矢も楯もたまらない?その2
小さい飛行機がギリギリ発着陸出来るくらいの小さな滑走路がハルト達の乗る飛行機を出迎えた。滑走路の回りはさすがに視野が開けていた。しかし、少し遠くに視線を向けると、昼間なのに薄暗い森が見える。
飛行機から降りるとハルト達はパイロットの人にお礼を言うと、森のどんどん奥へと進んで行った。目の前には豊かな自然が広がっている。
「豊かな自然って言うよりこれは」
訂正しよう、そこはジャングル、もしくは日本の青○ヶ原の樹海と言ったところだろう。後ろを振り返っても既にどっちが来た方向だかわからない。薄暗い森の中から動物の鳴き声や何かが蠢く音が絶え間なく聞こえてくる。
「離れるなよ。迷ったら生きては帰れねぇからな。この島では磁石も役にたたねぇしな」
カズヤが笑いながらそんなことを言ってくる。
「海岸に付いても、船の入れるような所はない。断崖絶壁になってるから」
「この島は、来る手段も帰る手段も、飛行機だけしかないんだよ」
そんなとんでもないことを言う三人の言葉に唾を飲み込み、ハルトの袖に捕まった。
「で、でも、こんな所に本当に人なんて住んでいるの?」
震える声でハルトに聞く。
「ああ、確かに住んでいるよ。総勢139人。行けばわかる」
その後、四人は二時間ぐらい歩き続けた。足下は安定せず、生い茂っている草が邪魔でかなり歩くのが大変だった。不思議な生物に会うのもしばしば、しかし危害を加えてくるようなものはいなかった。
「後どれくらい?」
少し疲れた声を上げるルカ。歩き慣れないジャングルの道で体力を、ハルト達と離れたらヤバイという状況で精神力をかなり持って行かれたようだ。
「そう言えば、道はあってるの?」
今、ハルト達が歩いている所は道の定義からずいぶんと外れている。人の足跡すらなく、完全に人が通るようになっていない。むしろ生い茂る草は人の侵入を阻止するかのように生い茂っている。
「大丈夫、『月下美人』が案内してくれる」
他のことに気を取られすぎていて気付かなかったが、いつの間にかユキヨが自分の刀を手に持っている。
「刀が?」
ルカが聞き返す。もちろん誰も歩みは止めない。
「そう、刀と刀が呼び合ってるから」
いまいち言っていることが解らないが、一応納得しておくことにする。これ以上話すのは体力の無駄だし、これ以上突っ込んで聞いてもしっかりとした答えが返ってくるとは思えなかった。また後で聞けばいいやとも思った。
その後、みんな無言で一時間ほど道なき道をひたすら歩くと、一気に視界が開き、まぶしい太陽の光りに包まれた。
ルカは目を細めて、光に慣れるまで暫く待った。そして徐々に自分の、目の前の光景が鮮明になって行く。
眼下には町が広がっていた。丁度月のクレーターのようになっているところに町があるのだ。大きさは半径1㎞半ぐらいの巨大なクレーターだった。回りは先ほどハルト達が通ってきた森に囲まれていた。高い建物は一個もなく、全て洋風の一軒家で中心に行くに連れて密集している。中心には大きな噴水が堂々と立っており、そこから東西南北に煉瓦の道が走っていた。中心から離れれば離れるほど、畑や田圃といったような自然が多くなっている。
「うわぁー、こんな所に人が住んでるなんて。でも、綺麗な町ね」
そんな町を見て感嘆の声を上げた。
「いいか、ルカ。何があってもしっかり受け入れろよ」
ルカの答えを待たずに、ハルトは村の方へと向けて崖を下りはじめた。小さく頷くとルカもハルトの後を追って崖を下った。
崖を下り終わり、町に近づくと、さっきまでよく見えなかった物が見えてきた。とにかく綺麗な村だった。まずゴミが全く落ちていない。そして所々に花壇があって、町を綺麗にコーディネートしていた。よく見ると噴水からは普通の水に比べると、青っぽい水が出ている。人が大通りにはあまり居らず、噴水の音と小鳥のさえずる声が町を支配していた。ルカは凄く落ち着いた気分になれるのを感じた。
「あれ?カズヤじゃない」
大通りにいた数少ない人間(?)の中の一人、ルカ達と同じぐらいに見える女の子がカズヤのことを見つけると、声を上げて近づいてきた。
「お久しぶりね。元気にしていたかしら?」
少し赤い髪の毛を後ろでまとめているその少女はおっとりとした声でカズヤに話しかける。声だけではなく外見もおっとりといった言葉がよく似合う女性である。
「ああ、ミズナか」
カズヤが素っ気なく言うと、その女性、羽矢手 水奈は整った顔を少し歪めて頬を膨らました。
「久しぶりに会ったっていうのに、ずいぶんと素っ気ないのね?それがパートナーに対する言葉かしら?ユキヨとハルトも久しぶり、元気にしていた?」
カズヤから今度はユキヨとハルトのほうに向き直り、声を掛けた。
「ええ、ミズナも元気そう」
「ああ、久しぶり。ガラにもなくカズヤの奴照れてるんだな」
ユキヨはどことなく嬉しそうな表情をしている。一方、ハルトは少し面白いものを見るような目でカズヤを見た。
「う、うるせぇ。余計なこと言うな」
カズヤはそっぽを向いて、腕を組んだ。そこはかとなく顔が赤い。
「クスッ、わかっているわ。カズヤのことは一番私がよく知っているからね」
そう言って、ミズナは笑った。綺麗な笑顔というか、小悪魔的な笑顔というか微妙な笑い方だった、がそれを見た大抵の男はコロリといってしまうだろう。
「ところで、この人は?」
話しについて行けてないルカの方を見て不思議そうな顔をした。
「友達」
「羽矢手水奈よ、よろしくね」
そう言って、笑ってルカに手を差し出した。
「氷神瑠香です。こちらこそ宜しく」
ルカはおずおずと手を握り返すと、ミズナと同じように笑顔で自己紹介をした。
「じゃあ、カズヤ達は村長に挨拶に行くんでしょ。私これから村のみんな集めてパーティーの準備しておくわ」
「ああ、じゃあまた後でな」
カズヤがぶっきらぼうに言い放つと、それを受けミズナは嬉しそうに立ち去った。
「別に挨拶は俺等だけで行くから、カズヤはミズナと一緒に行ってもいいんだが」
「だがな」
カズヤの歯切れが悪い、いつものカズヤからは想像出来ない。
「大切なパートナーだろ?」
そんなハルトの少し寂しそうな言葉を聞くと、カズヤは「じゃあ、挨拶は任せた」と残し、ミズナの去った方に向かってかけて行った。
「兄さん」
ユキヨはそっと呟くが、その小さな声は、噴水の音にかき消され誰にも届くことはなかった。
「じゃあ、村長の所に行くか。そこでルカにはこの村のことを話す」
そう言い放って、ハルトは歩き出す。ユキヨとルカもそれに続いて歩き出した。
村長の家は村の中心から北に向かって行ったところの一番奥にある、ひときわ目立つ大きな屋敷だった。ハルト達がインターホンで、自分たちが来たと言うことを伝えると、ほんの30秒で門が開き、中に案内された。更に、玄関に入ると息を切らせた村長さんが待っていて、頭を深々と下げて挨拶をしてきたのであった。




