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今日も魔王城は平和です。  作者: 斑猫
えっとこういう場合は
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39 補佐官と魔王

「それで頭を打ったってか。どんだけ鈍臭えんだ、てめえは」

「い、言わないでくださいよ! ……先程アルニ老にも同じ事を言われたばかりなんですから」

魔王の執務室で、執務机に向かう魔王の前で話しながら打ったばかりの側頭部を撫でる。

うん。やっぱり痛い。

痛みを我慢して打った箇所を触りながら確かめるが、幸いコブにはなっていないようだ。

後から腫れたりしないといいのだけど、と思う。

しかし、私は悪くないはずだとも思った。

むしろメリルが後ろから飛びついてきた時、階段から転げ落ちないよう咄嗟に足元を蹴ったおかげで、怪我がこれだけで済んだことを褒めて欲しい所だ。

……いや、いいや。陛下に褒められるのって何か怖いし……。


城内の壁側には手摺がついている箇所が少ない。

特定のフロアや一般解放している範囲には数十年前に設置が決められ、補修などの定期的な管理も行っている。

しかしそれ以外の箇所、例えば政務フロア等は機能性よりも装飾が重視され、壁の装飾を含めた美術品を魅せるために手摺はつけられていない。

階段とて同様だ。

壁側は手摺がない方が装飾が映える場所が多い。ただ、長く生活しているとただの美ではなく機能美を追求して欲しくなるというのも。

だが美しさを損ないたくないからと、頼まれてくれる業者--という名の挑戦者--がいないのも、いつまで経っても手摺が増えない要因の一つ。

歴史ある建築物な分、下手に無理強いもできないのだから彼らに責を問うつもりはない。


つまり、手摺事情のことを熟知していたからこそ、中央の手摺には手が届かないと判断した私は、壁側の手摺を探して全段転げ落ちるという状況を避けられたのだと言いたいのだ。

……まあ、着地には失敗したけど。


咄嗟に足元を蹴ったは良かったが、踊り場へ着地した際に右手を床についてしまったのだ。

包帯が床を滑った瞬間に「あ」と思ったが時すでに遅し。

勢いが付きすぎたせいで、踊り場の壁に頭から激突した。滑ったおかげか正面ではなく側頭部からぶつかったので、痛むのは側頭部だけで済んだ。

誰もいなくて良かったと心から思う。

幸いと言うかちゃっかりしていると言うのか何とも言い難いが、落ちた原因のメリルはいつの間にか私の背中から飛び降りて無傷だった。

着地の衝撃で膝をさらに痛めたようだったが、送り届けた先のアルニ老曰く『大した事ないので無傷』だそうだ。

メリルが休んでいる間に魔王の元へ来ようと私は先に医務室を立ち、後でここで合流する予定になっている。

心配している顔も可愛かった、と思い出しているところでふと気がついた。

「あれ? メリルに関わってから怪我が増えた気がする」

「自業自得だろ」

それは昨日の"説教"の事も言っているのだろうか。



執務中だった魔王の机には、今にも崩れそうなほど書類が乗っている。

大半は昨日二人で片付けた分のはずだが、回収係りが来ていないのか山の一部と化している。

どう見ても朝運ばれたとは思えない分のは、きっと追加や差し戻しが来たのだろう。魔王の作業スペース以外は机の黒が見えない。

「あのー、せめて昨日の分だけも下に降ろされたら如何です?」

「てめえがやれ」

提案したら間髪入れずに返ってきた。

本人も邪魔だと思っているのかもしれない。イラついた雰囲気が全身から出ている。

呆れるより先に怖いと思った。

いや、本当に怖い。

全身黒を纏った見た目のいい男が眉間にシワを寄せ、目つきを5割り増しで悪化させ、突き刺さるような空気を纏っているのだ。漏れ出る魔力で肌が痛い。

正直に言ってもう帰りたい! 怖過ぎ!!

集中力が途切れたのか少し前から進まなくなったペンは、カツカツカツカツと高速で机を突ついている。

あまりの突き具合に、歴代魔王を支えてきた重厚な机でも穴が開きそうだ。

「きゅ、休憩でも取られては?」

怖いが恐る恐る言ってみたら盛大な舌打ちが返ってきた。

思わず背筋が伸びる。

「この山が見えねえのか。休めねんだよ。てめえの分が来てんだ。て、め、え、の、分、が!」

「へ、へへ陛下が、きゅ休暇にしたんじゃないですか!」

「あ"あ"!」

「ごめんなさい!!」

目つきが更に悪くなり、ドスのかかった声で怒鳴られたら反論なんて出来なかった。

条件反射で謝ったが、情けないとは思わない。

むしろ回れ右で走り去らなかったのを自分で褒めたい。

もう本当に怖い! ここに居たくない!

どう考えても理不尽な内容で怒られているが、これ以上何かを言ったら確実に、確実に! 暴力コースが待っている。

恐怖に震える体を宥めて、こちらを睨む魔王の視線に耐えるしかない。

そんな状況で口をついたのは、一言だけだった

「メ、メリルが来るまで働かせていただきます……」

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