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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
竜人・魔装編
15/71

『魔装』

悪魔やっと出せたよー

出す悪魔は、もしかしたら『七つの大罪』より有名な奴

 元々リースが闇鍋をしようと言い出したのは、全員を動けなくさせて、一人で行動できるようにするためだった。

 まぁ、それでマヒダケを食べることになったのだが……そこは必要な犠牲と割り切ろう。

 装備を確認が終了して、部屋を出る。


「……どこに行くの?」


 その直前で、ミラに声をかけられた。


「あら、起きてたの。ちょっと、買い物に」


 ミラが立ち上がる。


「なら、私も行くよ」

「いらないわよ」


 このままでは会話が進まないと判断したミラが、言ってきた。


「ええと、『闇』は私たちが背負う、だっけ?」


 どうやら、彼はアンリとの会話を盗み聞きしていたらしい。


「ふーん。聞いてたの、あれ」

「竜人の聴覚を侮らないでよね」

「お願い、忘れて。すごく恥ずかしい」


 そんな軽口を、ミラは無視する。


「危険なんでしょ? それなら、私も行くよ」

「危険だからこそ、私独りで行くのよ」

「…………」


 ミラが悲しそうな顔をする。

 罪悪感が芽生えないわけではないが、これは彼らが知る必要がない『闇』なのだ。

 一度足を突っ込むと、もう二度と元には戻れない。

 アレを一度見れば、もう真っ白ではいられない。

 灰色になるか、自分のように(・・・・・・)真っ黒になるしかなくなってしまう。


「んまぁ、三日経っても戻ってこなかったら、もう町を出なさい。たぶん、私死んでるからね」

「……それを聞かされて、独りで行かせると思う?」

「なぁに? もしかして、私を止めるつもり?」

「いんや。一緒に行くだけだよ」

「あはぁ。私に負けたくせに」

「あれは初見だから負けたようなもんだし、リース、今二割の力しか出せないんでしょ?」

「あはは、ルークたちを一瞬で倒せないような奴に負けるほど、落ちぶれてない」

「試してみる?」


 二人の間に、沈黙が訪れる。

 ミラは構えることをまだしない。

 余裕ということをアピールしたいのだろう。


(ちょっと、分が悪いかな)


 体が思うように動かないから、高等な技術を要する『縮地』や『肢曲』は使えない。

 本来の彼女の身体能力は、ルークやレドルノフには劣るし、魔法展開速度もシュスに劣る。


(仕方ないか)


 思わずため息をついてしまう。


「わかったわよ。ミラ、こっち来なさい」

「うん」


 ミラがこちらに近づいてくる。

 そんな彼に、言ってやる。


「はい、隙あり」


 ポケットから袋を取り出し、中に入っている粉を投げつけろ。


「ヴォフ!? なにこれ、けむ!? ……ぐ」


 立つことすら辛くなったのか、ミラが膝をつく。


「なに……これ……」


 今にも眠ってしまいそうな彼に、言ってやる。


「もうわかってると思うけど、即効性の睡眠薬よ。副作用はないから」

「ぅ……ま……」

「ったく、これ、本当は子供を生け捕りにするために使うつもりだったのに」

「独りで……」


 しぶとく意識を保ち続けるミラに、


「えい」


 手刀を叩きこんで、昏倒させる。


「むきゅ」


 ミラが、ドサリと倒れ伏した。

 突然、とてつもない眠気が襲ってきた。

 少しふらつく。

 どうやら、少し吸ってしまったらしい。


「うぁ、凄い眠い。これ、死んだらミラのせい。死ぬまで恨んでやる」


 そう恨み言を放ち、ルークたちが目を覚ますとめんどうだから、踵を返して部屋を出た。





 リースは地下研究室へ行くための隠し階段をすぐに見つけた。


「私が場慣れしてるとはいえ(・・・・・・・・・・)、十分たらず見つかっちゃうんだから、場所変更を勧めるわね」


 階段を降りながら、そんな独り言をつぶやく。

 鼻歌を歌いながら階段を降りていく。


「え」


 ある臭いが鼻を突いて、思わずそんな声を出した。

 階段を急いで飛び降りていく。

 十段以上も飛ばしながら、駆けるように降りていく。

 もう、数えきれないほど嗅ぎ続けてきたのだから、間違えようがない臭い。

 これは、血の臭い(・・・・)だ。


(クソ、もしかして、間に合わなかった?)


 こういう非人道的な研究な実験を行う連中は、例え成功確率が低い被験者だろうと、反抗的な態度を示せばすぐに処分する。

 奴らは、被験者をいくらでも替えが効く乱造品としか見ていないし、自分たちが死にたくないという、自分勝手な思考をしているから。

 階段を降り終えて、広間へとたどり着く。


「ッ!?」


 そこでの光景を見て、驚愕した。

 なにせ、研究者と思われる白衣の男女が、死体として、ゴミのようにあたりに転がっているのだから。


「自業自得。外道の末路は、いつも哀れね」


 心にもないことを言って、広間の中央へと目を向ける。

 そこには、全身を真っ赤に染めた小さな男の子がいた。

 黒の短髪に琥珀の瞳、紺のジャケットに薄い茶色のズボンをはいた、十歳にも満たないであろう男の子。

 あの子が、ここの研究員を皆殺しにしたのだろう。


(間に合わなかったか)


 本来は、リースが殺すべきだったのに。

 子供に、手を汚させてしまった。


「チッ」


 自分に対する怒りと悔しさから、思わず舌打ちをする。

 それが聞こえたのか、男の子がこちらへと目を向けた。


「あ、まだ、生き残りがいたんだ。ちゃんと、皆殺しにしたと思ったのに」


 まったくもって子供らしくない言葉を聞いて、ますます不快になる。


「ま、いいや。殺すだけだし」


 戦闘態勢に入ろうとする少年に、静止の言葉を入れる。


「ストップ。私は、ここの人間じゃない。あなたを保護しにきたの」

「黙れ。そんな言葉、信じられると思うか?」


 人体実験被験者は、人間不信に陥りやすい。

 純真無垢な、子供であればなおのことだ。


「う~ん、まぁ、あなたの気持ちはわかるけど……」

「黙れよ。そう簡単にわかってたまるか。無理矢理ここに連れてこられて、家族も友達もみんな殺された」


 そして、少年は自嘲気味に笑う。


「挙句の果てに化物にさせられた、僕の気持ちなんてわかるはずがない」

(化物にされた気持ち、ね)


 少し感傷に浸った後、リースは少年へと声をかける。


「けど、もう復讐は終わり。なら、これからあなたはどう生きるか考えないといけないんじゃない? 自分に酔ってる暇、ないと思うけど」

「復讐が終わった? 何を言ってる。まだ……お前が生きてる!」


 そう言って、少年は地面を強く蹴り、こちらに走ってくる。


「な、速!?」


 とても子供とは思えない速度で走り、年不相応の鋭さで拳を突き出してくる。

 拳を受け止め、思わず腕を折ってしまった。


(しまった。加減が……)

「腕折ったくらいで……」


 少年はそう呟き、腕を振るうことで骨をくっつけた。


「な……」

「調子に乗るな!」


 少年は蹴りを繰り出してきた。

 子供を傷つけてしまった自責の念のせいで回避を忘れ、蹴りが腹に入る。

 吹き飛び、壁にぶつかって肺から酸素が強制的に吐き出される。


「けほ……けほ……」


 睡眠薬の効果もあって、意識が完全に飛びかけた。


「死ね」


 少年が手刀でこちらの首を薙ごうとする。


「ああ、くそ」


 横になったままの態勢で足を払い、怪我をしないように加減をしながら少年を蹴り飛ばす。

 地面に着地して、少年は驚いたような顔をした。


「へぇ、やるじゃん。とても研究者とは思えない身体能力」

「ああ、もういやになる。子供と戦うなんて」


 体を起こす。

 独自の呼吸法、練気を行い、内功を練って睡眠薬の効果を誤魔化していく。


「仕方ない。あんた強いし、あいつ呼ぶか」


 あいつとは、おそらく、『悪魔』のことだろう。


(しめた)


 子供に手をあげるのは気が進まなかったから、彼の『悪魔』をぼこぼこにして、言うことを聞かせるとする。


「アスタルテ」

「『八魔帝』か」


『八魔帝』とは、『七つの大罪』の次に強いとされる八体の高位悪魔のことをさす。

 床に穴が開き、そこから『悪魔』が現れた。

 黄色の髪に黄色の瞳の、なぜか服を着ていない少女(・・)だった。


「うぅ……」


 相手は人間ではないとはいえ、外見は完全に子供だ。

 リース的には、手をあげるのはアウトだ。

 アスタルテと呼ばれた『悪魔』が少年へと向き直る。


《どうしたの?》

「あの女を殺すから、力を貸せ」

《えー、どうしよっかなー》

「早く」

《はいはい、わかったわよ》


 アスタルテが、少年の肩に手を置いた。


《それじゃ、望みどおり力を与えましょう。力、力、力、力、力、力、力。あははははははははははは》


 刹那、少年の腕に文字の塊のようなものが現れた。

 おそらく、呪詛の類だろう。

 睡眠薬を使ってしまったのが悔やまれる。


「久々に、あいつ呼ぶ必要あるかな」

《あの女、殺すなら早めにした方が良いわよ。たぶん、なにかと契約してる》


 さっきの呟きを、アスタルテは聞き取ったようだ。


「そうかい。なら、すぐに殺るか!」


 少年が腕を振るい、はがれた文字が飛来してきた。

 文字の動きを見て、


「それ、単調すぎるわよ」


 真上に跳んで、文字の塊を避ける。

 対する少年は、


「弾けろ」


 刹那、文字の塊が弾けて、辺りに散らばった。


「うわ、やんば」


 空中だから動くことができず、いくつか文字が張り付いた。

 何か起きるだろうと思い、歯を食いしばる。

 だが、何も起きず地面に着地する。


「…………あれ?」


 少年は困惑するリースを無視して、指をパチンを鳴らした。

 すると突然、文字がどんどん白くなっていく。


「なに、こ」


 その言葉は、文字から飛び出してきた、真空の刃に全身を切り裂かれる痛みに遮られた。


「っつぅ」


 痛みのあまり、膝をつく。


「それ、凄いだろ。アスタルテの呪詛には、けっこう種類があるんだ」


 少年の言葉は、リースの耳には届いてなかった。

 なにせ、彼女の心にはもう嫌な気持ちでいっぱいだったから。


「だあもう。子供相手に使うことになるなんて、大人げないにもほどがある」

「は?」


 少年を無視して、リースは、一言。



「ウロボロス」



 刹那、何の前触れもなく彼女の後ろに、小さな一匹の蛇が現れた。

 蛇の声が、頭に直接響く。


《久しいな。我を呼ぶのは、いつぶりだ?》

「あはは、さあねぇ。なにせ、あんたの力使わなくても、大抵のことは片付くし」

《やれやれ》

「さて、話はあとよ。あの子供と悪魔、無傷で取り押さえて」

《蛇使いが荒いな》


 悪態をつきながらも、ウロボロスは二人へと向かった。


「アスタルテ、あの蛇を殺せ」

《ウロボロス、まさか、本物なの?》

「アスタルテ!」

《あ、うん》


 アスタルテも走り出す。


《――――》


 アスタルテが人間には発音できない呪文を唱える。

 刹那、呪詛で構築された剣が彼女の手元に現れた。

 それをウロボロスの頭に突き刺す。


《この剣は、触れたものを消滅させる呪詛で構築されてるものよ。そのまま消えなさい》


 そのご丁寧な解説を、


《ふむ》


 ウロボロスはそう呟いて流す。


《……こんなところか》


 蛇がそう呟き、剣が消滅した。


《な!?》

《何を驚いている? こんな陳腐な呪詛で、我を消せると思っていたのか? ははは、愚か者が》

《くっ》


 アスタルテが後ろに跳び、距離を稼ごうとする。


《遅い》


 刹那、ウロボロスは一気に巨大化しながら、彼女の後ろに下がる何倍もの速度で間合いを潰す。


《ちょ、マジ?》

《ふん、大罪に及ばぬ半端者が、『神獣』に届くはずがなかろう》


 そう言って、蛇はさらに巨大化してアスタルテを少年ごと巻きついて、拘束した。

 一方的な展開。

 これが、リースが契約している『神獣』ウロボロス。


「お疲れ様~」


 戦闘が終了したから、労いの言葉をかけながら歩み寄る。


《ふむ、それで、こやつらはどうするのだ?》

「そのまま押さえといて。ちょっと話する」

《どのくらいの間?》

「その子が口説かれるまで」


 その言葉を聞いて、蛇はため息をついた。

 それを無視して、少年へと歩み寄る。

 少年の目には、怯えの色があった。

 自分以上の、化物を見る目。


「あはは~、そんなに怖がらくてもいいのよ」

「どうして、これほどの力を……」

「ん。話は簡単。私は、あなた以上の化物だから」

「……何しに来た?」

「だから、言ったじゃない。保護しにきたの」

「……なんで?」


 どうやらこの子は、人が他人を助ける簡単な理由を忘れてしまっているらしい。

 本当に単純で、簡単な理由。

 それを口にする。


「困っている人がいる。それだけよ」

「…………」

「そもそも、人を助けるのに、理由がいるの?」


 少年は言葉を失ってしまった。


「ちょっと、何か言ってくれないと、何も言えないんだけど」


 その言葉を聞いて、彼は顔を伏せた。


「僕みたいな化物を、助ける必要ないよ。僕は、今日たくさんの人を殺した。僕みたいなやつは、生涯孤独に……」


 あくまでも明るい口調で遮って、言ってやる。


「考えが甘いわよ」

「え」

「これはね、とある馬鹿の受け売りなんだけど、そいつはこう言った。人は、本人がどんなに望んでも本当の意味で孤独にはなれない」

「…………」

「それに、あなたはまだ子供なんだから。まだ、やり直せる。もう引き返せない私とは違って、まだ間に合う」


 にこにこ笑う。

 その笑顔のまま、両手を広げる。


「それに、こんな世界でも、捨てたもんじゃないわよ。気を許せる馬鹿がいる。心の底から笑いあえる仲間がいる」

「けど、僕には、そんな存在……」

「それじゃ、私が第一号」

「え」

「私が、あなたの仲間第一号になってあげる」


 その言葉を聞いて、少年は顔を上げた。


「あなたが、本当の意味での仲間を見つけるまでの、保険みたいなものでもいい。都合の良い、利害関係みたいなものでもいい。だから、ひとまず私を受け入れて」


 くもり一つのない笑顔で、彼にそう言う。

 少年はしばらく考え込む。

 リースは急かすようなことはせず、促すようなこともせず、ただ待ち続ける。

 そして、ぽつりと呟いた。


「本当に……」

「ん?」

「本当に、仲間になってくれるの? 僕みたいな人間でも、仲間を見つけられるの?」

「もちろん。私みたいな化物ですら、同じような奴らがたくさんいて、本当の意味で仲間になれたんだから」


 少年の頭の優しく撫でながら、言う。


「あなたは、運が良い」

「え?」

「その年で、本当の意味での仲間に遭えたんだから。私なんて、倍くらいかかった」

「…………」

「そして、人間は一度アクセルかかると、歯止めが効かなくなるもんなのよ。だから、この先、大勢の仲間ができるわよ」

「あはは、なんだか、勇気づけられちゃった」


 彼の目に、涙が浮かんだ。

 それにリースは、くすりと笑う。

 やっぱりなんだかんだ言って、まだ小さな子供なのだ。

 母親のように、優しく少年を抱きしめる。


「よく我慢したわね。思いきり、泣いちゃいなさい」



 それに少年は無言で頷く。

 そして、彼は今までため込んでいたものを吐き出すように泣きじゃくった。

アスタロトっていう名前がよく出回ってるけど

アスタルテもあってるからねー

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