28.物語の再演
本編、久しぶりですね。
三ヶ月と二十日ぶりです。
言っておきますが、これからの本編は革命編のネタバレのオンパレードです。
できるだけネタバレのペースは調整していくつもりですが、どうしても、は? みたいなことになるかと思いますがご容赦を。
革命編が終わるまで本編を見ないってのもありです。
では、どうぞ。
リグレット王国王都
そこに建っている、白い城壁に凹凸を利用した刺繍が施されている王城のとある一室。
そこには、簡素な木製のイスとテーブルが三セット。
それらに腰かけている、黒髪黒眼の男と赤髪赤眼の男がいた。
黒髪ウルフカットの男の肢体は細いものの、鍛えられていることが一目でわかるしなやかなものだ。
片や赤髪オールバックの男は筋骨隆々とした大男で、鋼のような体躯の持ち主である。
彼らは、生ける伝説として世に名を馳せている武人だ。
黒髪の男は、『剣聖』ルーク・パラシア。
赤髪の男は、『紅の鋼』レドルノフ・フレラ。
二人とも、一人一軍の価値があると評される程の使い手であり、そう評されるだけの実績を残している。
そんな二人は今。
ぶっ倒れていた。
いきなりなにを、と言うことなかれ。
だって事実なんだもん。
「「し、死ぬ……死んじゃう……」」
テーブルに突っ伏し、なにやら呻いている。
だがこれをさせた張本人、末期仕事中毒者ことアンリ・クリエイロウはそれを一笑の元に吹き飛ばす。
「はっはっは、馬鹿め! そーんな今更感あふれる命乞いで、この俺が許すとでも思ったかー?」
「「ですよね、わかってたよ畜生め!」」
アンリは、金の短髪に宝石を思わせる赤の瞳の、少し鍛えたような体躯の男だ。
もやしと形容されるような体つきである。
「なにを弱音を吐く余地がある!? もうお前たちは八日間徹夜をして仕事をした! 十日まで、たったの後二日じゃないか!」
「「八日間徹夜って時点でアウトってことに気づけやこの暴君!!」」
二人は軍人だ。
そして相手は、この国の頂点である王様。
これはもう、逆らうことができないのだ。
給料袋を握られてしまっている時点で、逆らうということはできないのだ。
「ふははは、なんだ!? もしかして不満なのか!? だったらかかってこいや社畜ども!」
「「ぐ……ッ」」
実力行使は、マズイ。
この王様、王様であるのになぜか滅茶苦茶強い。
ルークたちでは、束になっても敵わない程に強いのだ。
地位でも実力でも敵わない。
これがリグレット王国!
なんでお前、侵略戦争とかやらないのって疑問になっちゃう国なのだァ!
「かかってこなーい! ならば、共に後二日頑張ろうではないか!!」
「「いやァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
余談であるが、アンリは今日で祝福すべき徹夜二十八日目である。
☆
ルークとレドルノフは、げっそりとやつれた面持ちで城を後にした。
ルークが、レドルノフへと語りかける。
「俺、心底思うんだ……」
「なんだ……?」
「人間、徹夜はいけないことなんだって……」
「真理だな」
泣けてくるほど浅い心理である。
レドルノフが、思い出したように呟く。
「なぁ、俺たち、仕事終わったら来いってリースに言われてなかったっけ?」
「……あァ、そうだったな」
沈黙が支配する。
彼らはその沈黙の間に、熟考する。
そして、解は出た。
「「ばっくれよう」」
最低である。
そしてそーんな二人には。
「良い度胸じゃない」
天罰が下った。
「「あぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
突然凄まじい痛みに襲われて、二人は意識を手放したのだった。
神も仏もないのか。
☆
ルークとレドルノフは手足を縛られて、ギザギザの石段の上に座らされ、石畳を三枚膝の上に乗せられていた。
石抱き、もしくは算盤責めと呼ばれる拷問法である。
それを強いているのは、一人の女。
ピンクのポニーテールに空のような色合いの青の瞳の、すらりとした肢体の異常なまでに顔立ちの絶世の美女といっても過言ではない女だ。
彼女の名は、リース・アフェイシャン。
「私、ちゃーんと言ったわよね? 仕事が終わったら、私の所にくるようにって」
「「さァ、知らねェなァ」」
「ラル~、もう一枚追加~」
「はーい」
てとてと、と小さな男の子が石畳を二枚抱えて走り寄ってくる。
黒の短髪に琥珀の瞳の少年だ。
彼の名は、ラル・ネロウリー。
リースが(もうほとんど親代わりとして)面倒を見ている子供だ。
「ラル、親を愛するのと妄信するのは違うことなんだぞ!?」
「言うことを聞くだけの良い子ちゃんになるんじゃない!!」
なんとも往生際の悪い大人たちである。
そんな彼らに、ラルはきょとんとした顔をする。
「約束破ったのは、ルークとレドルノフなんだよ?」
ぐうの音も出ない正論と共に、石畳は追加された。
「「…………」」
痛い。
心と足がとてつもなく痛い。
十歳にも満たぬ子供に正論で諭されるという、今すぐにでも泣きたい失態を犯してしまったのだ。
人目がなければ、彼らは涙を流していたことだろう。
レドルノフは、この現状を打開しようとリースに言葉を投げる。
「リース、もう勘弁してくれねェか?」
「え? どうして?」
「鬼か貴様は」
「はい、筋肉だけもう一枚」
「は~い」
「ラル、もうそれ以上はァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
言葉の途中で石畳が乗せられた。
ラル、そんな無慈悲な所、親から受け継がなくてもいいんだよ。
ていうか受け継がないでください。
「リース、頼む。この石畳を」
「つ・い・か♪」
「ぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
理不尽だ!
マッチョと違って口答えしていないのに!
「まぁまぁ、リース、そこまでにしてあげなよ」
部屋の入口に、ひょいっと誰かが顔を出してきた。
所々赤が混じった白の長髪に黄色の瞳に、背中には一対の翼を、頭には角を生やした(見た目だけは)美少女だ。
世にも珍しい竜人である。
そんな美少女は、実は男なのだという。
いわゆる、男の娘というやつだ。
彼の名は、ミラ・ディストリア。
彼もまた、リースが面倒を見ている一人である。
「ミラ、こういうのは治るまで徹底的に、よ」
「教育ママー」
「ああん?」
ミラはそう言われて、あっさり引き下がってしまった、っておい!?
簡単に諦めてくれるんじゃねェよ!?
根性見せてもっと頑張ってくれよ!
お・と・こだるォォォおおおおおおおおおおお!?
「あの、そろそろほんと、外してくれませんかねェ? マジで、限界が近いんで」
ルークとレドルノフをすれば、手足を縛られているとはいえ石抱きから脱出することはわけない。
だがそれをやった場合、目の前の悪魔は即座に二人をしばき倒すだろう。
だから二人は、大人しく嵐が過ぎるまで待つしかないのだ。
レドルノフが硬功で石畳のダメージをナッシングにしないのも、同様の理由である。
「それじゃ、私の話をちゃんと聞く?」
「「ええ、勿論ですとも!」」
なんとも清々しい掌返しである。
それに、リースは眉を少し動かした。
「話が終わったら、解放してあげる」
「「…………」」
☆
ルークとレドルノフは石抱きから解放されていた。
ちなみにリースの話とやらは、まだ終わっていない。
ならばなぜ、解放されているのか。
それは、ミラとラルが説得してくれたからです。
「それで、話ってなんだ?」
「あぁ、もうちょっと待ってね。あいつに頼んで連れてきてもらってるから」
「連れてきてもらう?」
バタン!! と。
勢いよくドアが開けられた。
その場にいる全員が、そちらへと向き直る。
そこには。
「てめぇ、いい加減放しやがれ!!」
「うるせェ、俺はただお前をここに連れてこいって言われただけなんだよ。過程や方法など、どうでもよいでのだァ」
「あれ!? 最後のやつどっかで聞いた気がする!?」
男が少女を脇に抱えているという光景が広がっていた。
少女の方は、青のショートカットに紫の瞳の美少女。
男の方は、緑の短髪に淡い赤の瞳の男。
その二人の画は。
「「「「「衛兵さ~ん、こっちきてー」」」」」
完全に誘拐途中の画であった。
だが、そんな五人の声を、男ことケイト・シャンブラーは笑う。
「ははは、馬鹿が。こんな所に衛兵が」
「どうかしましたか!?」
「マジかよ!? クソ、頼みを聞いただけなのに!」
ケイトは本当にやってきた衛兵の声に狼狽し、少女ことシュス・ウィズダンを放り投げて幽霊の如くその場から忽然と姿を消した。
なんとも扱いが雑である。
ていうかここで逃げちゃったらお前、それこそ誘拐犯だって認めるようなものだぞ?
「で、リース。これで全員そろったのか?」
「えぇ。これで全員よ」
レドルノフの問いに、リースは是と答えた。
そして彼女は、口を開く。
「今日から私、あんたたちを鍛えることになりました」
いきなりの宣言。
故に五人は。
「「「「「は?」」」」」
と返した。
どうしてそんなこと言われるの?
訳がわからないよ。
「いやね、アンリに頼まれたのよ。あんたたちを鍛えてほしいってね」
「なんでさ」
ルークの言葉に、リースは首を傾げた。
「え? だってあんたたち、弱いじゃない」
「いや、お前を基準にして考えるのやめてくれませんかね?」
アンリとケイトもそうなのだが、正直、こいつらが異常なのだ。
だってこいつらあれだよ?
正面から『天使』とかちあって、降してるんだよ?
『人間』という『位』を超越して、上位種と正面から渡り合う化物なんだよ?
「なーに言ってんの。私たちを除いたとしても、あんたやレドルノフより強い人間はいくらでもいるのよ?」
「ぐッ!?」
確かにその通りだ。
世界は広い。
そう多くはないとはいえ、ルークやレドルノフより強い達人はいる。
例えば、『剣神』と『黒い鬼』。
『剣神』は世界最強の剣士であり、『黒い鬼』は世界最強の拳士だ。
彼らは格が違うし、他にも凄まじい達人はいくらでもいる。
「それに、ルークとレドルノフは、弱くなってるしね」
「弱くなってるって、どういうこと?」
リースの言葉に、ミラが反応した。
彼は初めて会った時に、レドルノフと互角に闘った。
そのことを思ってのことの質問だろう。
「体は鈍ってる訳じゃないから、これは意識の問題ね。今まで温いレベルのやつらとばっかり戦ってたんでしょうね。体が楽をするために、動きのレベルを落としちゃってるのよね」
「そんなことが?」
「激務をこなしていた人でも、簡単な仕事を毎日エンドレスでやってれば、段々きつくなるものよ」
「ふむ」
リースは五人に微笑みかける。
「まぁ、これはルークとレドルノフ以外強制じゃないからね。拒否するのなら、それはそれで構わないわよ」
「「Oh,my god」」
ナチュラルに強制参加宣告をされた二人は、己の人権がないことに嘆く。
ちゃんと拒否権を与えられたシュス、ミラ、ラルは顔を見合せた。
その三人を代表して、ミラが訊く。
「えぇと、強くなれるの?」
「今よりはね。この国の兵士の強さの最低ラインを他国で言う精鋭兵にしたのは、私なんだから」
リースの答えに、三人の決意は固まった。
「なら私はお願いするよ」
「俺も頼む」
「僕も強くなりたい」
彼らの答えに、リースは満足そうに頷く。
「良い返事ね。ウロボロス」
「「ぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
こっそり逃げ出そうとしていた汚い大人二人は、蛇にとっ捕まった。
はっはっは、うん、やっぱ自分コメディ苦手だわ。
面白いほど筆が進まなかった。
早くシリアスを書きたい―い。
では、また次回。
これからもリグレットアーミーズをごひいきに。