1話 癖のある動物たち
らいおん、さそり、ひつじはある日、生あるもの皆の主であるゼウス様に呼び出され、こう宣言された。
「お前達の誰かを神の座に格上げすることとした」
「私はつまらないソナタ達を神へと格上げするのは反対なのだがね、まぁ推す者共もおるのじゃ。しかし、全員というのもつまらぬ」
「そこでゲームをしよう」
「舞台は用意した。今ある西洋に近い別世界だ。そこに我が息子アレスが記憶をなくして転生し、騎士をやっておるらしい。癇癪でたまに人をぶち殺す息子じゃがそれでも可愛い息子じゃ。連れ戻したい」
「現地人は乱暴で力を持っておる。そのため、お前達に命を六つと仮の姿を授けてやった。誰が連れ帰るかは楽しみにしておる。さぁ、行け」
「「「はいっ!!」」」
※※※
らいおん、さそり、ひつじは見知らぬ姿で見知らぬ草原に立っていた。
「へぇ、これが人間の姿か」
「うーんいつものモコモコ毛がないとスースーするんだね。人って結構オモシローイ」
「あ、な、なぜ美形の姿を与えられてるのだ! らいおん、貴様ほどブサイクが似合う男はいなかろう。オカシイぞ!」
「はッーーー!? そっくりそのままの言葉でかえさせてやるよ、さそりッ! 言動がブサイクな奴は顔もブサイクって相場が決まってるんだよッ!! さっさとその面作り直して──」
ブンッ
空中を刃物が切り、らいおんの方まで一直線で飛んでいくが、持ち前の反射神経により楽々避けてしまう。
「今くらいは協力するフリをしとけよ」
「あれれー、やれる空気だと思ったのになー」
「ひつじ、コイツは武術を嗜んでおる。死角からの攻撃すら回避可能の糞性能だ。しかし、それはこの世界で通用するか分からぬ。今は武器を集めよ」
「はーい」
「……まぁ、いいぜ。お前達も潰し合ってくれよ」
「ふむ、とりあえずだ。まずは人を探す」
他二人が同意した後、三人は草原を抜けて森に入る。そこにはクマような体躯でワニのような凶暴な顎と牙を持つ生物がいたが、らいおんの問答無用パンチにあえなく撃沈。疑似狼も圧倒的野生王者の風格ですぐさま飼い猫に早変わりしていた。
「ふーん、らいおんを殺すのは骨が折れそうだ」
「協力しないか?」
「……」
不穏な会話があったが、らいおんはそれに気付かない。地球上では見ることない新たな新種が次々と見つかる神秘の森だ。面白い。らいおんは夢中だった。どんどん進み、抜けると村らしきものが見えた。三人は一緒になって小屋へ近づいていった。
「おい、誰かいねぇか!」
「貴様はもう少し優しくを覚えたまえ。こほんっ。誰かいらっしゃいませんかー?」
「いっませんかー?」
ガラララ
左目は傷で潰れ、ハゲ頭には光が差している。人相の悪いおっさんが扉から現れた。
「誰やおまえさん達」
「らいおん」
「ひつじ」
「さそり」
「冗談か? まぁ、面白い名前やん。はよ要件いいな。ワシは村の中でも詳しいんでな。結構答えれるで」
三人は連れられ、小屋の奥に進む。中は少々原始的であり、具体的に言うと日本の弥生時代の生活によく似ている。らいおんは時代遅れを気にせず、座るなりおっさんに切り出した。
「こっちは騎士を探している。それもとびっきり悪い騎士だ。名前はアレスだ」
「ほう、アレスか!」
「あるのですか! 心当たり!」
「いや、ない」
「オイッ!!」
「ないぞ? 誰じゃそんな奴」
「おいおい、このオッサンがお助けNPCじゃねーのか? まぁすぐ見つかるとは思ってねーけど」
「んー、神様が僕をここに置いた意味があると思うんだよね。ねぇねぇ、おっさん」
「わしゃグフタスだ」
「グフタスさん、一旦アレスという名前は忘れて。それよりー、各国で悪名がとどろいている騎士の名前を教えてほしいなー」
「まぁいいぞ。世間知らずのお前達に教えてやろう──」
人相の悪いおっさんから今現在の世界情勢の話を聞いた。戦争手前の空気感が漂う国にいるミーラという騎士。奴は女に惚れやすく、尽くす騎士だそうで、その性格ゆえ地方の内乱を起こしたとのこと。安静な地に巨人の騎士、ゴウがおり、その巨体ゆえに男性器が見合う女がいなく毎日泣いていると他の評判も散々な奴。もう一人は戦争中に女子供を大群で連れて夜な夜な騒ぐやべー奴。
「女好きミーラ、巨根のゴウ、あと名前の分からないアンアン男か。キャラ濃そーな神様もいたもんだ」
「同類だろう」
「あー、まぁ見事に女関係ばっかりだね」
「わしゃそういう話が好きだ」
「たぶん、あの主の息子だからその系統で探すのが正解だろうね。その情報ありがとう。お礼にお菓子あげるよ」
「なんじゃ、これは」
「遥か未来ではカステラと呼ばれてるお菓子。味は僕が保証する。オイシイよ」
「まぁ、頂こう。うん、う、上手い! この歳になって未知を知れるとは人生長生きが肝心か!」
「楽しんで貰えたようでなりよりだよー。じゃっ」
「ん、待て待て。未知の味のついでじゃ。お主ら、王国を通る術を知っているか?」
ついで、というには長い時間、この世界の動力についての話を聞けた。魔法という蛇女の姉貴に似た不思議力を全員が使えるとのこと。三人にはその中でもぬけた力が備わっていた。成長した彼らを見てグフタスは「頑張れ、若き強者達」そう言い残した。彼らは出発する。一人目、ミーラを探して。
「あのおっさん何者だ?」
「アハハ、やっぱり僕の睨み通りだったよ」
「うーん、私には毒術の才能か。体内から分泌出来たものをこの体の力か、ふむ。で、君達はどんな才能を持っていたのだ?」
「教えなーい」
「バカさそりに言うわけねーだろ」
「バカ!? バカとはなんだ聡明なこの私に対してその言葉は訂正するんだ!」
「何度だって言ってやるよバーカ。バカバカバーカバカ」
「貴様……!! 殺す私の毒で今殺す!」
さそりは激情にかられ、紫に変色した右手をらいおんに近づけようとする。当然気づかれ、目にも止まらぬ速さで後ろへらいおんは飛んだ。しかし、毒の破片はしっかりとらいおんの服を捉える。直感で異変感じ、すぐさま服を脱いだらいおんの視界に飛び出したのはさそりの肉片だった。
パンッ ドシュッ
「──はあッ!?」
「ダメだよー、僕に背中を見せちゃ」
「お前今何をした」
「答える義理はないよ、ヒント僕の才能」
「ハッ、いいぜ。もろとも蹴散らすからな」
数分経ち、怒りの形相をしたさそりが天界から送られた。ひつじを睨みつけており、その表情には焦りも見えていた。
「君、らいおんの危険性を説いたはずだが?」
「それもーそうなんだけどー、がら空きの背中を見逃すほど僕は優しくないの」
「くっ……!! 予定が狂う」
「ハッハッハ。初死亡の称号はお前だったようだなァ、さそりッ! ミーラ見つける前に死んでるんじゃなねーか? ハーハッハッ」
「貴様は今はいい。しかし必ず殺し、いつかハメる。絶対だ。ひつじ……さっきの攻撃、軽くはないぞ!」
「ふふふ、面白い顔」
三人は走る。背中を見せず、間隔を開けて、ミーラのいるユールミーデンに向かって。不穏な空気を漂わせながら、馬のように早く翔けていく。
よろしくお願いします!!
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