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30.新しいパンドラ

最近、体力作りのためにジョギングを始めました。

1.6キロで筋肉痛になりました。

恐ろしい、これが老いか。

 意識は切り替わる。

 やっぱり立っている場所は、精神世界とやらの真っ黒世界なのだが。

 そして眼前には、先程の少女。


「良かったな、パンちゃん(・・・・・)

《あは、思い出したようね!》

「おうよ」


 パンちゃんは嬉しそうに笑った。


「おうよ。質問したいことがあるんだが、構わないか?」

《いいわよ。ていうか、そのために出てきたんだからね》

「……おい、また消えることなんてないよな」


 目を細めたルークに、パンちゃんは、にこりと笑う。


《大丈夫よ。私はね、二年前から(・・・・・)こうして存在していたの。自分でも理由はわからないけどね》

「……どういうことだ?」

《さぁね。でも私が言いたいことは、消えるならもうとっくに消えてるはずってこと》

「成程な」


 パンちゃんは嬉しそうに笑う。

 くるくるその場で回りながら、歌うように問いかける。


《それで、質問とはなにかしら?》

「現れたのは、どうして今なんだ(・・・・・・・・)?」


 パンちゃんは回転するのをやめて、怪訝そうな顔で首を傾げた。


《どういう意味?》

「質問を質問で返すなァ!」


 訊いてるのはこっちだっつぅの!

 まったく。


「お前が存在を確立したのは、二年前。てことは、だ。それは、俺が初めて暴走した日なんじゃないのか?」


 二年前でパンドラが絡むようなことは、その日しかないのだ。

 むしろ、それ以外にありえないと思っている。

 パンちゃんは、妖艶に微笑んだ。

 幼女にあるまじき笑みである。


《正解。二年前、剣士さんが初めて暴走した日に、私という存在があなたの精神世界の中に確立した》

「やっぱりな」

《まぁこれに関しては、妙な点がいくつかあるんだけど》

「というと?」


 パンちゃんは、納得いかないといった顔で語る。

 まるで理由もなしに、晩御飯のメニューが突然変更になり、変更前のもの方がよかったといわんばかりの顔だ。


《人間の精神世界に住み着くことができる存在は、『位』の高さに関係なく、本来一つだけ。そして、分裂でも使えない限り、独立した自我を持った存在は一つしか世界に存在できない》

「前半はなんとか理解できたが、後半のはどういう意味だ?」

《わかりやすい例を持ってくるなら、ドッペルゲンガーね。知ってるかしら?》


 確か、自分と全く同じの容姿、人格を持った、もう一人の自分というやつだ。

 それを目撃してしまったら、三日後に死んでしまうらしい。


《世界に、同じ存在は二つ以上存在できない。『席』が足りないからね。ドッペルゲンガーは、前いた古い自分の存在を消して、自分がかわりに消えたその人として存在する》

「ドッペルゲンガー怖ぇ……」

《まぁ、それはさておき》


 パンちゃんは話を切りかえた。


《私がわからないのは、そこなの。どうして、パンドラが二人も存在するのか》

「爬虫類とパンちゃん、か」

《そうよ。本来、こういうのはありえないはずなんだけどね》


 パンちゃんは心の底から不思議そうな顔をしている。

 本当にわからないのだろう。


「それで、人間の精神世界に住み着くことができるのは、一人だけだったか」

《うん。パンドラが二人存在するということを部屋の隅にポイしたとしても、この疑問は解決できない》

「どうして、一人しか住み着くことができないんだ?」


 パンちゃんは、いきなり鼻で笑ってきた。


《そ~んなことも知らないのー?》


 とりあえず、頬を思いきり引っ張ってやった。

 凄ェ、餅のように伸びる。


《痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!》

「お前は説明しにきたのか? それとも俺を馬鹿にしにきたのか?」

《説明しにきたの! 暴力反対!》


 仕方なく、パンちゃんの頬を開放してやる。

 痛みが引かないのか、彼女は頬を擦りながら説明を再開する。


《ワンピ○スの悪魔○実ってあるでしょ?》

「やめろ、集英社にシバかれる」

《あれと一緒でね、二人以上住み着くと死んじゃうの!》

「え!? マジで!?」

《欲張りはいけないことなの!》

「その教訓、俺の命が関わらないように広めてお願い!」

《それなのに、グラ○ラ実とヤミヤ○の実の両方の能力を持つ○ヒゲって不思議よね~》

「本当にやめてェ!? 集英社がカチコミにくるからさァ!!」

《あの能力ほすぃー》

「本当にやめろ!!」


 ガツン、と。

 パンちゃんの頭に拳骨が落ちた。


《あう~》


 パンちゃんは涙目になって殴られた頭を押さえる。

 そんな彼女に、ルークはため息をついた。


「まぁ、そろそろ質問に答えてもらうぞ」

《えぇと、私がこのタイミングに現れた理由だっけ?》

「そうだ」

《その理由はたった一つ。シンプルな答えよ》


 パンちゃんは、手にあるBLACK☆BOXを差し出した。



《私はこいつが、怖かった》

「やかましい」



 しょうもない理由だった。


《あのねぇ! こいつと私じゃ、力に決定的な差があるの! こいつがその気になれば、私は殺されちゃうのよ!?》

「え? でも、今は封印してるじゃん」

《これは、こいつ専用に作った私の封印なの。製作期間は、二年よ》

「あ、成程」


 封印とやらが完成したのは、本当につい最近なのだろう。

 そして、ようやく完成させることができたため、このタイミングで姿を現したということだ。


「お前、よく見つからなかったな」

《辛かった……そりゃあもう、辛かった。見つからないように陰で息を潜めるのは!》


 嫌だなぁ、その生活。

 逃亡中の犯罪者かよ。


「まぁ、それで、これからはどうするつもりなんだ?」


 こうして表に出てきたということは、なにかするのだろう。

 その問いに、パンちゃん笑う。


《私には、やることがないのよね。だから爬虫類同様、あなたに力を貸してあげる》

「お、マジ?」

《うん》


 なんという好機。


「お前とパンドラの力は、別種か?」

《うん、そうよ。私の能力は、『封印』。爬虫類とは全く違うわ》

「それじゃあ、俺は二種類の力を使えるということか?」

《イエス!》


 これはありがたい。

 なにせパンドラの力は、全知全能の神である『原神』という神の力なのだから。

 それを、二種類も使える。


《そんな剣士さんに、残念なご報告が》

「あ?」


 パンちゃんは明るい口調でそう言った。

 残念なお知らせなのなら、もう少し残念そうにしてくれないか?



《私の『封印』の力は、オリジナルから見れば二割程度の力しかありません》



 衝撃発言であった。


「はァ?」

《私の力は、『原神』からすれば、二割程度》

「はァ?」

《いや、だから》

「はァ?」

《え、ちょ、剣士さん? なんか、怒って》

「はァ?」


 パンちゃんは後ずさりした。

 なんか怖かったからである。

 しかし、ルークはパンちゃんが後ずさった距離と全く同じ距離だけ詰める。

 そして。


「はァ?」


 と連呼する。

 目つきの悪い二十歳の青年が、無言かつ感情を感じさせない顔で詰め寄ってくるのだ。

 怖い。


《だって、パンドラの力の大きさは契約者の因果律に依存するの。力の大きさが速度なら、因果律は馬力なのよ!》

「はァ?」

《ねぇ、なにか言ってよ》


 そこでようやく、ルークは持ち直すことができた。


「なぁ、パンドラの方はオリジナルの、六割なんだよな? どうしてお前は、二割なんだ?」

《いやね、どうやら剣士さんの前の契約者、つまり私の契約者だった子の因果律で私の力が決まってるみたいなの》

「ふ~ん、へ~、ほ~う」

《私のせいじゃないんだってば!》


 手首の調子を確かめ始めたルークに、パンちゃんは摺り足で後ろにさがる。

 なんと素晴らしい摺り足か。

 足首から下しか動かしていないのに、通常の歩行速度と大差ないのだ。

 しかし、ルークはそれを上回る速度で彼女に詰め寄る。


「気合で力を増やせ」

《無茶言わないでくれる!?》


 クソ!!

 もしかしたらリースに勝てたかもしれないのに!


《まぁ、そろそろ戻ったら? もうじき朝だろうし》

「あ? マジかよ。もしかして、睡眠時間はゼロ時間ですかァ?」


 まぁ、アンリのせいで徹夜など慣れっこだ。

 ……慣れたくないが。


《大丈夫よ。体の方はちゃんと寝てるから、疲れは取れてる》

「よかった」

《けど、大変なのは今からなのよね》

「は? なにを……」


 パンちゃんは手に持っていた黒☆箱を、ぽいっと投げ捨てた。

 刹那。



《おォォォらァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!》



 箱は弾けて、中からアレが出てきた。

 全身が蒼く体のフォルムは人間で、コウモリのような羽をはやし、顔は蜘蛛のような複眼をもった奇妙な生物。

 そう、爬虫類の方のパンドラである。


《ようやく出ることができたぞ!! 忌々しい封印なんぞをこの我にしおって!! 肉片一つ残さんぞ!!》


 怒り狂っていた。

『狂神』にふさわしい怒り狂いっぷりである。

 パンちゃんは満面の笑みで、ルークにこう言った。


《あいつ鎮めるの、手伝って》

「勘弁してくれ……」





 ルークは目を覚ました。

 周りを見回す。

 うむ、真っ黒空間ではないな。

 下には、我が愛しのベッド。

 嗚呼、我が家はやはり素晴らすぃ!!



《……すぅ……すぅ……》



 布団の中から、そんな寝息が聞こえてきた。


「は?」


 ルークは弾かれたように布団をめくりあげた。

 そこには、パンちゃんがいた。

 彼女は布団が引き剥がされたのが嫌だったのか……


《さ、寒ぃ……》


 といって、温もりを求めてルークの体に抱きついてきた。

 こういう時は、温かい目で見守るのが正解なのだろう。


「さて」


 しかし、ルークは拳を握りしめて掲げる。

 拳骨をお見舞いする気なのだ。


「これ以上、ロリコン疑惑に拍車をかけられてたまるか」


 だって、寝室に幼女を連れ込んだようにしか見えないじゃん?

 この光景、誤解しか生まないじゃん?

 そのためにこの幼女に鉄拳制裁を加え、叩き起こして、事情を説明してもらう。

 うむ、完璧だ。

 さぁ、叩き起こしてやろう!

 誰かに見られてしまう前に!



「おい、ルーク! いつまで寝てんだ!」



 シュスが障子を開け放った!

 彼女は、ばっちりこの光景を目撃してしまった。

 第一発見者である。

 つまり、なにが言いたいかって?


「遅かったか……」


 ニヒルに笑うルークに、シュスは笑顔でこう言った。



「死ね、ロリコン」



 魔法の嵐がルークを襲った。

ふむ、次回どうしようか。

やべぇ、本編どうやって進めよう。

ちくせう。

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