ぶちっと決めました
声を荒らげられた瞬間、今世コーデリアの両親との記憶がぶわりと蘇って、何だかとても疲弊してしまった。
視界に入っただけで怒鳴りつけたり物を投げたり、とにかく八つ当たりしかされたことがない。
あるいは、まったくないものとして扱われたことしか。
今のコーデリアは、前世の記憶もあって特に気にしていない。
いや、そのはずだったのだけれど、何だかぐったりした心地になってしまった。
────何でわざわざ婚家に来てまで、そんな扱いされなきゃいけないわけ?
いったい何をしたというのか。何の落ち度があるというのか。
コーデリアは、静かにぶちギレていた。
おうちに帰りたい。前世のあたたかいおうちに。それは本音だが、夫にダメージを与えるとわかっていて口にした。
すっかり(拗ねて)無口になったコーデリアに、夫はなぜか顔面蒼白だ。
「彼女とはもう会わない。もちろん、移り香など今後一切させない。いや、あれも疚しいことはなかったが、とにかく絶対に会わない」
公的書類の『愛人を囲うこと、愛人との子をもうけることに制限なし』の項目を指差す。
「いや! 愛人は持たないし、きみとの子しか必要ない!」
まあ、口では何とでも言える。何せ婚約時代から浮気していた夫である。信用度はゼロだ。
あと、何か勘違いしているようだが、別にコーデリアは愛人なんか気にしない。
ぐるぐると考えていたコーデリアは、いい加減鬱陶しくなったので、いっそやめてしまうことにした。
初夜に話し合った通り、公的書類にした通りだ。
ちょっとばかり〝期待〟してしまったのは、あくまでコーデリア側の都合。
よくない結果になったなら、やめてしまえばいい。
なので、スパッと諦めることにしたのだ。
今世コーデリアの夢は、それなりに長く平和に生き抜くことである。できれば幸せにもなりたい。
なので、無駄な〝期待〟は捨てるに限る。バイバイ、来世で会おう。
────もう、うじうじもだもだするのは終わり。
せっかく初夜を生き延びたのだ。重すぎる運命を乗り越えたのだ。
コーデリアだって、幸せになっていい。いや、なれるに決まっている。
「旦那様?」
「は、はいっ」
おろおろとご機嫌伺いをしていたライシスが、うっすら笑うコーデリアにびくりと背筋を伸ばす。
ついでに、様子見に来ていた兄と弟も、侍女も執事も。
「この話は終わりです。公的書類の通り、この内容は一切合切変更しません」
「うっ、はい……」
「なので、わたしは次期侯爵夫人として無事に子を産み、大切に育てます。あなたも協力してくださいね」
「も、もちろん!」
「わたしは幸せになりたいの。絶対なるの。だから、旦那様は旦那様で、頑張って幸せになって。ね?」
夫婦だろうが何だろうが、結局は一人と一人。
何を幸せに感じるか、誰を愛するか、どのように生きるかはその人次第。
コーデリアに、よその幸福まで気を配るほどのバイタリティはない。
────もう遠慮はしない。ぜっっったいしない。
生家のくだらないしがらみも、浮気実績のある旦那様も、前世なんて意味不明な記憶も。
ぜんぶひっくるめて、コーデリアなのだ。コーデリアが、今、そう決めた。
小説がどうこう、ヒロインがどうこう、そんなものはもう知らない。
「喜怒哀楽、正直に生きます。覚悟しててくださいね」
不敵に笑って胸を張れば、しばらくぽかんとしていたライシスは、崩れ落ちるように泣き笑った。
涙を拭い、腹を抱えて、何度も頷く。
「いいよ。それでいい。私が、頑張ってあなたを追いかけるよ」
「うふっ」
ねえ、コーデリア。あなたが生きられたはずの人生、わたしがもらうね。
一緒に目いっぱい笑って泣いて怒って楽しんで行こう。
おんなじような顔した兄弟も、家人たちも、もちろん旦那様も、みんなまとめて巻き込めたら最高だ。
初夜を生き延びた薄幸の前妻、力技で幸福を手にする────なんてね。
お粗末様でございましたm(*_ _)m




