わなかったり、別の人物に依頼されたものを持っていったり、報酬を受け取り忘れたり。」
すごいな!何がすごいかって山田さん無視するって本当に無視するんだね。私とユージンさんの攻防戦も丸無視だもんね。ユージンさんもすごいね!いろんな意味ですごいね!!どっちも感心するわ。
「いっそ、秘書を雇おうと思ったのです。ですが、馬鹿が馬鹿のくせに選り好みしまして、面接はうまくいかず、ならば馬鹿に構わずと無理やり秘書をつけてやっても、秘書の方が馬鹿の馬鹿すぎるところについていけず・・」
馬鹿が馬鹿で馬鹿、うおお、なんだかわかんなくなってきた。
「つまり、仕事のスケジュールを管理するために秘書を雇おうとしたがうまくいかなかった、ということでよろしいですか?」
「ええ、その通りです。神奈さんはとても優秀な秘書になっていただけそうで。苦労した甲斐がありました。」
まだ了承してないし!とりあえず、落ち着かないので、ユージンさんの手を止めさせよう。
「すみません、山田さんちょっと待ってもらっていいですか?ユージンさん、あちこち触るのやめてもらえませんか。」
「何で?」
またか!またその質問か!
「私が山田さんとの話に集中できません。」
「オレは神奈に触っていたい。」
どうしよう、堂々としたセクハラ発言。というか、今までのだって、立派なセクハラ・・・世界が違うから違法じゃないの?もういいや、考えるのめんどくさくなってきた。
「わかりました。ユージンさん、手を繋ぎましょう。触っていればいいんですよね。」
「うーん、神奈が手を繋ぎたいなら、それでいい。」
いや、別に繋ぎたいわけじゃないからね!?握手みたいなもんだと思って諦めてるだけだからね!?恋人繋ぎされたけど、私が握手だと思ってれば握手だ。
「さすが神奈さん。もうその馬鹿を手なずけていらっしゃる。」
手なずけてるの?これ。
「話を元に戻しますと、私は馬鹿の秘書を探すのに召喚という手法を用いました。普通に人を雇うように面接などをするのはやめて、手っ取り早く条件に合う人物を呼ぼうと思ったのです。ですが、この世界では誰も召喚できませんでした。つまり、この世界にこの馬鹿の面倒を見ることのできる人はいないという結論に達したのです。」
「それで異世界から召喚することになったんですか。」
「ええ。召喚魔法は得意ですので、異世界からの召喚も何の苦労もなくできました。」
「さっき苦労した甲斐があったと」
「召喚に苦労したわけではなく、馬鹿の秘書をやっと見つけられたという意味です。」
なるほど、とても実感がこもっている。
整理してみよう。山田さんは特に意識した訳ではないだろうが、私はこの召喚で命を救われた。その恩義に報いるため、私はユージンさんの仕事の管理、秘書のようなことをする。
できるんじゃないだろうか。
魔王を倒せとか、世界を救えとか言われたわけじゃない。仕事の補助をするだけだ。当のユージンさんの扱いづらさはおいておくことにする。きっとそのうち慣れるよ。
「至らない所もあるでしょうが、精一杯秘書を勤めさせていただきます。」
「神奈、幸せにするね!」
ユージンさんはそう言うと握手をしていた手をパッと放し、横から抱きついてきた。うーん、早まったか。
読んでいただきありがとうございました。




