疾風迅雷 ~大切な者の為に~ その4
「ハァハァ、やるな、でも勝負はここからだぜ!!」
カズヤもハルトも体のあちこちに擦り傷を作り血が所々から流れている。夢黒の屋敷の庭は、見るも無惨に破壊されている。周りを覆う塀は所々に大穴があき、芝が生い茂っていた地面もえぐられ、メチャメチャになっていた。
「ハァハァハァハァ、ま、まだ俺は死ぬわけにはいかないからね」
ハルトも荒い息を吐きながら、カズヤとの間合いを慎重にとる。しかし、素手同士の戦いではカズヤの方が一枚上手のようだ。ハルトの方が体力の消費が激しいのが分かる。では何故ハルトは妖刀を出さないのか?ハルトにはカズヤを殺す気はない。セイヨに自分がカズヤと戦うと言ったのも、カズヤを殺させないためだ。セイヨとカズヤの戦いになれば、必ず殺し合いになってしまう。
しかし、素手の勝負だと時間が経てばいっそう不利になる事は目に見えている。予想以上にセイヨが目的を果たすまでに時間がかかっている。更にこの後の事を考えると、あまり《気》を消費したくない。
「オラァ!!」
カズヤが一瞬でハルトを自分の間合いの中に入れた。そして、回し蹴りと右の正拳のコンビネーションで攻撃を仕掛けてくる。ハルトは反応が遅れてしまい、腕で防ぐ羽目になってしまった。しかし、予想よりも相手の攻撃が重く、バランスを崩し地面に尻餅を付く。
「もらった!!!!」
カズヤはそのチャンスを逃さずに、ハルトの顔面狙ってパンチを繰り出した。カズヤのスピードが速すぎて防御が間に合わない。ハルトはせめて顔の一番堅い額で受けようと、額に拳が入るように頭を少し動かして《心気》を額に集中させた。
ドガァ
しかし、ハルトを襲うはずの衝撃は来ず、代わりに目の前に一瞬前までいたカズヤの姿が消えた。
「ふぅ、危なかったわね」
代わりにハルトの目の前には、ハルトの方を向きニコリと笑っているセイヨがいる。一方カズヤはと言うと、屋敷の壁にもろに叩きつけられ、派手に壁を破壊していた。どうやら、ハルトとの戦闘に集中し過ぎていて、周りの気配を読むのが疎かになっていたようだ。あれではしばらく立てないだろう。
ハルトはすぐさま立ち上がる、それを待ってセイヨは持っていた二本の刀をハルト向に手渡した。
「ありがとう、助かったよ。へぇ、結構いい刀だね。俺はこっちの方がいいな」
そう言って、ハルトは二本のうち一本を選んだ。それは、はじめに見つけた刀ではなく。予備として、セイヨが持ってきた二本目の刀だった。
「えっ、どうして?もう一本の方が全然いい刀なのに?」
「その刀は俺には行き過ぎた代物だよ。こっちの方が手にしっくり来る感じだしね」
そう言って、自分が選ばなかった方の刀をセイヨに返した。
「そうかなぁ?でも、ハルトがそう言うんだったら。じゃあ、使わない刀は、予備って事で家に保管しておくわ」
するとセイヨは一番始めに自分とハルトのぶち破った玄関の所まで一旦戻って行った。目でセイヨのことを追うと、玄関の所に誰かが居ることに気が付いた。玄関に着いたセイヨに手招きされたので、直ぐにセイヨの後を追い、ハルトも玄関の所まで行く。
「とりあえず持っててくれる?」
刀を玄関にいた少女に渡す。
「その子、誰?」
ハルトは先程セイヨから刀を受け取った、髪のやけに長い女の子を指差して不思議そうな顔をする。そして、その少女の目を見てセイヨと同じような感覚に襲われた。似ているのだセイヨと会う前の自分に。
「ああ、この子はあのブタの所にいたから拾って来ちゃった」
そう言って、エヘッと笑い舌を可愛いらしく出した。
「ふーん、じゃあ、俺たちで面倒見るんだね?」
セイヨが拾ってきた理由も少女の目を見た瞬間で分かったので、追求しなかった。
「ええ、いいかしら?」
「いいよ、それは帰ってから話そう。それより今は研究所の事だ」
「そのことなんだけど」
一気に深刻な顔つきになり、研究所の在処や知能を持ったキメラの事などをハルトに話した。
「やばいね。俺たち二人じゃ、ちょっときついかも」
「痛てて、ったく男同士の勝負に横やり入れやがって」
カズヤがヨロヨロと穴の空いた壁の中から出てきた。フラフラしているが、大したダメージは受けていないように見える。それを見て、セイヨとハルトは玄関から離れ、庭の中心に移動した。玄関にいる少女を巻き込まない為だ。
「ったく、あんたと遊んでいる時間はないって言うのに。まぁ、いいわ。さっさと片付けてあげる。おいで『月下美人』」
空間に切れ目が入り、『月下美人』が顔をだした。
「ちっ、『月下美人』か。あまり使いたくはなかったが、今日は二人相手だからな。出てこい!!『炎』」
同じように、空間に切れ目が入り炎に包まれた刀が現れた。カズヤがその刀を掴むと、炎は一瞬で消え、刀がその姿を現した。
「なっ!?」
ハルトはカズヤが妖刀を出したのを見て、何故戦闘中に妖刀を使わなかったのか?と言う疑問が沸いた。今まで、何度かカズヤと戦った事はあるがカズヤが妖刀を使ったことは一度もなかった。そもそも、ハルトとセイヨ二人掛かりで、カズヤと対峙するのも今回が初めてだ。
「妖刀!?ハル、私の本当の先頭スタイル見せてあげる」
セイヨはハルトにウィンクを送ると、意識を集中させて左手を突き出した。
「おいで、『冷花』!!」
三度空間に切れ目が入り、今度は氷で覆われた刀が姿を現した。そしてセイヨが触れると同時に氷は砕け散って、空気中に舞い月明かりを反射して輝いた。
「なに!!妖刀が二本だと!?」
「二本目にマスターとして認めてもらえたんだ」
多分、二本の妖刀のマスターとなった人物は史上初だろう。驚かない方が無理だ。
「さぁ、こっちは時間がないの。さっさと終わらさせて貰うわ」
二刀流独特の構えを取る。間合いに入った瞬間、二本の刀に切り刻まれるだろう。ハルトから見ても隙が全くない。セイヨが一本の刀で戦っている時とは桁違いだ。刀、一本と二本でこんなに差が出るものなのか。
カズヤはセイヨが『月下美人』一本で戦っていた時は素手で同等に戦えていたが、二刀流になったセイヨの前では、たとえ妖刀を使った所で焼け石に水である。セイヨは元々、ハルトと実戦さながらの特訓をしていたので、素手よりも刀相手の方が得意なのだ。
「早く終わらせられるものなら、やってみな!!」
威勢よく言ってみたものの、カズヤの額を汗が伝う、セイヨに気圧されている。ハルトと戦っていた為、《気》もかなり消費している。一方セイヨも妖刀を手に入れる為、《気》をかなり使ったがカズヤほどではない。勝負は既に見えている。
セイヨとカズヤが相手に詰め寄ろうと、同時に一歩踏み出した所で、二人とも踏み止まった。まだ両者の間合いに入るには距離がある。では何故だろうか?
「止めな、二人とも」
その理由はハルトが二人の間に割って入っていたからだ。二人とも、もう一歩踏み出すとハルトの間合いに入ってしまう。だから二人とも一歩だけで止まったのだ。
「今、殺り合ったら、どっちが死ぬかは明白だよ」
「どけ!!」
ハルトの制止も聞かずにカズヤが声を上げる。対し、セイヨはハルトのことをジッと見ているだけだった。
「聞いて!!『微笑の死神』、いや、羽馬カズヤ。力を貸してくれない?」
「??どういう事だ?」
ハルトの落ち着いた声によって、カズヤも少し冷静さを取り戻した。それを感じ取って、ハルトは話しの続きをした。
その内容は、キメラという《妖》と人間の合成物の排除、それを行っている研究所の破壊、及びそれに関わった研究者の抹殺。それの手伝いをしてほしいというものだった。
「断る!!そんなもんに興味はねぇ!!俺が望んでいるのは、お前らと、俺と同等に戦える奴と本気で戦うことだけだ!!自分が本気で戦っている時だけ俺は楽しいと感じられる!!それ以外のどんな娯楽も俺にとっては何の価値もない!!さぁ、続きをやろうぜ!!俺を楽しませてくれよ!!」
カズヤはハルトの頼みに耳も貸さず、再びセイヨとハルトに襲いかかろうとした。
「お願い!!一刻を争うんだ!!俺達なら、この一件が終わった後にいくらでも相手するから。だから此処は退いて、手伝わなくてもいい、せめて今日は見逃してくれない?」
ハルトはカズヤの目を見て、必死にお願いをする。頭は決して下げないが、ハルトの目から必死さが伝わってくる。
「何故だ?俺を倒してからでもいいだろう?何故この戦いを避けようとする?」
「君は俺を殺そうとしたことは一度もない。いくらでも殺せるチャンスがあったはずなのに。特に、不意打ちとしてその妖刀を出せば」
今まで何度とあったハルトとの戦闘で、カズヤは一度も妖刀を使っていない。よって、不意打ちとして、妖刀『炎』を使えば、いくらでもハルトの首をはねるチャンスはあったはずだ。なのに妖刀は一切使わず、素手で戦った。素手で戦う時も、カズヤは全力を出し切っていないようにも見えた。それはハルトも一緒なのだが。
「それに、キメラは強い。俺達も一度殺されそうになっている。ここで無駄に傷つきたくない」
其処でハルトは言葉を切った。そして暫く沈黙が流れ、その場にあった緊迫した空気がスゥっと消えた。
「いいだろう、一時休戦だ。お前らを手伝ってやるよ。お前らを追い込んだキメラって奴に興味が出た。面白そうだぜ」
そう言うと、『炎』を鞘に仕舞い、異空間に戻す。
「セイヨもいいね?」
セイヨも攻撃態勢を解き、刀を二本とも異空間に送り返した。
「こいつと組むのは少し嫌だけど、しょうがないわ」
刀を納めた二人を見て、ホッと一息付いた。
「じゃあ、後は政府に任せて、島に行く準備に掛かろう」
そうして、セイヨとハルトとカズヤ、そしてセイヨが拾ってきた少女の四人はボロボロに破壊された、夢黒の豪邸を去った。三人が去った後の屋敷は妙な静けさに包まれていた。
その後、セイヨは依頼してきた政府の人間に、連絡を取り事情を話した。近くの町の高級ホテルに部屋を取って貰い、四人は其処に転がり込んだ。セイヨが電話をかけた人間がかなりの権力者なのか、かなり良い部屋だった。更にその島に行く為の飛行機の手配もして貰った。
「じゃあ、これからのことを相談するわよ」
ハルトとカズヤが、ソファーに座り話しをしていると、風呂から上がってきたセイヨがハルトの隣に腰を下ろした。その後から、セイヨが拾った少女がついてくる。一緒にお風呂に入っていたのだ。
「あっ、そうそう。この子の名前お風呂の中で決めたわ」
セイヨがその少女を自分の隣に座らせ、その子の腰ぐらいまである長い髪の毛を拭きながら言う。
「へー、どんなのにしたの?」
「この子の名前は、雪夜よ。この子も気に入ってくれたみたいだし」
ユキヨ、そう名付けられた少女は、少し気持ちよさそうに目を閉じている。
「ふーん、いいんじゃない?ユキヨ、これから宜しくね」
「・・・」
ユキヨから言葉は返ってこなかった。代わりにコクリと頷いてくれた。
「それでこれから、どうすんだ?」
カズヤが声を上げる。さっさと戦いたくてウズウズしているように見える。
「一応、飛行機の手配はしてあるわ。取りあえず《陽炎の村》まで行って、無事かどうか確かめるわ。その後、村の《妖》に協力して貰ってキメラを全滅する」
「はぁ!?《妖》だと!?」
「大丈夫。あの村にいる《妖》は人間との共存を望む者ばかりだよ。中には人間との間に子供まで作った者もいるくらいだしね」
ハルトが手短に説明する。今まで《妖》を殺してきたカズヤには信じられない話しだった。ハルト達もその話を聞いて、初めは信じられなかったのだから、無理もないことだろう。
行ってみれば分かるというハルトの言葉に、それ以上文句は言わなかったが。とにかく戦えればそれでいいらしい。
「じゃあ、少し眠っておきましょう」
話が一段落ついたところで、4人は暫しの眠りについた。
小さな戦士達のほんのわずかな休息。それぞれ、とても穏やかな、年相応の顔をして眠っている。もうすぐ起きる大きな戦いに備えて。




