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12話 森の異変

 森から戻った翌日。


 俺はいつもより遅く目を覚ました。


「……眠い」


 身体を起こした瞬間、全身に重さを感じる。


 昨日の戦闘が思った以上に身体へ負担をかけていたらしい。


 ベッドから降りようとしたところで、足が少しふらついた。


「うわっ……」


 慌てて机に手をつく。


「まだ本調子じゃないか」


 昨日のホーンウルフとの戦い。


 父さんが前衛として戦ってくれたとはいえ、俺もかなり魔力を使った。


 それに、最後に《構造解析》を使ったときの感覚が、まだ頭の奥に残っている。


 俺は机の前に座り、ステータスを開いた。


【名前:キラ】

【年齢:6】

【レベル:5】

【魔力:11】

【筋力:8】

【敏捷:9】

【知力:11】


 そして。


【再構築:第二条件達成】


【構造解析:解放】


「……レベル5」


 昨日までレベル4だった。


 たった一つ上がっただけなのに、身体の中にある魔力の量が明らかに違う。


「魔力が二つ増えた」


 それだけじゃない。


 魔力を動かしたときの感覚も少し軽い。


 俺は試しに指先へ魔力を集める。


「……」


 魔力が集まる。


 昨日よりも滑らかだ。


「成長してる」


 当然のことなのかもしれない。


 でも、自分の身体で変化を感じると少し嬉しくなる。


 俺はベッドから立ち上がった。


「よし」


 今日は昨日できなかったことを確認しよう。


 新しく解放された《構造解析》。


 そして――。


 再構築。



---


朝の検証


 朝食を終えると、俺は庭へ出た。


 父さんはまだ仕事へ出ていない。


「キラ、何をするんだ?」


「新しい能力の確認」


「昨日言っていたやつか?」


「うん」


 俺は庭に置かれている木製の箱を見る。


「まずはこれ」


 箱に手を触れる。


「《構造解析》」


 すると。


 頭の中に、箱の構造が浮かんだ。


 木材。


 釘。


 接着部分。


 どこに力がかかっているか。


 どこが弱くなっているか。


「……すごい」


 昨日までなら、ただの木箱にしか見えなかった。


 今は違う。


 まるで箱を分解して、頭の中で一つ一つの部品を確認しているようだ。


「これが《構造解析》……」


「何か分かるのか?」


 父さんが聞く。


「うん。ここが弱い」


 箱の角を指差す。


「この部分、木が少し割れてる」


 父さんが確認する。


「……本当だ」


 俺は嬉しくなる。


「じゃあ次」


 今度は小石。


 地面に落ちていた普通の石を拾う。


「《構造解析》」


 石の内部が分かる。


 鉱物の種類。


 小さな亀裂。


 密度。


「石にも使える」


 次は庭の木。


 幹に手を当てる。


「《構造解析》」


 昨日よりも深く見える。


 樹皮。


 内部の繊維。


 水分。


 魔力の流れ。


「……生命体にも使える」


 俺は手を離した。


 これなら魔物を調べるときにも役立つ。


「でも」


 俺は考える。


 構造が分かるだけ。


 まだ《再構築》そのものは使えない。


「……レベル5じゃ足りないのか」


 ステータスを確認する。


【再構築:第二条件達成】


【構造解析:解放】


【再構築機能:未解放】


「やっぱり」


 父さんが俺の顔を見る。


「何か問題でもあるのか?」


「ううん」


 俺は笑った。


「まだ先があるだけ」



---


ギルドからの呼び出し


 昼前。


 街へ向かうことになった。


 昨日のホーンウルフの件について、冒険者ギルドから話を聞きたいらしい。


 ギルドへ入る。


 昨日とは少し雰囲気が違った。


「……なんだか騒がしい」


 受付の周りに冒険者が集まっている。


「昨日の森の話?」


「そうみたいだな」


 父さんと一緒に受付へ向かう。


「お待ちしていました」


 昨日の受付嬢が俺たちに気づいた。


「昨日はありがとうございました」


「いえ」


 父さんが答える。


「それで、何があったんです?」


「森の奥で、ホーンウルフが確認された件です」


 受付嬢が一枚の紙を取り出す。


「今朝、別の冒険者からも報告がありました」


「別の?」


「はい」


 紙には森の地図が描かれていた。


 いくつかの場所に赤い印がついている。


「ここ」


 受付嬢が指差す。


「昨日あなた方がホーンウルフと遭遇した場所です」


「はい」


「そして、こちら」


 別の場所。


「ここでも魔物の移動が確認されています」


 さらに別の場所。


「ここも」


 そして。


 赤い印が森の奥から入口へ向かうように並んでいる。


「……」


 俺は地図を見る。


 嫌な感じがした。


「これ、全部同じ方向ですよね」


 俺が言うと、受付嬢が驚いた。


「気づきましたか?」


「はい」


 森の奥から。


 外へ。


 魔物が逃げている。


「何かが森の奥にいる」


 俺が言う。


 父さんも頷いた。


「俺もそう考えている」



---


不自然な魔力


 受付嬢が別の資料を出した。


「こちらは昨日回収された魔物の素材です」


 机の上に、小さな袋が置かれる。


「ホーンウルフのものです」


 袋の中には黒っぽい毛が入っている。


 俺はそれを見る。


 そして。


「……!」


 身体の奥が反応した。


 再構築。


 構造解析。


 昨日と同じ感覚。


「触ってもいい?」


「ええ」


 俺は毛を一つ摘む。


「《構造解析》」


 頭の中に情報が流れ込んでくる。


 毛の構造。


 魔力。


 そして――。


「これ……」


「何か分かりましたか?」


「魔力が残ってる」


 父さんが眉をひそめる。


「まだ残っているのか?」


「うん」


 毛の一本にすら、わずかな黒い魔力が残っている。


 しかも。


 その魔力は、昨日見たものと同じだった。


「この魔力……森の奥へ向かってる」


「魔力が向かってる?」


「正確には……引っ張られてる感じ」


 俺には、なんとなく分かる。


 魔力そのものが、どこかへ引き寄せられている。


 まるで――。


 森の奥に巨大な磁石があるような感覚。


「この魔力の正体は分かりますか?」


 受付嬢が聞く。


 俺は首を横に振る。


「まだ分からない」


 嘘ではない。


 本当に分からない。


 ただ。


 昨日よりも一つだけ確かなことがある。


 森の異変は偶然ではない。



---


新しい依頼


 受付嬢が一枚の依頼書を出した。


【森周辺・魔物調査】


「こちらの依頼が新しく出ています」


 父さんが紙を見る。


「調査だけか?」


「はい。討伐は原則禁止です」


「どうして?」


「原因が分からないためです」


 なるほど。


 強い魔物がいるかもしれない。


 下手に刺激すれば、さらに魔物が街へ逃げてくる可能性がある。


「報酬は?」


 父さんが聞く。


 受付嬢が金額を伝える。


 昨日の薬草採取よりかなり高い。


「危険度が高いんだな」


「はい」


 俺は依頼書を見る。


 森の異変。


 黒い魔力。


 ホーンウルフ。


 そして《再構築》。


 全部が気になる。


「父さん」


「なんだ?」


「行きたい」


「……」


 父さんは俺を見る。


「キラ」


「分かってる。危険ならすぐ戻る」


「それでも行きたいのか?」


「うん」


 父さんはしばらく黙っていた。


 そして。


「分かった」


「本当?」


「ああ。ただし、俺と一緒だ」


「もちろん!」



---


森へ向かう前に


 ギルドを出る。


 俺は街を歩きながら、周囲を見渡した。


 いつもの街。


 商人の声。


 馬車の音。


 パン屋から漂う香り。


 子供たちの笑い声。


 冒険者たちが武器を持って歩いている。


 何も変わらない。


 でも。


 森の向こうには、何かがいる。


 俺は立ち止まって振り返る。


 街の外。


 遠くに森が見える。


「……」


 今はまだ。


 何も起きていない。


 街も平和だ。


 でも、もしこの異変が続けば――。


「キラ?」


「うん」


 父さんに呼ばれて、俺は歩き出した。



---


そして、その夜


 その日の夜。


 俺は自分の部屋で、今日分かったことを紙に書いていた。


・ホーンウルフの魔力に黒い魔力が混ざっている


・黒い魔力は森の奥へ引かれている


・森の魔物が入口方向へ移動している


・《構造解析》によって魔力の流れまで確認できる


 そこまで書いて。


 俺はペンを止めた。


「……」


 最後に一行。


・森の奥には何かがいる


 その文字を見つめる。


 不安はある。


 でも。


 それ以上に知りたい。


 俺は《構造解析》を使う。


 自分自身を見る。


 魔力。


 身体。


 そして――。


 再構築。


【対象:キラ】


【構造解析】


【魔力回路を確認】


【再構築適合率:未確定】


「……自分にも使える」


 ただし。


【再構築機能:未解放】


「まだか」


 俺は椅子にもたれた。


 レベル5。


 まだまだ先は長い。


 レベル10まであと5。


 その先に何があるのか。


 俺には分からない。


 ただ。


 今までより一つだけ、はっきりしていることがある。


 俺は強くなりたい。


 誰かに命令されたからでも。


 世界を救うためでもない。


 ただ――。


 もっといろんな魔法を知りたい。


 もっといろんな場所へ行きたい。


 そして。


 自分の持つ《再構築》が何なのか知りたい。


 俺は紙を畳んだ。


「明日、森を調べよう」


 窓の外を見る。


 月明かりに照らされた街は、いつもと変わらない。


 静かで。


 平和だった。


 けれど。


 街から遠く離れた森の奥では――。


 黒い魔力が、ゆっくりと集まり始めていた。


 一本。


 二本。


 十本。


 やがて大量の魔力が一つに集まり。


 森の奥で。


 何かが、ゆっくりと目を開いた。


 そして――。


 低い唸り声が、夜の森に響いた。

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