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生闇斬魔  作者: 湖林
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一騎当千 ~戦いの渦の中で~ その1

 四人は、暫しの休憩ののち小型プロペラ機で《陽炎のかげろうのむら》がある島に向かった。その際、ユキヨをハルトとセイヨの住んでいる家に置いていこうとしたのだが、本人が頑なに拒否し、ハルトにくっついて離れなかった。その為、本来三人で乗っているはずの飛行機に四人で乗っている。


「はぁ、なんでハルトに懐くようになっちゃったのかしら?昨日まで確かに私にくっついて離れなかったはずなのに」


 セイヨが、飛行機の中でため息を漏らす。何故かユキヨは朝起きてみるとハルトの布団に忍び込んで寝ていた。それも、ガッチリハルトの体をホールドしてだ。別にセイヨに距離を置いているわけではない。セイヨにも、普通にくっついてくるのだが、ハルトの方にくっついている時間の方が多い。


 実際に今もハルトの膝の上で静かに寝息を立てている。


「さぁ、どうしてだろ?」


「てめぇが嫌われたんじゃねーのか?」


 カズヤが遠慮せずに思ったことを言ってくる。ここに来るまで、セイヨとカズヤはとても仲が悪い、ことあるごとにどちらかが突っかかっていって喧嘩になる。


「五月蠅いわね!そんなことあるわけ無いじゃない!!」


 また始まったとハルトがうんざりし、ユキヨの頭を優しく撫でながら窓の外に目を向ける。すると、小さくポツリとした黒い点が見えた。今自分たちが向かっている島だ。


「二人とも、喧嘩は其処まで、もうすぐ着くよ」


 ハルトの言葉にギャーギャーと騒いでいたセイヨとカズヤはピタリと黙る。


「あれがねぇ。早く暴れたいぜ」


「手遅れになっていなければいいけど。運転手さん、今は緊急だから村の真上まで行って、そこから飛び降りるから。ハルトはユキヨのこと宜しく」


 四人の乗った飛行機は島の上、正確に言うと《陽炎の村》の上空を通過する。その時、飛行機から四つの影が飛び降りた。ユキヨはハルトに体を縛って固定されている。地上が近づいてくるとパラシュートを開きバランスをうまく取りながら島の端の畑などがあるところに着地する。かなり性能の良い小型プロペラ機で、プロペラの音が聞こえないくらいの高々度を飛行していたので、研究所の人間に気付かれる心配は少ない。


「ふぅ、着地成功。ユキヨ、怖くなかった?」


 ハルトが自分とユキヨを繋ぐロープを解きながら問う。ユキヨは黙って首を縦に振る、顔色も優れているし、息も荒くなっていない。全くの平常心である。


「大した物ね。ユキヨって結構素質があるかもよ」


 セイヨが感心したように言う。その言葉に急降下体験をしても、全く表情を変化させなかったユキヨの顔が少し変化した。強い意志の篭もった顔だ。


「私も強くなりたい」


 ユキヨが初めて声を発した。淡々とした声だったが、強い意志が感じられる。どうやら言葉は喋れるようだ。


「わかってるわ、私が色々と教えて上げる。でも、厳しいわよ」


 そう言って、セイヨは微笑む。ユキヨはセイヨの答えが相当嬉しかったのか、セイヨに抱きついて来た。

 そんなことをしていると、いつの間にか辺りを偵察に行っていたカズヤが帰ってきた。


「村はまだ無事だ。敵さんはどこら辺まで来ているかはわからねぇがな」


「じゃあ、取りあえず。村長さんのところまで行こうか」


 パラシュートをその辺に置きっぱなしにし、四人はこの村の村長のところへ向かった。


「ようこそ、いらっしゃいました。ハルト様、セイヨ様。こちらの方々は?」


 村長は、ハルト達がいきなり訪ねて来たことに少し驚きを見せながらも、応接間にハルト達4人を通した。取りあえず、よく知っている顔のハルトとセイヨに挨拶をして、その後にユキヨとカズヤの方を向き、訪ねてきた。


「私とハルトの新しい家族のユキヨと、ちょっと訳ありで着いてきた、私達と同業者の、羽馬 カズヤです。羽馬を連れてきたのは私達が突然訪れた理由に関係あります」


 セイヨがカズヤとユキヨの事を紹介すると、村長さんは相変わらず馬鹿丁寧に挨拶をした。


「ところで、セイヨ様方が訪れたのは、この島の西に越してきた人間に関係することでは?何やら大きな建物を建てて何やらやっておるようですが」


 村長はセイヨ達が突然来た理由を大体察していた。


「はい、そうです。この村にはまだ被害は出ていませんね?」


「ええ、大丈夫です。念の為に、ラルゥと水奈みずなを毎日偵察に行かせております。丁度今、偵察に行っている時間ですよ」


 村長の口から二人の名前が出てきた、ラルゥとミズナ。この村に置いて最強の二人だ。ラルゥは特A級の《妖》。もう片方のミズナは特A級の《妖》と人間の子供、つまりは混血児。


「そうですか、それで二人はいつ頃帰ってこられますか?久しぶりに会いたいもので」


 セイヨがお茶を一口啜る。隣ではセイヨの真似をして、ユキヨがお茶を啜っていた。


「はい、後三十分ほどで戻ってくるでしょう。それまではお菓子でも食べてくつろいでいて下さい。二人が帰ってきてから、詳しく話をお聞き致します」


 村長さんはそう言って、部屋の隅にいた使用人を呼ぶとお菓子を持ってくるように行った。そして、数分後机に山をなすほどの茶菓子が運ばれてきた。セイヨとハルトは毎度のことなので慣れているが、カズヤとユキヨはいささか驚いたようだ。ユキヨは何処か目を輝かせているように見える。


「い、いえ、お気遣い無く」


 実は、セイヨは甘いものがあまり好きではない。毎回、ここに来る時は気が重くなるらしい。なんせ、村長さんが大の甘い物好きで、セイヨ達が訪れると必ず甘いものでもてなしてくれる。セイヨにとってはありがた迷惑なのだが。


「ユキヨ、食べて良いよ。カズヤも遠慮しないでどうぞ」


 ハルトが、ユキヨとカズヤにそう言う。まず動いたのがユキヨである、恐る恐る一つのお菓子を選び、封を開け口に運ぶ。


「……!!」


 ユキヨは、目をいっぱいに開け驚きの表情を見せた。


「ど、どうしたの?」


「おいしい」


 ユキヨはお菓子と言うものを初めて食べたらしい。まぁ、あんな環境では無理もないのかもしれないが。


「そ、そう、じゃあ私の分までどんどん食べちゃってね」


 セイヨが自分の分もユキヨにすすめる。どうやら、セイヨはピンチを脱したようだ。ちなみに、これを機にユキヨは甘いものが大好きになり、後々セイヨを連れて甘いもの食べ歩きに出かけることになるのだが、それはまた別のお話。

 いつの間にかカズヤはマイペースに手近にある、お菓子を適当に食べ漁っている。




 茶菓子を用意されてから五十分経った。大量に用意された茶菓子は三分の一ぐらいまでの量になっていた。ゴミの散らかっているところを見ると、ユキヨの回りに多く散らかっているところをみると、大半はユキヨが食べたようだ。

 約束の時間から二十分経った。村長とずっと一緒にいたが、何かしらの連絡が来た気配はない。


「おかしいですね。あのミズナが時間に遅れるとは」


 村長さんが時計に目をやりながら、そんなことを呟くと同時にドアが勢い良く開いた。


「村長!!ラルゥとミズナさんとの連絡が途絶えました!!」


 村人、おそらくミズナとラルゥと連絡を取り合っていた者が息を切らせ、慌てた様子で応接間に入ってきた。


「セイヨ、カズヤ、行くよ!!」


 ハルトは村人が入ってきた時には、既に立ち上がっていた。


「ハルト様」


「わかったわ、ユキヨのことよろしくお願いします」


 セイヨも立ち上がり、ユキヨのことを村長さんにお願いした。


「ちょっと待て、二人とも」


 カズヤが部屋から飛び出そうとする、セイヨとハルトに声を掛ける。


「どうしたのよ!!今は一刻を争う事態なのよ!!」


 カズヤの制止に苛立つセイヨ。


「だから少し待てって言ってんだろうが!!村長、なんかこの島の地図ねーか?」


 カズヤの言いたいことが分かったのか、ハルトもセイヨも一旦部屋の中に戻る。考えてみたら、何処に研究所があるかとか、どの辺まで、敵が進出してきているのだとか、そう言うことが一切わかっていなかった。

 村長さんは直ぐに島の地図を用意してくれた。それを机の上に広げて、みんなで囲む。


「んで、敵の研究所は何処にある?」


 カズヤの質問で、先ほど入ってきた村人が研究所のある場所を指で指す。


「ここか?」


 カズヤは其処に赤いマーカーでマークを入れる。


「で?敵はどの辺まで入ってきているんだ?」


「一昨日までの調べだと、この辺をうろついているはずなのですが」


 そう言って、結構広い範囲をマーカーで囲む。


「最後に、その二人組がいつも偵察しているルートを教えろ」


 村人は、二人がいつも偵察の時に通るルートをマーカーで書き込んだ。


「ラルゥのルートの方が敵の数が多そうね、こっちは私とハルトのペアで行くわ」


 セイヨが言う、カズヤが少し不服な顔をするが、セイヨとハルトはキメラと戦った経験があるので、何も言わないでおく。自分にとってキメラは未知の敵なのである。確かにより強いものと戦いたいが、相手の力量も知らずに突っ込んでいくのは馬鹿のすることだ。それに、別に敵の多い方に行かなくても、強い敵に会える可能性はある。


「わかった、俺はこっちに行く。ここで合流だ。時間は今から1時間半後の1300時(午後1時)だ」


 最後に研究所の前で適当な場所を見つけてマーカーで印を付けた。そして、各自地図を頭の中に叩き込むと、村を後にした。

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