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ヒーローの前妻だそうです  作者: 雨傘 はる


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8/8

ぶちっと決めました


声を荒らげられた瞬間、今世コーデリアの両親との記憶がぶわりと蘇って、何だかとても疲弊してしまった。


視界に入っただけで怒鳴りつけたり物を投げたり、とにかく八つ当たりしかされたことがない。

あるいは、まったくないものとして扱われたことしか。


今のコーデリアは、前世の記憶もあって特に気にしていない。

いや、そのはずだったのだけれど、何だかぐったりした心地になってしまった。


────何でわざわざ婚家に来てまで、そんな扱いされなきゃいけないわけ?


いったい何をしたというのか。何の落ち度があるというのか。


コーデリアは、静かにぶちギレていた。

おうちに帰りたい。前世のあたたかいおうちに。それは本音だが、夫にダメージを与えるとわかっていて口にした。


すっかり(拗ねて)無口になったコーデリアに、夫はなぜか顔面蒼白だ。


「彼女とはもう会わない。もちろん、移り香など今後一切させない。いや、あれも疚しいことはなかったが、とにかく絶対に会わない」


公的書類の『愛人を囲うこと、愛人との子をもうけることに制限なし』の項目を指差す。


「いや! 愛人は持たないし、きみとの子しか必要ない!」


まあ、口では何とでも言える。何せ婚約時代から浮気していた夫である。信用度はゼロだ。

あと、何か勘違いしているようだが、別にコーデリアは愛人なんか気にしない。


ぐるぐると考えていたコーデリアは、いい加減鬱陶しくなったので、いっそやめてしまうことにした。


初夜に話し合った通り、公的書類にした通りだ。

ちょっとばかり〝期待〟してしまったのは、あくまでコーデリア側の都合。

よくない結果になったなら、やめてしまえばいい。


なので、スパッと諦めることにしたのだ。


今世コーデリアの夢は、それなりに長く平和に生き抜くことである。できれば幸せにもなりたい。

なので、無駄な〝期待〟は捨てるに限る。バイバイ、来世で会おう。


────もう、うじうじもだもだするのは終わり。


せっかく初夜を生き延びたのだ。重すぎる運命を乗り越えたのだ。

コーデリアだって、幸せになっていい。いや、なれるに決まっている。


「旦那様?」


「は、はいっ」


おろおろとご機嫌伺いをしていたライシスが、うっすら笑うコーデリアにびくりと背筋を伸ばす。

ついでに、様子見に来ていた兄と弟も、侍女も執事も。


「この話は終わりです。公的書類の通り、この内容は一切合切変更しません」


「うっ、はい……」


「なので、わたしは次期侯爵夫人として無事に子を産み、大切に育てます。あなたも協力してくださいね」


「も、もちろん!」


「わたしは幸せになりたいの。絶対なるの。だから、旦那様は旦那様で、頑張って幸せになって。ね?」


夫婦だろうが何だろうが、結局は一人と一人。

何を幸せに感じるか、誰を愛するか、どのように生きるかはその人次第。

コーデリアに、よその幸福まで気を配るほどのバイタリティはない。


────もう遠慮はしない。ぜっっったいしない。


生家のくだらないしがらみも、浮気実績のある旦那様も、前世なんて意味不明な記憶も。

ぜんぶひっくるめて、コーデリアなのだ。コーデリアが、今、そう決めた。


小説がどうこう、ヒロインがどうこう、そんなものはもう知らない。


「喜怒哀楽、正直に生きます。覚悟しててくださいね」


不敵に笑って胸を張れば、しばらくぽかんとしていたライシスは、崩れ落ちるように泣き笑った。

涙を拭い、腹を抱えて、何度も頷く。


「いいよ。それでいい。私が、頑張ってあなたを追いかけるよ」


「うふっ」


ねえ、コーデリア。あなたが生きられたはずの人生、わたしがもらうね。


一緒に目いっぱい笑って泣いて怒って楽しんで行こう。

おんなじような顔した兄弟も、家人たちも、もちろん旦那様も、みんなまとめて巻き込めたら最高だ。


初夜を生き延びた薄幸の前妻、力技で幸福を手にする────なんてね。











お粗末様でございましたm(*_ _)m

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