23.というよりは会わない
「そうかあ。
だとすると借りた本はすぐ読み終わりそうだね」
「うん」
「終わったらまた借りにいこうか」
何て理想的なベビーシッターなんだろう。
お母さんありがとう。
えみちゃんの親戚でいてくれて。
あ、そういえば僕、母親のことをおかあさんだと今まで認識してなかったのでは。
息子、じゃなくて娘としてどうよ。
でも母親の方もあまり僕にベタベタしてこないんだよね。
関心がないわけでもないんだろうけど。
父親に至ってはほぼ没交渉。
というよりは会わない。
僕が起きる前に出勤して寝てから帰ってくる。
ブラック企業なのかな。
いや、コンピュータが無かった頃ってサラリーマンの長時間労働は当たり前だったような。
モーレツ社員とかだったっけ。
前世の僕が就職する頃にはもう廃れていたけど。
今があの頃より昔だったら有り得るか。
ミルクを飲み終わった僕はトイレに行ってから部屋に戻った。
せっかく新しい本が来たんだから読まないわけにはいくまい。
漫画だけど。
4冊くらい読んだ所で母親が帰ってきた。
えみちゃんは時々僕の様子を見に来るだけで干渉してこなかった。
助かる。
ベビーシッターとしてはどうかと思うけど。
母親とえみちゃんがリビングでしばらく話し、えみちゃんが帰ると母親が部屋に来た。
積んである図書館の本を見ても何も言わなかった。
えみちゃんから知らされたらしい。
いや、自分の娘が二歳にもならないうちに図書館から本借りて読みまくっているのに気にならないの?
漫画ではあるけどカナどころか漢字交じりの文章が結構載っているのに。
いくら神童でも、ひらがなすら教わってないのに平然と漢字交じりの文章読むっておかしいとは思わないのか。
でもなあ。
まさか自分から聞くわけにもいかないし。
「どう?
えみちゃんは」
それを一歳児に聞く事自体が変なのだが。
「大丈夫」
「そう。
えみちゃんのお話だと図書館に連れて行ってもらったみたいだけど」
「うん。
図書カード作った」
しまった「としょかーど」と言うべきだった。
まあいいか。
「あら。
もう本を借りたの?」
「うん。
これからも借りるつもり」
駄目だとか言わないでよ?
「そうね。
その辺はえみちゃんに任せてあるから」
お許しが出た。
しかし、自分で言うのも何だけど一歳児の娘を放任しすぎなのでは。
あるいは既に見切られ……諦められているのかも。
もし気に掛けているんだったら精神科の医者に相談するとかしそうなのに。
この母親もある意味ぶっとんでいる。
「なら、明日からえみちゃんに頼むから」
「うん」
「えみちゃんも毎日来てくれるわけじゃないけど、いい?」
嫌だと言ってもいいの?
ていうかえみちゃんは大学生なんだから毎日は無理なのでは。
「いい」
「良かった。
スーちゃん偉い」
やっぱこの母親、異常だよ。
えみちゃんはそれからほぼ毎日来てくれるようになった。
といっても日によっては午後からだったり午前中だけで帰ったりはしていた。
僕も大学生だった頃には毎日朝から講義を受けていたわけじゃないから理解は出来る。
それでも休みすぎじゃないかと思っていたら、ある時えみちゃんが教えてくれた。
えみちゃんは大学4年生でもう就職先も決まっているそうだ。
卒業単位も揃えていて、今年の受講は最終学年の必須講義や演習だけだという。
後は卒業論文。
「実は神童について研究しているの。
主に文献調査のまとめだけど、目の前に実物がいるから助かっている」
何と。
僕の事を卒論に書いているのか?
困る。




