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生闇斬魔  作者: 湖林
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矢も楯もたまらない?その1

 ハルト達とルカが出会ってから、2週間が過ぎようとしていた。学校は夏休みに入り、外では土から出た蝉が短い人生を一生懸命鳴いて過ごしている。ルカはここ二週間、休み無しで、ユキヨに訓練を付けて貰った。夏休みに入ってからは、午前中は全て訓練に使った。朝6時に起き、朝食の前までの朝練、そして朝食後に少し休憩を入れ昼食までまた訓練。その為、気の使い方もかなり上手くなり、気の持久力もかなり伸びた。最近では少し時間があれば極少量の心気しんきを体に纏ってみたりしている。

 そして、ルカはハルトの家に住み着く様になった。もう一週間も自分の部屋に帰っていない。本人曰くいちいち家に帰るのが面倒くさい、だそうだ。別にハルトやユキヨは嫌がっていない。初めてルカが来た日の、乗り気でなかったユキヨはどこに行ったのだろうか?


「はぁー、今日も平和ねー」


 朝の訓練も終わり朝ご飯を食べた後、紅茶を啜りながらハルト、ルカ、ユキヨはリビングでくつろいでいた。


「そうだな」


「兄さん、もうすぐ来る」


 紅茶を一口飲んでから、ユキヨがぼそりと言ったとほぼ同時に直後チャイムが鳴った。ハルトは時計を見るが約束の時間まで後三十分はある。


「いつもあいつは速いんだよな」


 ハルトが玄関の鍵を開けると、ハルトが予想していた通りの人物がヘラヘラと笑いながら立っていた。


「よぉ、ハルト。もう準備は出来てるか?さっさと行くぞ」


 何処かしらウキウキしているように見える。


「さっさと行くって言ったって、まだ時間はだいぶあるだろ?取りあえず中に入れ、カズヤ」


 カズヤはハルトに言われるがまま、リビングへと入っていった。


「あれ?なんで氷神こおりがみがここにいるんだ?」


「それはこっちの台詞よ。なんであんたがここに来るのよ?」


 そう言って、二人は暫し睨み合った。と言っても、睨んでいたのはルカの方だけだったが。


「そう言えば、ルカには言ってなかったが、今日から当分この家を空けるから宜しく。ちなみに、夏休みが終わるまでには帰ってくるから」


 ハルトが二人の間に入って、ルカに向かってそう言った。そんな大事な話を出発ギリギリまで言わないのは人としてどうなのかと思う。しかも、一応、一緒に住んでいる人間に対してだ。


「えーーー!!!!そんな急に何処行くのよ!?もしかしてユキヨちゃんも一緒?」


「そう。ちょっと、古い知人を訪ねる」


 そう言えば、前に学校帰りにカズヤとハルトが何処かに行く様なことを話していたことがあった。その時私も一緒に行きたいと言ったのだが、帰ってきたのは拒否の言葉だった。多分そのことなのだろう。


「私も行っちゃ駄目かな?」


 小さな声だった。カズヤ達の答えは同じだろう、しつこいと思われるのは嫌だった。しかし、自分だけがのけ者っていうのは、更に嫌だった。二週間一緒に過ごしてきても、ハルトやユキヨのことはほとんど解らないままだ。むしろ、もっと根本的なところが自分は解っていないような気がしてならない。二人に会うまでは、何の疑問も持たずに、親や一族のしきたりに従って生きてきた。しかし、二人に会ってからは、自分が凄く無知なのではないかと思うようになれた。今回、ハルト達に付いて行けば何かが解る、そんな予感がしていた。


「前にも駄目だって言っただろう」


 カズヤから帰ってきた言葉は、やはり前と同じ拒否。ルカはハルトの方を伺う。ルカの目は何か必死にすがりつく様な目だった。


「なんでそんなに必死なんだ?」


 ハルトから帰ってきたのは駄目だという言葉ではなかった。


「今までは一族の言っていることが全てで、それが当たり前だと思っていた。だけど、ハルト達に出会って私の知っていることなんか、ほんのわずかなんだなって思うようになれたの。何でもいいから真実を知りたい。今回、一緒に行けば何か解ると思ったから」


 その言葉を聞いてハルトは少し考えた後、頷いた。


「解った。後で後悔しないと誓えるのなら、後の判断はユキヨに任せる。ユキヨがいいというのなら、付いてきてもいいし。駄目だと言ったら、諦めろ」


 ルカはユキヨに縋り付くように、視線を向ける。ユキヨはルカをしっかりと見返した後、少し間を置いてから口を開いた。


「知りたいのなら、付いてくるといい。それが望んでいる物かは解らないけれど、確実に真実を垣間見れると思う」


 ユキヨのオッケイという言葉を聞いて、ルカはホッとした顔をしてお礼を言った。


「ありがとう、じゃあ私準備してくるね」


 そう言うと軽い足取りで、階段を駆け上がって行った。


「本当に良かったのか?《陽炎かげろうの村》に、《妖》を狩る人間を連れて行っても・・・。四聖族は《妖》の全てを悪と決めつけているような連中だぞ」


「ルカが自分で決めたことだ。知りたいのなら知るといい、それを知った後、ルカがどうするか。それはルカ自身が決めることだ。俺等に立ち向かってきてもいいし、京都に帰るもよし、しっかりと現実を受け入れてこのままの生活を続けるもよし」


「大丈夫、ルカさんなら。今、必死に本当のことを知ろうとしている、そしてそれをしっかり受け入れてくれると思う」


 それを聞いて、カズヤは珍しく驚いた表情を見せた。


「ほー、ユキヨちゃんがそこまで言うとは。まぁ、氷神がどんな行動に出ようが俺には関係ないが、俺等に立ち向かってくるようなら容赦なく、殺すぜ」


 カズヤの顔は笑っていたが、目だけは凍り付くような冷たい目をしていた。それだけで、其処の温度が少し低下したような錯覚に捕らわれるような、それほど冷たい目だった。

 暫くすると、見るからに重そうなパンパンのボストンバックを抱えてルカが二階から下りてきた。


「おまたせ。特に持っていった方がいい物ってないよね?財布と着替えなんかがあれば問題ないかな?」


「いや、一応学校で出された夏休みにやる宿題は持っていった方がいい。長旅になるからな」


「それに、服はそんなに持って行かなくてもいい、現地でどうにかなる。洗濯とかも現地で出来る」


「交通費は俺等が負担するから、金もたいして必要じゃねぇぞ。もちろん宿も知り合いの家だから、ただで泊まれるしな」


 そんなハルトとユキヨとカズヤの忠告を聞き、二階まで再び荷造りをしに戻った。

 そしてまた数分後、今度はさっきよりも幾分か軽そうな、ボストンバックを肩に下げて現れた。もちろん、竹刀袋に入れた愛刀は肩からぶら下げている。


「じゃあ、行くか」


 そうして四人は、破夜御はやみ家を後にした。



 数時間後、とある後部座席に座りながらルカはちょっとした現実逃避をしていた。


「なんで、なんで、なんで???」


 ぶつぶつと、そんなことを繰り返している。両隣に座っていたユキヨとハルトは少し怪訝な顔をして、ルカを見る。ちなみに、カズヤは運転手さんの隣の席に座っている。


「どうしたんだ?さっきから同じ言葉を繰り返して」


 ハルトがそう言った瞬間、ルカはハルトの方に向き直りハルトの肩を掴んで激しく前後に振った。


「なんで、なんで・・・、なんで私達は、空を飛んでるのよー!!!」


「や、やめろ」


 体を前後に揺らされているハルトは苦しそうに呟く。


「しかも、ジャンボジェットで北海道とか、四国とか、九州とか沖縄に行くのならまだ解るわ!!!なんで、よりにもよって、自家用セスナみたいなちっこい飛行機なのよ!!!」


 そんなことを、叫びながら、こんな事になった経緯を思い浮かべていた。

 家から出た後、電車に数時間乗って、下りた駅から車で更に1時間、そしてだだっ広い野原に出た。ちなみに、車の運転手さんはハルト達の知り合いのようだった。そして、そこで車から降ろされたので、ルカはてっきり目的地かなとか思っていたのだが、そこにあったのは、コンクリの結構大きな建物と、野原を真ん中から真っ二つに割っているコンクリートの滑走路だけだった。


 そこからが問題だった。ハルトはここで待っているようにと言って、コンクリの建物に入っていく。暫く三人で待っていると、建物に付いていたシャッターが重々しい音と共に開き、中から一機のプロペラ機が現れた。滑走路の端に止まると後部座席からハルトが出てきて、待っていた三人を手招きした。その時は空から行くんだ・・・、と軽く考えていたのだ。ルカは何の疑いもなく意気揚々と乗ってしまい、そして今に至る。ちなみにルカを大いに混乱させているのは、見渡す限りに広がっている海だろう。どこにも陸地らしきものは見えない。


「落ち着いて、大丈夫。この飛行機は絶対落ちないから」


 ユキヨがハルトに突っかかっているルカを後ろから、落ち着かせようとしている。ハルトはルカが揺さぶる度に後頭部を壁に叩き付けられている。


「で、でも、海が見えてからもう一時間も飛んでるよ」


 目が回っているハルトを放り出して、ユキヨの方に向き直るルカ。


「向かっているのは、地図には載ってない、日本の領土の小さな島」


「破夜御様、もうすぐ着きますよ」


 飛行機のパイロットが、ユキヨに向かって言ってくる。外に目を配ると、小さく緑一色の島が見えた。


「わかった。じゃ、ルカさん、ちゃんと座ってシートベルトを付けて、それと兄さんをちゃんと座らせて」


 ユキヨに言われて、自分がシートベルトをしていないのに気が付いた。ちゃんと座り直し、シートベルトをしてからハルトの方を見ると、グテーと壁にもたれ掛かっているハルトの姿が目に入る。


「ちょっと、ハルト。何寝てるのよ!!もう着陸だってば!!!」


 ハルトにとってとても理不尽に聞こえる言葉を発しながら、ルカはハルトを座らせてシートベルトを無理矢理付けた。


 ちなみに、運転手の隣に座っていたカズヤは我関せずと、熟睡していた。

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