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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
竜人・魔装編
14/71

そして、誰もいなくなった

 ルークたちは到着した町で宿で部屋を取り、各々休んでいた。

 そんな中突然、リースは全員に向かって、言った。


「闇鍋しましょう」


 この女、何を言っているのだろう。

 疑問を持つルークをよそに、彼女は続ける。


「人数、けっこう増えたじゃない?」


 レドルノフが頷く。


「まぁ、確かにな」

「ミラの歓迎会ということもかねて、やりましょうよ」

「歓迎会やってくれるの? ありがとう」


 ミラが喜んでいる。


「それじゃ、決まりね。やるのは今夜。それまでに各自、好きな食材を買ってくること」


 ミラが思い出したように、言った。


「あれ? 私、お金ないんだけど」

「石でももってきなさい」

「お前今なんつった」



☆



ルークは市場に来ていた。


「さて、どうしようかな」


 こういう闇鍋をやると、誰かがふざけて、ふざけたものを持ち込んでくると、相場が決まっているのだ。

 彼は今、そういうものを緩和するものを探していた。


「と言っても、俺一度しか闇鍋してことないからな」


 その一度とは、彼がまだ『剣神』の下で修行していたころの時だ。

 自分を含め、『剣神』と兄弟弟子二人で闇鍋をした記憶を思い出し、鳥肌が立った。


「あん時は、ひどい目に遭ったからな」


 だが、今回はそのようなことにはならない。いや、なってはならない。

 トラウマを必死に掘りおこし、問題点を探る。

 そして、思い出した。

 妹弟子が、砂糖を一キロ入れたことを。


「あいつ、生粋の甘党だったからな。よし、キムチ鍋の素を買っていこう」


 彼はまた、悲劇を繰り返したいようだった。



☆



 そんなこんなで、好きな食材を用意した五人なのだが。


「それじゃ、電気消すわよ?」


 四人が頷いたのを確認して、リースが電気を消した。

 電気が消える。

 何も見えない。

 まぁ、光がないのだから、当たり前のことなのだが。


「はい。みんな、用意した食材を投入」


 ぼちゃぼちゃと、煮えたぎった鍋へと食材が投入されていく。

 食材が投入されてから、三分ほど経っただろうか?

 まぁ、何とも言えないひどい臭いが、五人の鼻を突いた。

 え? どれくらいひどいかって?


「「「「う……」」」」


 五人同時に、思わずうめき声をあげちゃうほどだよー。

 ルークがそのままの感想を述べる。


「うわぁ、匂いが混沌なんだけど」

「いつもニコニコあなたの隣に……」

「「「「やめろ!!」」」」


 四人の声に止められて、リースは肩をすくめた。


「それにしても、本当にひどい臭いね。誰よ、闇鍋しようなんて言い出したのは?」

「「「「お前だよ!?」」」」

「……テヘペロ☆」


 それ以降、重たい沈黙が一同を襲う。

 それを破ると同時に、レドルノフが核心に迫る。


「それでよ、誰から最初に食う?」


 彼の言うとおり、これはちゃんと食べなければいけない。

 今すぐにでも逃げ出して、居酒屋にでも入りたいが、そうは問屋が卸さない。

 シュスがきっぱりと言った。


「ここは主役のミラからだろ」

「ふざけんな! このタイミングじゃただの毒見じゃねぇか!」

「なら、ここは便利マッチョのレドルノフから……」

「ふざけんな。ぶっ殺すぞ?」


 押し付け合いに業を煮やしたのか、リースが切りだした。


「ああもう、仕方ないわね。なら、最初は私から行くわよ」


 その言葉で、一同に火がついた。


「ああ、なんだその仕方ない発言。そういうの、俺嫌いなんだ。最初は俺だ」

「ルーク、意地張ってんじゃねぇよ。足が笑ってるぞ。最初は俺だ」

「シュス、嘘つくんじゃねぇ。今暗闇だから見えねぇだろうが。そして、最初は俺だ」


 ルークたちが立候補するのを聞いて、ミラも。


「いや、最初はこの私が……」

「「「「どうぞどうぞ」」」」

「ちくしょう、はめられた!」

「あはは、かかったわね、間抜けが! ざまぁ!」

「殴りたい! このくそ女(アマ)すんごい殴りたい!」


 ミラはため息をついて、箸を手に取った。


「それじゃ、いただきます……うぅ……」


 泣きながらだが、掴んだものを口に入れる。


「もぐもぐ……あれ、この、臭いは……………………洗濯のりだ! 誰か、口の中がベトベトするよ! 何とも言えないあ、あじ、が……呼吸が……でき…………むきゅ」


 ミラは、帰らぬ人となった。

 彼が落とした箸に付着した物体に触れる。


「これ、スライムだ」


 よく箸で掴むことが感心した同時に、ミラの冥福を心から祈った。

 他の三人へと向き直り、訊く。


「次は誰が逝く?」


 今の、逝く、は誤字ではないと、読者の方々にはあらかじめ言っておこう。

 レドルノフが頭を掻きながら言った。


「そんじゃ、次は俺から……」

「「「どうぞどうぞ」」」

「ああ!?」

「ヴァーカ! 同じ手が何度も通用するかと思ったか!? さっすが、頭の巡りが悪い脳筋野郎だ!!」

「ぶっ殺すぞ、外道剣士!?」

「もたもたしてないで、早く食べなさい」

「い、いやだ! 死にたくない! 頼む、死にたくないんだ! 誰か、なんとなかしろ!」


 リースが何かを箸で掴む。


「もう、仕方ないわね。お姉ちゃんが食べさせてあげる。はい、あーん」

「いって!? そこ目だよ! おま、食べさせてるとか言って、見えてねぇだろ!?」

「駄々こねるんじゃないの! 私、そんな風にあんたを育てた覚えはありません!」

「育ててもらった覚えもねぇ!」

「……もう、これ以上駄々こねないでー……あんた死にたいの?」

「だあ、ちくしょう!」


 レドルノフがリースから箸を奪い取った。


「食えばいいんだろ!? 食えばよ!」


 半分、いやほとんど自棄(やけ)になって怒鳴り散らす。

 そして、口の中に掴んだものを放り込んだ。


「もぐ……んぅ……これは、フグ(未調理)!? ぐぼげら!?」


 妙な断末魔をあげて、バタリと倒れた。

 レドルノフもまた、ミラと同じく帰らぬ人となってしまった。


「「「……………………………………………………………………………………………」」」


 生き残った三人に、クソ重たい沈黙が襲い掛かる。

 リースが、生き残りの二人に言う。


「ねぇ、全員同時に食べない?」


 彼女の提案に、シュスが猜疑心たっぷりに訊く。


「誰かがビビって、食わなかったらどうするんだ?」

「んー? そんなへたれが、この中にいるのかしら?」


 それに、ルークとシュスは笑った。

 そこまで言われて、逃げる訳にはいかないのだ。

 彼らにも意地というものがある。


「「あははは」」

 笑い声をあげながら、箸で毒(しょくざい)を掴みとる。

 ただし間違ってはいけない。

これは自暴自棄の笑みなのだから。

リースも、暗闇でよく見えないが、ナニかを掴みとった。


「それじゃ、一二の三で食べるわよ?」

 見えないだろうが、頷く。


「よし、二人とも承諾(・・)。それじゃ、行くわよ……」


 ……あれ? おかしいぞ?

 今は照明はついていないから、暗闇。

 見えるはずがないのだ。

 なのに。

 なんで。


 リースは、返事をしていないのに(・・・・・・・・・・)ルークとシュスが(・・・・・・・・)承諾したのが分かった(・・・・・・・・・・)?


「はい、一二の三!」


 だが、今さら退けるはずがないない。

 ここで怖気づいて逃げれば、末代の恥になるだろう。

 口の中へと、掴みとったものを放り込む。

 何度も咀嚼して、味を確かめる。

 自分よりも、シュスの方が感想を述べた。


「辛ッ!? すんごい辛い!? これ、長いと思ったら、長ネギ!? 気分が……悪く……うぇ」


 バタン、と倒れてシュスも帰らぬ人となった。

 その次の瞬間、こちらの口の中にも味が拡がった。


「これは……いや、マジなにこれ!? 口で説明できねぇ!」


 いや、味がわからないというだけで、触ったことはあることがあるものだった。

 これは、木の幹だ。

 急いで吐きだす。


「くそ、胸くそ……いった!?」

 木の幹から出てきた虫が、ルークを噛んだ。

 目を凝らして、なんとか見る。

 これは……

 これは……


「セアカゴケグモ!? きゅう」


 毒虫に噛まれた。

 意識が遠のき、倒れそうになり、


「ふ」


 リースの勝ち誇ったような、含み笑いが聞こえた。


(や、やられた!)


 彼女は、最初から見えたいたのだ。

 だから彼女は、自分がどれを選べば安全なのか、わかっていたのだ。

 自分たちは、彼女の出来レースに参加していたようなものなのだ。


「お休みなさ~い」



 刹那、ルークは意識を手放した。



 ルークが倒れ伏した音を聞いて、リースは勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「残念だったわね。私が選んだのは、キノコよ」


 これ以上ない、無難な選択だ。

 堅実で面白みがないが、だからこそ安全。

 そのはずだった。


「ぅぐ!?」


 全身にしびれが走った。


「なに……これ……」


 食べたキノコを、持っていた懐中電灯で照らす。

 キノコを見て、リースは自嘲の笑みを浮かべた。


「……これ、シビレダケ……」


 刹那、リースも帰らぬ人となった。



 一人は、スライムで窒息した。

 一人は、フグの毒で倒れた。

 一人は、長ネギで気分が悪くなって倒れた。

 一人は、毒虫の毒にやられた。

 一人は、シビレダケで倒れた。



 そして、誰もいなくなった。



☆



 全員が倒れてから、二時間が経過した。

 しびれが少しだけマシになったリースは体を起こす。


「うぅ、体が全然動かない」


 独自の呼吸法を行い、『練気』、すなわち『気』を練っていく。

 練る『気』の質を感じて、自分の体のコンディションを確かめていく。

 診断が終了し、リースは顔をしかめた。


「うわ、ほとんど最悪ね」


『気』の巡り方から判断するに、本調子の二割の力も出せないだろう、と判断する。


「これで『仕事』するのは、危険ね……」


 彼女は、むむむ、とうなりながら電話でのやり取りを思い出していた。



☆



 五人で今いる街を目指していると、突然電話がかかってきた。

 電話に気づいて、出る。


「もしもし?」

『俺だ』


 声だけでわかった。

 相手は、アンリだ。


「俺俺詐欺?」

『違う!』

「あはは、冗談冗談。それで、どうしたの? 電話なんてして」

『ちょっとな。「仕事」の話だ』

「ふ~ん」


 リグレット王国の『裏』の仕事。

 それは、元帥のケイトと大将のリースの二人だけでやっている。

 そして、彼女が担当しているのは、殺しと情報操作だ。

 だが、情報操作の仕事の方なら、彼から指令が下らなくても勝手にやっている。

 となると消去法で、殺しの方しかなくなる。


「それで? 今回は誰がターゲットなの?」

『いや、今回頼みたいのは、殺しじゃないんだ』

「ん? 私、改ざんしないといけない情報、漏らしたかしら……」

『そうじゃなくて、お前にやってほしいのは、「回収」なんだ』


 それはケイトがいつもやっている『仕事』だ。

 国外で行われている人体実験の被験者を保護し、連れて帰る。


「それ、ケイトがやってることでしょ。あいつはどうしたの?」

『あいつは今、ちょっと出払ってるんだ』

「そ。それで、場所は?」

『お前たちが向かってる町だよ。その町には、地下研究施設がある』

「うわ、なんで私たちの向ってる町知ってんの? まさか、ストーカー!?」

『おいこら、ふざけてんじゃねぇ!』


 彼の声を聞いて、あまり状況はよくないことがわかる。


「それじゃ、そこで行われてる実験はなに?」

『「魔装」だとよ』

「……聞いたことないわね」

『俺たちが革命起こす前のリグレット王国でも行われてなかったからな』


 ぐるぐると頭を巡らせていると、アンリは説明を始めた。


『「魔装」ってのはな、「悪魔」の力を扱ええるようにするための実験だ』

「契約と、何か違いがあるの?」


 人間は契約をすることによって、『神』、『悪魔』などから力を借りることができる。

 もちろん、彼女も契約をしている。

 最初は自分たちと、最初から知っていた者たちが独占していたのだが、六年前にこの力を使って大暴れしたため、力を持つ個人や、大国の重鎮なども使うようになった。

 後一年遅らせて、情報工作をちゃんとすればよかった、と今では後悔している。


『「魔装」の利点はな、代償を支払わないで「悪魔」の力を借りられることだ』

「そりゃ凄いわね~」


 まぁ確かに、話だけを聞けば、魅力的なことだ。

 だがこの世界、メリットしかないなんて、甘いことは存在しない。


『だが、体が適合しなかったり、「悪魔」が気に食わなかったりしたら死ぬ』


 心中で、そら見たことか、と思う。

 やはり、この世界はそんなに優しく作られていない。


「成功確率は、どれくらいなの?」

『五万分の一』


 あっさりと、とんでもない数字を口にした。


「また、いかれた実験を……」

『被験者は洗脳されてて、抵抗する可能性がある。場合によっては、殺せよ』

「アンリ、私はね、『人喰い(グール)』でもない限り子供だけは殺さない。例え、私が死ぬことになったとしてもね」

『……もう俺は、失いたくないんだ。俺は、見ず知らずのガキよりも、仲間に死んでほしくない』

「あはは、知ってる。あんたは、そういう奴だしね」

『お前ができないんなら、俺が……』


 アンリが言おうとしていることを遮って、言う。


「ダメ。昔、三人で決めたでしょ? あんたは、『理想』を追いかければいいの。『闇』は、私たちが背負うから」

『悪い』


 本当に、彼はつらそうに言ってきた。


「謝る必要なんてない。あんたが『理想』を叶えれば、それで終わるんだから」


 リースは、六年前に彼が吹いた大ぼらを思い出して、微笑えみながらアンリに言った。


『そうだな。できるだけ、早く実現させるよ』

「あはは、あんたらできるわよ。それじゃ、そろそろ切るわよ?」

『ああ。気をつけろよ。もう俺は、仲間を失いたくないからな』

「はいはい。わかってるって」

『ったく』


 彼女の適当な返事に、彼が苦笑していることが電話越しでもわかる。


「それじゃ、さよなら~」

『ああ』



 その言葉の応酬を最後に、リースは電話を切った。

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