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11.求人募集

ふ、ギリギリ六日以内に投稿できた。

あと十分で一週間だって?

まだ六日だ、セーフ、セーフ顔面セーフ。


どうぞ~。

 アンリ、リュウ、ケイトの三人は研究所が目視できる距離までやってきていた。

 研究所は白いコンクリートの壁に囲まれていて、見張り台も建てられている。

 もっとも、その見張りは外だけでなく内に対するものでもあるのだが。


「まるで刑務所だな」


 アンリの呟きに、リュウとケイトは顔をしかめた。

 しかめはするものの、言葉を発することはしなかったが。

 アンリは、二人に向き直った。


「それで、どうやってあそこを制圧する?」

「「………………………………………………………………………………………………は?」」


 リュウとケイトは、そんな声をあげた。

 一度顔を見合わせ、リュウはアンリへと訊く。


「お前、まさか無策?」

「え? そうだけど?」

「…………」


 ぷちん、と。

 何かが切れた音がした。

 リュウは額に青筋を浮かべて、アンリにヘッドロックをかけた。


「お・ま・え・は!! どうしてここまで中途半端なんだよ!! あぁ!?」

「あたたたたたた!! ギブギブ! 離してお願いだから!!」

「うるせぇ! 計画立てたなら、最後まで考えろ!」

「思いつかなかったんですぅ……」

「それなら、相談の一つしろ!」

「ごめんなさいぃ……ごぶら!?」


 リュウは最後に背負い投げでしめた。

 アンリは満足に受け身も取れず、背中から墜落するのだった。

 彼が悶絶している間に、リュウがケイトに向き直る。


「それで、どうするよ実際。正面突破って訳にもいかないだろう」

「だな。人質取られても敵わねェし」


 別にあそこの被験者に思い入れがある訳でもないので、人質ごと殺るというのも悪くないのだが、心象が最悪になる。

 これから仲間に引き入れようとするのだから、それは避けなければならない。


「それなら、シンプルなのでいくか?」

「何か手があるのか?」


 リュウの言葉に、ケイトは億劫そうに息を吐く。


「俺はかなり広範囲の気配を探ることができるんだ。個人を識別できるレベルでな」

「お? マジ?」

「ただし問題があってな。個人を識別するには、一回その気配が誰なのか確認する必要がある。会ったことのない人間だと、気配の強弱しか判断できない」

「……被験者と研究員の判断はできないってことか?」


 リュウの質問に、ケイトは肩をすくめた。


「できないことはないが、正確さは期待しないでくれ。大体のあたりをつけることくらいしかできない」

「全然マシだよ。こいつのノープランよりは」


 リュウの言葉に、アンリはしゅんとした。

 だが彼らは、一切同情などしなかった。

 だって悪いのこいつだし。


「それじゃ、探ってみてくれ」

「あいよ」


 ケイトは目を閉じて、無言になる。

 復活したアンリが、そんな彼を指差す。


「なんか寝てるみたいだな」

「少し黙ろうか役立たず」

「最近親友が冷たいです」


 アンリはまた、しゅんとなった。

 それからしばらくして、ケイトは目を開ける。


「弱ってる気配、強い気配を中心に探ったら、候補は二ヶ所に絞れた」

「両方あたりって可能性も十分あるよな~」

「……お前、時たま的確なこと言うから腹立つな」

「なんかすげー理不尽」

「日頃の行いだろ」

「親友の態度がやっぱり冷たい」


 アンリの肩はどんどん狭くなっていく。

 だが彼らは、それをスルーする。


「それじゃ、どんな具合に別けるよ?」

「そうだなァ。それじゃ、俺が陽動やるわ。リュウ、ケイト。お前らは救出頼む」

「ほう、てっきり陽動は俺がやると思ってたんだがな」


 面白そうに言うケイトに、アンリはめんどくさそうに言う。


「お前は確かに強いが、集団戦向きじゃないだろ。有象無象の相手なら、俺が一番合ってる」

「ま、それもそうだな」

「それじゃ、お前らが潜入してから十分後。正面から俺が乗り込むわ」

「集合場所は?」


 リュウの質問に、アンリは肩をすくめる。


「皆殺しにするんだ。研究所のどっかでいいだろ」

「ははは、最高」


 ケイトの狂気に満ちた言葉に、アンリとリュウは苦笑した。





 アンリは研究所の正面口に立った。


「さてと、やるかな」

「おい、貴様何者だ」


 真正面なのだ。

 そりゃ見張りにも見つかる。

 だが、それでいい。

 アンリは陽動なのだから。


「さてと、そろそろ十分経ったな。もういいかな」

「は? なんのはな」


 見張りの胴体に風穴があいた。


「ご、ぼ、ばぁ?」


 見張りは何が起きたか理解すらできないまま、風穴から血を吹きだしながら倒れた。

 アンリは一切の感慨も抱かないまま、木で作られた門の前に立つ。


「さって、と」


 アンリの背後の空間が歪み、そこから十本の剣や槍が現れる。


「はい、ゴー」


 ズガンッッッッッッッ!! と。

 門が剣や槍に貫かれ、轟音が撒き散らされた。

 門は吹き飛ばされ、アンリは堂々とそこから入る。


「なんだ!?」

「おい、あそこに誰かいるぞ!」

「とにかく殺せ!!」


 まぁ、ぞろぞろご苦労なことで。

 蟻のように群がってくる警備員たちに、アンリはにやりと笑う。


「ははは~、わかりやすい反応どうもありがとう。それじゃあ、俺もちょっとわかりやすい殺人鬼っぽく言おうかな」


 アンリは諸手をあげた。

 口を開き、言葉を紡ぐ。


「小便は済ませたか? 神様に祈りは捧げたか? 部屋の隅でガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?」

「「「「「「ふざけるな!! お前が死ね!!」」」」」」


 そんなわかりやすい台詞と共に、警備員たちは攻撃をしてきた。



 アンリの大盤振る舞いは、半時間ほどで終わったのだった。





 アンリは、被験者たちを保護したリュウとケイトと合流した。

 彼は、集まっている人数を確認すると。


「はぁ」


 おもむろにため息をついた。

 なにせ、数が多かったのだ。

 おそらく、百人程はいる。

 しかもほとんどが子供であり、とてもではないが命懸けのことをさせることはできない。


「リュウ、二十歳以上の人間は何人いる?」

「喜べ、なんと二人だ」

「少なすぎるわ」


 いつも通りの会話を終えて、アンリは被験者たちへと向き直る。


「おいおい、まさか全員仲間にしようって訳じゃないよな?」

「まさか。だが、種植だけはしよう思ってさ」

「種植え?」


 アンリは一歩前に出る。


「聞いてくれ、憐れな人体実験被験者諸君」


 アンリの言葉に、被験者たちの視線が彼へと集まる。


「お前ら、この国を変えるために行動しようと思わないか?」

「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」


 返ってきたのは、無言だった。

 顔をうつむかせて、何も言わない。

 無言の否定だった。

 それをアンリは。


「はっ」


 嘲笑した(・・・・)


「お前らさ、悔しくないの? 訳もわからないまま、家族や友達殺されて、こんな目に遭わされて、悔しくないの? 怒らないの? そりゃ、聖人君子なことで」

「おい、お前」

「ケイト、少し黙れ」


 止めようとしたケイトを、リュウが止めてくれた。

 こういう時、理解してくれている人間が一人でもいてくれるのはありがたい。


「お前らが、これだけのことされて怒りや悔しさを一片も抱いてないなら、そりゃ凄いよ。俺は心の底から尊敬する。だがお前らそれ、我慢してるだけ(・・・・・・・)なんじゃないのか?」


 アンリは、まっすぐ語り続ける。


「怒ってるのに、悔しいのに、怖いからそれを表に出すのを我慢してるだけなんじゃないのか? だったら俺は、心の底からお前ら全員を軽蔑するね。我慢してんじゃねェよ。吐きだせよ。どこぞの哲学者が、人間と動物の差は考えることにあるって言ったらしいが、俺から言わせれば下らねェよ」


 彼は、言葉を紡ぐ。


「考える? 感情を抑えて、冷静に考える? 理性的になる? アホか。人はそこまで強くない。カッとなることなんざいくらでもある。

 俺も、お前らと一緒さ。友達殺されて、体弄られた。だから俺は今、行動してる。この怒りや悔しさをぶつけるために、準備してる。

 準備が終わったら、俺は仕返しをする。この国の腐ったところ、全部叩き潰してやる。そのために」


 アンリは、一度言葉を区切った。

 そして、僅かに口角をあげて笑う。



「俺と一緒に、その準備を手伝ってくれないか?」



 そう言って、アンリは彼らに手を差し伸べた。





 とある貴族の邸宅の広間に一人の女と、一つの肉塊(・・)があった。

 その肉塊は、もう既に『終わっている』ということが見ただけでわかる。

 なにせその肉塊は、首が百八十度近く、折れているのだから。

 元は人間だったものをただの肉塊へと変えた女は、憂鬱そうに言う。


「ったく、こいつ、そこそこ評判良い奴だったのに」


 肉塊と化した人間は、良識で知られる貴族だ。

 まぁ、『教会』に睨まれたのが運の尽きと思うしかないだろう。

 女が立ち去ろうとすると、



 コツ、コツ、コツと広間に足音が響く。



 それは女のものではない。

 音の正体は、男だ。

 白のビジネススーツを身に纏っていて真人間に見えるが、ホッケーマスクとハサミという奇妙な二つが台無しにしている。

 足音と共に、ハサミをシャキシャキと鳴らしながら、女へと歩いていく。

破壊卿(ジェイソン)』と呼ばれるその男は、女へと話しかける。


「おー、おー、凄い凄い。『霧の死神(ミスト・リーパー)』の名は伊達じゃないね。ずっと、この部屋で張ってたのに、貴族様の気配が消えるまで部屋の異常に気づけなかったよ」


 女がウェーズ・レオパルドへと、向き直る。


「ちょっと、私、これから帰ってシャワー浴びたいんだけど」


 ウェーズのことなど、眼中にない、と言外に言っている。

 そこをどけ、と言外に言っている。

 それに彼は肩を震わせて、笑う。


「ボクのこと、知らないかなー?」

「知ってるわよ。他人をバラバラにして壊すのが趣味の、退屈な男でしょ。確か、『破壊卿(ジェイソン)』だっけ。あんたみたいなの(・・・・・・・・)使ってるってことは、ここの貴族、グレーね」


 女の評価を聞いて、男は愉快そうに笑う。

 ウェーズだって、好きでこうなった訳ではない。

 好きで、こんな醜い顔になった訳ではない。

 だが、あの女に言っても無駄だろう。

 あんな綺麗な体をしている人間に、人体実験を施された人間の気持ちなどわかる訳がない。

 平気な顔して、人の体を弄ることに何も思わない外道に、全てを奪われた彼の気持ちがわかるはずがない。

 だから、彼は自分にできる最大の侮蔑の感情を心に宿しながら、女の評価を甘んじて受ける。

 愉快そうに笑いながら、汚名を被る。

 あいつら(・・・・)から授かる汚名こそが、彼の最大の誉れ。


「くくく、まぁ、護衛対象を死なせて、暗殺者を逃がしちゃうと困るんだ。だから、生け捕りにさせてもらうよ」

「一応、忠告。ターゲット以外は殺さないようにするのが、私の主義だけど、あんたみたいな外道は、例外だから」


 女の言葉を、ウェーズは無視する。

 彼はただでさえ、こんな所で立ち止まっている暇はない。

 生徒たちの無念を晴らすために、少しでも早く前に進まないといけない。

 故に彼は、ハサミを取り出す。



 ジャギン!! と。

 金属がこすれ合う音が響き渡る。



「生け捕りっていっても、五体は満足じゃないよ。両腕両足は切り落とす。傷口にはそこのシーツを突っ込んであげるよ」



 ジャギン!! と。

 ハサミがまたこすれ合う金属音が響く。



「殺してくれって言われても聞いてあげない。この世には、死ぬよりも苦しい生き地獄が数え切れないほどあるって骨の髄まで教えてやるよ」


 女は、ただただ失笑する。


「大きな体に小さなオモチャ。おままごとが好きなの? かっわいー」

「あァ、大好きだよ。よく子供たちとやったしね。じゃあ、おままごとしようか。ただし玩具は」


 女のあからさまな徴発を受けて、言葉を重ねながら重心を低くしていく。



 そして、次の瞬間には女へと肉薄していた。



 ウェーズが踏み込み、女との間合いを一気に潰した。

 その動きの速さと鋭さは、まさしく達人の動きだ。

 彼は、囁いた。



「お前の体だ」



 ハサミを振るう。

 白線が行く上も閃き、床がめくり上がり、地面に落下して煙が舞う。

 ハサミで起こるとは到底思えない破壊が起こる。

 そんな中。


「?」


 ウェーズが怪訝そうな顔をする。

 それもそのはずで、手応えがなかった。

 いつも感じている、柔らかい肉を切り裂く、あの感触がなかった。


「とろいわねー」


 背後から、女の声が聞こえた。

 跳んで距離を取りながら、向き直る。

 この短いやり取りで、ウェーズは女が自分より格上であることを理解した。

 十回やって、一回勝ちを拾えるかというほどの実力差。

 頭は興奮しているのに、なぜか緊張しない。

 息が荒いのに、なぜか鼓動が聞こえない。

 全身が熱いのに、なぜか鼓動が聞こえない。

 女は、手に何かを持ちながら言う。


「ねぇ」


 まるで、世間話を持ち掛けるかのように。


「人間って、周りが静かになったり、緊張すると鼓動が聞こえるでしょ? 今、十分静かよね~」


 女は微笑みながら、言った。


「あんた今、自分の鼓動聞こえてる(・・・・・・・・・・)?」


 女が持っているものは、脈打っていた。

 それは、赤かった。

 とにかく、紅かった。


「……返せ。俺のだ(・・・)


 女に言われて、自分が何を奪われたのか気がついた。


「それは、俺の、心臓(・・)だ……」


 ウェーズの胸からは、一滴の血も出ていない。痛みもなかった。

 女の手際が、あまりにも鮮やか過ぎて、自分がすでに死んでいることすら、体は気がついていない。

 女は心臓を、男の意識と体が死はおろか痛みすら感じさせない鮮やかな手並みで心臓を抜き取るという神業を、傷口すら残さずやってのけた。

 人間がやっていいことではない。


「…………ふむ」


 女はウェーズへと歩み寄り心臓を彼へと差し出した。

 そして、無邪気に明るくこう言った。



「はい、心臓。これ、どう頑張っても戻せないでしょうけど、残り五分の余生、精々頑張って」




 その後、彼がどうなったかは、言うまでもないだろう。

先生は退場です。

え? あっさり過ぎる?

作者としては思ったより出番多くなっちゃって、プロット通り進まなくて毎日枕をぬらしてますけど何か。


感想、要望、質問、矛盾点、誤字お待ちしております。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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