ミーラという男
「ここか」
「でっけー。村とは比べるのがおこがましいくらいには都って感じがするぜ」
「入ろー」
塀の近くに二人の傭兵門番をしている。だが、そそくさとひつじは近づいた。声を荒げられている。だが、時間が経てば何故か門番の一人のテンションがみるみるヒヨっていき、道を開けた。
「通っていいってー」
「ん、じゃいくか」
「待て待て、何をしたんだ? え、ひつじ。君が恐ろしく見えてきたぞ。らいおんもだ! 気になるだろ普通!」
「俺は気にならない。必要なくなったら殺すだけだろ? カッカしてっと脳ミソ破裂すんぞ」
「えぇ……」
さそりは腑に落ちない顔をしながら、自信満々に歩く二人に付いていった。塀を超えると商人が何人も通る大通りに出た。金と物を交換する出店も見える。三人は横並びを崩さず、通行人の邪魔しつつ進んでいく。真ん中近くに来たところで通信の声を聞いた。
「いっろんな感情を向けてんのはお前らか!」
「頭に直は気色ワリィ、誰だッ!」
「ミーラだ。妙な感情で俺を刺すお前らの方が気色がワリィね! 俺がどこか探してるんだろ? 五分以内に来い。じゃなきゃ相手にしねェ!」
「五分で、か。話をする時間も惜しい」
「うーん、らいおんとさそり。どっちか探索系の能力あるでしょ。ついていくよー」
「チッ、やりにくい男は嫌いだ」
「らいおん僕を狙ってたのー」
「わかって言ってんだろお前ッ!」
「つれないー……あっ、いない」
さそりの姿が見えなくなっていた。この大通り、人一人探すにはそれ相応の時間を要しそうだ。
「仕方ないや、らいおん道案内よろしくー」
「いやなんで俺が……あッ! 気が変わった。お前先頭なら案内してやる。それぐらいのモンが必要だろ」
「んー、いいよー」
方向を指示し、二人は進む。背中を見せた状態のひつじを狙うタイミングを伺っていた。ギュンギュン進む彼らだったが、ひつじの体勢を崩し、スピードを緩めた瞬間をらいおんは見逃さなかった。野生の嗅覚がグンと距離を縮め襲いにかかる。
スカッ
「狙い通りすぎるよー、らいおん」
「ワザとか、クソッ」
「君のが獲物を喰らう嗅覚なら、僕は逃げの嗅覚というかセンスがあるの、狩人さん」
「メンドクセ」
からめ手を止め、らいおんはひつじの命を取りに行く。純粋に、正方向で、力強く取りに行く。しかし、警戒心の高い逃げに徹したひつじは粘りがあった。
「時間」
その一言でらいおんは停止し、大人しくらいおんのセンサーでミーラのもとへ向かっていく。サバンナの奥地のような緊迫は終わり、時間ギリギリに到着する。室内には女を取り囲み、玉座に座るミーラの姿があった。
「へっ、やるじゃねーの三人共」
「あ~?」
後ろから見事なスライディングを決めるさそりの姿。二人の見えない位置から隠れて付いてきたのだろう。汗だらだらでカッコはつかないが。
「ハァハァハァ、ふぅぅぅー」
「こそクセェやろうだ」
「登場はいいのに汗はいらないよね」
「君達は本当にどーしようもないな!」
「お前らマジ意味ワカンネー、コント集団か?」
「違ーう! 断じて! 違う!」
「耳がイタイ。男は平気で嘘をつく。だから女しか信用できねぇんだ。男は苦手な生き物だ」
「オマエも男だろ」
「人はそれぞれ別の考えを持つが自分と女は信じられる。男は自分とは別、そうだろ?」
「そうですねー、分かります」
「いや意味不明だろ」
「面白く独創的な考え方です」
「さそりのヤローも味方するのか」
「三対一、多数決で僕が勝利だ」
「私達は献上したいものがあり、参りました。金品をどうぞ納め下され」
さそりの服から出てくるは金、銀、それにコショウまで入った宝箱のようであった。ミーラの反応も上々で気分が上がっていくのを感じた。しかし、ある一品に目が止まる。
「おい、そこの金のある水は下げよ。お前からの黒い匂いがする。怖い。僕に近づけるな」
「珍しい一品ですので」
「二度は言わない、下げよ」
「はっ!」
さそりの服の中に水を隠すよう下げた。目に見えるようにテンションを下げるさそり。両脇の二人は笑っていた。
「紛らわすのが下手な短足だったか」
「この体の私は短足ではない!」
「ねー、何の水なの。ねー」
「答えるつもりはないッ!」
「当ててあげる。あれってもしかしてアレスを見分けるものでしょ。僕達、アレスを探せって言われてるのに、あのグフタスは三人の候補を提示してきた。なら見分ける方法をきっとあるはずだよね」
「……」
口をつむぐさそりにひつじは近づき、観察する。しかし、さそりは右手を紫に染めていく姿を見て、距離を取る。不気味な笑顔で距離を取る。
「身体は口ほどモノを語るんだね」
「ハッハッハ。最速で落ちる奴は決まっているんだなァ。警戒もいらない弱えヤローだぜ」
「……」
「いい品物ありがとう。気分がイイ。ああ気分がイイ。しかしだ。献上した者が焦り、してない者が煽る状況は気分が悪い。それに僕の意見を愚弄したバカもいる」
「バカじゃねぇよッ!」
目に見えない速度でらいおんの前に現れ、その力強い拳で頭を砕く。風船のように砕けた顔に呆然とするひつじ。次はお前だと宣言するように身体を向けるミーラ。怒らせてはいけない相手だった。そう悟るひつじだったが、もう遅い。腹に蹴りを入れられたことで身体は宙に浮き、天井に突き刺さる。
「凄い……」
「お前も邪なる心を捨て僕に向き合うんだ。献上で許してやったが、まだらいおんの方が真っ直ぐであったぞ」
「いえ、私は勝つためにここにいるので最終的に飲んでもらいます。変わりません」
「邪も突き進めば、正にもなるか。うむ、実に面白い。面白いが僕は簡単ではないぞ」
「知りました」
ハッハッハと笑いつつ、もとの席に戻っていったミーラ。ソイツには確かなオーラが見えた。そうしているうちに、天界から身体が再送されてくる。
「マジか。三人全員怪力なのは覚悟していたが、いくら何でも常識超えすぎだろ」
「僕もびっくりだよ」
「はて、確実に殺ったはずでは」
「ん? あぁ、残像ってやつだ」
「ハッハッハ。嘘だが面白い! 邪の気配が薄い奴は面白い! して残りは……」
「僕、献上品持ってます!」
「なら早く渡さぬか、無駄な殺しをした」
(うっ! 僕の持ち品がもうほとんどない。この先ジリ貧になりそうだ!)
焦りがましていくのはさそりだけではなかった。むしろ、ひつじの方が窮地に立たされたかもしれない。彼の任務はこうである。少々時系列を遡ろう。
※※※
「ヘラ様! 任務だとしても僕は人殺しなんて出来るはずがありません。清く正しく美しく生きろ、そう言って下さったのはヘラ様ではありませんか!」
天界ではひつじを神の座へ推すヘラの姿があった。ヘラはゼウス様の妃であり、非常に近い立場の偉いお方だ。
「落ち着け。それでは神様同士のノリには付いて行けぬと言うてるおるのだ。清く正しい人間はときに美しく、ときにツマラナイ。特に矜持、ゲームの世界においてはな」
「生と死。それは神の世界で女と男の矜持と同様に血が湧く行いであるのは知っているはずだ」
「それは……そうです」
「ふふふ、ハハハハハ。お前の心は見ていて気持ちがいい。そんなソナタに、私の特級品を与えよう。その名も──神の心臓じゃ」
「神の……心臓」
「今からお前に強靭で敏感な心を与える!」




