↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/30

1.ガーデンパーティへ(ライザ)

 今日の午後、王太子主催のガーデンパーティが王宮の庭で開催され、私は侯爵令嬢として兄と一緒に参加する予定にしている。

 ゲームではこのパーティの護衛としてベルトルドが現れるかどうかで、物語は分岐してしまう。


 ゲームのヒロインであるアンナリーナは、パーティ前夜から風邪で寝込んでいた。人の細胞の機能を乗っ取って増殖するウイルスには、聖魔法はあまり有効ではない。下手に細胞を活性化してしまうと、却ってウイルスが増えてしまうからだ。そのため、ウイルス性の風邪だと診断されると、安静にしているしかない。


 彼女を溺愛しているベルトルドは、ガーデンパーティの護衛を他の騎士に代わってもらい、今日一日アンナリーナの看病をすると申し出る。

 そこで、彼女は選択するのだ。

 選択肢一、私は大丈夫だから、ちゃんとお仕事へ行って。

 選択肢二、やはり心細いから、一日だけお仕事を休んで側にいて。

 アンナリーナが一番を選んだならば、ベルトルドはガーデンパーティに護衛として現れる。二番を選べば他の騎士が代わりの護衛となる。



 ガーデンパーティ主催の王太子は現在二十歳で、ゲームでは攻略対象であった。攻略難易度は医師のロベールよりは上だが、初心者向けであることには変わりない。

 金髪碧眼という正統派王子様の彼には王太子妃候補の女性がいる。それは、この国一番の才媛と名高い伯爵令嬢のフランシスカ・セヴェリーノだった。黒髪の美女である彼女はあくまでも妃候補であるが、社交界では最有力だと目されている。そこはゲームでも現実でも同じ。



 ゲームではガーデンパーティに暗殺者が紛れ込み、王太子の命を狙うのだ。

 もしその場にベルトルドがいなければ、フランシスカが身を挺して王太子の命を救う。そこで彼女は重傷を負ってしまうが、聖女と呼ばれるほどの聖魔法の使い手、すなわち私の治療で一命を取り止めることができる。

 その後、王太子を救ったフランシスカは王太子の正式な婚約者となり、ゲームはバッドエンドとなってしまうのだった。


 ベルトルドがパーティ会場にいると、暗殺者の襲撃時に彼がフランシスカを庇うことになる。ベルトルドは暗殺者に剣で肩を刺し貫かれるが、もちろん私の聖魔法で治すことができる。

 その後、フランシスカは自分を救ってくれた勇敢なベルトルドに惹かれていき、ベルトルドもまた王太子の命を救おうとした気高い彼女に好意を抱く。そして、王太子の命の恩人であるフランシスカとベルトルドは、国王夫妻の許可を得て婚約を交わすことになる。

 フランシスカの美しい黒髪や、その頭の良さ。そして、剣に向かっていく勇気をベルトルドはアンナリーナに度々惚気るのだった。

 そして、フランシスカとベルトルドは皆に祝福されて結ばれる。幸せそうな二人の結婚式のスチルを思い出して、切な過ぎて涙が出そうになった。



 この世界は聖魔法以外の魔法は使えない設定になっていた。かつて、私利私欲のために攻撃魔法を使って戦争を繰り返した人類に精霊たちが絶望して、聖魔法以外を封印したと伝えられている。

 ゲームヒロインであるアンナリーナは魔力を持っているが聖魔法の使い手ではないと診断されていた。しかし、実は彼女の聖魔法はかなり特殊で、私たちの聖魔法が人や動物に効くのに対して、彼女の聖魔法は植物に効く。アンナリーナはいわゆる緑の手の持ち主なのだ。

 ゲームが進んでいくとそれが明らかになって、王太子は彼女に興味を持つことになる。そして、いくつかの選択肢を正解通りに選ぶと、アンナリーナは王太子妃となるのだった。



 本当にゲームのようなイベントが起こるのだろうか? 

 信じてもらえないのが怖くて、王太子が襲撃されるかもしれないことを誰に相談する勇気もなく、この日を迎えてしまった。


 何事も起こらないで欲しい。ここはゲームではなく現実の世界なのだから。

 でも、もしゲームの通りのイベントが起こってしまったら、バッドエンドになるのは怖い。まさかこの世界が終わってしまうとは考えられないが、できれば避けたかった。

 だから、護衛としてベルトルドに来て欲しい。

 でも、彼がパーティに来ると大怪我を負って、フランシスカと恋仲になってしまうかもしれない。



 ベルトルドは私のことをゲームのように好きにはならなかった。巡回治療の時以来彼には逢ってもおらず、もちろん彼とは何の進展もない。

 だから、ベルトルドがフランシスカのことを好きになるとは限らない。


 でも、ゲーム通りにベルトルドとフランシスカが恋に落ちてしまうとすれば、その場面を目撃することになるのだ。それは、やはりとても辛い。スチルのような笑顔をフランシスカに向けるベルトルドを想像するだけで心がちくちくと痛む。

 

 ベルトルドに来て欲しいのか、来ない方がいいのか、自分でもわからないままドレスを選んでいた。ベルトルドに逢えるかもしれないので、やはり一番似合うドレスで会場へと行きたいと思うから。



「ライザ、とても綺麗だよ。兄として本当に誇らしい。それにしても、いつも忙しいからとパーティに参加しないライザが、こんな昼間のガーデンパーティに参加するなんて珍しいよな」

 ようやく身支度が済んで、広い階段を降りて玄関ホールへ行くと、エスコートしてくれる予定の兄が待っていた。私と同じプラチナブロンドの髪を持つ美形であるが、なぜか攻略対象ではない。ゲームの兄は私とベルトルドの結婚が決まった時、身分が釣り合わないと嫌味を言うだけの完全なモブである。

 妹には甘い兄なので、『お兄様は私の幸せを願ってはくださらないの』と言って潤んだ目で見上げると、すぐに結婚を許してくれるのだけれど。


 兄も宮廷医師団に所属する優秀な医師だが、私ほどには魔力は強くない。もし本当に王太子襲撃が起こったなら、大怪我を負ったフランシスカやベルトルドの治療ができない可能性が高い。だから、私はガーデンパーティへ参加することにした。

 私と同程度の聖魔法の使い手であるロベールは、昼間のパーティなどには絶対に参加しないだろう。やはり私が出ていくしかない。


「お兄様、お待たせして申し訳ありません」

「ライザほどの美しい令嬢ならば、身支度に時間がかかるのは仕方がないと思うよ。まだ時間に余裕があるから、気にしなくてもいい」

 そう言って兄は肘を差し出してきた。その肘に手を添え、侍従や侍女たちに見送られながら外へ出る。そこには大型の馬車が用意されていて、兄と向かい合わせに乗り込んだ。


 ベルトルドはガーデンパーティに現れるだろうか?

 私はただそれだけを気にしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。