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生闇斬魔  作者: 湖林
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二の句が継げない?その1

 玄関に入ると息を切らせた村長さんが待っていて、頭を深々と下げて挨拶をしてきた。


「良くいらっしゃいました!お久しぶりですな」


「お久しぶりです」


「お久しぶりです。急なことで申し訳ないのですが、今回は、友人を一人連れてきましたが、良かったでしょうか?」


 リビングに案内されて、お互いに挨拶を交わした。村長さんは六十歳を少し過ぎたぐらいの、何処にでもいそうな優しそうなおじいさんだ。


「ええ、もちろんですよ。お二方のご友人ならば我々は大歓迎です」


氷神瑠香こおりがみ るかです。よろしくお願いします」


 そう言ってぺこりと頭を下げた。


「こちらこそ。ではハルト様、ユキヨ様、ルカ様、短い期間ですが、我々全力で歓迎させて頂きますので、ごゆっくりとしていって下さいませ」


 村長は丁寧な動作で再び頭を下げた。ハルト達が実はとても凄い人なのではと、ルカは勝手に思ったりしていた。


「それでですね。ルカはこの村のことを何も知りません。説明して頂けるでしょうか?」


「我々のことを存じないんですか?一般の方が知っても大丈夫でしょうか?」


「ええ、かまいません。それはルカが望んだことです。それにルカは一般の人間ではありませんので」


「四聖族の次期頭首」


 お茶を静かに飲んでいた、ユキヨが急に口を挟んできた。


「でも、彼女がそれを望み、全てを知りたいと願っている。私は彼女なら大丈夫だと思います」


 そう言ってユキヨはまたお茶を啜り始めた。いつの間にか出されていたお茶請けは全て綺麗になくなっていた。


「ユキヨ様が其処まで仰られるとは・・・、解りました。元々、ルカ様が四聖族であろうがなかろうが、ハルト様やユキヨ様の御友人、我々は全力で歓迎致します」


 ルカはいつの間にか、背筋を伸ばし真剣に聞く体勢を取っている。そして頭に色々な疑問が浮かんでくる。何故、村長さんは四聖族のことを知っているのだろうか?何、故村長さんはハルト達をこんなに信頼しているのか?そして、いつお茶請けが全てなくなったのか?等々。どうでもいいことも全てが気になる。


「では、お話しさせて頂きます。・・・その前に、ちょっと失礼します」


 そう言うと、部屋の隅に控えていた執事を呼ぶ。


「すまぬが、新しいお茶菓子を持ってきてくれぬか?それとラルゥを呼んできてくれ」


「かしこまりました」


 軽く会釈すると、執事は部屋から出て行った。


「すいません。ユキヨは甘い物に目がなくて」


 ハルトが少し恥ずかしそうに頭をかく。


「いえいえ、こちらが用意したお茶菓子が少なかっただけでしょう」


 いや、そんなことはない。かなり大量に用意してあった。ハルトがこの部屋に入ったとき、思わず胸焼けしてしまうぐらいの量はあったはずだ。それが今では姿形もない。普段のユキヨならこのくらいの量でピッタリだっただろう。いや、丁度いいように町長さんが出しておいてくれたはずだ。しかし、今回は足りないようだ。ここに来るために、森に入ってからずっと刀に気を送り続けていた。そうしないと道が解らなくなってしまう。そして今回はルカが居たせいで、いつもよりずいぶんとここにたどり着くのが遅くなってしまった。だから、その分多く食べるというわけだ。


 暫くすると、ドアが開き、一人の男性が入ってきた。二十代前半に見える。黒い髪、スラリと高い身長、やせても太っても居ない体つき。ここまでは何処にでもいそうな青年である。しかし、ピンと尖った耳、燃えるように真っ赤な目、その二つが普通の人間ではないことを主張していた。そして右手には大量の和菓子の箱が抱えられていた


「!!」


 ルカが、竹刀袋を持って立ち上がろうとするのを、ユキヨが制止した。


「ルカさん、待って。しっかりと話を聞いて。話を聞いてからでも遅くない」


 ルカは暫く考えた後、刀が入った竹刀袋を置くとソファに座り直した。


「久しぶりだね、ハルトにユキヨさん。元気だったかな?」


 ニコリと笑う。凄く綺麗な笑みで、とても《妖》とは思えない。


「ああ、久しぶりだな。ラルゥ」


「久しぶり」


 ルカは、そのラルゥと呼ばれた《妖》があまりにも悠長に人語を話すのでビックリして、言葉に詰まってしまった。


「それでそちらの方は?」


「ああ、クラスメイトのルカだ」


「へー、珍しいね。この村にハルト達以外の人が来るなんて。でも。普通の人間じゃなさそうだ。まぁ、よろしくね」


 そう言って、また綺麗に笑うラルゥ。


「あ、あんた何者?ただの《妖》じゃないでしょ?っていうか《妖》なの?」


 辛うじて質問を言葉にした。


「ええ、ラルゥは《妖》ですよ。それも最強クラスの」


 ルカの疑問にはラルゥではなく、村長さんが答えた。


「ルカ様、あなたは少し勘違いしていますね。貴方は《妖》のことをどういう風に思っておられるのですか?」


 ハルトと、ユキヨは静観を決め込むつもりらしい。先ほどラルゥが持ってきた大量の和菓子を口に運びながら野球観戦でも見るかのように眺めている。ラルゥも自分の出番が来るまでハルト達に便乗して和菓子をつまんでいる。


「人に害をなす者、敵、そして私達の狩りの的」


「それでは、それは何処から入ってきた知識ですか?」


「私達の一族の間ではそう思うのが当たり前。昔からそう言う風に教わってきたから」


「では、其処にいるラルゥが人を食し、人に害を与えるように思えますか?」


 そう言って村長さんはラルゥの方を見て言った。ルカもそちらに目を向けると、ラルゥが和菓子で頬を膨らましながら微笑んできた。とても人を食べるとは思えない。


「思えないでしょう?妖の中にも人を愛し、人との共存を望む者もいるのですよ。それは人間の世界でも一緒でしょう?戦争をして互いを殺し合う人たちもいる。まぁ比率の問題でしょうけどね、《妖》の大半は人を殺し、人を食う。だから《妖》は全て悪、そう思われてもしょうがないのでしょう。でも覚えておいて下さい。妖の全てがそう言う者ではないことを。そしてこの村には《妖》と人間の夫婦も多くいます。彼らは互いに種は違っても、信じ合い、良いところも悪いところも認め合っています」


 そう言って、村長さんは一息吐いた。

「私の話はこれで終わりです。今の話を聞いて、貴方が何を思い、どのように行動するのかは自由ですよ」


 ルカは黙り込んで、俯いている。


「まぁ、まだ時間はあるしな。考えて結論を出すことだ。それとも、もうここを去りたいか?それなら俺等も一緒に帰るが?」


 ハルトが聞くと、ルカはハルトの方に顔を向け首を横に振った。


「いえ、帰らないわ。まだ良く理解出来てないけど、ここにいれば、色々解るような気がするし。それに、面白そうじゃない、人と《妖》の共存なんて」


 何故か目が輝いているように見える。今日までハルト達と生活してきたことが、こういう結果を生んだのだろう。ユキヨから訓練を付けて貰うことによって、自分の弱さに気付いたし、自分が無知だと言うことに気付いた。だから今回も考えるという行為に至ったのだろう。もうルカは《四聖族》にこだわらなくなっていた。もし昔のルカならユキヨの制止を聞かず、無理矢理刀を抜刀し、返り討ちにあってここで人生の終わりを迎えていたことだろう。


「良かった、ルカさんが解ってくれて」


「ああ、そうだな。この村を回れば色々解るし、楽しいことも多いぞ」


 ハルトとユキヨも安堵の表情を見せた。ラルゥと村長さんもまたしかりである。


「じゃあ、一段落ついたとこで、僕はハルト達が来たパーティーの準備を手伝いに行くよ。今夜は町全体でお祭りだ」


 ラルゥは嬉しそうに立ち上がる。村長さんの家から出てみると、来たときとは町の様子がずいぶんと変わっていた。来たときは静かでほのぼのした感じを受けたが、今は所々で人がせっせと行き来していて活気が溢れている。


「じゃあ、ハルト達はどっかその辺をブラブラしてきなよ」


「俺達も手伝うが」


「いいって、いいって。ハルト達の為のお祭りなんだからさ」


 爽やかに笑い、その場を駆け足で去って行った。


「兄さん、どうする?」


「とりあえず、少し村を回ってみるか。いろいろとおもしろいものも見れるかもしれないしな」


 面白いものと言うところにルカが反応して、行くことが決まった。適当にブラブラ探していると、噴水の所にカズヤの姿が見えた。


「ハ、ハルト。どうしたんだ?」


 ハルト達に気付くと、カズヤは少し焦った声を上げた。


「なんで焦ってるの?」


 ルカが不思議そうに首をかしげる。


「な、なんでもねぇーよ」


 いつも余裕たっぷりのカズヤがこれだけ焦っている所を見るのは珍しくて、笑いそうになってしまう。とそこへ、その原因が帰ってきた。


「はい、カズヤ。アイスクリーム」


 原因はミズナだったらしい。アイスクリームを両手に持っている。


「あっ、そっか邪魔しちゃったね」


 ルカが意地悪そうに笑う。


「そ、そんなんじゃねーよ。そ、それより氷神は大丈夫だったのか?」


「ええ」


 ユキヨが言う。少し嬉しそうだ。


「まだ、完全にって訳じゃないけど、もう少しこの村にいてしっかりと自分の答えを出すわ」


「ラルゥ君には会った?彼が一番人見知りをしないから」


 今度はミズナが聞いてくる。


「ええ、ビックリしちゃった。あんな《妖》もいるのね」


 ミズナはくすっと笑うと、


「ええ、こんなのもいるわよ」


 そう言って、少し目をつぶったかと思うと、背中から真っ白な翼が生えた。そして目を開けたときその目は金色に輝いていた。その姿はまるで天使のようである。


「私は、人間と妖の間に生まれたハーフよ。どうかしら?」


「・・・綺麗」


 自然とそんな言葉が口から生まれた。

 ミズナは有り難うとルカに返答して、羽をしまった。目の色も元に戻っている。何処からどう見ても人間にしか見えない。


「この村にいる《妖》や《半妖》は良い人たちばかりだから、安心して過ごしてね」


 そういって微笑むミズナは女のルカが見ても胸が高鳴るぐらい美しかった。


「まぁ、話しは夜にでもしよう。これ以上、邪魔しちゃ悪いからな」


 カズヤが少しつまらなそうな顔をしているのを見て、ハルトが話しに割って入った。


「そうね。じゃあまた夜に」


 ルカもカズヤの様子に気付き笑いながら話しを切り上げた。


「ごめんなさいね。気を遣って貰っちゃって」


 ミズナは手を振ってハルト達が去るのを見送った。そして三人が見えなくなった後、カズヤの腕に腕を絡め、凄く幸せそうに微笑んだ。

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