216話 最速の女戦士
――場面は、レティシア。
「はぁぁぁぁっ!!」
レティシアは二本の剣を握り締め、白い世界を駆けていた。
その隣には――もう一人のレティシア。
分身だ。
「そっちは任せた!」
「分かってる!」
二人のレティシアが、同時に別方向へ飛び込む。
――シュッ!!
――シュバッ!!
双剣が閃く。
「無影連斬!!」
――ズバババババッ!!
目の前の魔獣を斬り裂く。
だが――。
「……っ!」
レティシアが足を止める。
遠くにいる魔獣たち。
その口元や身体に、青白い魔力が集まっている。
「魔弾……!」
――ドドドドドドドドドッ!!
一斉に放たれた。
「ちょっ……!」
数が多すぎる。
レティシアは二本の剣を交差させる。
「流水剣!!」
――キィン!!
迫る魔弾を剣で受け流す。
一発。
二発。
三発。
身体を捻り、魔弾の軌道を逸らす。
「まだまだぁ!!」
――キンッ!
――キィンッ!
――ガキィンッ!!
だが。
「くっ……!」
間に合わない。
横から。
後ろから。
上空から。
大量の魔弾が迫ってくる。
「多すぎるってぇぇぇ!!」
――ドドドドドドドドドォォォン!!
「きゃああああああっ!!」
直撃。
レティシアの身体が吹き飛んだ。
――ドォォォォン!!
「ぐっ……!」
地面を転がる。
身体中が痛い。
腕から血が流れている。
肩の防具は砕け、頬にも傷が走っていた。
「はぁ……はぁ……」
レティシアはゆっくり起き上がる。
だが――。
「……まだ来るの?」
遠くを見る。
魔獣。
魔獣。
魔獣。
さらにその後ろにも魔獣。
まるで軍勢だった。
「……はは」
レティシアは苦笑する。
「どんだけいるのよ……!」
分身もボロボロだった。
「本体……!」
「大丈夫!」
レティシアは剣を構える。
「まだ動ける!」
――ズンッ!!
魔獣が迫る。
「来い!!」
レティシアが踏み込んだ。
「双月斬!!」
――ズバァァァン!!
二体を斬る。
振り返る。
「幻影双閃!!」
――シュバッ!!
さらに二体。
「烈風双刃!!」
――ズババババッ!!
周囲の魔獣を吹き飛ばす。
だが。
倒しても。
倒しても。
倒しても――。
「まだいる……!」
レティシアの呼吸が荒くなる。
「はぁ……はぁ……!」
足が重い。
腕が震える。
それでも剣を握る。
「まだ……!」
魔獣が飛びかかってくる。
――ガキィン!!
「ぐっ!」
受け流す。
別の魔獣。
――ドゴッ!!
「がはっ!」
腹へ直撃。
それでも立つ。
「まだぁぁぁ!!」
斬る。
避ける。
受け流す。
踏み込む。
斬る。
だが――。
少しずつ。
少しずつ。
レティシアの動きが鈍っていく。
「……っ」
膝が震える。
「まだ……動け……!」
身体が言うことを聞かない。
魔獣の爪が迫る。
「――っ!」
ギリギリで避ける。
しかし次の一撃。
――ドォン!!
「ぐあっ!!」
吹き飛ばされる。
さらに追撃。
――ズガァァァン!!
レティシアの身体が地面に叩きつけられる。
「…………」
立てない。
両手に剣を握っている。
だが腕を動かせない。
「……くそ……」
目の前に魔獣が迫る。
「まだ……私は……」
レティシアは歯を食いしばる。
――立て。
立て。
立て。
頭ではそう思っている。
なのに身体が動かない。
「私は……剣神……なんだから……!」
魔獣が腕を振り上げる。
――ドォォォォン!!
レティシアの身体が再び吹き飛んだ。
視界が回る。
白い世界。
魔獣。
自分の剣。
そして――。
その瞬間。
レティシアの頭の中で、何かが反応した。
――ピシッ。
「……え?」
音がした。
それはスキルが発動するときの音。
そして。
目の前に文字が浮かぶ。
――――――――――――
スキル 空歩を取得しました。
スキル 瞬歩を取得しました。
――――――――――――
「……空歩?」
レティシアが呟く。
さらに文字が続く。
――――――――――――
空歩+瞬歩
スキル 立体機動を取得しました。
――――――――――――
「立体……機動……?」
レティシアの頭に、能力の感覚が流れ込んでくる。
空歩。
わずかな時間。
空中を――走れる。
「……空中を?」
レティシアが目を見開く。
そして。
瞬歩。
瞬間的に加速し、敵との距離を一気に詰める。
さらに二つが融合した、
立体機動。
空中を長時間走ることができる。
地面だけではない。
空。
壁。
魔獣の身体。
あらゆる場所を足場にして――戦場そのものを立体的に駆け抜ける。
「…………」
レティシアが笑う。
「……これ」
ゆっくり立ち上がる。
「私にぴったりじゃん」
だが――。
まだ終わらない。
スキルの文字がさらに変化する。
――――――――――――
立体機動+瞬歩
新スキルを取得しました。
瞬間機動
――――――――――――
「……瞬間機動」
能力の感覚が身体へ流れ込んでくる。
瞬間的な加速能力。
その速度は――。
一秒間に約500メートル。
ただ速く走るだけではない。
重要なのは――。
移動開始から到達までの時間そのものを極限まで短縮する。
踏み込んだ瞬間。
視界から消える。
次に姿を現す場所は――敵の目の前。
さらに。
瞬間機動を連続使用することで、敵から見ればレティシアがまるで複数人存在しているかのように見える。
「……なるほど」
レティシアが剣を握り直す。
「速さそのものを……武器にするってことね」
魔獣が突進してくる。
「グォォォォォォ!!」
レティシアは避けようとする。
しかし――。
「……そういえば」
レティシアが懐を探る。
「あった!」
以前キラからもらっていた回復薬。
ボロボロの身体で、それを一気に飲み干す。
「……ぷはっ!」
身体の中に力が戻ってくる。
傷が少しずつ塞がっていく。
重かった身体が軽くなる。
「ふぅ……」
レティシアは二本の剣を見る。
そして――。
ニヤリ。
「……やっと試せる」
魔獣が迫る。
――ドドドドドドドドッ!!
「来い」
レティシアが構える。
「今度は――」
足を踏み込む。
――ドンッ!!
「私の番だ!!」
――消えた。
「グォ!?」
魔獣の目の前。
「遅い!」
――ズバァァァァン!!
首元を斬る。
次。
「こっち!」
――シュンッ!!
別の魔獣の頭上。
「双牙連閃!!」
――ズバババッ!!
二体撃破。
「まだ!」
空中へ跳ぶ。
「空歩!!」
――タッ!!
何もない空中を踏んだ。
「……っ!」
もう一歩。
――タッ!!
「走れる!」
空中を走る。
そのまま魔獣の群れを飛び越える。
「立体機動!!」
――シュバァァァァァッ!!
空中を自由自在に駆ける。
右。
左。
上。
下。
斜め。
まるで空そのものが巨大な戦場になった。
「どこ見てんの!?」
――シュンッ!!
魔獣の背後。
「ここだよ!」
――ズバッ!!
消える。
「こっち!」
――シュンッ!!
別の魔獣の頭上。
「そこ!」
――ズバッ!!
さらに消える。
「まだまだぁ!!」
魔獣が魔弾を放つ。
――ドドドドドドッ!!
「遅い!」
レティシアは空中で身体を捻る。
魔弾の隙間を通り抜ける。
そのまま――。
「瞬歩!!」
――ドンッ!!
距離が一瞬で消える。
目の前にいた魔獣が驚く。
「グォ!?」
「近づけばいいんでしょ?」
レティシアが笑う。
「だったら――」
両手の剣を交差。
「一瞬で近づく!!」
――シュンッ!!
消失。
次の瞬間。
魔獣の懐。
「無影連斬!!」
――ズババババババババッ!!
連続斬撃。
魔獣が崩れ落ちる。
だがレティシアは止まらない。
「瞬間機動――!」
――ドォン!!
一秒。
その一秒にも満たない時間で――。
約500メートル。
レティシアの姿が一直線に飛ぶ。
「ははっ!!」
その先にいた魔獣へ。
「双月斬!!」
――ズガァァァァン!!
さらに500メートル。
「こっち!」
――シュンッ!!
別の敵。
――ズバッ!!
さらに移動。
――シュンッ!!
斬撃。
さらに移動。
――シュンッ!!
斬撃。
魔獣たちはレティシアを目で追えない。
「グォォォ!?」
「どこだ!?」
「ギャアアアア!!」
魔獣の群れが混乱する。
レティシアは笑っていた。
「遅い!」
――シュンッ!!
「遅い遅い!!」
――シュンッ!!
「もっと速く!!」
――シュンッ!!
白い世界を、レティシアが縦横無尽に駆け抜ける。
地面。
空中。
壁。
魔獣の身体。
全てが足場。
全てが道。
そして――。
レティシア自身が、その道を超高速で駆け抜ける刃となっていく。
「これが――」
空中で身体を反転。
二本の剣を構える。
「私の速さだぁぁぁぁぁ!!」
――ドォォォォォォォン!!
瞬間機動。
その姿が完全に消える。
そして次の瞬間――。
魔獣の軍勢の中心に、レティシアが現れた。
「――天狼双牙!!」
――ズバババババババババババッ!!
無数の斬撃が炸裂する。
魔獣たちが一斉に吹き飛んだ。
レティシアは着地する。
そして二本の剣を構え直す。
「……まだいるね」
遥か彼方。
再び魔獣の軍勢が姿を現す。
レティシアは――。
笑った。
「よし」
――ニヤリ。
「もっと速くなるよ!!」
そして。
剣神レティシアの反撃が――。
完全に始まった。
第216話 終




